毎年８月になると、図書館で岡崎空襲と戦争の写真展が行われる。忘れられない１枚がある。
　幼児を背負い裸足で立っている少年。指先をピンと伸ばし、かかとを付けて一分の隙（すき）もない直立不動の姿勢である。毎年、展示されている写真だが、説明書きを読み飛ばしていたので、背中の幼児は眠っているとばかり思っていた。だが、説明書きを読み、涙がこぼれた。
　原爆投下後の長崎を、元アメリカ海兵隊カメラマンが捉えた１枚。囲いも何もない焼き場で、被爆で亡くなった幼い弟を弔うために順番を待つ少年。カメラマンは、「軍人も顔負けの見事な直立不動の姿勢で彼は弟を見送ったのだ」と、敵国である日本の少年に、賛美ともとれる言葉を残している。
　私は、終戦の前年に名古屋から旧額田町（現岡崎市）の田舎に疎開した。岡崎の空襲は、夜中だった。だいだい色の大きな楕円（だえん）形の光の塊が疎開先から見えた。その前にあった名古屋の大空襲は、岡崎の倍くらいに見えていた。故郷が燃えていると思うと悲しかった。
　疎開先では空襲こそなかったが、警報は常に出ていて、学校から裏山へ逃げた。Ｂ２９もこの目で見た。都会育ちだったため、まき運びなども上手にできず先生に叱られて情けない思いもしたが、焼き場の少年に比べたら、何と小さなことであったか。彼もきっと、日本が勝つことを信じていたであろう。
　ああ、平和っていいな。この平和が永久に続くことを切に祈っている。