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 (18日東東京、関東一9―0大森)

 相手は第1シードの関東一。緊張から動きが硬くなった大森バッテリーは、制球に苦しんだ。七回表1死三塁、捕手の玉田宙(ひろ、3年)はエース當間(とうま)俊介(同)に駆け寄り、両手のひらを胸にあて、交互に上下させた。

 「楽しくいこう」

 手話で話す玉田の励ましだった。だが、流れを食い止めることはできず、コールド負けが決まった。

 玉田は生まれつき両耳が聞こえない。小学1年の時、兄海士(かいと)さん(20)がプレーするのを見て野球を始めた。だが、進学を希望したろう学校には硬式野球部がなかった。私立2校に断られた後、受け入れてくれたのが大森だった。

 監督の指示はマネジャーが筆談で伝えてくれるが、仲間のちょっとした会話が分からない。疎外感を覚えたこともあった。

 「力をつければ認めてもらえるんじゃないか」。早朝や放課後、素振りを繰り返した。下半身を鍛えるため、練習後も自宅近くを8キロ走った。

 當間が弱気な投球をした時のこと。玉田は自身の両手を胸に引き寄せ、「もっと本気で」と訴えた。

 「最初はどうコミュニケーションをとればいいか戸惑ったけど、どんどん絆が深まった」と當間は振り返る。

 今大会、玉田は大東大一との初戦で強肩を生かして二盗を阻み、日工大駒場との3回戦では適時三塁打を放ってチームを引っ張った。この日、試合後のベンチ裏。玉田に當間が向き合った。水平にした左手の甲に、手刀にした右手を当てて、スッとあげた。

 「ありがとう」。2年半の思いを込めた。

 「負けてしまって悔しい」「當間君たちと出会えて、森高に入ってよかった」。玉田が記者のノートに書いた。その横で當間が言った。「どんな時も強気で支えてくれた。玉田は信頼できる仲間です」=神宮(浦島千佳)