中国の人権問題に関心を寄せる人々の間で7月10日は「暗黒の金曜日」と呼ばれている。各地で人権派の弁護士、活動家が警察によって一斉に連行された。その後も摘発が続き、取り調べの対象者は200人を超えた。見過ごせない暴挙である。

 主な標的となったのは北京の弁護士事務所で、その関係者は拘束されたままだ。ほかに湖南省、上海、河南省など各地で取り調べを受けた人々は、この事務所と関係があると見なされたようだ。

 弁護士らは、立ち退きなど様々な問題に巻き込まれて役所に陳情する庶民に寄り添ってきた。中国社会の人権を巡る状況を改善していくうえで貴重な担い手である。彼らを狙い撃ちにする行為は、ひろく国民の権利全体を損なうことにつながる。

 中国政府は国営メディアを通じ、この弁護士事務所に「社会秩序を乱す犯罪集団」のレッテル貼りをしている。住民と警官とのトラブルを問題としてことさらに取り上げ、ネットで広めた行為などを指している。政府の主張に沿えば、異議申し立てはすべて「反政府」になってしまう。

 5月には良心的弁護士として広く知られた浦志強氏が起訴されたばかりだ。昨年中国で拘束された人権活動家は1千人近くに上ると言われる。習近平(シーチンピン)政権になってからの弾圧ぶりはかつてない厳しさだ。

 改革開放以後、中国では二つの力がせめぎ合っている。

 一つは生活水準や教育水準の向上を背景とする、市民の力だ。彼らは保守的な一面を持ちながらも、生活にかかわる権利意識があり、行動する力量を備えてきている。

 これに対するものが、一党支配を守ろうと異論を抑え込む力だ。習政権に顕著なものだ。

 中国は04年の憲法改正で「国家は人権を尊重し、保障する」という条項を加えた。もとより言論や集会、結社の自由も規定されている。だが、実効あるものにする制度はなく、空文に等しい。

 逆に、今月1日に施行された国家安全法は、安全の名のもとに市民の権利を制限する傾向を助長しかねず、さきに国連人権高等弁務官も懸念を表明した。

 習政権は昨年秋、共産党の会議で「法にもとづく国家統治の全面的推進」を打ち出した。起きていることを見る限り、そこで言う法とは、市民の権利を守る盾ではなく、市民を抑え込むこん棒である。13億人が法治にほど遠い状況に置かれ続けることを深く憂慮する。