にっぽん紀行「クロにいの船〜徳島 美波町伊座利〜」 2015.07.20


案内人の西田尚美です。
私は今四国徳島の小さな漁師町美波町伊座利地区に来ています。
この町は海と山に囲まれかつては陸の孤島と呼ばれていました。
スーパーもコンビニもありません。
さぞかし過疎や高齢化が進む集落かと思いきや…。
町では子どもが元気いっぱいに遊んでいます。
実はここ若い家族が次々と移り住み住民のおよそ半分を占めるようになったとっても若い集落なんです。
今日は町のこれからを担う移住者と温かく見守る地元の漁師さんの物語です。
乾杯!
(一同)乾杯!太平洋沿いにそびえる山々を越えて見えてきたのが今日の舞台徳島県美波町伊座利地区です。
古くからの漁師町で102人が暮らしています。
住民のおよそ半分47人がここ十数年の間に大阪などの都市部から移り住んできました。
最初はグー!ジャンケンホイ!町にはいつもにぎやかな子どもたちの声が響きます。
きっかけは15年前だんだん寂しくなる集落に若い家族を呼び込もうと住民たちが立ち上がりました。
毎年夏休みには磯遊びやカヤックなどの自然体験のイベントを開催。
移住を促そうと安く住める住宅も用意しました。
何よりも若い家族を引き付けたのは伊座利の人たちの面倒見のよさでした。
移り住んできた人が早くなじめるよう何かと理由をつけては毎週のように宴会を開きます。
子どもの世話は住民全員で。
飲んで。
自分で飲めよ〜。
みんなが自分の子どものように接してくれるので親たちは安心して子育てができるんです。
伊座利の主な産業は漁業。
沖合2キロでは定置網漁が行われています。
3月中旬。
水温が上がり少しずつ魚が増え始めます。
この時期はハマチがよく取れます。
乗さんでいけるん?6人の漁師を率いる船長の坂口進さん61歳です。
昔飼っていた犬の名前クロにちなんでクロにいと呼ばれています。
伊座利の漁師の家に生まれたクロにい。
40年近くふるさとで漁師を続けています。
揚げんかいここ!クロにいは移り住んできた若者をこの船で雇っています。
大阪出身のカゲこと景山健一さんです。
5年前漁師になりたいと伊座利にやって来ました。
カゲさんにはこの集落を支える漁師に育ってほしいとクロにいは期待しています。
地域の計らいで空いていた家を安く借りているカゲさん。
ただいま。
ただいま。
おいで。
ありがとう。
5年前漁業への就業イベントをきっかけに妻と2人でやって来ました。
ここに来てから3人の子どもが生まれ4人目も授かりました。
中学卒業後とび職や土木作業など仕事を転々としていたカゲさん。
伊座利には着の身着のままやって来ました。
結婚式を挙げていない事を知ったクロにいたちは衣装を用意し手作りの式を開いて温かく迎え入れました。
漁の仕事も先輩の漁師たちが根気よく教えてくれます。
伊座利に来て5年。
カゲさんは一人前の漁師になって一生この集落で暮らしていくつもりです。
ほんま温かいんよ。
息子いうたらオーバーかも分からんけどほんまに何かこう育ててくれるという育てていこうというような感じで口うるさく細かい事まで言うてくれる。
漁業の町伊座利。
しかし漁獲量は年々減少しています。
話にならん。
特に冬から春にかけてはほとんど魚が取れない日もあります。
朝8時半。
漁を終えたクロにいたちは集落を出て隣の市へ向かいます。
車でおよそ1時間の市街地にある食堂です。
10年前収入を安定させるために始めました。
夜9時まで自分たちで取ってきた魚を調理して出しています。
今では店の経営も安定しここの売り上げが生活を支えています。
漁だけではなかなか食べていけない現実。
だからこそクロにいはカゲさんに自立して生きていく力をつけてほしいと思っています。
伊座利には今14組の家族が移り住んでいます。
その多くは子どもたちを自然の中で育てたいとやって来た若い家族です。
子どもたちは学校の体験学習などを通じて海の恵みに触れながらたくましく育ちます。
春休みに入ったこの日クロにいのところに1人の子どもがカッパを着込んでやって来ました。
おはようございます。
あら?あら?どうしたの?珍しい。
2年前に滋賀県から移住してきた三品碧生くん。
前日に伊座利の小学校を卒業したばかりです。
お前卒業…卒業生だったん?あらら。
中学生か今度。
ありゃ〜。
クロにいは希望があれば子どもを船に乗せ漁を体験させています。
碧生くん春休みの間毎日クロにいの船に乗る事をお母さんと約束していました。
一日でもさぼると頭を丸刈りにするという罰ゲームつきです。
日の出の時間が早くなりこの日から出港時間が30分早まりました。
ところが出発の時間になってもカゲさんがやって来ません。
船は出てしまいました。
20分後。
前の晩に飲み過ぎて出港時間が早まった事を忘れていました。
しかたなく船を迎え入れる準備をして待ちます。
もうほんまに最悪って感じ。
何言われるか分からんわほんまに。
自分が悪いんやけど。
2時間後。
船が漁から戻ってきました。
挽回しようとカゲさん必死です。
クロにいは遅刻についてひと言も触れません。
カゲさん謝るきっかけをつかめません。
一番こたえるやり方なんほれが。
こたえてるもん。
月に数回行う傷んだ網の修繕。
破れて穴が開いたところを手縫いするこの作業は一人前の漁師には欠かせない技術です。
でもカゲさんはこの作業が苦手です。
先輩たちのように手早くきれいに縫う事ができません。
また間違った。
修繕が難しそうな穴があると…。
挑戦せず先輩を頼ってしまいます。
カゲさんにもっとしっかりしてほしい。
この日クロにいは日頃思っている事をぶつけました。
はい?え?例えばカゲは…そんなもん考えてないか?何年後はないですけど。
自分が与えられた仕事ができんのにやなあれもしたいこれもしたい…。
これは一生懸命覚えてるつもりではおるんです。
ちゃうよほんなら毎日網破っといたるけんよいっぱいいろんな網持ってきて。
練習したらええやんか。
え…。
現実に破れとう網を繕わんでええやん。
クロにいは更にしった激励します。
まあどっちになったって…数日後。
クロにいは使われなくなった網を破ってカゲさんに渡しました。
練習じゃやってこい。
ええな。
頑張れよ。
その日の午後。
カゲさん自宅で網を縫う練習を始めました。
(拍手)4月9日。
碧生くんは伊座利の中学校に入学しました。
三品碧生。
はい!クロにいたちにも入学の報告です。
おめでとう。
勉強ができる中学生?靴までさらちゃうん?碧生くんがいつか集落を出たとしてもここをふるさとと思ってほしいとクロにいは願っています。
都会でつまずいたりな嫌な事があったりしたら帰ってくる場所やいうのが必要な事もあるで。
ほんな場所にあったらいつでも戻ってこれるやろ?ええとこちゃうかと思うわな。
ここに帰ってくるようではあかんわなほんでもな。
ハハハハ…。
人と人が寄り添って暮らす小さな漁師町。
力を合わせて守っていく新しいふるさとです。
2015/07/20(月) 05:15〜05:40
NHK総合1・神戸
にっぽん紀行「クロにいの船〜徳島 美波町伊座利〜」[字][再]

スーパーもコンビニもない“陸の孤島”の漁師町。でも、よそから若い家族が次々と移り住んでくる。彼らをあたたかく迎え入れる集落の物語。案内人は女優・西田尚美。

詳細情報
番組内容
徳島県伊座利は太平洋と山々に囲まれた人口100あまりの集落。次々と若い家族が移り住み、今では住民の約半分を占めるまでになった。人気の秘密は、移住者たちを家族のように受け入れ、優しく厳しく見守る地元の人たちの人柄だという。定置網漁の船長・クロにい(61)は、移住者を船に迎え入れる。一人前を目指すちょっとやんちゃな若者に、春休みを迎えた子どもたち…。漁で活気づく春、クロにいと移住者たちの日常を描く。
出演者
【出演】西田尚美

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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