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殺害女性モデルに労災認定 一宮の事件、国が労基署の判断覆す

 愛知県一宮市で2011年8月、所属するモデル事務所から派遣された先で殺害された大学生朝日なつみさん=当時(21)=について、厚生労働省の労働保険審査会が、労災と認める裁決をしていたことが分かった。名古屋北労働基準監督署の下した遺族補償などの不支給決定を、取り消した。労働法の専門家によると、国の審査会が労基署の不認定を覆したのは珍しく、モデル業務に絡んで労災と判断したのも異例という。

 裁決書によると、朝日さんは10年、「ヴィズミックモデルエージェンシー」(東京)と5年間の専属モデル契約を締結。名古屋事業部での業務中に事件に巻き込まれ、労災保険法上の労働者と認められるかが争点だった。

 労基署は「モデルは芸術性が高く、所属事務所の指揮監督が及ばない」と不支給を決定。遺族の不服申し立てを受けて審査した愛知労災補償保険審査官も同様の判断をした。いずれも労働者ではなく、個人事業主に当たると結論付けた。

 これに対し審査会は、契約書には正当な理由なく出演は拒否できない、と明記されているとして「事務所の一方的な指示の下、朝日さんには業務の諾否の自由がなかった」と指摘した。

 さらに、朝日さんが事務所の指示で有名ブランドのパーティー会場の受け付けやテレビ番組の聴衆役、競艇のラウンドガールなど本来的なモデル業務以外の仕事もこなしていたことを重視。審査会は「事務所との間に使用従属性があった」として労働者と認定した。

 名古屋大法科大学院の和田肇教授(労働法)は「モデルによる労災の申請は珍しい。同種の働き方であれば、これまで泣き寝入りしていた人たちも認定される可能性が増した」と指摘。「所属事務所はモデルの安全管理を徹底すべきだ、とのメッセージが込められた裁決だ」と評価する。

 事件後、モデルの安全確保のあり方を問い続けている遺族は「本人は夢と誇りを持って仕事に取り組んでいた。認定されてうれしい」と話している。

 遺族は12年末、ヴィ社に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償と再発防止のための対策を求める訴訟も名古屋地裁に起こした。同社は「モデルは個人事業主であり、事務所側は安全配慮義務を負わない」と主張し、裁判が続いている。

(中日新聞)

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