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「焼き場に立つ少年」

BOOKS

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トランクの中の日本
米従軍カメラマンの非公式記録
著者: ジョー オダネル Joe O’Donnell

ISBN: 978-4095630137
出版: 小学館

価格: 2,625-円(税込)

63年前の今日、長崎に原爆が投下された。

一昨日の8月7日、NHK総合テレビで「解かれた封印~米軍カメラマンが見たNAGASAKI〜」なるドキュメンタリー番組を見た。
私は迂闊にも何も知らなかったのだが、そこで初めて見た一枚の写真に大いに心動かされてしまった。亡くなった弟を背負い火葬場の前にたつ少年の「焼き場に立つ少年」と題された写真である。戦後まもなくの1945年9月、廃墟の長崎で撮られたものだ。

その写真を撮ったのは占領軍の一員として佐世保に上陸した米軍属のカメラマン、Joe O’Donnell ジョー・オダネルだ。軍務の傍ら、自分自身のカメラで撮影した写真、そのネガを自宅屋根裏部屋のトランクの中に閉じこめ43年間封印していた。その中の一枚なのだ。

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Brothers at Cremation Site on Flickr - Photo Sharing!

本書の写真への記述は客観的なものだが、他の機会にインタビューに答えたもの思われる下記の記述は、より率直に見たそのままを語っているように思われる。

「佐世保から長崎に入った私は、小高い丘の上から下を眺めていました。すると白いマスクをかけた男達が目に入りました。男達は60センチ程の深さにえぐった穴のそばで作業をしていました。荷車に山積みにした死体を石灰の燃える穴の中に次々と入れていたのです。

10歳ぐらいの少年が歩いてくるのが目に留まりました。おんぶひもをたすきにかけて、幼子を背中に背負っています。弟や妹をおんぶしたまま、広っぱで遊んでいる子供の姿は当時の日本でよく目にする光景でした。しかし、この少年の様子ははっきりと違っています。重大な目的を持ってこの焼き場にやってきたという強い意志が感じられました。しかも裸足です。少年は焼き場のふちまで来ると、硬い表情で目を凝らして立ち尽くしています。背中の赤ん坊はぐっすり眠っているのか、首を後ろにのけぞらせたままです。

少年は焼き場のふちに、5分か10分も立っていたでしょうか。白いマスクの男達がおもむろに近づき、ゆっくりとおんぶひもを解き始めました。この時私は、背中の幼子が既に死んで いる事に初めて気付いたのです。男達は幼子の手と足を持つとゆっくりと葬るように、焼き場の熱い灰の上に横たえました。

まず幼い肉体が火に溶けるジューという音がしました。それからまばゆい程の炎がさっと舞い立ちました。真っ赤な夕日のような炎は、直立不動の少年のまだあどけない頬を 赤く照らしました。その時です、炎を食い入るように見つめる少年の唇に血がにじんでいるのに気が付いたのは。少年があまりきつく噛み締めている為、唇の血は流れる事もなく、ただ少年の下唇に赤くにじんでいました。夕日のような炎が静まると、少年はくるりときびすを返し、沈黙のまま焼き場を去っていきました」(インタビュー・上田勢子)

1946年3月、帰国し除隊したジョー・オダネルは、その悲惨な記録である自分の撮影したフィルムを記憶から消し去るべくトランクに納めて封印する。その後、ホワイトハウス付きのカメラマンとして活躍する。
1989年、自らが原爆症と診断された彼は、自分が忘れ去ろうとした悲惨な記憶から逃げることができないのを知り、トランクを明けた。
1990年、米国テネシー州ナッシュビルで原爆写真展を開催する。それは多くの異論反論にもさらされるが、世界各国で開催されるようになる。1995年、スミソニアン博物館で企画された原爆展での写真展は、米国在郷軍人会の圧力によって、エノラ・ゲイ以外の展示は全てキャンセルされてしまった。

本書のジョー・オダネルの「あとがき」には、スミソニアンでの事件についての記述があるが、その英文にはその記述は存在しない。米国での広島長崎の原爆の問題は今もって現在進行形の問題なのであろう。


ジョー・オダネルは2007年8月10日、テネシー州ナッシュビルで脳卒中のため死去、享年85才であった。

Posted by 秋山東一 @ August 9, 2008 06:35 AM
Comments

iGa さん、どうもです。
ちょっと、この一枚の写真のインパクトに打ちのめされて、これらの写真が43年間封印され、米国スミソニアンの原爆展で公開されず......をきちんとしないといけないですね。

Posted by: 秋山東一 @ August 11, 2008 08:51 AM

『アメリカ人に聞きました。広島と長崎はなんで有名?』
『ジュードー!』

7/14(月)の「コラムの花道」で町山智浩氏が『アメリカ人はどこまでバカか...』とテレビのクイズ番組内容を紹介していたけれど、ある意味でアメリカが世界一、一般大衆に対して情報操作が行なわれている国ですね。
この間、CBSドキュメントで見た、キリスト教原理主義者が主催する子供を対象としたブートキャンプも凄い、ブートキャンプから帰ってきた子供達は口を揃えて『私たちは今まで学校で間違った進化論を教えられていたことに気付きました。』と....北朝鮮より恐ろしい洗脳教育が行なわれている。

長崎の真実が写った写真が43年間封印されたり、エノラ・ゲイとヒロシマの被爆写真の展示が中止されたり...廃墟となった長崎の大浦天主堂を原爆遺産として保存することができなかったのも... アメリカにとって都合の良い情報操作....ですね。

Posted by: iGa @ August 11, 2008 07:53 AM