内科医・酒井健司の医心電信
2015年7月20日
前回、「E型肝炎と診断された人のうち、どれぐらいの割合が死亡するかはわかっています。WHOのサイトでは0.5~4%とされています」と書きました。分母が「E型肝炎と診断された人数」、分子が「E型肝炎が原因で死んだ人数」です。これを致死率といいます。致死率が高いほうが怖い病気だと言えますが、あくまでも目安の一つに過ぎません。
致死率は、分子である死亡数だけでなく、分母である「診断された人数」の影響を受けます。そして「診断された人数」は、「どれぐらい一生懸命に診断しようとするか」によって左右されます。E型肝炎のように「症状に乏しい不顕性感染の割合が高い病気」については、とくにそうです。
人口構成や医療水準やE型肝炎の流行パターンがほぼ同じであるA国とB国があったとしましょう。違うのはE型肝炎の診断に対する熱心さだけです。
A国では、少しでも疑いがあればE型肝炎の検査を積極的に行います。B国では、生きるか死ぬかといった重症にならないとE型肝炎の検査をしません。E型肝炎には特異的な治療法がありませんので、早期発見しても予後は変わらないとします。
当然、A国ではB国と比較して「E型肝炎と診断された人数」は多くなります。一方で、A国とB国では「E型肝炎が原因で死んだ人数」は変わりません。よって、E型肝炎の致死率は、A国のほうがB国と比較して低くなります。
しかし、だからと言って、A国のE型肝炎がB国のE型肝炎と比較して怖くない病気ということにはなりません。E型肝炎の生物学的な性質は、A国でもB国でも同じです。
実例では最近の韓国で起きたMERS(中東呼吸器症候群)の流行があるでしょう。この原稿を書いている時点では、「韓国における中東呼吸器症候群(MERS)の患者の累計数は、死亡者36人を含む186人」です。致死率を計算すると約19%となります。
流行地であったら医療機関に受診しなかったり、あるいは受診してもMERSの検査をされるほどもない軽症の患者さんでも、韓国では検査の対象になります。
一方で、WHOのサイトによると、MERSの致死率は約36%とされています。もちろん、医療水準やウイルスの性質などの条件が異なる可能性もあるので一概には言えませんが、韓国ではMERSの疑いがある患者さんに対して積極的な検査を行い、分母である「MERSと診断された人数」が多くなったことが、致死率が低くなった一因だと考えられます。
E型肝炎やMERSに限らず、「診断された人数」から計算された数値は、生物学的な病気の性質だけではなく、診断の頻度や診断基準の変更や診断技術の進歩によっても変わるので、注意が必要です。
【参考】
- 韓国における中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況(厚生労働省検疫所)
http://www.forth.go.jp/topics/2015/07160751.html- Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/mers-cov/en/
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