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【社説】

イラン核「制限」 中東安定へ新たな一歩

 イランに核兵器を持たせないようにする歴史的な合意がまとまった。中東安定への新たな一歩にしてほしい。石油大国イランが核を放棄し国際社会との協調を進めるよう、各国の外交努力が必要だ。

 イランと米欧、ロシア、中国など六カ国による協議により、核疑惑が浮上してから十三年かかって最終合意にこぎつけた。

 ウラン濃縮に使う遠心分離機を大幅に減らすなど、核開発を十〜十五年間制限する。核施設や核物質に対する査察も受け入れる。米政府の分析だと、現状のままならイランは核爆弾一個分の材料を「二、三カ月」で製造できるが、核能力が制限されれば「一年以上」に延びる。期間延長により、軍事転用を防ぐことが可能になるという。

 国際原子力機関(IAEA)がイランの合意履行を確認したら、国連安全保障理事会や米国、欧州連合(EU)が科してきた制裁は解除される。合意に違反した場合は、制裁を再び発動するという歯止めもかけられている。

 三十五年間、断交している米国とイランが対話に臨み、軍事力ではなく、外交によって解決が図られた。核不拡散の近年にない成果である。

 イランは原油禁輸や金融取引の停止を科せられ、深刻な経済難に直面している。人口約七千八百万人のうち三十歳未満が60%余を占める。二年前、改革派の支持も得て当選したロウハニ大統領にとって、若年層の失業を解消するためにも、核開発より制裁解除の優先を迫られたといえよう。

 イスラム教シーア派の大国であるイランは、イラクやシリアの紛争にも影響力を持つ。過激派組織「イスラム国」(IS)対策では、米国と連携する余地がある。

 だが、不安材料は依然残る。イランに対し民生用の核開発を認めたため、ひそかに核兵器製造を進めるのではないかという疑念は完全には消えない。野党、共和党が多数を占める米議会は合意内容を厳しく精査する構えだ。米の同盟国であるイスラエルやサウジアラビアは強く警戒する。

 約束通り合意を履行して核放棄に取り組むか、国際社会の厳しい監視と検証が欠かせない。

 日本にとっても、ペルシャ湾の緊張が緩和し、イランが将来、原油を増産すれば、エネルギーの安定確保に役立つ。原子力の平和利用に徹する日本の政策は、イランにも参考になるはずだと強く働きかけていきたい。

 

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