(永作)問題です。
あなたは太陽系で8番目の惑星って何だか知ってますか?
(真下)え〜?水金地火木土天海…。
だから海王星…じゃないの?って今指を折って数えたでしょう。
残念〜違います。
この8番目の惑星が見つかったのは今から200年以上も前の事。
でもその正体は謎に包まれたまま。
いつしかそんな惑星があった事すら人々の記憶から消えていきました。
それから2世紀2015年3月ついにこの幻の惑星に史上初の探査機が到達しました。
何しろ200年ですよ。
ずっと私たちを手招きしてくれていた神秘の天体に地球の親善大使がついにたどりついたんです。
なぜこんな天体があるんでしょう。
私たちはまだ何も知らないんです。
人類が初めて目にしたその至近距離からの映像です。
このいわば幻の惑星は地球や太陽系がどのように形づくられたか謎を解く鍵を握っているといいます。
かつて天動説が地動説に変わったように今また私たちの宇宙観を覆すような新たなシナリオが生み出されているんです。
さあ驚きに満ちた太陽系ミステリーの始まりです。
2世紀前に見つかったという太陽系で8番目の惑星。
それは本当に惑星だったのか。
それともただの幻だったのか。
まずはその正体に迫っていこう。
ミステリーの最初の舞台は地中海最大の島シチリア島です。
幻の惑星はかつてこの島で発見されたといいます。
シチリアは中世アラブやノルマン王朝の支配も受ける中で独特の文化を育んできました。
それを象徴する建築がこのノルマン宮殿です。
アラブの建築様式の影響も受ける一方で壮麗なキリスト教の礼拝堂も設けられています。
この宮殿の上に不思議なものが見えます。
天体観測用のドームです。
18世紀の末ここに天文台が設けられたのです。
天文台を創設したのはイタリアの神学者で科学者でもあったジュゼッペ・ピアッツィです。
これはピアッツィが観測に使った望遠鏡。
10等星まで捉えられる高性能のものでした。
この望遠鏡で7,000以上の星を観測しました。
ピアッツィはこの望遠鏡を使って空全体の星を網羅した一覧表を作ろうとしていました。
パレルモ天文台は当時ヨーロッパで最南端の天文台でしたからほかの場所では見られない南天の星まで観測できたのです。
観測を続ける中でピアッツィは1801年思いがけない発見をします。
おうし座の方角に一つだけほかの星とは異なる動きをする天体を見つけたのです。
これは惑星や彗星など太陽系内にある天体の特徴でした。
この時の様子をピアッツィは著書に書き記しています。
「1月3日私は疑問を持っていたその天体が恒星とは異なる事を確信した」。
当時知られていた惑星は水金地火木土に加え1781年にイギリスのハーシェルが発見したばかりの天王星まで7つでした。
その知らせに世間は沸き返りました。
新惑星にはほかの惑星と同様ローマ神話の神様の名前が付けられました。
すなわち大地の豊穣の女神です。
農業が盛んなシチリアでは島の守り神のような存在でもありました。
ケレスの発見が特に注目を集めたのには訳がありました。
当時惑星が存在する場所には規則性があるとして提唱されていたティティウス・ボーデの法則に一致したためです。
それは太陽から地球までの距離を1とすると各惑星までの距離は0.4プラス0.3掛ける2のn乗になるという理論です。
この式に当てはめると水星は太陽からの距離が0.4金星は0.7となり実際の距離とほぼ一致します。
当時見つかったばかりの天王星までがこの法則に合っていたため広く信じられていました。
ただしこの法則には一つだけ不完全なところがありました。
火星と木星の間の距離2.8の場所には惑星がなかったのです。
もしここに未知の惑星が存在すれば法則は完璧なものになります。
そしてケレスが見つかったのはまさにその場所だったのです。
人々は惑星が神秘的な法則に従って存在している事を確信しました。
聖職者でもあるピアッツィが発見したケレスはいわば天上世界の美しい秩序の象徴となったのです。
ところが翌1802年ケレスと同じく火星と木星の間に別の惑星が見つかりパラスと名付けられます。
その後も火星と木星の間にジュノーやベスタなど次々と惑星が見つかり科学者たちを戸惑わせました。
しかもこれらは従来の惑星よりずっと小さいと分かりました。
そのためアステロイド小惑星と名付けられ惑星とは区別されるようになったのです。
こうしてケレスも惑星としての地位を失います。
後にケレスは惑星と小惑星の間に設けられる準惑星というカテゴリーに冥王星などと共に分類されますがそれは21世紀になってからの事でした。
小さくて暗い事からケレスを詳しく観測するのは難しくその後2世紀にわたり謎の天体のままだったのです。
幻の惑星ケレスの正体は一体どのようなものなのでしょう。
そしてなぜ火星と木星の間に無数の小惑星が集まっているのでしょう。
それは太陽系の成り立ちにも関わる大きな謎でした。
321…。
かつては夢でしかなかった小惑星帯の探査がついに現実のものとなりました。
2007年NASAが探査機を打ち上げたのです。
探査機の名はDAWN。
「夜明け」を意味します。
太陽系の夜明けすなわち始まりのミステリーを解き明かす事こそDAWNの最終目標なのです。
DAWNは日本の小惑星探査機はやぶさと同じくイオンエンジンで推進します。
太陽電池パネルを広げると20メートルもあります。
はやぶさのように地球にサンプルを持ち帰る事はせずその場で観測を行って地球にデータを送ります。
中でも注目されるのがこの…天体の表面から出るごく僅かな放射線を捉える事でどんな物質が存在するか突き止められます。
幻の惑星は果たしてどんな物質で出来ているのでしょうか。
2011年DAWNはまず小惑星帯の入り口付近に位置するベスタに到着しました。
ベスタも2世紀前に見つかった幻の惑星の一つです。
内部には金属の核などがあり惑星に似た存在だと分かってきました。
ベスタの観測を終えたDAWNは最終目的地である準惑星ケレスに向かいました。
ところが2014年9月11日深刻なトラブルが発生します。
想定を超える宇宙放射線が降り注ぎエンジンが故障してしまったのです。
復旧まで5日間エンジンは停止。
大幅に軌道がずれてしまいました。
このままではケレスにたどりつく事は絶望的です。
NASAジェット推進研究所では検討が重ねられました。
そして軌道計算を担当するグレゴリー・ウィッフェンさんたちが画期的な方法を編み出したのです。
本来DAWNはケレスの南側から螺旋を描いて周回軌道に入る計画でしたが今やこの軌道に乗る事は不可能です。
そこで逆に北側から接近しケレスの重力に頼ろうと考えました。
この方法ではDAWNは一旦ケレスを通り過ぎてしまいますがその後重力によって引き戻されるはずです。
そして複雑なカーブを描いてケレスの周回軌道に入れると考えたのです。
しかしそのためにはエンジン噴射のタイミングや強さなど極めて高度な計算が必要でした。
果たして前代未聞の軌道変更は成功するのか。
息をのんで見守る関係者のもとについにDAWNからの信号が届きました。
3月6日ケレスが伸ばした重力の腕に見事受け止められたのです。
幻の惑星発見から2世紀。
史上初めて準惑星に探査機が到達した瞬間でした。
こいつは特別です。
こんなリカバリーは誰もやった事がないでしょう。
最初に計画していたのは本当に美しい軌道でしたが我々はまさに3次元的な軌道修正をやり遂げたんです。
本当にうれしくてたまりません。
ケレスにたどりついたんですよ。
最初のデータが届いた時には興奮しました。
世界中の科学者が待ち望んでいたケレスの映像がついに届きました。
直径は950キロと地球の10分の1以下。
質量は地球の6000分の1にすぎませんが実は小惑星帯の全質量の3割をたった一つで占めています。
ケレスの一日つまり自転周期は9時間です。
そして4.6年かけて太陽の周りを公転しています。
DAWNから次々送られてくるデータを基に今科学者たちはケレスの謎に挑んでいます。
ジョージア工科大学のブリトニー・シュミットさんもその一人。
これまで南極の氷の調査などを通して水や氷を持つ惑星や衛星の成り立ちを研究してきました。
こうした専門を選ぶきっかけになったのが大学院生の頃に見たDAWNの打ち上げでした。
それから8年ブリトニーさんはケレス内部の構造を解き明かそうとしています。
なぜならケレスは地球などの惑星のいわば卵のような天体だと考えられるからです。
惑星はかつてこうした小さな天体が衝突・合体して出来たためケレスの構造は惑星がどう形成されたかを探る手がかりになります。
今注目しているのはケレスの地形です。
私たちが気付いたのはケレスのクレーターが極めて浅く平らだという事です。
ほかの天体とは何か違う事が起きているのです。
理由は地下の構造にあると思います。
ケレスの表面は粘土で覆われていますが内部には大量の氷があるのでしょう。
小惑星ベスタと比べるとケレスのクレーターはくぼみが浅いのが分かります。
これはケレスの構造を考える手がかりになるといいます。
これまでの観測データからケレス内部の構造を推理しました。
中心には岩石や金属を含んだ核があると見られます。
しかしその周りを取り巻くのはマグマではなく氷のマントルです。
これが断面図。
表面はごく薄い粘土質の地殻に覆われ内部には液体の水が存在する可能性もあります。
このケレスに隕石が衝突しクレーターが出来たとします。
すると地下にある氷が解けてくぼみを埋めてしまうためクレーターが浅くなったと考えられるのです。
こうしてケレスの分析が進む中で今科学者たちを悩ませているものがあります。
DAWNが見つけた謎の発光現象です。
表面に極めて明るい光のようなものが見られます。
ちまたでは隕石の衝突かそれとも火山かあるいは何かの爆発だ更には宇宙人の仕業だといううわささえ飛び交いました。
ブリトニーさんはこう推理しています。
明るい部分はどれもクレーターの中で見つかっていますから衝突によって地下の氷などが噴き出した場所が明るく輝いているのかもしれません。
こんな天体は初めてですからケレスは惑星がどのように形成されてきたのかその常識を変えつつあるのです。
DAWNは今も高度を下げながらケレスの新たな映像やデータを集めています。
人類がついに目の当たりにした幻の惑星ケレス。
それはこれまで見た事のない不思議に満ちた天体でした。
紹介してくれるのは…探査機DAWNの分析装置の開発リーダーです。
これはDAWNが撮影した…そのクレーターの中には太陽から遠い天体に特有の地形があって注目されています。
これがそのお薦めの絶景です。
不思議な穴がたくさん開いたこの地形。
なんとおうちで作っちゃいます。
題して…これから紹介するのはおうちでベスタの穴ぼこ地形を再現できるすご〜くお手軽な実験だ。
用意するのはまず2キロの小麦粉を2袋。
それをこうしたプラスチックケースに詰めておこう。
これが小惑星ベスタの表面だ。
今からここに隕石が衝突するぞ。
もう一つ用意するのはドライアイスだ。
こちらは400グラム使うよ。
ドライアイスは小麦粉惑星の中に含まれている蒸発しやすい成分を表しているんだ。
いいかい?じゃあ実験開始だ。
ユキがやるようにドライアイスを細かく細かく粉々にハンマーで砕くんだ。
実験がうまくいくためにはこれが一番大事だ。
粉々にするんだよ。
準備はいいかな?じゃあいよいよドライアイスを混ぜるよ。
隕石が今衝突したぞ!想像してごらん。
ベスタの表面に衝突で発生した揮発性物質が噴き出してきた。
ほら穴ぼこ地形が出来てきたぞ。
間欠泉みたいに噴き上げているね。
もう一度スローモーションで見てみましょう。
ガスが噴き出す事でたくさんの穴が開いてきますね。
確かにそっくり!ベスタでは隕石の衝突で地中の物質が蒸発して地面の下から穴が出来ていたんですね。
「宇宙絶景」完成です!ドライアイスを触る時は手袋をしておうちの人と一緒に気を付けて実験してね。
2世紀にわたって日の当たらない存在だった小惑星。
それが今太陽系ミステリーの主役に躍り出ようとしている。
次はその謎に迫るとしよう。
荒涼とした岩肌に太陽系の歴史をひもとく手がかりを求める科学者がいます。
宇宙物理学者のレベッカ・マーティンさんです。
小惑星は一見こうした岩の塊にしか見えませんが実はそこに太陽系がどのように形成されたかの謎を解く鍵が隠されています。
私たちはその謎に挑んでいるんです。
レベッカさんが最初に抱いた疑問はそもそもなぜ小惑星帯は火星と木星の間にあるのかという事でした。
これは450光年離れたおうし座のHL星の周辺で捉えられた貴重な映像です。
ちりとガスの円盤の中でまさに今惑星が形成されている段階だと考えられています。
暗い筋の部分には大きな惑星が存在する可能性があります。
惑星はこうした円盤の中の物質が重力で集まり合体を繰り返して出来ていくと考えられています。
この時大きくなれずに残されたのが小惑星帯です。
ではほかの恒星では小惑星帯はどこに形成されるのでしょう。
その答えを探るために使ったのはスピッツァ−宇宙望遠鏡です。
スピッツァーは赤外線を使って遠く離れた恒星の周りの温度を調べる事ができます。
レベッカさんは90個の恒星の観測データから一つのキーワードを見いだしました。
それは「スノーライン」です。
宇宙空間では水は基本的に水蒸気か氷の状態で存在します。
スノーラインとはその境界線です。
太陽のような恒星に近い場所では水は蒸発して水蒸気になります。
恒星から遠くなるほど温度は下がりある距離を越えると水は氷として存在します。
この水蒸気が氷に変わる境界線がスノーラインなのです。
私たちの太陽系ではスノーラインは火星と木星の間。
ちょうど小惑星帯の辺りにあります。
そしてこれがほかの恒星を調べたデータです。
三角のマークは小惑星帯があると見られる場所です。
ほとんどの星でスノーラインの付近にありました。
帯状の部分がスノーラインで観測結果は全てこの周りに集まっています。
これはもしもある星の周りに小惑星帯が出来るなら出来やすいのはスノーラインの辺りだという事を意味します。
なぜ小惑星帯はスノーラインの付近に出来るのでしょう。
理由は物質の量にあるといいます。
ちりとガスの円盤の中から惑星が生まれる時材料になる物質は一般に恒星の近くほど高い密度で存在します。
中でも固体の物質が惑星をつくる核になります。
その物質の密度が恒星からの距離によってどう変わるかを表したグラフです。
注目は恒星から遠ざかるにつれて下がった線が途中で一度上がっている事です。
スノーラインの内側では水は蒸発してしまうため固体の物質は主に岩石だけで少ない量に限られます。
ところがスノーラインを越えると水が氷として存在できるため固体の物質が多くなるのです。
そのため惑星はより大きく成長できるといいます。
ですからスノーラインの内側には岩石中心の地球型惑星が出来外側の冷たい領域には巨大惑星が形成されます。
そしてスノーライン付近は最も物質が乏しいため小惑星帯になったのです。
小惑星帯の出来る場所には確かな理由があったのです。
実は小惑星を調べる事で分かるのは小惑星自体の事だけにとどまりません。
2014年1月科学雑誌「Nature」に発表された研究が注目を集めました。
小惑星の分布から太陽系がどのように進化してきたかが分かるというのです。
発表したのは現在マサチューセッツ工科大学で惑星科学を研究しているフランチェスカ・デメオさんです。
小惑星のかけらこそ太陽系の成り立ちの鍵を握っています。
というのは地球のような惑星は内部が熱く溶けてしまっていますし表面でもさまざまな活動が起きていますから大昔の情報は大部分が失われています。
これに対して小惑星には太陽系の始まりの頃の情報が残っているんです。
フランチェスカさんたちは10万個もの小惑星の観測データを調べどんなタイプの小惑星がどこにどれだけあるか詳しく分析しました。
これまでの観測で小惑星にはいくつかのタイプがある事が分かっています。
まず小惑星イトカワはS型。
これはストーンつまり岩石の塊のような小惑星で太陽に近い高温の場所で形成されたと考えられています。
続いてC型。
これはカーボンすなわち炭素が豊富な小惑星でS型よりは太陽から遠い低温の場所で出来たと考えられます。
ほかにも更に遠い低温の場所で出来氷を含むと見られるP型やD型金属が主体のM型などさまざまなタイプがあります。
フランチェスカさんは実際の小惑星の分布を太陽からの距離別に詳しく分析しました。
左側は太陽に近い暖かい場所。
右側は遠い冷たい場所です。
奇妙な事に太陽に近い左側にもD型やP型があります。
逆に太陽から遠い右側にもS型の小惑星が混ざっています。
本来なら左側にはS型だけが右側にはD型やP型がまとまって存在するはずなのに現実は理屈に合わなかったのです。
もともとは太陽に近い側からS型C型そしてP型やD型と順番に分かれて分布していたはずです。
整然と分布していたはずの小惑星を混ぜ合わせた事件とは何か。
解き明かそうとしている人がいます。
ケビン・ウォルシュさん。
天体シミュレーションの分野に激しい議論を巻き起こしている新進気鋭の研究者です。
2011年太陽系の創世記にあった出来事を見事に説明できるシミュレーショングランドタックモデルを発表して世界を驚かせました。
研究のきっかけは以前から天文学者を悩ませていた太陽系の謎にありました。
太陽系のミステリーその1つ目は「小さな火星問題」と呼ばれるものです。
金星地球火星は従来のモデルでは同じぐらいの大きさになるはずですが現実には火星は地球よりずっと小さいですよね。
その理由が分かりませんでした。
そしてもう一つのミステリーが異なるタイプの小惑星が混ざり合っているという謎でした。
これらを結び付けて太陽系の進化を解き明かそうと思ったんです。
一見別の問題に見える火星と小惑星帯の謎。
それを一気に解決したアイデアとは「かつて巨大な惑星が折り返すように大移動した」という奇想天外なものでした。
46億年前ガスとちりの円盤の中で今よりも小さな木星が誕生しました。
木星はまだ周囲に残っていたガスによって摩擦を受け公転運動にブレーキがかかります。
減速した木星は太陽に向かってゆっくり落下。
周囲の物質を吸い込みながら大きくなります。
やがて木星は現在の火星の軌道付近にまで接近しました。
木星が火星の周りの物質を吸い込んでしまったため火星は地球ほど大きくなる事ができなかったのです。
その後木星に続いて若い土星も太陽に接近してきました。
そしてある時木星が太陽を3周する間に土星がちょうど2周する公転周期3:2の比になったのです。
定期的に接近するようになった巨大惑星同士は激しい共鳴現象を起こしました。
互いの重力で振り回された結果木星と土星は今度は共に遠ざかり始めました。
木星が遠ざかる時通り道にある小惑星は強い力でかき混ぜられます。
多くは太陽系の外側に飛び散り一部は地球にも降り注ぎました。
この結果異なるタイプの小惑星が混ざり合った分布になった。
これこそケビンさんのシミュレーションが導き出した答えです。
そう。
小惑星帯をかき混ぜ火星が地球より小さくなる原因をつくった太陽系ミステリーの真犯人は木星だったのです。
僕たちが目指しているのは太陽系がどのようにして出来上がったのかを完全に解き明かす事です。
さまざまな小惑星が入り交じった小惑星帯こそが答えに至る道筋を示してくれるんです。
太陽系創世記の謎を解く事はこれまで極めて困難だと思われてきました。
しかし小惑星帯に残された手がかりから46億年前の物語がひもとかれつつあるのです。
今回の「宇宙の街紀行」。
やって来たのはピアッツィがケレスを発見する舞台になった…この街は古代ギリシャやローマの時代から地中海を結ぶ交易で繁栄してきたんだ。
パレルモ天文台では現在は観測は行っていないけれど博物館として貴重な資料や観測の道具を保存しているよ。
ピアッツィが望んでいた天文台の建設を認めてくれたのは当時の王様フェルディナンド。
博物館の資料からピアッツィが支援してくれた王様に感謝していた様子が分かるよ。
ピアッツィは著書の中で新惑星にシチリアの守り神ケレスとフェルディナンド王の名を合わせてケレス・フェルディナンデアと名付けたいと提案したんです。
時代の先端を行く天文台を建設させたこの王様だけどもう一つ新しい事を始めた人だって知ってる?実はそれまで庶民の食べ物だったスパゲッティを宮廷料理に取り入れた人なんだ。
でもね当時のスパゲッティは手づかみで食べるものだったんだ。
それをお行儀が悪いって反対されたから今みたいにフォークで食べるようになったんだって。
知らなかったなあ〜。
ケレスとスパゲッティ意外な関係があったんだね。
「宇宙の街紀行」でした。
続いてまたびっくりするような小惑星のミステリーだよ。
46億年の歴史の中で小惑星は時に地球の姿さえ変えてきたという。
次は地球に飛来する小惑星の謎に挑むとしよう。
ドイツ南部のネルトリンゲン。
ロマンチック街道に位置し中世の趣を残す美しい街です。
実はこのネルトリンゲンは巨大な隕石がつくったクレーターの中にあります。
クレーターの直径は25キロにも達します。
遥か遠くに見えるあの山並みがクレーターの縁にあたります。
今から1,500万年前直径1キロの小惑星が隕石として落下したと考えられています。
その証拠となったのが街周辺で豊富に産出するスエバイトと呼ばれる石材です。
街の中心にそびえる教会の壁や柱にも使われています。
石材には黒い部分が見られます。
これは隕石衝突のエネルギーで鉱物が溶けてガラス質に変化したものです。
分析すると中にはミクロサイズのダイヤモンドが多数含まれているのも見つかりました。
猛スピードの衝突エネルギーがセ氏3万度1,000万気圧というとてつもない温度と圧力になってこうした鉱物をつくりました。
火山など天体衝突以外の現象では決して出来ないものです。
この地域には更に不思議な事があります。
ネルトリンゲンから40キロ西のシュタインハイムにはもう一つ別のクレーターがあるのです。
クレーター盆地の直径は3キロ。
そこから推定される隕石のサイズは100メートルほどとネルトリンゲンに落ちたものよりは小型です。
奇妙な事にクレーターが出来た年代を調べたところこちらもネルトリンゲンと同じ1,500万年前のものだと分かってきました。
非常に近くにある上年代も同じですから私たちは2つの小惑星が一緒に飛んできたのだと考えています。
巨大な隕石が2つも同じ頃同じ地域に落ちる。
そんな偶然があるのでしょうか。
マサチューセッツ州にある…ここではこれまでに世界中で観測された70万個以上の小惑星全てのデータを管理しています。
意外にも最近2つの小惑星がペアになったいわば二重小惑星が多い事が分かってきました。
地球に接近するような軌道を持つ小惑星では実に6分の1が二重小惑星です。
小惑星帯の中ではそれほど多くはありません。
理由は分かりません。
二重小惑星が地球に近い場所で特に多く見つかっているのはなぜなのでしょう。
グランドタックモデルを生み出したケビンさんがこのミステリーにも挑んでいます。
目をつけたのはいびつな形の小惑星に起きるとされるある特殊な現象でした。
いびつな形といえばあのイトカワもそうです。
小惑星の多くはいびつな形をしています。
これはもともと天体衝突で出来たかけら同士が弱い重力でくっついているためです。
こうした形だと太陽からの光の当たり方が均等でないため光の圧力で徐々に回転が加速していきます。
ヨープ効果と呼ばれる現象です。
その効果は小惑星の位置によって異なります。
小惑星が火星と木星の間にあるなら太陽の光が弱いためあまり影響を受けません。
ところが小惑星が地球軌道まで接近すると太陽により近づくためヨープ効果が強まり回転がだんだん速くなります。
やがて一部の物質が飛び出し二重小惑星が出来るという計算結果が出たのです。
つまり二重小惑星は地球に近づくと増えるのではなく太陽に近づいた結果生まれるというのです。
常識にとらわれない発想でケビンさんは太陽系の謎に挑んでいます。
ヨープ効果はごく小さな力ですが何百万年もかけて小惑星の回転を加速させていくんです。
惑星小惑星更にそれらが持つ衛星もあります。
私たちの太陽系には本当に面白い謎が尽きませんよ。
これまで地球に数多くの隕石として落下してきた小惑星。
今それが地球をこれほど豊かな惑星に変えたのだといわれています。
青く美しい水の惑星地球。
しかし実は地球にこれほどの水があるのは奇妙な事なのです。
地球は誕生した頃は非常に高温だったためもともと水があったとしても蒸発・分解して宇宙空間に逃げてしまった可能性があります。
つまり現在地球の海や私たちの体を満たしている水の少なくとも一部は後から持ち込まれたものだと考えられています。
これが最後のミステリー。
地球に外から水をもたらしたとすればそれは何か。
2つの候補が考えられてきました。
それは彗星と小惑星です。
彗星がたくさんの水分を含んでいるのは明らかです。
そして最近小惑星についても分かってきたんです。
実は小惑星と彗星はよく似た仲間です。
46億年前太陽系では小さな天体が衝突・合体を繰り返し惑星へと成長していきました。
しかしこの時小さなまま残された天体もたくさんありました。
太陽に近い場所に残った小天体は揮発成分の多くが蒸発したため岩石が主成分になります。
これが現在の小惑星です。
これに対し太陽から遠く温度が低い場所に取り残された小天体には氷などの揮発成分が蒸発する事なく残されました。
こちらが彗星になったと考えられています。
2014年史上初めて彗星への着陸に成功したヨーロッパ宇宙機関のロゼッタ。
大きな目的が地球の水の起源を確かめる事でした。
ロゼッタは彗星の氷の成分を詳しく分析しました。
水や氷の中にはごく僅かに重水素と呼ばれる特別な成分が含まれています。
その割合を調べる事で水の素性を知る事ができるのです。
もし彗星と地球の重水素の割合が一致すれば地球の水は彗星からもたらされた可能性が高くなります。
ところが分析の結果彗星と地球の重水素の割合は大きく異なっていたと発表されました。
地球の水の起源は彗星ではなく小惑星からの可能性が高まったと考えられています。
ロゼッタとDAWNはどちらも小さな天体の持つ水を調べる事で地球の水の起源に迫ろうとしています。
彗星と小惑星2つの異なる場所の探査によってきっとこの太陽系そして惑星の成り立ちというパズルを完成させるピースを見つける事ができるでしょう。
地球の水の起源はDAWNからも裏付けられようとしています。
そこで活躍するのがガンマ線・中性子検出器です。
この装置を開発したのが惑星科学研究所のトーマス・プリティーマンさんのグループです。
ベスタの観測データを分析したところ驚くべき発見がありました。
普通のカメラで見たベスタはクレーターに覆われた大きな岩の塊にすぎません。
ところがこの検出器を通して測定した結果は全く異なります。
色がついている部分は水素すなわち水の成分がある事を示しています。
赤や黄色の部分には水の成分が大量に含まれていたのです。
ベスタには含水鉱物と呼ばれる水を含む物質があったのです。
これは太陽から遠いエリアに存在した水が岩石に取り込まれてより内側に運ばれる証拠なのです。
含水鉱物とは結晶の中に水の成分である水素と酸素を含んだ鉱物です。
これらの岩石の中にも存在します。
太陽系の初期に小惑星が出来た時水の一部は蒸発してしまう前に化学反応を起こして取り込まれ含水鉱物をつくったと考えられています。
では小惑星の含水鉱物はどのようにして地球に水をもたらしたのでしょう。
東北大学の中村智樹さんは隕石研究の第一人者です。
皆さん覚えてますよね。
2010年に帰還した小惑星探査機はやぶさ。
その回収カプセルの開封を担当し小惑星の砂粒を最初に分析したのが中村さんでした。
中村さんは小惑星のかけらの隕石を集めその中から多くの含水鉱物を発見しています。
こうした茶色い部分が含水鉱物です。
隕石の中で安定した結晶になっているため失われる事なく地球に運ばれてきます。
それが地球に落下すると高温になる事で結晶が壊れ水蒸気が放出されると分かってきました。
実験では700度まで加熱するとこうした隕石の重さの1割にあたる量の水が放出されました。
地球に多く飛来して地球の海のもとになった水どれぐらいの割合かまだ分かりませんが少なくとも一部は小惑星の水由来だというふうに考えられます。
ですから小惑星に含まれてる水はですねひょっとしたら我々の生命体の水の起源物質であるというふうに考えられます。
太古の地球に降り注いだ小惑星は含水鉱物というカプセルに水を詰めて地球に運んだというのです。
更に今水だけでなく炭素やミネラルなどの物質も小惑星がもたらした可能性が指摘されています。
これらの物質もまた小惑星に豊富に含まれていると分かってきたためです。
さまざまな恒星の小惑星を研究してきたレベッカさん。
私たちの存在には小惑星が欠かせなかったと考えるようになりました。
小惑星が適度に地球に衝突して必要な物質を運んでくれなかったら生命は存在できなかったかもしれません。
こうした太陽系の成り立ちを理解する事でいつか宇宙のほかの場所で生命を見つけたい。
それが私の夢なんです。
200年以上前ケレスが発見されたのはピアッツィが宇宙をもっと詳しく知りたいと望んで始めた観測がもたらしたものでした。
地球はそして太陽系はどのようにして形づくられたのでしょう。
そこに息づく命はどこから来たのでしょう。
尽きる事のない人類の問いかけが太陽系創世記の謎の扉を少しずつ開こうとしています。
2015/07/19(日) 00:50〜01:50
NHK総合1・神戸
コズミック フロント☆NEXT「太陽系ミステリー〜“幻の惑星”が語る創世記〜」[字]
200年以上前、地中海の天文台で見つかった「太陽系で8番目の惑星」。今、史上初の探査機がその驚きの素顔を捉え、太陽系の成り立ちや生命起源の謎に迫ろうとしている!
詳細情報
番組内容
クイズです。【Q1】太陽系で8番目の惑星は?(ヒント:海王星ではありません)【Q2】人気漫画「進撃の巨人」の舞台に似ている、とファンの間で評判の南ドイツの街ネルトリンゲンは、意外な「ある物」の中に作られました。そのある物とは?(城壁ではありません)【Q3】地球に海の水の多くをもたらしたとされる天体は?(彗(すい)星ではありません) 答えは番組で。不思議と驚きに満ちた、太陽系ミステリーへようこそ!
出演者
【語り】永作博美,真下貴,【声】植竹香菜,宗矢樹頼,松岡洋子,園部啓一
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
情報/ワイドショー – その他
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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