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《アームズ・フォース!!》―VRカードゲームの女王―

作者:マルチロック
8000字ほど、前振りです。
しゃらくせえ!って方は、■5■まで読み飛ばしても可。
■1■


 電脳世界、もうひとつの現実とされる仮想世界。
 その世界にある光り輝くドーム内において、大歓声が轟いていた。
 数十万を超えるアバターが詰め寄せ、誰も彼もが熱狂ムードで中央ステージを注視している。

「ハイエルフで、武装札(アームズカード)を破壊!」
「ぐっ!」

 いまや多くの娯楽は電脳世界へと移行していた。
 意識だけをネット上に送り、仮想の自分(アバター)となって自由に遊楽に耽る時代なのだ。
 そして、このドーム内において行われている《アームズ・フォース》は電脳娯楽においても不動の地位を築いていた。
 ステージ上で向かいあうは挑戦者(チャレンジャー)女王(クイーン)
 両者の間には彼らに付き従うように、騎手札(マスターユニット)が対峙していた。
 一体は絢爛豪華な装備に身を包んだ【エンシェント・ハイエルフ】。もう一体はほぼ裸体のみすぼらしい姿の【ロック・ゴブリン】だった。
 ハイエルフを従えし女王は、鷹のような鋭い眼光で挑戦者を見据えた。

「どうした、もう手はないのか? 新たに武装(アームズ)を装備させることも、魔杖(ワンド)従僕(ユニット)でその場しのぎすることも出来ないのか」
「く、くそ……待て、待ってくれ、いま考えて……」

 震える手で挑戦者の男は手札を握りしめる。
 ゆらゆら揺れる瞳で必死に逆転への糸口を探っているのだろう。
 けれど、すでに勝敗が決していることはこの電脳空間を共有している人間全員が察していた。無論、挑戦者自身も。

「……持ち時間切れだ。私のラストターン」
「あっ、待て、くそ、こんな……こんなはずじゃあ!!」
騎手札(マスターユニット)のハイエルフによる、決着攻撃(フィニッシュ)!」

 その言葉に、ハイエルフが呼応した。
 手に携えた黄金の剣を手に、丸裸のゴブリンへと駆ける。
 身を守る手段も対抗する武力も持たないゴブリン相手に、その刃は無慈悲なまでに鋭く振り下ろされ、そして――――

『決着っううううううううう!! WINNER、ルージュマイン!! 不敗の女王は今夜もまた、新たな伝説を打ちたてたぁああああ!!』

 無惨に散るゴブリンは光る残滓となって降り注ぎ、高らかに実況はヴィクリーコールが鳴り響かせた。
 観客たちは溢れんばかりの拍手を送り、ドーム全体がリズミカルに真っ赤に発光して女王の勝利を讃えた。
 うなだれる挑戦者には目もくれずに女王は長い赤髪をかき上げる。
 長い手足にスレンダーな肢体と光沢をもつピッチリとした真紅のボディスーツ。その名の通り、ルージュ一色に染められたアバターこそが、全戦無敗の女王ルージュマインだった。

「そんな、俺が……この俺が負けるなんて……」
「デッキ構成、戦略、引きの運。なにからなにまで、私が勝っていた。それだけのことだ」
「ちくしょお……」

 これが大迫力のVR技術とカードゲームを融合させた、いまや世界トップレベルの電脳エンターテイメント《アームズ・フォース》。
 その女王、『ルージュマイン』こと坂崎 藍の日常だった。


■2■


「ふう……」

 現実世界に戻り、リビングで紅茶を飲み終えるとほどよい疲労感の中で藍はひと息ついた。
 すでに時計は日付の変更を示し、藍も入浴を済ませて寝間着へと着替えていた。
 先程まで居た煌びやかなサイバースペースとは打って変わり、小さなアパートの一室で紅茶を勝利の美酒代わりに飲んでいたところだ。
 電脳世界では不敗の女王でも、現実世界(こっち)に戻ればただの女子高生だ。
 アバターに設定してあるスレンダーな長身女性とは全く容姿も違う。短い癖っ毛で背も低く、大きいばかりの胸以外は自信を持てないどこにでもいる少女の姿である。
 いまやネット上の電脳世界において大人気の《アームズ・フォース》。その人気は社会レベルにまで影響を及ぼし、トッププレイヤー同士が戦えば、それはもう興業レベルに匹敵するとも言われる。
 なので、トッププレイヤーの多くはスポンサーと契約し、スポーツ選手のように職業として成立させている者も多い。
 藍もまたその一人であり、高校生とプレイヤーの二足の草鞋を履く生活を送っていた。

「今日も勝ったよ、誠也」

 藍の視線の先にあるのはテーブル上の写真立て。写真の中では幼い少年が優しく微笑んでいた。
 数年前の事故で藍は両親を失った。
 弟の誠也も昏睡状態が続き、いまも病院のベッドの上で目を覚ましてはくれない。
 身寄りがない藍にとって《アームズ・フォース》は、弟の治療費を稼ぐための手段だった。
 残された最後の肉親である誠也のために、藍は今日も夜遅くまで電脳世界に入り浸っていたわけである。

「ほんと、防衛戦はいつまで経っても緊張するよ。負けたらファイトマネーが半額以下だし、『不敗』のブランドも無くなっちゃう。でも、私は負けないから。誠也が目覚めてくれるその日まで、がんばって待ってるから」

 そっと写真をなぞると、ステージ上で王者の立ち振る舞いを見せる女王は年相応の穏やかな笑みを溢した。
 飲み終えたティーセットをしまい、写真立てを棚にもどすと「おやすみ」と小さくつぶやいて寝室へと向かう。
 明日も学校がある身だ、早く寝ないといけない。
 寝室に戻り、携帯端末でファイタマネーの振り込みだけ確認しようとすると、新着メールの通知が届いた。
 そのメールには差出人が表示されておらず、ただ件名に「seiya」とだけ書かれていた。

(seiya……誠也!? まさか、誠也が目覚めて……いや、それなら病院からの連絡が先のはず)

 正体不明のメールに不信感を抱きつつも、大切に思う弟の名を無視できずに藍はメールを開いた。
 中身は一枚の画像と、長いパスコードとアドレスだった。

「なに……これ……」


■3■


 アドレス先はとある個人サーバー内であった。
 現実世界で友人を家に招くように、自分のサーバーに他人を呼ぶのは電脳世界ではよくあることだ。
 しかしそれは現実世界同様に、見知らぬ他人の家に閉じ込められるリスクもあった。
 だがあんな画像を見せられたら、藍は進まざるを得ないのだ。
 指定されたサーバーへの入室メニューにパスコードを打ちこみ、内部へと入り込んでいく。
 赤いロングヘアのアバターを纏った藍は、髪を靡かせゆっくりとサーバー内を見渡した。
 簡素な記号だけで構成されたデフォルトな電脳空間。その単調さが、いまは少し不気味に感じられた。
 こちらの入室に気付いたのか、目の前でアバターが一筋の光から現出した。

「ようこそ。お待ちしておりました、クイーン ルージュマイン」

 現れたのは黒いフードを被った小柄なアバターだった。
 まるで従者のように仰々しく頭を下げるも、いまの藍にとって慇懃無礼なものにしか映らない。

「……なんのつもり」

 単刀直入に、藍は現れた黒いフードのアバターを睨みながら問いただした。
 手にしているのはメールに添付されていた画像ファイル。
 そこには件名通り藍の弟である誠也の姿が写っていた。ただし、その首には緩くロープが結ばれており、なにかを暗示させていた。

「この画像はなに? どうして、誠也のことをあなたが……」
「フフフ。まずは自己紹介をしましょう。僕の名はルカ、あなたの大ファンなのです」

 フードをとると、そこにあったのは眉目秀麗な美少年の顔だった。
 性別と声紋以外なら自分好みにカスタマイズできる電脳世界では、美形はさして珍しくもない。
 だが、こんな場面において柔和な笑顔をするルカ年に藍は苛立ちを覚えた。

「そして、ご安心ください。あなたの弟さんに危害は加えていませんよ。いまのところはね」
「……目的は? どうせ金が目当てなんでしょ」

 実際そういったトッププレイヤーのファイトマネーを狙った犯罪は多い。
 そのため階級の高いプレイヤーほど個人情報は強固に守られている。藍もその例外ではなく、それ故に弟の存在が露見するのは予想外のことだった。

「んん~? どうやら、クイーンは僕をただの身代金目的の犯罪者だと勘違いされているようだ」
「それ以外になんだというの?」
「おお、そんな怖い顔をしないでください。僕はただ、あなたと勝負したいだけなんです」

 ルカは空間から、電子情報で構成されたカードの束を取り出した。
 電脳上の一級通貨同様、解析や捏造等の不正は不可能とまで言われるプログラムで組み上げられた《アームズ・フォース》のデッキだ。

「勝負? それだけのために、あなたは誠也の病室に……?」
「真っ当な手段ではあまりにも手間が掛かりすぎますからね。クイーンなら、トップへの挑戦権がどれだけ得難いものかご承知でしょう?」
「……もし断れば、どうする」
「出来ないでしょう? 弟思いのクイーンには」

 ギリ、と藍は奥歯を噛みしめた。
 目の前の男はふざけている。トッププレイヤーになれば、変な輩に絡まれることも多いがこいつは群を抜いている。
 とっとと通報して警察に突きだすべきだが――――

(……誠也)

 藍は自身のパーソナルウィンドウからデッキを取り出した。

「YES! やる気になってくれましたね」
「本当に勝負するだけで、満足するんだな?」
「ええ、もちろんですとも。クイーンには僕と勝負してもらって、いままで感じたことない楽しさを知ってほしいのです」
「……そんなのはいらない。全力で潰してやる」

 藍に残された唯一の血の繋がり。
 それを土足で踏みにじろうとした奴に、負けるわけにはいかなかった。
 保有プログラムから《アームズフォース》を起動。
 二人の周囲がゲームチックなエフェクトで囲まれていく。お互いが手にしていたデッキは、腰ぐらいに現れた光のテーブルにセットされる。

「では、僕も目一杯楽しませてもらいますね。クイーン」
「……」

《Battle Start!!》

 無機質なシステムボイスが鳴り響く。
 藍、女王ルージュマインにとって久方振りの観客がだれひとりない、密室空間での勝負が始まった。


■4■


《アームズ・フォース》のルールは単純。お互いの選んだ騎手札(マスターユニット)の装備を破壊し、生身に決着攻撃(フィニッシュ)を叩き込んだ方の勝利だ。
 そこに装備カードである武装(アームズ)のスキルや、様々なサポート効果をもたらす魔杖(ワンド)に攻撃を支援する従僕(ユニット)のカードを組み合わせて、しのぎを削り合うのだ。
 まずはお互いにデッキより、一体を自身の憑代ともいえる騎手札(マスターユニット)に指定する。

「私は【エンシェント・ハイエルフ】を騎手(マスター)に」
「僕は【漆黒のアークデーモン】で」

 カードを目の前に現れた光のテーブルに置く。カードは端末である光のテーブルを通して、空間そのものに読み込ま(ロードさ)れる。
 藍の眼前に豊満な体をゆったりとしたライトグリーンの衣装に身を包んだ耳の長いエルフが現れた。煌めく金髪を編み物のように結んだ長髪は、それだけで一つの芸術品のようだった。垂れ目の碧眼にはエルフ特有の知的で穏やかな気性が現れ、現実世界の人間には出せないような純潔な気品に溢れる笑みを浮かべていた。
 美しきそのカードは、藍と長年連れ添ったパートナーだ。
 対するルカが出したのは漆のように艶やかな黒色をした魔人だった。大きな角や骸骨めいた顔、彫刻めいた人外の体格は見る者にまず畏怖の印象を与える。

 騎手札(マスターユニット)を指定したら、次はデッキからカードを六枚引く(ドロー)
 その中に武装札(アームズカード)があれば、四枚まで装備できる(0枚の場合は引き直す)。
 この時点で、自身の運によって有利不利が決まるともいえる。

「手札から、【黒魔術師のローブ】、【ホワイト・ロッド】、【神霊巫女の正装】を装備」

 藍は三枚の札をフィールドに出し、騎手札の下に配置する。
 するとハイエルフの容姿が変化する。
 まず現れたのは黒いローブであり、奇妙な紋様をしたそれをマントのように羽織った。
 そして、その下に着ていた衣服が一瞬で和風の紅白の袴姿に早変わりする。丈がミニスカートほど短く、代わりに白いハイソックスが足を覆っている。肩もスリットから露出させたデザインはゲームらしいコケティッシュさを含みつつも上品な可愛げも兼ね備えていた。
 最後に純白の樹木で作られた身の丈の半分ほどはある杖を手にして、ハイエルフは装着を終えた。
 ハイエルフはステレオタイプな姿から、和洋折半な独特な戦衣装に身を包んだのだ。
 騎手となったユニットの姿が鮮やかに変わるのも、この《アームズ・フォース》の魅力である。

(武装札3枚。まずまずといったところね。これでハイエルフのパワーは2700P(ポイント)

 従僕と武装にはそれぞれパワーポイントが設けられ、これを超えなければカードを破壊することは出来ない。
 騎手札は装備された武装札の合計値が騎手の元々のパワーに加算され、この数値をいかに超えるかが攻撃の要になる。

「三枚ですか。参ったなぁ、僕は一枚きりだ。【雷光燐】を装備」

 武装札が装備されると、アークデーモンが電撃を帯びていく。肌がヘビのような質感に変わり、小さな火花を散らし始める。
 よりおぞましい姿になったものの、パワーは素の1600に【雷光燐】の400が加わった2000止まり。いまのハイエルフの敵じゃない。

(……速攻で終わらせてやる)

 装備が終わると、お互いに再び手札が六枚になるようにカードを引き、ゲームスタートだ。

 ルージュマイン(藍)
 手札6 武装3 騎手ハイエルフ(1400P→2700P)

 ルカ
 手札6 武装1 騎手アークデーモン(1600P→2000P)


「では、先行はチャレンジャーの僕が貰いますよ。ドロー。従僕(ユニット)、レベル2の【痺れスライム】を召喚」

 ルカが場に札を出し、新たなユニットが立体映像で投影される。
 青地に黄色い斑点のような奇抜な色をした液体生物のスライムが、アークデーモンの傍らに現れる。
 スキルによって呼ばれる場合を除いて、レベル4以下の従僕は一ターンに一度だけ手札から呼び出せるのだ。
 ちなみにレベル5と6は従僕を一体、7と8は二体をコストとして支払う必要がある。

「【痺れスライム】のスキル発動。このユニットが場にいる限り、対象一体のパワーを300下げる。もちろん、ハイエルフを指定しますね」

 従僕は様々な効果を発揮するスキルを持っており、スライムのものはパワーダウン系。
 リアルなグラフィックで形造られたスライムは、その体をうねうねと捻った後、体の一部を爆散させた。
 降り注ぐスライムの一部がハイエルフを襲い、パワーをダウンさせる。

「いっ……!?」

 その瞬間、不思議な感覚が藍の身を襲った。
 軽い電流が流れたように、肩やふとももの一部に痛みを感じたのだ。
 脳の電気信号を利用して意識をネットに送り込むこの世界において、誤作動によって妙な感触を受けることは稀にある。
 けれど、いままでなかった感触に藍は首を傾げた。

「先行の一ターン目は攻撃できないので、ターンエンド。さ、クイーンの番ですよ」
「わ、わかってるわよ。ドロー」

 藍は勝負に集中するため、いまは小さな違和感を忘れることにした。

 ルージュマイン(藍)
 手札7 武装3 騎手ハイエルフ(2700P→2400P)

 ルカ
 手札6 武装1 騎手アークデーモン(2000P) 従僕痺れスライム(1200P)

(……それにしても、武装札を装備しない? 最初の引きに恵まれなくてもコストを支払い、武装を増やせるのを知らないほどの素人……なわけないわよね)

 プレイヤーはデッキのカードをコストに見合った枚数分、下から廃棄することで武装札を装備できる。
 ルカの武装は一枚。
 ここで藍がアークデーモンの素のパワーを超える従僕を一体召喚し、マスターのハイエルフと二体で攻撃をしかければ勝負は決するのだ。

(そんな上手くはいかなくても、いまがチャンスなのは変わりない)

「従僕、【四尾狐】を召喚。さらに、騎手札に装備された【神霊巫女の正装】のスキルで神霊族の【四尾狐】はパワーアップ! 」

 現れたのは子犬ほどの大きさの小さな子ぎつねだ。その尾は四つに分かれ、そこから巫女服を着たハイエルフからパワーが注がれる。
 これで【四尾狐】のパワーはアークデーモンの元々のパワー1600を上回る1800。
 ハイエルフで武装を破壊すれば、止めをさせる値だ。

「お手並み拝見させてもらおうかしら。ハイエルフで騎手札を攻撃!」

 黒いローブに巫女服を着たハイエルフは、手に持った白い杖を構える。
 光子のような淡い光が、杖を中心に急速に収束していく。眩いばかりの光となった塊を、ハイエルフは勢いよくアークデーモンへと解き放った。
 剛速球のように撃ち出された光球は、なんの妨害を受けることなくアークデーモンに直撃した。

「武装札を破壊……どうしたの? もうあとがないけれど?」
「フフフ、【雷光燐】のスキル発動です。このカードが破壊された時、破壊したユニットのパワーをこのターン500ダウンさせます」

 それは藍も承知の上だった。
 だが、いまさらハイエルフのパワーを下げた所で四尾狐の攻撃を阻止せねば、意味がないのだ。
 悪足掻きにもならない、ただのスキルの無駄撃ちだと、藍は捨て置いた。

「フフフフフ、フフフフフフ」
「なによ……なにが、そんなにおかしいというの?」
「いえ、ただ次の瞬間が楽しみなだけです」
「は……?」

 二人の会話をよそに、アークデーモンから剥がれ落ちた鱗が断末魔の叫びとばかりにスパークを輝かせ、ハイエルフへと電撃を浴びせた。
 全身に電流を浴びるハイエルフは、一瞬だけ苦悶の表情を浮かべ、パワーダウンのエフェクトを出す。
 それと同時だった。

「いっ、ひゃアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 藍の全身を焼くような痺れが襲った。
 それはまさにハイエルフ同様に高圧電流をその身に浴びたかのような刺激であり、それが全身を焼いていく。
 あまりの衝撃に、藍は膝を屈してその場に崩れる。

「んん~、素晴らしい。クイーンって、ちょっと大人っぽく聞こえるフィルター声に掛けてますよね? でも感情のノリはだいぶ若くて、瑞々しいぃ」
「な……なに、いまの……あ、あなた何をしたの?」
「フフフ、驚くクイーンの顔が見たくて、黙っていたことをお許しください。この《アームズ・フォース》は、体感フィードバックをプログラムさせてもらっています」

 体感フィードバック。
 それは電脳世界で感じた感覚を電気信号で現実の体に与え、また現実の世界での生体反応を電脳世界に反映する疑似体験ソフトだ。
 元々は体の弱い子供や老人のリハビリ用で、藍が使っているVR端末にも標準装備されているものの、一度も起動はしたことない。
 ショック死の危険性もあるため、簡単には使用することは出来ないのだ。

「そんな、私の端末をハッキングでもしたの……?」
「僕はクラッキングでクイーンの弟さんを知りました。それにメールを開いてくれたクイーンの端末になにかをするなんて、造作もないんですよ」
「……ウイルス入りだったのね」

 改めて自分の安易な行いに、藍は歯噛みする。
 この強烈な感覚はどう考えても既定の出力を上回る違法ソフトによる操作だった。VR用の端末と、リンクしている携帯端末からハッキングされたのだ。
 ふらふらの頭で状況を飲み込み、なんとか立てるまでに足腰の感覚が戻ってくるとなんとか自力で立ち上がる。

「これこそが、僕の提供する新しい楽しみを持つ《アームズフォース》。あ、クイーンのカードやデッキには手を加えていないことは保証します」
「……あなたには影響がないようだけど」

 思い返してみるに、雷光燐よりも先にハイエルフの攻撃が決まっているはずだ。
 けれど、目の前にいるヘラヘラした美少年は平気そうな顔でいまも笑っている。

「フフフ、普段からこういう勝負している僕にはこれぐらいなら平気なのです。ほら、腹に焼け跡が一応付いていますよ?」

 大仰な動作で手を広げると、そこにはたしかにバレーボールほどの丸い焼け焦げた跡があった。
 実際のところは、それが本当にフィードバックされているかどうかは分かったものじゃないが。

「この卑怯者め……判った、もういい。お前がただの犯罪者じゃなくて、才能を馬鹿な方向に使う狂人なのは理解したわ。だから、さっさと決着をつけてやる。四尾狐で騎手札を――」
「おっと、その前にデッキコストを支払って手札から魔杖(ワンド)カードを発動させます」

 勝負を焦った藍を制止させるかのように、ルカは一枚のカードを場に出した。
 カードの名前は【リベンジャー・アタック】。
 魔杖のカードは自分のターンだけでなく相手ターンにもデッキの下のカードを廃棄することで、手札から発動できるのだ。

「このカードは騎手札の武装が戦闘でゼロになった時に発動出来ます。デッキの上から五枚を引き、その中で武装札があれば四枚まで装備。残りのカードを廃棄したのち、相手騎手とバトルします。ではカードを五枚……お、やりました。四枚の武装札を装備」

 ルカの場にて、四枚の武装札が騎手の下に配置される。
 カードはそれぞれ、【粘状鎧】、【吸血牙】、【死して常世を見る呪眼】、そして【柔き蹂躙鞭】だった。
 その四枚の武装札の影響を受け、アークデーモンの姿もまた変化していく。

「え……」

 漆黒の体をもつ魔人の体を、ジェルのような無形の鎧が包んでいく。
 腕からはニョロニョロと生き物めいた鞭が幾多にも生え、口元には尖った二本の牙が生え揃い、瞳は宝石のようなルビーレッドに染まっていく。
 生理的な嫌悪感を催すまでに変化したその姿に、藍は身を震わした。
 ルカは確かに言った、「相手騎手とバトルする」と。
 それはつまり、あの魔人がこちらに触れるということ。
 とっさに藍は手札を見返した。あの魔人を食い止める策を探すために。
 だが、手持ちのカードでは相手のスキルを無効化できるものは無く――――

「では、パワーが3400になったアークデーモンで、2200のハイエルフを攻撃」
「そんな……嫌っ」

 まるで主の恐怖を感じ取ったかのように、同じく恐れの表情を浮かべるハイエルフにアークデーモンが近づいていく。

「フフフ」


■5■


 電脳世界にて、弟を人質に勝負を仕掛けてきた謎の少年ルカは言った。
「このゲームでは疑似体験の体感フィードバックが組み込まれている」と。
 お互いにさまざまな武装を施したユニットを戦わせるこのゲームにおいて、パワーの低いカードは高いカードに蹂躙される他ない。
 そしていままさに藍のハイエルフに、アークデーモンの魔の手が伸びる。
【柔き蹂躙鞭】を装備したデーモンは、その腕から生やした生き物のような軟体の鞭でまずはエルフの腕を拘束した。

「や、気持ち悪い……」

 腕の上をヘビが這いずりまわっているかのような嫌悪感に、藍は顔を歪める。
 おまけにデーモンは全身に透明な【粘状鎧】を装備しているため、そのリアルな粘液の感触に電脳世界でも鳥肌が立った。
 藍は自分の腕を抱き、激しい悪寒から身を守ろうとする。
 けれど、目の前ではそれさえも叶わないハイエルフがゆっくりとアークデーモンに絡め取られていく。

(私の【エンシェント・ハイエルフ】……ずっと、ずっと昔から私と一緒に戦ってくれたパートナー……)

 ハイエルフの白磁の柔肌をその名の通り蹂躙していく無数の鞭は、ついにハイエルフに装備されていた【神霊巫女の正装】の中に潜り込んでいく。
 胸元の襟や、露出した脇の間のスリットから無数の鞭が内部へと侵入していく。

「っ!? ん、んんん…………!!」

 胸元にまで這入ってきた鞭の感触に、藍は身をよじった。
 バストの形をなぞるようにぬめりを帯びた鞭は、ハイエルフの豊満な胸をぐるりと取り囲んだ。
 ハイエルフもまた恥辱の表情を浮かべて、体を伝う不快感に耐え忍ぶ。
 巫女服の下で這いずりまわる鞭が動く様は、まるで浮き出た血管のようにはっきりと見て取れた。
【粘状鎧】によって濡れた巫女服はだんだんと透けて、新雪のような肌とそのメロンのような美乳の形が露呈する。
 いままで幾度の戦いを共に勝ち抜いてきたハイエルフが、まるでポルノアニメのような扱いを受ける光景に藍は目まいがした。
 親友の強姦シーンを見せられるような、いやそれ以上の「自分の半身が(なぶ)られている」という衝撃にどうしようもない吐き気を催す。

「武装札は、重ねられた一番下から破壊する。よって、【神霊巫女の正装】を破壊させてもらいますね」
「なんだこの……趣味の悪いモーションは……【蹂躙鞭】の攻撃モーションはこんなんじゃ……うぅっ」
「言い忘れてましたが、この《アームズ・フォース》は体感フィードバック以外も少々特殊なんですよ。フフフ」

 ハイエルフよりひとまわりも大きな頭部をもつアークデーモンは、装備された【吸血牙】をもってその無垢な胸元に喰らいついた。
 まるで犬が包装紙でも破るかのように、粘液に濡れた巫女服を噛み引き裂いていく。
 パワーに劣るハイエルフにそれを阻止する手立てはなく、目尻に涙を溜めてその行為から目を背けるしかなかった。
【神霊巫女の正装】はボロ布に変わり、その下に隠れていた丸く大きな乳房がまろびでる。
 テカテカとした光沢に覆われた胸のてっぺんに、小豆よりも小さく鮮やかな突起が鎮座していた。
 現実世界ならトップモデルに匹敵するような豊満な胸元を見られ、藍はまるで自分の体が見られているかのような羞恥を覚えた。

「この《アームズ・フォース》、純正品と違って細かい所まで再現されているでしょう? 大きくもツンと張った上向きの乳房。穢れを知らぬ桜色の乳首。ハイエルフのこんな3Dモデルが配布されたら、どれだけの男性のオナネタにされるやら」
「私のハイエルフを……下種な言葉で汚すな。こんなグラフィックまで用意するなんて、この変態の屑め」
「フフフ。では、さらに【吸血牙】のスキル発動。装備された騎手が武装札を破壊した時、その騎手の元々のパワーの半分を加算します」
「【吸血牙】のスキル……ま、まさかっ」
「さあ、血を吸ってパワーアップだ。アークデーモン」

 その言葉に震えたハイエルフの白い首筋。そこにアークデーモンは勢いよく、牙を突きつけた。
 鋭い痛みに思わず藍は背中を大きく反り、短い悲鳴を上げた。
 太い針のような二本の牙が首筋を喰い破り、無理矢理自分の中へと挿入されていく感覚が藍にも過不足なく伝達される。
 あまりの痛みにハイエルフは手足を振り乱し、暴れるように抵抗した。
 蹂躙鞭はその動きを抑え込もうと、(おか)の魚のように跳ねるバストを締め上げる。
 胸元を圧迫される苦しさと噛み付かれた痛みに、藍は我慢できずに倒れ込む。

「フフフ、噛み付かれて血を吸われる感覚なんて電脳世界でもなければ体験できませんね。それに知ってます? 血を抜くってのは、一種の快楽を覚えさせるそうですよ?」
「ぁ……あぐ……んぁ」

 ルカの戯言はすでに藍の耳には届いていなかった。
 自分の体を強く抱きしめ、潰れてしまいそうなほど身を縮めても不快な感触は消えない。固く目を閉じて、何度も何度も「許さない許さない許さない……」と呪詛のように呟き続けながら痛みに耐えるしかなかった。
 ハイエルフの首筋を通して血液が抜かれていく。同時に、藍の体からも力が抜けていくのが分かった。
 痛みや怒りに強張った筋肉が、筋弛緩剤でも注射されたかのように脱力していく。
 その感覚に藍は一瞬だけ快感を覚えた。
 体が軽くなり今にも浮いてしまいそうな夢心地に、一瞬で連れていかれた気分だったのだ。
 けれど次の瞬間、再び蹂躙鞭の圧迫感に襲われると大きく喘いだ。
 蛇のように動き続ける鞭はとぐろを巻くようにハイエルフの乳房をぐにぐにと凹ませて、絞るように締め上げる。
 ぐるぐる頂上を目指す濡れた蛇は、ついに先端の突起へと巻き付いた。ピンク色のそれをも容赦なく締め、擦り、弄るほどに藍に言い難い刺激を与えた。

(苦しいのに……胸だけは熱くて、ヒリヒリして……なんだか、気持ちが変に――――)

 電流とはまた違う痺れを覚える乳首が、脱力しきった体の中で唯一自分のものだと把握できる部分だった。
 現実世界では体験できないような責め苦が、藍の頭の中をかき乱していく。

「いっ、んぁ……やっあぁぁ、んぎぃ……ぅぐ」
「血を抜かれ、胸を圧迫され、鞭の蹂躙に耐え忍ぶ。なんだか首を締めながらセックスするような、危険な耽美さを感じますね、フフフ……」

 アークデーモンが血を吸い始めて十秒が経ったか、二十秒が経ったか。
 深々と刺さった牙が抜かれ、激しさとまどろみが混ざり合う短くも長い時間が終わる。
 蹂躙鞭も役目を果たしたとばかりに主のもとへ帰り、アークデーモンは痙攣するように震えるハイエルフを一瞥し、あっさりと自軍の場に戻った。
 残されたハイエルフは自分で立つことも出来ず、その場でぐったりと横たわった。
 まったく力が入らなくなったエルフの股からは小水がじわぁと漏れ、淫らな水たまりを作っていた。

「フフフ、攻撃されてるのに気持ち良すぎてお漏らしなんて、とんだ破廉恥エルフさんだ。これは現実世界の生理現象の反映ですから、クイーンの股も大変なことになってますね」
「……」

 その言葉も果たして、藍には届いているのかどうか。
 藍のアバター・ルージュマインは涙や唾液を溢した顔を紅潮させ、泥のようにぐったりと伏せていた。
 体から力という力が抜き取られた。心地よい解放感と共に生暖かいものが太ももに流れてしまうが、どうすることもできない。
 痛みと痺れが脱力した体の中で混ざり合い、藍の中で全くの未知の感覚が体内に広がりつつあった。

「おや、もう立ち上がれませんか? 残念ですねえ。もっと楽しんで欲しいのに。そうだ、弟さんを命でもかければもっとやる気に――」
「……手札から、【贄の鬼火】を……発動」

 場に札が出されるとともに、藍の場にいた四尾狐が紅蓮の火の玉へと姿を変えた。
【贄の鬼火】。
 自分の場の特定種族の従僕一体を捧げ、相手の武装札を一枚焼き払う魔杖札だ。
 火の玉となった四尾狐が、デーモンの巨体へと体当たりを仕掛ける。
 見る見るうちに火炎はデーモンを包み込み、一番下に配置された【柔き蹂躙鞭】を破壊した。

「ぐぅぅぅうううう!! ……ほほう、流石クイーン。まだ立てるのですね。そうこなくては」
「うるさい……」

 震えながらも、確かな口調で藍は言い放った。
 よろよろの体をなんとか引き起こし、手札のカードを握りなおす。

「私は負けない。私は不敗のクイーンだ。こんな姑息な手を打つお前なんかに、負けるわけないのよ」
「YES。その言葉、痺れますね」

 立ち上がった藍の目には、いまだ敵意と闘志が帯びていた。
 その鋭い眼光をルカに突き付けながら、ターンの終了を宣言する。
 ゲームは続く。


■6■


 ルージュマイン(藍)
 手札5 武装2 騎手ハイエルフ(2400P→2200P)

 ルカ
 手札5 武装3 騎手アークデーモン(3400P→2700P) 従僕痺れスライム(1200P)

「僕のターン、ドロー。アークデーモンとハイエルフの差は500。これぐらいなら魔杖札でどうにも出来そうですし、悩みますねぇ」
「……」

 電流から始まった様々な責め苦に、藍はいまだ頭の中がぼやけていた。
 まるで強い眠気に襲われた時のようにクラクラと考えが霧散する。
 それでも藍は「誠也」という言葉を頭の中で何回も反芻し、意識を保ち続けた。
 大切な弟のため、そして戦友であるハイエルフを辱めた罪を償わせるまで藍に気絶することは許されなかった。

(……ハイエルフはスキルで武装札が一枚以下の時に、ゲーム中一回だけ相手の攻撃フェイズを消失させられる。ハイエルフはスキルで――)

 脳内で必死に、今まで何回も助けられた相棒のスキルを思い浮かべる。
 いまのデーモンに蹂躙鞭はない。吸血も恐ろしいが、あの卑猥な責め苦だけは免れる。
 一撃だけ耐えれば、スライムや新たな従僕を召喚されても襲われることは回避できるのだ。
 藍は細切れの意識になんとか、自分の次の手を認識させていた。

「それじゃ、従僕【オクトパス・ジョー】を召喚。場に出せる従僕は二体まで。これで僕の場が埋まったわけです」

 現れたのは八本どころではなく、その二乗の六十四本の足を持つ大蛸だった。
 うねる蛸足たちに藍は一瞬怯むが、また何度もハイエルフのスキルを唱え続ける。
 パワーはたったの1500。あの足がハイエルフに触れられることはないのだ。そう自分に言い聞かせた。

「ハイエ……武装札が……一回だけ……させられ……」
「フフフ」

 だが、その考えを見透かしているかのように、嫌味な笑みと共にルカは更なるカードを場に出した。

「さらに魔杖札【呪砲・蠱毒】を発動。このカードは二体の従僕を破棄し、その二体のパワーの合計が相手騎手札を超えていれば、武装札一枚を破壊。そして、次の僕のターン終了時まで【蠱毒】カードを装備させます」

 場に現れたのは壺を長く強固にしたような、紫色の大きな砲身だった。
 その中へ放り込まれるのは当然、【痺れスライム】と【オクトパス・ジョー】だ。
 二体の従僕が上を向いた砲身に飲み込まれると、ミキサーにでも掛けられたように生々しい音を挙げて混ざり始めた。

 ――――グチュグチョグジュジュルジュゴグヂュグヂュジュチョ!!

「ひっ……や、そんな」
「【痺れスライム】が破棄されたので、ハイエルフのパワーは2500に戻る……けれど、呪砲に入れた二体の従僕の合計値は2700」
「嫌、やめて……」
「【呪砲・蠱毒】、発射です」

 砲身が下ろされ、ハイエルフへと狙いを定める。
 とっさに「逃げて」と叫ぶ藍だったが、《アームズ・フォース》においてパワー差は絶対。
 逃れられぬ砲弾が撃ち出され、ただその時を待つことしか出来ないハイエルフの腹部へと直撃した。
 猛烈な痛みに藍は腹を押さえて、吐き出すような悲鳴を漏らして膝をついた。

「【ホワイト・ロッド】を破壊……そして、代わりに【蠱毒】をあなたに」

 消えかかった意識を藍はなんとか手繰り寄せる。
 まだ負けたわけではない、こんな形で勝負を捨てるわけにはいかなかった。
 屈した膝を起こし、立ち上がって場を確認する。
 目を向けた先には、

「――――――――っ!!」

 下腹部が蛸とスライムが混ざり合った塊に取りつかれ、まるで妊婦のようなシルエットになったハイエルフの姿だった。

「【呪砲・蠱毒】によって装備された蠱毒札は騎手札を守る役目は持たず、さらに騎手札のパワーを半減させる。つまり、弱らせるんですね」
「こんな、こんなの……ダメ、そんなこと……」
「やれ」

 ぶよぶよの塊が鳴動を始め、ハイエルフの下半身に残った袴を引き裂いていく。
 ハイエルフのスキルはユニットの攻撃だけのもの。魔杖札である【蠱毒】には意味をなさないし、そもそも【蠱毒】が装備された結果、武装札一枚以下という条件もクリアできない。
 装備主の身も守らず武装札のスペースだけを圧迫する不良債権のような札が、ハイエルフのスキルを見事に封じたのだ。
 その絶望的な光景に、藍の心が折れはじめる。


■7■


 スライムの半身を纏った触手がハイエルフの腰部を包み始めた。
 すでに残されたのは白いビキニショーツだけ。
 アサガオの成長のように、細くスレンダーな脚線美に触手が巻き付きはじめた。
 さきほどの蹂躙鞭同様、その表面はスライムによってヌメりを帯びていたが鞭とは決定的な違いがあった。

「いぃ、痛っ……」

 クラゲの毒のような痛みが、足を駆け抜けていく。
【オクトパス・ジョー】と混ざり合った【痺れスライム】の成分が、ハイエルフの肌を侵しているのだ。

「フフフ、安心してください、じきよくなりますよ。だって、【痺れスライム】の紹介文(フレーバーテキスト)にも書いてあります。『病薬に媚薬に麻痺薬、こいつは良薬の源泉だ』ってね」
「媚、媚やっ……? ふ、ざけるな……よくなるわけが、んぅああっ!!」

 スライム付き触手はそのまま胸同様、肉付きの良い腰回りを周回し始める。
 嫌がるハイエルフは阻止しよう手を伸ばすも、数多の触手にあっさりと手を絡め取られ拘束される。
 そんな妨害をものともせず、ショーツに包まれツンと張った尻を撫でまわすように触手が這っていく。
 たっぷり尻肉を蓄えながらも、張りをもったヒップは触手の形に沿って肉を沈ませる。
 痺れと羞恥に身を震わすハイエルフは、固く股を閉じて触手の侵入を阻もうとした。
 けれど数多の触手は足を開かせようと、強引に両足の足首に巻き付いて左右へ引っ張り続ける。
 その引っ張り合いは幼い少女が同世代の少年に悪戯をされているかのような、奇妙な滑稽さがあった。
 頼りない両脚はスライムの痺れ効果でだんだんと力が籠らなくなり、不意に、あっさりと開帳されてしまった。
 大きく開かれた足の付け根。
 ふくらはぎから太もも、そしてショーツの下に隠されている陰唇すらも肉厚そうに膨らんでいた。
 触手たちは自分たちで自立して、拘束台のようにハイエルフの男の欲情を駆り立てるような股をこれ見よがしに大きく開かせた。
 すでに林檎のように赤い顔を伏せるハイエルフの様子を気に入ったのか。触手たちは嘲るように乳首を手先で弄んだり、綺麗に結われた髪を乱暴に解いた。

「エ、エンェント・ハイエルフ……」

 絶え間なく送られてくる刺激は、触手による摩擦と愛撫。
 連動する感覚に足腰がふらふらになりながらも、やっとの思いで立っていた。
 すでに腰や足に広がる痺れは、甘美なものに変換され始めた。
 神経が鋭敏になって、触手が動くたびに体が跳ねそうだ。
 その感覚のせいか、ハイエルフも息荒げ、熱い涙を溢す瞳はトロンと溶けそうだった。自分もいま、あんな顔をしているのだろうか。あんな、気持ちよさそうな顔を。
 そんな外れた気持ちを抱きながら、藍は凌辱されるパートナーから目を離せなかった。
 触手の先がショーツの内側へと、潜りこむ。
 藍にとって自分でもあまり弄ったことのない女性の秘部に、触手はいともあっさりと攻め入った。
 短く生え揃った陰毛を掻き分け、肉穴の亀裂を複数の触手がなぞる。

(だめ、そこだけは……まだ、だれにも触られたこともないのに。例え電脳世界でもそんなこと……)

「フフフ、あの布きれ一枚の下ではどんな綺麗な花弁が咲いているんでしょう。甘い蜜を垂らして、おしべを迎え入れる準備が整っていたりするんでしょうか」
「や、やめろ……こんな、こんなの《アームズ・フォース》でもなんでもない……こんなことが許されるわけ……」
「やめて欲しいのですか? フフフフフフフ…………だめです」
「いぎぃイィっ!?」

 なんの準備もない挿入に、激しく鈍い痛いが藍とハイエルフを貫いた。
 現実世界で性行為どころか恋人関係すらも経験したことない藍にとってその痛みは、なにか甘い幻想を壊した。
 電脳世界でのことなのに、自分の初体験が永遠に失われたかのような思いだった。
 自分の内部で太いモノが暴れるということが、ただの暴力にしか感じられない。

「痛い痛い痛い痛い!! ……いや、こんなの……初めてはもっとちゃんとした……現実世界の、好きな相手と……」
「あらら、クイーンはまだ生娘だったのですか。初体験が電脳なんてお気の毒です……ん~、しかし電子の蛸に犯されても非処女扱いになるんですかね、フフフ」
「許さない……絶対、絶対にお前は許さない……誠也やハイエルフ、私にこんなことをしたことを必ず後悔させて……んぐぅっ!!」
「体をビクビクさせながら強がるクイーンも素晴らしい」

 荒れ狂う痛みがスライムによって麻痺させられながら、藍の膣内を圧迫する。
 グジュグジュと音を立て、浅黒い触手は肉穴を内側から総なめする。
 膣壁の凹凸を蛸足触手の吸盤が、ちゅうちゅうと内側から大量のキスを浴びせる。
 藍自身も知らない膣内に触手はピッチリと形を合わせ、吸盤によってあらゆるスポットを(ねぶ)っていく。
 そのたびに体が弾けてしまいそうな刺激がはしり、頭の中が芯からジンと熱くなった。

「いっ……いぐっ、ひぐっ……こんな……ひぐっ、こと……うそだぁ……ひぐっ」
「クイーンもハイエルフちゃんも泣き出しちゃって……しょうがないですね。その痛み、消してあげましょう」

 ルカはやれやれといった態度で、自身のパーソナルメニューを開いてなにやらプログラムを実行した。
 すると、新たな指令を受けたように【蠱毒】の動きが変化する。
 下半身を覆うだけだった触手が、陽の光に向かう植物のようにハイエルフの上半身へと昇り出した。
 黄色い斑点を持つ青いスライムと合成された蛸足が、ぐにぐにとハイエルフの大きな胸の谷間を押し通る。柔肉で出来た山を掻き分けながら、汚しながら開通させる。
 再び麻痺毒に悶える藍だったが、触手たちの目的はそれだけではなかった。
 無数の触手の中でも一際大きなサイズの一本が、ハイエルフの口内へ入り込んだ。
 咥えるのに精いっぱいな小さな口から、あうあうとうめく声がする。
 自分の口は閉じているのに、無理矢理開かせられている嫌な感覚が藍のあごにも広がる。
 ぬるぬるした太巻きを咥えさせられているような不快感の中、触手はぶるぶると震えだすと、ハイエルフの口の中に大量の液体を吐き出した。

「んぐっ!!……あが、おぇっ」

 口を外から抑えているのに、溺れてしまいそうなほどの粘っこい何かが強引に喉へ送られてくる。
 ハイエルフに目を向ければ、苦しそうに喘ぐその口元からは白濁液が零れていた。
 謎の液体はなんとも言い難い臭みと苦みに溢れ、臭いが口内を通じて鼻腔に上ってくると胃液が逆流しそうだ。

「これはパッチです。いまクイーンが味わっている、体感フィードバックをバージョンアップさせるためのね。修正内容は『痛み』を伝える電気信号の抑制。そして、その代替に『快楽』を設定すること」

 藍の中でなにかが、パチンと切り替わった。
 まるで照明の電源をオンからオフに切り替えたかのように、痛みが消え去った。
 代わりに灯ったのは快楽。
 膣が掻き乱される感覚も、スライムの成分で毒のような肌の痛みも、みな快感へと変換された。

「んぃひぃやぁぁぁっっ!?」

 まるで『快感』を目一杯張ったプールに体を丸ごと放り込まれたかのようだった。
 藍が人生で初めて経験したオーガズムは、初めてでは到底達せないほどの激しいものだった。
 達した体はビクンビクンと震え、弛緩する。

「フフフ、ついにイキましたか? クイーンはオナニーとかするんですかね? でもきっと、こっちのほうが何百倍も気持ちいいでしょ?」
「あひっ……あっ、んんぅ……んんっ!」

 触手たちはお構いなく絶頂直後の敏感な体を犯し続ける。
 強すぎる快感をハイエルフと藍の体は受け止めきれず、体はジタバタと暴れる。
 これでは痛みに震えていた時と何も変わらない。
 すると、仕方ないとばかりにルカは首を振ってデーモンに命じた。

「騎手札に攻撃。【黒魔術師のローブ】を破壊」

 ハイエルフのパワーは1700。対するデーモンは2700。
 赤子の手を捻るかのように、デーモンは触手台に拘束されたハイエルフからローブを引き千切った。
 その間も【蠱毒】は休むことも知らず蠢き続け、二人の乙女から嬌声を絞り上げる。

「そして相手の武装札を破壊した為、【吸血牙】の効果発動」

 アークデーモンはM字に大きく開いたハイエルフの足を、掴んだ。
 よだれを垂らし、元々持ち合わせていた気品や高潔さを失ったハイエルフの震える太ももに容赦なく(かぶ)り付いた。

「ひぃぃああアアアアンッ!!」

 柔肌を貫かれた衝撃に、再び藍は絶頂した。
 激しい痛みであればあるほど、それを抑える為の激しい快楽は麻薬のようだった。
 まるでセックス狂いの娼婦が濡れきった穴がふさがった時にあげるような、上ずった嬌声をあげてしまう。
 それはハイエルフも同じで、足をピンと伸ばし、膣から液体を漏らしながら大きく痙攣した。

「おや、またイッてしまいましたか。真剣勝負中にアクメるなんて、ふしだらな女王だ。フフフ」

 びくん、びくんと大きく藍とハイエルフは痛み(かいかん)の余韻に震えた。
 そして吸血が始まると、体の疼きが徐々に治まっていく。
 快楽が弱まったわけではない。
 すでに抵抗するほどの気概も削がれ、ただ快楽を享受するだけの肉体に堕落し始めたのだ。
 血を抜かれるといっても現実世界のことではないので、脱力感だけが二人を襲い、興奮は一切削がれることはなかった。
 弛緩しきった豊満な体。
 そのすべてをむしゃぶりつけることを悟った【蠱毒】は、新たな穴倉を見つけた。
 真っ白なビキニショーツの後ろへ潜り、その奥のまた奥。まだ塞がれていない後穴を目指した。
 触手の先が菊門に触れる。小さく真ん丸で、不浄の一切を感じさせない茶色い皺の集まりを見つけた。
 そこに触れた感触に、藍は嫌な予感を察した。

「あっ、あ? だ、だめ…………そこは、そういうものじゃ……入れちゃやだぁ」

 しかし、【蠱毒】は自身の欲に従った。
 力の入らぬ尻穴を、裂けてしまいそうなほど強引に広げて入り込んだ。

「ぃぁぁぁああっ!! おしり……そんな、そこは、あぁぁっ!!」

 現実なら血を出しかねない乱暴な挿入も、藍にあてがわれたパッチによって快感に変わる。
 電脳世界において、肛門など一切使われない不要な穴だ。
 しかし、いまは【蠱毒】の欲望を満たすため。そして、二人の純潔の乙女を狂わすためにグチャグチャに利用されていた。
 排泄物すら通したことのない穴に、奇抜な色のスライムが我が物顔でべちょべちょに自分のモノで塗り潰していく。
 巣に帰ろうと急ぐ小魚のように触手が大きく上下左右に揺れ動くほど、藍の中で未知の快楽がはじけていく。
 声高な快楽の叫びがだんだん鳴りを潜めると、熱く濡れた吐息だけが空間を埋めていく。

「さぁ、これであとがなくなりましたよ。【蠱毒】は身を守ってくれない。つまり、ハイエルフは実質武装札ゼロ。次のあなたのターンでなにか対策を立てないと、その次の僕のターンで決着が着いてしまいますよ?」

 その言葉に反応できるほど、すでに藍に余裕は残っていなかった。
 聞こえてはいるようだが、声とも吐息とも分からないものを漏らすだけだ。

「それじゃ、僕はターンエンドです。さ、クイーン。次の手をどうぞ」

 回されてきた順番。
 けれど、藍は立ってカードを引くことすらままならない。
 決められた持ち時間の中、ルカは実に楽しそうな笑みで地に這いずる女王を眺めた。
 藍のプレイを、楽しみにして。


■8■


 ルージュマイン(藍)
 手札5 武装1【蠱毒】 騎手ハイエルフ(2200P→1400P)

 ルカ
 手札3 武装3 騎手アークデーモン(2700P)


「――――はい、時間切れ」

 数分後、フィールドはルカの立ち位置以外全く変化していなかった。
 何度か立ち上がろうと、手を伸ばそうと藍は体を動かすものの、触手が少しでも強く動けばたちまち糸の切れた人形のように崩れ落ちたのだ。
 その光景をくすくすと笑いって楽しみながら、ルカはハイエルフの尻を撫でまわしていた。
 時折、強くパチンと叩くと、二人が全く同じタイミングで「ひうん」と鳴くのが気に入ったようだった。
 大きな桃のような尻を撫でながら、ルカは特に落胆したような態度は見せず話す。

「ドローすら出来ずに、何回も何回も絶頂だけを繰り返すなんて。どうします? このまま負けるぐらいなら、いっそ降参しますか?」

 二、三歩先に倒れる藍に語りかけるも応答はない。
 それでもルカはハイエルフの尻を餅をこねるかのようにひっぱったりして弄んで待っていると、小さくもはっきりした声が返ってきた。

「降参……は、しない……んっ、ぁ……わたしは、お前みたいな……下種野郎に負けない……ひぅ。まだ、ハイエルフのスキル……んむ、がある……」

 目は焦点があっておらず、汗や涎で電子空間の床がべちょべちょだ。
 そんな状態でもなお、藍の心は最後の一筋になっても折れなかった。
 その言葉を聞いて、ルカはにんまりと笑った。

「YES! その言葉が聞きたかった。じゃ、僕のターン行きますよぅ!」

 まるで校庭に遊びに急ぐ小学生かのように、ルカは自分の立ち位置へ舞い戻る。
 そして意気揚々とカードを引いた。

「はっ……んぅ、ハイエルフのぉ……スキル、は、発動……」

 触手に囚われたハイエルフの体に淡い光が帯び始める。
 その光が粒子になって周囲に降り注ぎ、効果を発動し終える。そして再びハイエルフは【蠱毒】の餌に成り下がった。
 ハイエルフの効果により、このターンのルカの攻撃する機会は失われた。
 おまけにこのターンの終わりには、【蠱毒】は破壊される。
 そうすれば、藍にも逆転の目は残されているのだ。

(負け……ない。負けな、い……誠也……負けないから……わたし、絶対に……)

 弟に、相棒に、そして自分の不敗のプライドに掛けて藍はまだ戦おうとしていた。
 例え肉体の穴という穴を犯され、数えきれないくらいにアクメを迎えさせられても。
 微かな可能性に希望を託す心だけはまだ折れてはいなかった。

 だが、ルカはあっさりと、そんな少女の願いを打ち砕いた。

「手札から、魔杖札【アーマーパージ】を発動。私の騎手札に装備された武装札をすべて破棄します。」

 デーモンに装備されていた【粘状鎧】、【吸血牙】、【死して常世を見る呪眼】が剥がれ落ちていく。
 自分を無防備にさせる魔杖の効果で、デーモンはせっかくの武装をすべて破壊されてしまった。
 しかし、紅い瞳だけは剥がれ落ちてもなお、デーモンの背後で輝き続けた。

「そして、【死して常世を見る呪眼】の効果。この札が廃棄されたとき、自分の廃棄した魔杖札一枚を発動することが出来る。僕が選ぶのは……フフフ、【リベンジャー・アタック】」
「ぁ……」

【リベンジャー・アタック】
 騎手札に武装札が装備されていない場合、デッキの上から五枚カードを引き、その中の武装札を装備して騎手とバトルするカード。
 ハイエルフが消失させられるのはユニットの純粋な攻撃のみ。
 魔杖札による攻撃は【呪砲・蠱毒】と同じで、対処することが出来ない。

「ぇ? ぁっ、いやぁ……うそ、うそぉ……」
「さて、五枚引いて……あぁ、一枚しか武装札がないや。最初から最後まで、僕には運が無いなぁ……まぁ、いっか。札が()()()の【柔き蹂躙鞭】なんだし」

 デーモンに再び蹂躙鞭が装備される。
 しかし今度は意匠が異なり、生えてきたのは手からではない。
 下腹部の更に下。股座の間から、特大サイズの鞭が一本生えたのだ。
 カリ首のようなでっぱりがあり、ご丁寧に縦に切れ目も入っていた。
 もはやそれは鞭ではなく、ただの性欲に膨らむ男根だ。

「じゃ、これでおしまい僕の勝ち。【漆黒のアークデーモン】による、決着攻撃(フィニッシュ)
「あっ……あ、来な……来ないで、お願い……」

「フフフフフフフ――――だめ」


■9■


 卑猥なる凶器を携えたアークデーモンは触手に浸かるハイエルフへ近づく。
【蠱毒】とは比較にならないほど太いそれに、ハイエルフも藍も震えることしか出来ない。
 近くまで寄ると、そのまま蹂躙鞭をハイエルフの白い二―ソックスだけを残した足へと巻き付け出した。

「さぁ、一緒に楽しみましょう。もうずっと、僕も体中勃起してたんですよ。あぁ……クイーンのハイエルフのスベスベぬるぬるした肌の感触が、鞭を通じて僕のモノに響いてきます」
「ふと、太い……そ、そんなの無理ぃ、やだ、やぁだ……」
「駄目ですよ。敗者は勝者の言う事を聞くものです」

 デーモンと同じく黒光りする鞭状の男根を、まずはハイエルフの桃尻へとあてがった。
 ハイエルフの尻はちょうど尻タブと尻タブの間に空間がある形だった。
 その隙間にすっぽりと性器を収め、前後にズリズリとシゴきはじめる。

「ほら、いまからこれをオマンコに突っ込むんですよ。どれぐらいの大きさか、ちゃんと確かめてくださいね」
「いあぁぁ……ご、ごめんなさい……許して、お願い」
「フフフ、なんで謝ってるんですか? 僕は怒っていません。楽しいんです。そして、クイーンにも楽しんでもらいたい」

 藍の臀部には、鞭どころかバットを押し付けられているかのような感覚があった。
 熱した鉄棒のように熱い男根が、ハイエルフの安産型の尻を性欲の炎で焼いていく。
 そのまま黒い触手は体を昇って行き、今度は胸の谷間へと入って行く。

「あぁ、気持ちいい。どうです、クイーン? 強制パイズリ感触ってどんな感じなんですか?」
「やだぁ、胸擦らないでぇ。でっぱりが、んっ、肌と摩擦するだけでぇ……気持っ、ち良くてぇぇ」

 鞭の手助けをするかのように、【蠱毒】の触手がハムのように溢れんばかりのおっぱいを簀巻きにして締め上げる。
 黒光りする男根が白い媚肉の雪崩に挟まれ、胸とは思えぬほどの圧迫感でモノを包み込んだ。
 マシュマロで作ったオナホがあればこんな感じだろうかと、ルカは身を震わせた。

「あー、たまりません。苦心した作ったハイエルフのグラで、あの不敗のクイーンの胸犯してる……んんっ、あの傲岸不遜な女王がいまやただの性処理道具とは」
「いぃあ、やだ、苦しい……息、出来な……」
「あぁそっか。痛みは感じなくても苦しいのが残ってましたね。心配いりません。電脳に窒息死はないし、それ以上の快楽をあげましょう」

【蠱毒】の蛸足にある吸盤が、小さな乳輪に囲まれた小粒なピンクに吸い付いた。
 するとまるで搾乳機のように、吸盤内で乳房の形が変わるほどの強さで吸い始めた。
 粘度の高いスライムが半身となっているせいか、バキュームするたびに下品にジュルジュルと音を立てる。
 蛸足は左右バラバラに緩急をつけ、そのせいでジュルジュジュルジュルと不規則な水音を鳴らす。
 赤子のしゃぶりとは全く違う、男の卑しい我欲に塗れた吸い方だった。

「ひゃうっ! ひぁ、はぁん……あぁ、ひぃあぁ」
「フフフ、甘い甘い。チョコレートよりもあまぁい声を出しますねえ。それじゃ、クイーンに特別サービス」

 鞭が大きくうねり、ハイエルフの口を塞いだ。
 噛む力もなく、だらしなく開け切った口でも鞭を咥えるには精一杯だった。
 苦しくて口をもごもごと動かすハイエルフだが、歯は全く動かせそうになかった。

「ほら、もっと吸って。それぐらい出来るでしょう?」
「うごっ、んぅず、じゅむ……ずずぅ」
「ん、射精る。まずは、一発イきますよ……あっ、あぁっ」
「じゅむぅ……じゅる、じゅるうっ!?」

 言われるがまま、必死に吸い続けるエルフの口の中で男根がビクビク痙攣するのが判る。
 鞭は自らも前後に動くと、カリ首が唇と擦れ合い、それがルカに快感を与えた。
 唾液に塗れながら男根の動きが、徐々に速まっていく。

 そして、ついに堪えきれず白い液体を切れ目から噴出した。

 またもハイエルフの口から粘っこいものが溢れて、口内を余すことなく穢していく。
 射精は長く長く続き、五秒たっても十秒たっても白濁液を出し続けた。
 堪えきれず藍は()()()口から、粘液を吐き出した。

「はぁっ、はぁっ…………えっ?」

 次に目を前に向けると、そこにはスカルフェイスの黒光りした魔人がいた。
 自分の手足は【蠱毒】によって拘束され、目と鼻の先にはカリと射精官を備えた鞭がこちらを向いている。
 これは今まで遠くから眺めていたハイエルフの視点、そのものだった。
 いままで感覚だけだったものに視覚情報が付き、藍の中の恐怖が倍増する。
 自分の座っていた場所が蟲の死骸の山だったことに気付かされたような、不快を超えた恐怖が胸を巣食った。

「さぁ、僕の欲望があなたの花弁を犯すさま。特等席でご覧あれ」
「気持ち悪い、怖い……どうして。どうしてこんなことするの……お願い、なんでもするから……お金でもなんでもあげるから……だから、許して……お願い……」

 ハイエルフとなった藍は、その長い耳を揺らしていやいやと首を振った。

「いやぁ、それは聞けませんねぇ。だって、クイーンとこういうことがしたいから、僕はここにいるんですから」
「そんなぁ……助けて、パパ……ママ……」
「じゃあ、いきますよぅ」

 愉快に首を振った鞭は、そのまま先端を下半身に向けた。
 ずっと内側で蠢いていた【蠱毒】が遂にショーツを引き裂いて、膣内から這い出てきた。
 晒されたエルフマンコは、人々の理想を体現するかのように薄桜色でありながらふにふにと柔らかく肉厚だった。
 複数の蛸足よりもなお太い鞭が、具合を確かめるように亀裂の上で竿を滑らせた。
 陰唇がつぶれ、膣内から出てきたスライムではない透明な粘液が男根を濡らす。

「フフフ。ぐちょぐちょで、ヒクヒクして、すごく熱い。現実世界のクイーンのマンコもこうなってるんですか?」
「許して……許して……許して」
「ほら、いきます……よっと!」
「ひぎぃぃぃッ!?」

 充分に触手でほぐされた蜜壺に、黒いモノが大きく咥えられた。
 気絶しかねない痛み(かいらく)ハイエルフ(あい)の脳内を、真っ白にする。
 ゴリゴリ膣壁を掘り進め、カリ首がヒダの凹凸と擦過するたび、ルカは息を荒げる。
 そしてついに子宮口にたどり着くと、それでもなお腹を内側から引っ掻くように男根はのたうった。
 まるで子宮内に押し入ろうとでもするように、膣内を押し上げる。
 ゴッゴッと腹を食い破られるんじゃないかという振動が、ハイエルフ(あい)を揺らす。
 普通の男性器では出来ない、膣一杯に擦りつけて快楽を得る動き。
 そして一旦引き返しては奥へ突き進むのを繰り返し、ハイエルフの、藍のもっとも嬌声があがる場所を探る。

「……ぃぁっ!? そこ、やぁぁ!」

 子宮口より少し手前、膣奥の天蓋。
 そこを重点的に(なぶ)りながら、蹂躙男根はピストンを始める。

「あぁっ、はっ……気持ちいい。あぁ、最高。最高です。んんっ、どうですクイーン? これこそ、最高のエンターテイメント……っ、快楽を伴う《アームズ・フォース》。この楽しいゲームを、僕は教えたかった……んあぁ」
「いやぁっ、いやぁぁあっ! 気持ちいいの、もうやだぁ。んぁっ、いきっ、イキたくないぃ……助けてよぉ、誠也っ、誠也! せいやぁ……もういやぁ……助けてぇ」
「弟に助けをこうなんて……んふぅ、駄目なお姉ちゃんだ……ぅく、んぁ……大丈夫、痛くはないし、気持ちいいだけでしょう?」

 鞭に負けじと、【蠱毒】たちも乳首や肛門への愛撫を活性化させる。
 体中のありとあらゆる突起に吸盤が貼りついて、チュウチュウと吸い始める。

「ほら、気持ちいいんでしょう? イキっぱなしなんでしょう? どうなんです」
「気持ちよ……過ぎて、それ以外ぃぃ! んぎぃ、もうなにも、ぃあウッ、分かんないぃ……」

 ビクビク長耳を震わせながら、ハイエルフ(あい)は首を振った。
 ぼさぼさに解かれた金髪の間から蛸足が伸びて耳を捕まえると、長耳も吸盤のキスを浴びせられた。
 大きな胸は男根が巻き付いてふにふにと弾力を弄ばれ、尻の中ではうねうねと蛸足が乱れ踊る。
 まさに捕食されているかのように、快楽という溶解液でハイエルフ(あい)が溶かされ、飲み込まれていく。

「くぅっ、クイーンの中、疲れ切った体なのに頑張ってきゅうきゅう締め付けて……クイーンももっとして欲しいんでしょう?」
「そんなっ、こと、ない……ああァァンっ! もう、や、やなのぉ……」
「僕もそろそろ、射精そうです……んっ、最後に、中出ししてあげますっ、それで終わり。いいでしょう?」
「おわ、終わらせて、いぃああん……なんでもいいからぁ、早くぅ」
「じゃあ、もっとおねだりしてください。じゃないと……んんぉ、興奮しません」
「んぁっ、ちょーだいぃ……ひぃあっ、中出し、して……わたしのっ、中にぃ」
「もっと淫靡に……下品にっ、んぐ、だれのモノで、ナニをしてほしいんですか?」
「あなたのぉ、蹂躙チンポの精液を……わ、私の、オマンコに入れてくださいぃィッ!!」

 その言葉にデーモンがハイエルフに覆い被さった。
 大きく開いた足の間に入り、正常位の体勢でハイエルフの華奢な肩を抱き寄せた。
 鞭が自在に動くため、腰を動かす必要はない。ただルカがハイエルフ(あい)の柔らかさを全身に感じたいがための自己満足的な動きだ。
 けれどハイエルフ(あい)はデーモンの背に手を伸ばし、足を腰に絡ませた。
【蠱毒】とデーモンの巨体に潰され、自分の体を見失うような感覚を怖がったのだ。
 だから赤ん坊が親にしがみつくように、溺れないよう藁にすがるように、弱々しい力で必死に手足に力をいれた。
 鞭は膣上を下から突き上げるかのように、弱い所を何度も何度も当て擦り、それをエルフ(あい)は腰をデーモンの腰に押し付けて受け入れる。

「イグッ、イッちゃ! もう頭が、なにもっ、あァッ! あァぁあッ!」
射精()しますよっ、たっぷりと、味わいなさい……んんんッ!」

 ガクガクガクと鞭の動きが速くなる。
 体の芯が痺れるような感覚から、奥底にあるものを解放する。

 不意に、エルフ(あい)の膣がきゅうと男根を締め上げた。

 いままでもの中で一際長く大きな水音が、膣の中で溢れかえった。
 注がれる白濁の半固体の濁流を、ハイエルフは膣一杯に感じ取っていた。
 錯覚する幸福感。
 ようやく終わりを迎えた性行為に、どこか満たされる感覚を覚えたのは腹の中の熱いもののせいだと藍は思った。
 ゲーム終了のシステムボイスが鳴り響く。
 けれど、ユニットたちは消えることなく、ハイエルフも【蠱毒】もデーモンも取り残されたままだ。

「あ、あれ……もう終わり、でしょ……?」
「はい、あれで決着攻撃(フィニッシュ)は終わりです。ここからは罰ゲームです。勝者に褒美は必要でしょう?」

 再び触手たちは動き出す。
 ただただハイエルフの体を(ねぶ)るために。

「そ、そんな……嘘つき、卑怯者ぉ……」
「フフフ。それだけクイーンが魅力的なんです」

 ゲームは終わった。
 でも凌辱の時間はまだ続く。


■10■


 現実世界に戻ったら、夜が明けていた。
 体中は汗とカウパーと尿まみれで、ベッドが大変なことになっていた。
 体は敏感のままで、乳首も立ちっぱなしだ。
 一晩中続いた悪夢から、いまだ藍は抜け出せないようにフラフラと立ち上がった。

『それじゃ、今日はここまでです』
『弟さんが目覚める日を僕も祈ってますよ。あの子の傍でね』

 今日は、という言葉を察するにルカは今後も自分を呼びつけるだろう。
 そして誠也の命はまだ握られたままで、このことは秘密にし続けなければいけない。
 誰にも吐露できない痛みをこの先ずっと抱えて。
 諦観するような考えの中、浴室へと向かった。

(シャワー浴びて、学校に行かなきゃ……放課後には誠也のお見舞いに行って、それから……)

 不意に膝の力が抜けて、リビングで倒れ込んだ。
 棚にぶつかって、置いてあった物が藍の目の前で散乱する。
 その中にあった写真立てが……その中にいる誠也が笑顔でこちらを見つめていた。
 藍は写真に腕を伸ばすも、写真までは遠い。
 手が届きそうで、届かない距離。

「誠也……私は負けないから……誠也が目覚めてくれるその日まで、がんばって待って……る、から……」

 藍の小さな肩が震える。
 すでに脱水症状寸前なのに、その瞳からは暖かいものが流れ出す。
 いままで不敗の女王の重圧にも、ひとりぼっちの寂しさにも()えてきた。

 けど今度の重荷は、少し堪えられそうになかった。




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