構成・守真弓
2015年7月18日22時48分
■カズオ・イシグロの本棚
日本生まれの英国人作家で「世界文学の旗手」でもあるカズオ・イシグロ氏が来日した。自身の人生や作品に影響を与えてきた本について語った。
■出会いは「しゃあろっく・ほうむず」
子供の頃、私は決して読書が好きではありませんでした。もし、シャーロック・ホームズがいなければ、読書をすることもなかったかもしれません。
ホームズを初めて知ったのは日本語で。9歳か10歳の頃でした。母が『まだらの紐(ひも)』を読んでくれたのです。怖くて、数日間、眠れなくなったのですが、なぜかまたすぐ読みたくなって図書館に行き、英語でも読むようになりました。「ホームズ中毒」になったことで、未熟だった私の英語は、ホームズやワトソンと同じ「ビクトリア朝」になってしまいました。「Pray be seated(訳例=まあ、かけてくれたまえ)」とか「My dear fellow(同=貴君)」とか。友人たちは、話し方が妙なのは日本人だからだと思っていたようです。
ホームズは私の日本の子供時代と、イギリスでの子供時代の間を不思議な形でつなぐかけ橋になりました。私の中には今も、日本語で読む日本人の“しゃあろっく・ほうむず”と、英語で読むイギリス人のホームズの2人がいます。いずれにせよ、名作だと思うのは、『バスカヴィル家の犬』ですね。
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