ろうあ被爆者:二重の差別 証言もとに 劇が広島と長崎で
毎日新聞 2015年07月17日 13時55分(最終更新 07月17日 14時15分)
◇公演は広島市18日、長崎市25日
聴覚障害がある「ろうあ被爆者」をテーマにした劇が今月、広島と長崎で公演される。脚本は長崎の手話通訳者らの団体が集めた証言集などがベースになっており、団体のメンバーは「多くの人にろうあ被爆者のことを知ってほしい」と期待を寄せている。
タイトルは「残夏(ざんげ)−1945−」。東京の手話パフォーマンス劇団「サインアートプロジェクト.アジアン」が演じる。広島市の女性新聞記者が、広島で被爆したろうあ者を取材したことをきっかけに、疎遠になっていた長崎のろうあ被爆者である母から初めて半生を聞く−−というストーリーだ。耳が聞こえないがゆえに被爆時に状況を聞けなかったり、戦後も被爆者とろうあ者への二重の差別に苦しんだりしたことを、手話とセリフで伝える。
「聞こえない人は、目で見たものが強く記憶に残る。それだけに、ろうあ被爆者は戦後もずっと苦しんだと思う」。自らも聴覚障害があり、劇団の代表でもある女優の大橋ひろえさん(44)は語る。
大橋さんは2年前、友人の勧めで広島のろうあ被爆者の証言集を読んで苦悩の歴史を知り、衝撃を受けた。長崎の証言集も見つけ、被爆70年の今年、オリジナルストーリーをつくった。
脚本のベースの一つとなった「手よ語れ−ろうあ被爆者の証言」(1986年)は、全国手話通訳問題研究会長崎支部などが出版した。83年の支部発足と同時に集め始めた証言がつづられている。
当時、ろうあ被爆者の資料はほぼ皆無だった。「皮膚が垂れ下がっていた」「内臓が飛び出ていた」。探しだしたろうあ被爆者と一緒に被爆した現場を歩くと、原爆投下後の生々しい光景を必死に身ぶり手ぶりで伝えた。
耳が聞こえないことを信じてもらえず、徴兵検査で「兵役逃れだ」と検査員から殴られた男性もいた。戦後、「原爆」「放射能」という言葉や被爆者健康手帳などの援護策があることすら知らなかった人もいた。
同支部は長崎では少なくとも約100人のろうあ者が被爆したと推測し28人から聞き取ってきた。広島では、自身もろうあ被爆者である吉上巌さん(81)が調査を続けており、197人を確認。しかし、いずれも正確な人数は今も分かっていない。高齢になり話を聞ける人も少なくなる中、同支部の宮本マキ子さん(63)は今回の劇について「ろうあ被爆者を知るきっかけになってほしい」と話す。
公演は広島市18日、長崎市25日。一部字幕付きで、台本の貸し出しもある。詳細は劇団のホームページ。【大平明日香】