[安保法案衆院通過] 改憲を正面から国民に問うのが筋だ
( 7/17 付 )

 安全保障関連法案が衆院を通過した。衆院特別委員会に続いて、与党の自民、公明両党による連日の採決強行である。

 著名な憲法学者や元内閣法制局長官らが違憲性を指摘し、根幹が揺らいでいる法案だ。

 審議を尽くし「違憲法案」の疑念を晴らすのが、立法府の責務ではないか。

 それを何事もなかったように多数決で押し通す。

 国会内外の批判に耳をふさぎ、政府案を通すだけなら国権の最高機関の名に値しない。

 安保法案そのものも、「平和憲法」の看板を下ろさなくてはいけないような内容だ。

 戦後70年の節目に、平和国家の歩みを止めることにならないか。国民の不安は、そこにもある。

 本来であれば、改憲を正面から国民に問うのが筋だ。

 国民の審判を受けないまま、国家権力が国のかたちを変える。民主主義を否定するやり方は、歴史の審判に到底堪えられない。

■合憲の根拠を語れ

 法案は「専守防衛」を放棄し、集団的自衛権行使を可能とした。

 憲法9条の解釈を180度転換させた昨年7月の閣議決定が、法案の土台である。

 安倍晋三首相は「専守防衛がわが国の防衛の基本方針であることに、いささかの変更もない」と断言した。

 必要とあれば自衛隊を地球の裏側まで派遣し、日米同盟を強化しようというのに、なぜ「いささかの変更もない」と言い切れるのだろう。

 集団的自衛権といっても、日本の国や国民を守る「自衛」目的の活動しか認めないからだ。首相はそう説明する。つまり自衛のための集団的自衛権行使だ。

 9条の下、自国の守りに徹するのが歴代政権の専守防衛だった。戦後一貫して日本が内外に宣言してきた国是である。

 「他衛権」とも呼ぶべき集団的自衛権を専守防衛に入れるのは拡大解釈であり、強弁も度を過ぎよう。

 元内閣法制局長官の宮崎礼壹氏は、集団的自衛権の本質は他国防衛と指摘し、その行使を禁じた1972年見解を容認の根拠とした政府を「黒を白と言いくるめる類い」と国会で批判している。

 首相は2年前、自らの考えに近い外務省出身者を内閣法制局長官に起用した。

 政府の憲法解釈に関して、「最高責任者は私だ」とも述べた。

 異例の人事といい、政治権力にたがをはめる立憲主義への無理解は明らかだ。

 時の首相の一存で違憲だったものが合憲となったり、次の首相でまた違憲に戻ったり。

 憲法解釈が伸び縮みするゴムのようなら、憲法は信用を失う。

 衆院特別委での審議は分かりにくく、首相も「国民に十分な理解を得られていない」と認めるほかなかった。

 堂々めぐりの不誠実な答弁に加え、事態が乱立する法案そのものも複雑、難解ではある。

 ただ、分かりにくいのは勝手に定義を変えて、「黒を白と言いくるめる」政府の姿勢にこそある。議論がかみ合わないのは当然で、時間をかけて丁寧に説明すれば理解できるものではない。

 首相は違憲法案との批判に「政治家は常に、必要な自衛の措置とは何か、どこまで認められるのかを考え抜く責任がある」と反論した。

 批判をそらさず、「合憲だと絶対的な確信を持っている」と明言した、その根拠をきちんと語るべきだ。

■国会軽視が目に余る

 第2次安倍政権で「積極的平和主義」を掲げてから、平和国家の屋台骨を揺さぶる動きが続く。

 気になるのは、国民も国会も眼中にないかのような首相の振る舞いだ。

 安保法案にしろ審議入りする前に、その内容を先取りした日米防衛協力指針(ガイドライン)を米国と再改定した。米議会で今夏の法案成立まで公約した。

 自民1強国会である。首相は国会審議を結果の見えた消化試合としか考えていないのではないか。国会軽視が目に余る。

 会期末の9月27日まで2カ月以上残しての衆院通過だ。たとえ参院が議決しなくても、衆院で再可決して成立させる「60日ルール」の保険がある。

 だからといって、参院の審議がおろそかになってはならない。

 三権分立の形骸化は権力の乱用につながるし、何より国民が理解していないからだ。

 衆院特別委の審議で明らかになった疑問は多い。存立危機事態の曖昧さや歯止めの不明確さなど、参院でたださなければならない。

 衆院特別委での審議は約116時間だった。戦後の安保法制に関する審議時間では2番目の長さである。

 10本の改正案をひとくくりにした法案もある。審議時間はいくらあっても足りないだろう。国民の負託に応える論戦を期待する。


 
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