財政危機に陥っているギリシャが欧州連合(EU)から求められていた財政改革案を受け入れ、金融支援が動き出すことになった。これで当面はギリシャの債務不履行(デフォルト)の危機は遠のいた。

 とはいえ、めぼしい産業が観光や海運などに限られているギリシャ経済の再生は見通しにくい。5年におよぶ緊縮財政の結果、経済規模は2割縮み、国民は疲弊している。このうえ激しい緊縮を進めれば、かえって経済が悪化し、再び財政危機がぶりかえす恐れさえある。

 危機を封じ込めるには、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が主張するように、ギリシャに対する「相当な規模の債務減免」も必要ではないか。

 先週来のユーロ圏各国によるギリシャ支援協議では、ギリシャ支援をめぐって立場が二つに分かれた。「離脱だけは回避すべきだ」と考えるフランスのような国々と、「場合によってはギリシャのユーロ離脱もやむなし」とするドイツのような国々である。

 この論争は、欧州統合は誰のためにあるのか、という問いを想起させる。経済が強大な国々が弱い国々に手をさしのべて欧州としてまとまっていくという思考と、弱い国を切り捨てる思考である。後者の路線に突き進めば、ユーロ内の亀裂が深まり、経済の強弱にさらに大きな落差が生じてしまうだろう。

 当のギリシャの政府も国民も「ユーロ残留」を望んだ。ならば、こうした経済力の弱い国家や国民を包摂する制度を組み立て直す方策こそが、いま必要なのではないか。

 ギリシャ自身が財政改革や成長戦略に取り組まねばならないにしても、構造的な経済格差をうめるには、ユーロ圏のなかの「地方交付税」のような財政支援の仕組みを拡充する必要がある。その先にユーロ圏の本格的な財政統合も視野に入る。

 また今回、ユーロという単一通貨システムの構造的な欠陥もあらわになった。各国財政はばらばらで企業の競争力もずいぶん違うのに、経済が強い国も弱い国も同じ通貨、同じ為替レートで競争する。その結果、ますます国家間の経済力格差は広がり、修正もできない。

 これでは早晩「次のギリシャ」が生まれるだけだ。通貨制度の中で工夫できる余地がないのか検討してほしい。

 英国の離脱問題もくすぶり、EUの存在意義がさまざまな形で問われている。ギリシャ問題はEUとユーロの未来を考える材料を与えている。