ホルムズ海峡で演習をするイラン。
長年、疑惑を持たれてきた核開発を巡って歴史的合意が結ばれました。
中東最大の火種といわれてきたイランの核開発問題。
アメリカとイランが解決に向けて武力ではなく対話によって合意。
歴史的一歩を踏み出しました。
歴史的合意は今後国際社会にどのような影響を与えるのか考えます。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
アメリカがテロ国家と指定しているイランが核兵器を獲得する能力を身につけるのは時間の問題だという危機感が強まっていました。
イランの核開発は軍事目的だと非難するアメリカ。
平和利用だと主張するイラン。
イランが核兵器を持てば紛争の絶えない中東で核が拡散するおそれが高まるという脅威をどうやって防ぐのか。
対立が続く中アメリカはイランを国際的に孤立させる政策を長い間、取ってきました。
この対立が激化すれば日本のエネルギー供給に影響を及ぼしかねないおそれがあり実際、イランは欧米の経済制裁に反発してペルシャ湾のホルムズ海峡の封鎖を示唆したこともあります。
こうした脅威がきょう衆議院で可決された安全保障関連法案の根拠の一つともなっていましたがその緊張の緩和につながる歴史的合意が武力ではなく話し合いによって生まれました。
中東地域の安全保障パワーバランスや世界のエネルギー供給にも大きな影響を与えると見られる今回の合意。
イランの核の平和利用を認めたうえで核兵器の開発疑惑がある施設へのIAEA・国際原子力機関による査察をできるようにした一方イランが強く求めていた経済制裁を解除することなどが盛り込まれました。
歴史的合意といわれている一方でこの合意でイランが核兵器を獲得する道を完全に閉ざすことにはつながらないという批判の声も上がっています。
イランの国際的孤立からの脱却という道を開き関係改善という大きな賭けに打って出たアメリカ。
合意に至ったアメリカとイランの思惑に迫ります。
核開発を巡る交渉が続いていた今月初め。
首都テヘランにあるイスラム教の寺院の前に参拝者が集まっていました。
この墓に埋葬されているのは核開発に携わったマジッド・シャフリヤリ教授。
5年前、亡くなりました。
寺院を管理するアリ・ガエンパナさん。
核開発の研究者は国の誇りとして尊敬されているといいます。
今、アメリカなどによる経済制裁によって物価が急騰。
食品すら手が出にくくなっています。
アリさんは核協議の行方を固唾を飲んで見守っていました。
イランが反米路線を掲げたのは1979年のイスラム革命。
アメリカ大使館占拠事件をきっかけに、国交が断絶されます。
アメリカの対イラン政策はブッシュ政権になり厳しさを増します。
さらに2002年イランが核開発を行っていることが発覚。
国際社会はイランに対する制裁に踏み切ります。
日本もこの動きに影響を受けます。
イランで開発を進めていた中東最大級の油田を手放さざるをえなくなりました。
アメリカの強硬路線に変化が訪れるのは、オバマ政権誕生です。
対話によってイランの問題を解決しようとしたのです。
しかし、その2年後。
IAEAの調査によってイランの核開発が軍事目的である懸念が高まります。
さらにイランは強硬路線の政権の下で核兵器の材料となる濃縮ウランの製造能力を高めていきます。
これに対してアメリカやヨーロッパはイランからの原油の輸入禁止など厳しい経済制裁を加えます。
一方のイランは中東からの原油輸送の要であるホルムズ海峡の封鎖を示唆。
軍事演習を行うなど世界を威嚇し軍事的な緊張が高まりました。
強硬だったイランの態度に変化が表れたのは2年前。
欧米との対話路線を打ち出すロウハニ大統領が登場します。
背景にあったのは経済制裁の国民生活への深刻な影響です。
食品価格など物価が2倍以上に高騰。
国民の間に、経済制裁の解除を求める声が広がったのです。
夫は毎日残業しているのに収入が物価の上昇に追いつきません。
精いっぱいの生活なんです。
ロウハニ政権は国家機密である原子力発電所をメディアに公開。
これまでにない柔軟な姿勢を見せるようになります。
一方、イランの核開発への疑念を拭えないアメリカ。
中東でのイランの影響力を無視できない事態に直面することになります。
ホワイトハウスで中東問題を担当した元高官のフリント・レバレット氏です。
流れが変わるきっかけとなったのは、4年前のいわゆるアラブの春だといいます。
中東で民主化を目指す運動が拡大。
衝突が多発し地域がかつてないほどの混乱に陥っているのです。
さらに過激派組織IS・イスラミックステートも台頭。
中東の安定化のためにイランと一定の関係を築くことがアメリカにとって重要だといいます。
そして、おとといの最終合意。
イランが遠心分離機を減らすなど核開発を大幅に制限。
その代わりに、欧米側が制裁を解除することが盛り込まれました。
対立から対話へ。
歴史的合意は、各国の思惑が絡み合う中で生み出されたのです。
今夜のゲストは、日本エネルギー経済研究所中東研究センター長の田中浩一郎さんです。
そしてイランの首都テヘランにいます、品川支局長と中継がつながっています。
まず品川さん、イランでは、歓迎のムードが広がっているということですけれども、アメリカと強く敵対していた、その保守派にとっても、その交渉で得られたものというのは、よかったという評価なんでしょうか?
合意の知らせを聞いて、大勢の市民が国旗を掲げて街に繰り出すなど、かつてないほどの高揚感に包まれています。
市民が期待しているのは、なんといっても制裁で疲弊した経済の回復です。
制裁の解除で、凍結されている1000億ドル、日本円で12兆円を超えるとされる資金がイラン経済に投入され、原油の輸出も拡大すると見られています。
また、イランによる核開発に難色を示していた欧米側に、核開発の継続を認めさせたことも、国の威信を守る大きな成果と受け止められています。
イランでは依然、反米姿勢を取る保守強硬派の勢力が強く、欧米に妥協しないよう、政府の交渉団を突き上げてきました。
大幅に制限されるとはいえ、核開発は続けることになり、保守強硬派も一定の理解を示していると見られます。
ただ、国政の実権を握る最高指導者のハメネイ師は、欧米側に全く信用できない国が、いくつかあるなどと述べていて、合意内容を実行に移す段階で、まだ曲折が予想されます。
品川さんはこの交渉の過程を、ずっと取材してきたわけですけれども、非常に難しい交渉だった。
今のタイミングで、なぜ合意に至ることができたのかというふうに感じていますか?
そうですね。
アメリカとイランで、対話を重視する政権が誕生した今が、最大で最後のチャンスだという認識が、双方にあったからだと思います。
交渉では、各国の思惑が複雑に絡み合い、イランと欧米側の意見の対立に加え、イランへの武器輸出の解禁を巡って、武器を売却したいロシアと、イランをテロ支援国家に指定しているアメリカの対立も浮上しました。
一つのことで合意を取り付けても、ほかの点で合意を取り付けようとすると、最初の合意が崩れてしまうという繰り返しで、交渉関係者からは、立体パズルのようだという声も聞かれました。
結局、交渉は2年近くにわたって続き、交渉そのものに批判的な勢力がイランとアメリカ双方で勢いを増すことも懸念され、まさにここで結果を出す必要に迫られていました。
さらに、現在の中東情勢も交渉を後押ししたと見られています。
過激派組織ISの対応に追われるアメリカは、シリアやイラクに強い影響力を持つイランの存在を無視できなくなっていました。
核開発問題を解決して、IS対策で一定の協力関係を築きたいという欧米側の思惑もあったものと見られます。
品川支局長でした。
田中さん、本当に今のリポートにもありましたけれども、立体パズルのような交渉だった。
その立体パズルが今回、6面とも、きちっとはまった、その要因って、なんだったと思いますか?
これはアメリカ側が、やっぱり優先順位をはっきりさせたのだと思うんですね。
それは何かというと、イランの核保有国家を避けるということ、そして、イランのほうはやはり、制裁の緩和、解除を取り付けるということ、それぞれの思惑がかなりはっきりしてたところで、うまく、ほかをまとめることができたんだと思ってます。
優先順位がとにかく総括できたということですね?さあ、今回の合意が、本当に歴史的なものになるかどうかは、核兵器の開発疑惑がある、施設、核施設への査察が着実に行われるかどうかにかかっています。
合意が、中東・湾岸情勢の新たな火種になりかねないという懸念も生まれています。
イランの核開発問題の解決に向けた159ページにわたる合意文書。
一番のポイントはイランの核開発能力を制限したことです。
ウラン濃縮に用いられる遠心分離機を大幅に削減。
核兵器の製造にかかる時間を引き延ばすことに成功したのです。
その一方で、原子力発電など平和利用に限って継続が認められました。
この合意が守られているかを監視するために盛り込まれたのがIAEAの査察の権限強化です。
IAEAはイラン国内にある核関連施設すべてを抜き打ちで査察できることになったのです。
しかし、合意文書に査察の対象と明記されていない施設があります。
これまでの協議で争点となってきたテヘラン郊外の軍事施設です。
欧米側は、この施設で核兵器の開発疑惑があるとして査察の対象とすべきと主張。
これに対しイラン側は核関連施設ではないとして査察の対象にはならないと対立してきました。
これについてアメリカやEUはこの軍事施設も含めたすべての施設が査察の対象となると主張しています。
一方のイラン側は軍事施設の査察について言明を避けています。
合意文書のあいまいさが残っているためその実効性が課題となっています。
今回の合意がうまく進んだ場合でも、新たな問題が生まれる可能性が指摘されています。
核開発が維持され経済制裁が解除されれば資源に恵まれ8000万人近くの人口を擁するイランが台頭することが予想されます。
このことに周辺諸国が神経をとがらせているのです。
真っ先に反発したのがイランの核開発を安全保障上の脅威としているイスラエル。
核施設への先制攻撃も辞さない構えを崩していません。
またサウジアラビアも強い危機感を示しています。
イスラム教スンニ派の大国サウジアラビアはシーア派の大国イランと対立してきました。
今回の合意を通じてイランが欧米と接近すれば地域の中で存在感を高めることになるからです。
中東の勢力地図を大きく変える可能性を含む今回の合意。
緊張が続く中東情勢は新たな時代の出発点に立とうとしています。
その合意はできましたけれども、本当に争点となっていた軍事施設の査察ができるのかどうか。
オバマ大統領は、どこでも、いつでもというふうに言っていましたけれども、はっきりと、イラン側は言明していないと、リスクは残っていませんか。
そうですね、やはり思惑が異なるといいましょうかね、解釈が異なるというか、それも残されてますので、この先、実際に実行していくと、合意がやっぱり、どうも自分たちの思っていたものではないということで、少なくとも騒ぎになるだろうとは思います。
ただ、それでいきなりその合意が崩壊するというところまでは、まだいかないと思うんですけれども、実行をいかに担保していくかも、この先の課題として、あることは間違いないですね。
アメリカ国内では、譲歩し過ぎではないかという声もあって、例えば新しい遠心分離機の開発は続けられる、低濃縮ウランの保有というのは、少ないですけども、認められる。
あるいは遠心分離機のこれもかなり少なくなりましたけど、動かせる。
それぞれ残っているわけですね。
これで本当に核兵器の開発というのは、抑えられるんですか?どれぐらい脅威を取り除けるんでしょうか。
まず、政策的な意思として、その核兵器を開発するかどうか、これはちょっと、また別なんですが、能力として、イランがそういうことを行う可能性は、ゼロではありません。
ただ、一個一個、個別に見ていくと、まだあれも残ってる、これも残っている、これもイランに認めたじゃないかという言い方は確かにできますが、それぞれイランが持っている、これまでの規模や能力からすれば、例えば0.1にしたと、10分の1にしたとか、そういうことを全部重ねていきますと、これ掛け算で言えば0.1かける0.1かける0.1とだーっとやっていくと、極めてその可能性は低くなってくる。
それを取ったほうが、完全に名にも制約もかけないまま、イランがNPTに従っているという、彼らのことばだけを信じて、そして核開発を続けていくことも、ほとんど見ているだけの状態に比べたら、どっちがいいのかということだと思うんですね。
なので、可能性としては残されていると、その能力は今のところ、相当低下したと、あるいは、低下させることに成功したというところを本来、取るべきじゃないかと思います。
そういう判断に至ったその背景ですけれども、制裁がずっと続けられてきた。
でもしかし、あえて対話の方向に向かって、合意にまで至った。
どういうタイミングを巡っての判断があったんでしょうか?
そうですね。
まず双方に、現実主義者というか、やはり、何を一番、優先すべきかと、何が一番脅威であるか、何を取り除かなければいけないのか、何を今度、勝ち得るべきかということを考える指導者がいるということは、意味が大きいと思いますね。
あと、アメリカの側にとっても、これまで封じ込めという形でずっとやってきましたし、いろいろ政治的、経済的、外交的圧力をかけましたが、それでもイランの核活動というのは縮小はしなかったんですね。
しかし、この対話によって、いろいろな条件を課す、その代わりの見返りも示す。
それがようやく機能し始めたということ。
こちらのほうがだから、今後とも、イランを国際社会の中にいきなり迎え入れることには、まだ時間がかかるにしても、彼らの活動が変な方向に向かわないように、透明性を高めさせるという点では、機能するんだと、それを取ったんだといえますね。
制裁のほころびもあったんでしょうか?
ええ、徐々にやはり厳しい制裁とはいえ、物々交換のような形でのやり取りもありましたし、実際にこのままやっていても、イランが核開発を全面放棄するような場面というのは、とても訪れるとは思えなかった。
それはオバマ大統領も演説の中で認めてますので、やっぱりそれよりも透明性を高めて、イランの能力も低下させて、そして長い間、時間をかけて、この問題を解決していこうという、逆に言うと、まだ始まりでしかないですね、これは。
ただ、失ったものとしては、例えばサウジアラビアがアメリカへの不信感を強める、非常にアメリカの同盟国ですよね、イスラエルの反発も強い、こうした地域の不安定化、あるいは、アメリカとの距離から離れてしまう、そういったおそれに対しては、これから、どうするんですか?
それはやっぱり、個別に対応せざるをえないんだと思います。
それは、一つはアメリカによる説得もありますし、イランとサウジアラビアの関係の修復という努力、これは両国がまず行わなければいけないことですけどね、これを核交渉の中に、あるいは今回の合意のようなものの中に、連立方程式として組み入れてしまうと、これは変数が多すぎて、もう収拾がつかないわけですね。
そこはやはりちょっと切り離す、ないしは距離を置くことによって、このやり取りをうまくまとめたんだと思っています。
今後のエネルギー市場への影響、そしてホルムズ海峡の緊張については、どんな変化が?
それは当座、制裁の緩和が実際に起これば、イラン原油が市場にたぶん100万ビービーぐらいのやがて増える形で、出てくると思いますので、市場に対する下げ要因として取り扱われるだろうと思います。
だから、実際、市場はいろんなことで動きますので、確実に下がるというところまではいえません。
ホルムズ海峡の緊張は、少なくともアメリカとイランが、これだけ話をして、合意を作っている中で、改めて、軍事的な衝突を引き起こすような、緊迫した場面は少し遠のいたと思いますので、それはもう、われわれのように、ホルムズ海峡からの原油、それからLNG、こういったものを調達、輸送に頼っている国にとっては、いい方向の話だと思ってます。
2015/07/16(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「イラン核協議 歴史的合意への道」[字]
「中東最大の火種」とされてきたイラン核開発問題が解決に向け最終合意に至った。舞台裏で何が繰り広げられていたのか、国際社会に今後何をもたらすのか、最新情報から探る
詳細情報
番組内容
【ゲスト】日本エネルギー経済研究所・常務理事…田中浩一郎,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】日本エネルギー経済研究所・常務理事…田中浩一郎,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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