黒い折り鶴:平和憲法、塗りつぶすな…広島の画家が油絵に
毎日新聞 2015年07月17日 13時50分(最終更新 07月17日 14時08分)
戦時中に旧満州(現中国東北部)の「満蒙開拓団」に家族で加わった経験を持つ画家、吉野誠さん(82)=広島市西区=が油絵「黒い折り鶴」を完成させた。政府が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した昨夏から「平和への思いがつぶされていく様子と戦争の悲惨さを表現したい」と制作していた。安全保障関連法案の衆院通過に憤りつつ、「平和憲法を守り抜かなくてはならない」と訴えている。
作品は縦194センチ、横130センチ。今も中国東北部で眠る開拓団員の骨の色をイメージし、下地に白や灰色を多く塗った。9月から国立新美術館(東京都港区)で始まる自由美術展に出品する。
吉野さん一家7人は1944年3月、広島県西城町(現庄原市)から移民約240人と旧満州に渡った。敗戦後、地元住民や旧ソ連兵から暴行や略奪を受け、祖母は銃で頭を殴られて亡くなったという。同じ開拓団の74人が死亡し、「身の回りに死があふれ、まさに地獄だった」と振り返る。
46年7月に帰国し、新しい憲法を知った。「国の侵略の片棒を担がされていたんだと目が覚めた」という。高校の美術教員の言葉に心を動かされた。「戦時中、命を投げ出すことが美とされたが間違いだ。美しい命を表現することこそ芸術なんだ」
武蔵野美術大を経て、地元中学校で美術教諭になった。だが、ある生徒から「先生は平和、平和と言うが、何かしよるんか」と問われ、返答に窮した。51歳で教職を捨て、戦争体験を踏まえて平和の尊さを絵筆で表現する日々だ。
戦後70年の節目に、故郷の広島で平和の揺らぎを実感している。「美術で戦争につながる流れを食い止められる」と信じている。【山田尚弘】