誤報、中断、直木賞も苦笑い…又吉直樹芥川賞舞台裏
お笑いコンビ、ピースの又吉直樹(35)が書いた小説「火花」が、第153回芥川賞(日本文学振興会主催)を受賞した。例年の発表では見たことがない数のメディアが詰め掛けた現場は、誤報騒動とか、巻き込まれる直木賞とか、見たことがないドタバタが展開していた。
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まず面食らったのは、芥川賞と直木賞の選考会が行われた東京・築地の料亭、新喜楽の人の多さだった。この手の現場では見ることがないワイドショークルーや芸能マスコミの面々が続々と2階の座敷を埋め、10台のテレビカメラと、100人以上の取材者でごった返していた。別会場の受賞者会見を取材する社は多いけれど、当事者がいるわけでもない選考会場にこれだけのメディアが集まるのは異例のことだ。
現場は、トイレのドアがバタンと閉まるだけで「発表か」とカメラの放列が向く、コントのような光景。発表は、名前と作品名が書かれた紙が張り出されるスタイルで、先に羽田圭介氏の「スクラップ・アンド・ビルド」が張り出されたことでドタバタ感が増した。担当者は紙を2枚持っていたのだが、この時点で「又吉落選」を本社に伝えてしまう人もいたようで、実際、ネット記事で「又吉受賞ならず」の誤報を打ってしまった社もあった。続いて又吉氏が張り出されると、大きなどよめきが起きた。
選考理由を説明する作家山田詠美氏の会見も、「中断」という前代未聞のハプニングに見舞われた。「1回目の投票で又吉君がトップで」と注目の会見をする中、最前列で電話に夢中の女性記者が「違う違う!」とまさかの金切り声。イラッときた取材陣と山田氏が一斉に「電話を切れ」の視線を向けたが、迷惑記者は気づかず、再び電話の相手に「違う!」。会見が止まってしまい、山田氏は明らかに不愉快そう。和やかに進むことが多い選考委員会見が凍り付くのを初めて見て肝が冷えたと同時に、気を取り直して会見を続けた山田氏の胆力がしのばれた。
普段なら芥川賞以上に注目を集めることが多い直木賞も、すっかり又吉フィーバーに巻き込まれてしまった。あれだけいたメディアは、山田氏の会見が終わると、受賞者の会見が行われる帝国ホテルへドタバタと移動してしまった。祭りの後みたいな会場で、選考委員代表として会見した作家北方謙三氏は「芥川賞が大変な騒ぎで」と苦笑い。残っている記者たちに「直木賞も捨てたもんじゃないんですよ。それどころか、20年に1度のいい作品。満票でした」と、受賞した東山彰良さんの「流」を激賞していた。
受賞者の会見が行われた帝国ホテルの会場は、30台以上のテレビカメラと200人以上の取材者、スチルカメラですし詰め状態。羽田、東山の両氏は、自身とは直接関係のない「又吉さんの受賞」について聞かれていたが、嫌な顔をせず答えていたのが印象的だった。羽田氏は「僕はこれまで又吉さんの『火花』をおすすめ本としてメディアで3回紹介しているので、おすすめした本が受賞して良かった」。東山氏は「非常に良かったと思う。芥川賞への注目のついでに、こちらにも目を向けてもらえたら丸もうけ」とユーモアを交えて答え、文学史のトピックに華を添えていた。又吉氏自身も、会見の後、再び囲み会見をする異例の展開。終わった時は夜10時半を回っていた。
これまでも、ミュージシャンの辻仁成氏(97年)や町田康氏(00年)など、芸能人の芥川賞受賞が話題になったケースはあるが、どれとも違う又吉フィーバー。「お笑い界初の芥川賞」のインパクトを実感する1日だった。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)