クローズアップ現代「あなたは音楽をどう愛す?〜新・配信ビジネスの衝撃〜」 2015.07.07


当店自慢のコレクションからこよい取って置きの一曲をあなたに。
♪〜お気に入りのレコードをすり切れるまで聴いた思い出ありますよね。
ところが今、レコードはおろかそのデータさえ所有することなく音楽を楽しむ人が急増しています。
一体何が起きているのでしょうか。
今、ストリーミングと呼ばれる音楽の新たな配信サービスが次々に始まっています。
月々僅か1000円程度でネット上の数百万曲を自由に聴くことができる画期的なサービスです。
ところが、こうした安価なサービスにアーティストから戸惑いの声が上がっています。
欧米で主流の無料のサービスに対してはこの人が。
新たなサービスは音楽を破壊するのか。
それとも業界を救う救世主となるのか。
今夜は劇的に変わる私たちと音楽の関わりについて考えます。
あなたなら、どう愛しますか?
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
音楽は人生を豊かにしてくれます。
どんな聴き方をしていますか。
レコード、CDをかけている人音楽データをダウンロードしてスマホで聴いてる方。
テクノロジーの急速な進歩によって音楽の聴き方も大きく変わりましたが基本的には聴きたい音楽を買う所有するというのが一般的です。
ところが今、急速に世界で広がっているのは音楽を自分のものとはしない所有しない新しい聴き方です。
音楽業界を揺るがしている新しい聴き方というのはストリーミングというスタイルです。
ストリーミングというのは定額料金を払うことでネットワーク上の音楽データにアクセスし、数百万曲が聴き放題というサービスです。
音楽がますます手軽なものになりこれまでなじみのなかったアーティストたちの曲も耳に傾けるチャンスが広がるという期待がある一方で国内外のアーティストからは安い聴き放題サービスに対して懸念の声が上がっています。
ご覧のようにCDの売り上げですけれどもピークだった1998年の今や3分の1に低迷。
音楽市場は縮小を続けています。
こうした中で登場したこのストリーミング。
アーティストたちの創作活動に対して正当な評価正当な対価に結び付くのか。
また音楽活動に深刻な影響を及ぼすのではないかとしているのです。
自分のファン以外にも多くの人々に曲を届けるチャンスがあるこの新しいサービス。
縮小の一途をたどる音楽市場を活性化させるのか、それとも音楽産業をますます追い込むことになるのか。
音楽を取り巻く現場の状況からまずはご覧ください。
今、数々のヒット曲を生み出してきた名門スタジオの閉鎖が相次いでいます。
日本一の設備を誇ったこのレコーディングスタジオは3年前に閉鎖されました。
当時のエンジニアが中を案内してくれました。
オーケストラの収録にも対応した豪華なスタジオ。
珠玉のヒットを生み出してきたスタジオは、利用者が激減し今月、解体が始まります。
なぜ、音楽産業はここまで追い込まれたのでしょうか。
理由の一つは、音楽を届ける手段の激変にあります。
音楽を販売する歴史は19世紀に蓄音機が発明されたことで始まりました。
レコードの売り上げが急増したのは、ロックなどのスターが誕生してからです。
さらにCDが登場するとアルバム1枚の値段は3000円に上昇。
メガヒットを連発した90年代後半、売り上げは過去最高の5800億円を突破しました。
しかし、右肩上がりの成長はここまででした。
21世紀、音楽をデータ化して大量に持ち歩ける時代が到来。
ネットで購入できるようになると1曲の値段は200円ほどに。
さらに、無料動画サイトの登場などで、ただで音楽を楽しむ人が急増しました。
そして音楽産業を支えてきたCDの売り上げは、最盛期の3分の1にまで激減したのです。
CDを買わずにどうやって音楽を聴くのか。
ただでヒット曲が聴けるというこのアプリは著作権などがクリアされていないサービスだと考えられます。
CDも売れず無料のアプリが広がる中救世主と期待されるサービスが相次いで始まっています。
それがストリーミングによる音楽の定額配信サービスです。
大手IT企業が始めたのは得意のコミュニケーションと音楽配信を組み合わせたサービス。
付加価値を高めることで消費者を有料サービスに呼び込む戦略は、開始から僅か2日で100万件のインストールにつながりました。
IT技術の専門家はこうしたサービスが広がれば利便性が高まる一方で音楽そのものの価値は下がるのではないかと見ています。
こうしたサービスの広がりに対してアーティストの側から危機感が表明されています。
現代のアメリカを代表する歌手テイラー・スウィフトさんです。
実はストリーミングはCDの販売に比べてアーティストへの対価が極めて少ないといわれています。
テイラーさんはこれでは若いアーティストが音楽を生み出せなくなると危惧しています。
ビョークやマドンナなどさまざまなミュージシャンが同様の発言をしています。
佐野元春さんも、テイラーさんの姿勢に共感する一人です。
日本でも音楽市場が縮小する中で多様な新人が生まれにくい状態が顕著になっています。
その象徴といわれるのがヒットチャートの顔ぶれです。
これは去年一年のCDの売り上げランキングです。
上位10曲のうち9曲をアイドルグループが占めています。
一方、CDの売り上げがピークだった98年はロックや弾き語りなどさまざまなジャンルの曲がランクインしていました。
ヒットチャートの上では15年余りの間に音楽の多様性が失われていたのです。
レコード会社で長年新人の発掘を手がけてきた加茂啓太郎さんはある時期からアーティストの音楽よりも見た目のインパクトが重視されるようになったと分析します。
こうした流れにアーティストとして危機感を抱いて動きだした人がいます。
若者の絶大な支持を集めるロックバンド、サカナクションのボーカル、山口一郎さんです。
今月、山口さんは都内のライブハウスで80人のファン限定のイベントを開きました。
自分たちの音楽を支える衣装デザイナーや映像監督などの仕事を紹介しながら創作の舞台裏を明かしました。
山口さんは、こうした場を作ることで、音楽の多様な楽しみ方を広げていきたいと考えています。
今夜のゲストは、35年以上にわたって、ディスクジョッキーを務め、日本、そして世界の音楽事情に大変お詳しい、ピーター・バラカンさんです。
今のVTR見ますと、改めて音楽業界が今、直面している状況の激変というのを感じるんですけども、どのように見てらっしゃいますか?
ビデオに出てくる人たちが言うことは、みんなそれなりにそのとおりだと思うんですけど、音楽に多様性がないのではなく、メディアから伝わってくるものに多様性がなくなってるということが、一番大きいと思うんですね。
具体的には?
昔だったらね、ラジオを聴いてれば、もっといろんな音楽が耳に入ったんだと思います。
テレビでも音楽番組がたくさんあったんですね。
そういうものがだんだんなくなってきたんだと思うんです。
それから、レコード会社が発売する音楽も、昔、もっといろんなもの、今でもいろいろありますけれど、宣伝に力を入れるのはアイドルばかり。
そうするとね、みんなが受ける印象はあのようなことになっちゃうんですね。
実はもっともっと、いろんなタイプの音楽がたくさん出てます。
なぜ、その同じ、アイドルグループばかりを、プロモーションしていくのか。
やっぱり、CDの売り上げが減っている中で、レコード会社の体力がなくなってきてるのかなというふうにも想像してしまうんですけども。
確かに今、ちょっと悪循環みたいになってきていますけど、CDが売れなくなったのは、一つには、違法ファイル交換というものが、90年代の終わりごろに出てきましたよね。
そのバックグラウンドとして、CDは高いものは3000円ぐらいで売ってましたけど。
10代の若者はお小遣いがあまりなくて、ヒット曲1曲買いたくても、シングルっていうものは、僕らの若いころには安いレコードがあったんですけど、だんだんそういうものを出さなくなったし、CDの値段も高くなってきたし、若者は買いたくても買えないっていう状況があったと思うんですね。
結局、インターネットでただで聴けるっていうことが可能になったときに、もちろんみんなそういうのを利用するようになったんですね。
実は昔、ラジオを聴いてれば、音楽をただで聴くことができたんですよ。
そういう意味では、何もたぶん、変わってないと思うんですね。
それともう一つ、図書館というのがありますよね。
住民税払っていれば、自分の住んでる所の図書館は自由に使えるわけですから、本も読めるし、CDも聴けるし、ビデオも見られますし。
そういうものだから、無料で音楽を楽しむことは、昔からできたんですね。
そういう意味では、あまり変わってないと思います。
でも今、アーティストたちのことばを聞きますと、例えば自分たちの存在感や自分たちへの音楽の価値っていうのが、下がってるんではないかとか、存在が希薄になるんではないかとか、ある意味では、ミュージシャンや音楽家に対する、いわば、リスペクトみたいなものが低下してるんじゃないかというような声も聞こえてくるんですけども、これ、どう見てらっしゃいますか?
ライブには、多くの人が足を運んでいるんですね。
それも大きいコンサートもそうですし、小さいライブハウスでのパフォーマンスも、かなり人が集まってると思います。
だから、ミュージシャンに対しては、リスペクトがないというわけではないと思うんですね。
それはインターネットで音楽を無料で聴くことができるっていう既成事実が今あって、もうそれが15年以上たってると思います。
これはもう現実だと思うんですね。
だからインターネット時代に育った人たちには、たぶんね、著作権という概念がもうないと思うんですね。
それを嘆くことはできますけれど、それを変えることは、恐らく非常に難しいと思いますね。
そういった中で、このストリーミングというのが出てきて、払われる対価があまりにも少額なので、懸念も広がっているわけですよね。
そうですね。
でもCDを買うと、アーティストのところに110円、曲をダウンロードすると16円でしたっけ、が入るんですけれど、それっていうのは、一生、聴くことができるわけですね。
それだけ払われれば。
何回も繰り返し。
そうですね。
今、新しく始まったストリーミングっていうのは、0.16円でしたっけ。
1回聴けば、それだけのお金が払われるわけなんですけど、10回聴けばその10倍になる、100回聴けば100倍になる。
このストリーミングっていうのは、僕はかなり可能性を秘めたものだと思っていて、さっき図書館の話をしましたけど、言うならば、巨大なライブラリーですね。
それもネット上にあって、CDをたくさん買ってきても、恐らく置く所にも、そのうち困ってしまうし、非常にそういった意味では、便利なものだと思います。
ただね、物を持ってると、その物、CD1枚持ってると、その中に収まっている音楽に対する愛情はその分、強くなるというような気もするんです。
何も物がないと、なんか価値を見いだしにくいかもしれませんね。
音楽市場が縮小している中で、今、アーティストは、アーティストとリスナーとの間で新しいつながりを模索すると、そうした動きも出てきました。
東京・渋谷の老舗ライブハウスです。
この日出演するのは3組のインディーズバンド。
本番前に欠かせない大事な仕事があります。
メンバーどうしで撮影するのは大量のインスタント写真。
CDの売り上げだけでは音楽活動を維持できないためこうした写真の販売に力を入れているのです。
この日、撮影した写真は1枚500円で売られ瞬く間に完売。
10万円の売り上げになりました。
500円の写真が音楽活動を支えながらファンとの結び付きを深める役割を果たしています。
ありがとうございます。
お待たせしました、どうぞ。
音楽市場が縮小する中でもリスナーに多様な音楽を届けようとする試みも始まっています。
IT企業を経営する加藤貞顕さんです。
加藤さんは、ネット上にアーティストとファンを結び付ける新たな仕組みを作りました。
このサイトで、アーティストはみずからの作品を公開し販売することができます。
さらにアーティストはファンから直接、経済的な支援を受けることも可能です。
この仕組みで支援を受けているインディーズバンドです。
ネットを通じたファンは300人余り。
年間10万円以上を支援する人も現れバンド活動が支えられています。
音楽界の大御所も人々が新たな音楽と出会う機会を作ろうと模索を続けています。
音楽プロデューサーの牧村憲一さん。
坂本龍一さんや竹内まりやさんなどをプロデュースしてきました。
去年から始めたのが新しいアーティストを紹介する500円コンサート。
有名アーティストと一緒にコンサートを行うことで若手の音楽を多くの人に届けるのがねらいです。
危機感を持っている方々が、いろんな取り組み、リスナーとのつながりを模索していますけれども、どうご覧になられました?
リスナーが価値を認めれば、お金を出すんですね。
今、Vを見ても分かったと思うんですけど、例えばアメリカで、レコード会社との契約がなかなか成立しにくくなったような中堅のアーティストは、最近、クラウドファンディングでアルバムを作ります。
要するに買いたい人を募って、前払いをしてもらうんですね。
集まったお金でレコードを作って、みんな、支えてくれた人たちの名前を入れたりして、出すわけですね。
コンサートも同じような形でできると思うんですね。
だから、そういうことをどんどんどんどんやっていけばいいと思うんです。
こうしたストリーミング、始まったことによって、本当に音楽を支えるベースが、ぜい弱になるんじゃないか、アーティストたちが心配してますけれども、この新しいサービスは、どういう環境をもたらすでしょうね?
まだストリーミングできてそんな、何年もたってるわけでもないですからね、まだ模索中のところがかなりあると思うんですよ。
ですから、妥当な対価っていうのはね、たぶんね、アーティストも満足して、会社も存続できるような、バランスを見つけなきゃいけないような、そういう時期だと思うんですね。
まだまだしばらく、かかるかもしれません。
新人が出にくくなってるんではないかという中で、多様なアーティストたちのチャンスっていうのは、本当に作れますか?
それは、いくらでもできると思いますね。
僕も35年間、ずっとラジオのDJをやってるんですけど、自分の番組では本当にいいと思っている音楽を情熱を持って紹介すると、その情熱はやっぱりリスナーに伝わるんですね。
その音楽がたぶん、よく聴こえてくるかもしれません。
だからね、メディアに携わっている人たちが、もっともっとたくさん、いろんな音楽を聴いて、自分の感覚で、本当にいいと思うものを紹介すれば、そうそう捨てたものじゃないです。
ものすごく多様な、ミュージシャンたちが世の中にたくさんいますから。
2015/07/07(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「あなたは音楽をどう愛す?〜新・配信ビジネスの衝撃〜」[字]

アーティストへの対価が極めて少ない音楽の定額配信サービスが普及するなか、苦境に立たされる制作の現場。テクノロジーの変化の中での「創作」のあり方を考える。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】音楽ジャーナリスト…ピーター・バラカン,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】音楽ジャーナリスト…ピーター・バラカン,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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