「バンガードがノーロード投信の日本拡販に乗り出す」報道は具体的に何を意味しているのか?
- 2015/07/20
- 19:41
バンガード・グループが販売時に手数料を取らないノーロード投信の日本拡販に乗り出すと、日本経済新聞が報じています。
米投信運用会社バンガード、ノーロード投信の日本販売強化 :日本経済新聞
2015/7/20 0:39
【ニューヨーク=伴百江】米国最大の投資信託運用会社、バンガード・グループは販売時に手数料を取らないノーロード投信の日本拡販に乗り出す。アベノミクスによる環境変化を好機と判断した。ウィリアム・マクナブ会長兼最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に対し、直販や提携による販路の拡大をめざす意向を示した。
バンガードがノーロード投信の日本拡販に乗り出すと書いてあるのを見て、「ついに日本でもバンガードによる投信直販開始か」と期待する意見もちらほら散見されます。
この記事を理解するために、自称バンガード・マニアである水瀬が、基本からかみくだいて説明したいと思います。そのためには、まず、現在(2015年7月20日)日本で提供されているバンガードの商品の形態を知る必要があります。
① 米国籍投資信託
まず、米国籍投資信託としてのインデックスファンドです。これは、マネックス証券が2001年ごろから提供しています。
「バンガード・トータル・ストック・マーケット・インデックス・ファンド」
「バンガード・スモールキャップ・インデックス・ファンド」
「バンガード・ウェルズリー・インカム・ファンド」
の3本のみです。私もかつては「バンガード・トータル・ストック・マーケット・インデックス・ファンド」を、外国株式クラスのメインファンドとして活用していました。
ただし、インデックスファンド自体の経費率以外に、マネックス証券独自の「口座管理手数料」が保有残高に対して年率0.648%(税込)もかかります。 昔はそれが上乗せされたトータル・コストでもコスト競争力があったのですが、現在は低コストなインデックスファンドがたくさん出てきており、もうコスト競争力はあまりありません。
今や、インデックス投資家の間でも知る人ぞ知る、という感じです。マネックス証券の「口座管理手数料」さえ、もっと低率ないし年間3000円など定額にしてくれればよいのですが……。
② 国内籍ファンド・オブ・ファンズ
次に、国内籍ファンド・オブ・ファンズです。バンガードのインデックスファンドが、国内運用会社が運用する投信の投資先素材として組み込まれている形です。
「三井住友・バンガード海外株式ファンド」(運用会社:三井住友アセットマネジメント)
「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」(運用会社:セゾン投信)
の2本があります。いずれもファンド・オブ・ファンズなので、トータル・コストは、投資先のバンガードファンドの経費率に加えて、国内運用会社の信託報酬が上乗せされる形です。
「三井住友・バンガード海外株式ファンド」は、旧トヨタアセット・バンガード海外株式ファンドという名前で、これもかつて私も投資していましたが、トータル・コストが年率年1.324%(税込)かかり、より低コストな海外ETFを楽天証券で買えるようになった時に、すべて乗り換えてしまいました。
「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」は今でも人気がある低コスト投信です。トータル・コストも年率0.74%±0.03%(税込)です。ただ、その後さらに低コストなライバルファンドが多数出てきており、トータル・コストを見てそれでもコストが安いと思うか、高いと思うかは人それぞれという状況になってきました。
③ 海外ETF
最後に、海外ETFです。バンガードが米国・香港といった海外の証券取引所に上場しているETFを、外国株式銘柄として日本の証券会社経由で売買する形です。
「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF」(経費率 年率0.17%)など、超・低コストな67本(2015年7月20日現在)のバンガードETFが日本の証券会社(SBI証券・楽天証券・マネックス証券など)経由で売買できるようになっています。
バンガードETFの超・低コストな経費率以外に、運用コストが上乗せされることはありません(ただし、売買時に、外国株式銘柄としての為替手数料や売買手数料はかかります)。ちなみに、現在の私の投資メインビークルが、このバンガードの海外ETFになっております。
以上の3つが、日本で提供されているバンガードの商品の形態です。
では、日経記事の「ノーロード投信の日本販売強化」「直販や提携による販路の拡大」とは何をさすのか?
冒頭で引用した日経新聞の記事で書かれている、「ノーロード投信の日本販売強化」「直販や提携による販路の拡大」が、上記の①米国籍投資信託、②国内籍ファンド・オブ・ファンズ、③海外ETFのどれにあたるのか。
日経新聞の記者さんが、どの程度の知識があって用語を使い分けているか不明なため、米国バンガードが今後日本で、具体的に何をどうしようとしているのか、はっきりしたことはわかりません。
あくまでもそういう前提ですが、書かれている言葉を額面どおりに読んで、勝手に内容を推測したものをかみくだいてお伝えします。
海外ETFの話ではない?
まず、日経記事では、「ノーロード投信の日本販売強化」というタイトルになっています。
新聞記事であっても、「投信」と「ETF」の区別がついていないような記事を見かけることも多いのですが、通常、「ノーロード」というのは投信の販売手数料(購入時手数料)がかからないことを指し、ETFの文脈では使いません。
また、日本で売買可能なバンガードETFは、今までも、毎年のように続々と追加されてきています。それをつぶさに見てきましたが、そのこと自体をもって、新聞等でこのような大きな取り上げられ方はしていません。
であれば、今回の報道は、③海外ETFの話ではないということになります。
ノーロード投信の話だとして……
では、記事で書かれているノーロード投信とは、①米国籍投資信託、②国内籍ファンド・オブ・ファンズのどちらの話なのか。
①米国籍投資信託だとすると、既にマネックス証券が提供しているスキームがあります。しかし、前述したようにトータル・コストで見ると、今となっては高コストファンドの部類になってしまっています。
マネックス証券独自の「口座管理料」が上乗せされる現在のコスト水準で、バンガードファンド販売が増加しているとも思えません。さらに、マネックス証券では、特定口座に入れられない不便な商品になっています(②と③の商品は特定口座に入れられることが多い)。
いくらバンガードがテコ入れしても、このままのコスト水準では、とても拡販できるとは思えません。
もしかして、もしかして、バンガードによる投信直販?
ならば、バンガード自体が直販投信会社として、投資家の口座を管理して、バンガードのインデックスファンドを直接販売するという可能性はどうでしょうか。記事に書いてある「直販や提携による販路の拡大」の「直販」部分の話に該当します。
これが実現したら、私は嬉し泣きするでしょう。インデックス投資黎明期の10年前、ろくなインデックスファンドがなく、あってもすぐに繰上償還・取り扱い廃止の憂き目にあっていた10年前、喉から手が出るほど欲しくて欲しくてたまらず、でも手に入らなかったものだからです。
現在、私が投資のメインビークルにしている③海外ETF(バンガードのETF)よりも、①の米国籍投資信託(バンガードの直販インデックスファンド)の方が、ノーロード、金額指定で購入可能、分配金再投資可能(これは販売会社次第?)など、使い勝手はよいはずです。期待しているインデックス投資家がいるのもわかります。
日本でのバンガードによる投信直販は厳しい?
ただ、悲しいかな、この実現可能性はあまり高くないような気がします。
なぜなら、バンガードファンドを保有する投資家は、同時にバンガード社の株主にもなるスキームになっており(参考:米国バンガードの超低コストの秘密)、米国のバンガードファンドの株主たち(≒投資家)にとって、新たに多大なコストをかけてまで日本で直販体制を構築することは何のメリットにもならないからです。
また、米国以外の先進国(たとえば、英国、ドイツ、オーストラリアなど)において、日本よりもニーズが見込めるであろう市場があるにもかかわらず、バンガードがインデックスファンドを直販をしている前例がひとつもないというのも悲しいサポート材料です。(バンガードETFの米国外上場には前例があります)
そして米国では、時代は投信よりもETFです。バンガードは、既存のインデックスファンドとETFを合同運用するビジネス特許を取得しています。海外展開によって純資産を伸ばしたいのだとしても、投信よりもETFの方がよりコストをかけずに海外展開できるはずです。
したがって、①米国籍投資信託は、実現性は低いと思います。(日本でのバンガードによる直販開始に、一縷の望みは持ってます。なにとぞ、なにとぞ……)
新ファンド・オブ・ファンズの登場と推測
②国内籍ファンド・オブ・ファンズはどうでしょうか。
日経記事の引用外部分に、バンガードのウィリアム・マクナブ会長兼最高経営責任者(CEO)が、「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンドの運用総額は、5月下旬に1000億円を突破した」と語っているくだりがあります。セゾン・バンガード・グローバルバランスファンドは、②の国内籍ファンド・オブ・ファンズです。
これは、記事に書いてある「直販や提携による販路の拡大」の「提携」部分に該当します。既に前例があり、かつ、目下順調に伸びているスキームなので、今後、バンガードが②国内籍ファンド・オブ・ファンズを拡販していくというのは、実現可能性が高そうです。
しかも、単に既存のファンド・オブ・ファンズの販売促進をするというだけであれば、日経新聞も「ノーロード投信の日本拡販に乗り出す」などというたいそうな表現などしないでしょうし、そこまでのニュースバリューもないはずです。
ということは、バンガードのインデックスファンド(もしくはETF)を活用した「新ファンド・オブ・ファンズ」が、どこかの国内運用会社から出てくると考えるのが自然ではないでしょうか。
(バンガード・インベストメンツ・ジャパン&関係が深い会社の錚々たるメンバーによる鏡開き。撮影:水瀬ケンイチ)
バンガード・インベストメンツ・ジャパンの「中の人」たちにお会いしてきました
ところで、今月、バンガード・インベストメンツ・ジャパンの「新オフィスオープニング&Wアニバーサリーパーティー」に招待されて行ってきました。
一介の個人投資家が何たる幸運でしょう。とても素敵なパーティーで、記事に「米国本社のリテール販売部門のトップを日本法人の代表にした」とあるディビッド・サーマック氏とシェリー・ペインター氏のお話をお伺する機会がありました。ただ、いずれも日本で直販を始めるというお話はなかったように記憶しています。
私が初めてバンガード・インベストメンツ・ジャパンの方々とお会いしたのは、たしか2009年だったと思うのですが(該当記事)、当時は社員数が5名くらいだったように思います。それが、パーティーの最後には20名近い社員さんたちが紹介されていました。業容が拡大しているのは間違いなさそうです。
本当に直販ないの?
長々と書いてきましたが、最後に、「じゃあさー、結局、日経記事にあった『直販や提携による販路の拡大』の『直販』部分っていったい何のことだったんだよ?」という疑問が残ります。
はい、正直よく分かりません。しいて言えば、セゾン投信のような直販投信会社が自分のことをよく「チョクハン、チョクハン」と言うもんだから、取材を受けたバンガードの方ないし日経記者さんが、日本の直販投信会社と協業することを「直販や提携による販路の拡大」としてひとまとめの表現にしたんじゃないの?……という印象です。単なる英語の翻訳のアヤの可能性もなきにしもあらず。
いずれにしても、冒頭の新聞記事の字面だけを見て、「日本でもバンガードによる投信直販が始まる」と期待してしまうと、ぬか喜びになってしまうのではないかと、バンガード・マニアの私は思う次第です。本当はそうなってほしいのですが。
P.S
私の推測が見事に外れて、バンガードによる投信直販が始まったら、泣いて大喜びしながら、フライング土下座いたします。一縷の望みは持っております。バンガードさん、なにとぞ、なにとぞ……(;人;)
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