昔ある山奥に古いお寺があった。
少々気難しい和尚さんと猫のタマ。
そして長年この寺の台所を守ってきた飯炊きのおばあさん。
この2人と1匹が穏やかに暮らしていた。
あちちち…ばあさま茶がちと熱すぎるが。
茶は熱いうちがうまいんじゃ。
のうタマ?
(タマ)ニャ〜。
そんなある日のこと。
法事に出かけた和尚さんが帰りの山道を急いでいるとお稲荷さんの祠からなにやらにぎやかな声が聞こえてきた。
由良之助はまだか。
ゆらのすけ?祠の中をのぞいてみるとたくさんの猫たちが芝居見物をしていた。
力弥由良之助はまだか。
いまだ参上つかまつりませぬ。
これはあの有名な『忠臣蔵・判官切腹の場』ではないか。
和尚さんは町にいたときから田舎歌舞伎は大好きだった。
大星由良之助はまだ来ぬか。
いまだ参上…。
いったい何をしてるんだ玉之丞は。
おい判官しゃもじが震えてるぞ。
それで腹が切れるのかい?
(みんな)アハハ。
(どよめき)御免大星由良之助ただいま参上つかまつった。
(みんな)待ってました。
玉之丞!?遅かりし由良之助め。
ニャーニャーお待ちくだされおのおの方。
心ばかりははやれども今宵は寺のばあさんに死ぬほど熱い雑炊を食わせられたが百年目。
腹が減っては芝居ができぬとフーフー吹いて今やっと食うてまいりやした。
うまかったか。
オラも食いてえ。
和尚さんは急いで寺に帰ると…。
ばあさまタマはどうした?さっき熱い雑炊食べとったがどっか行っちまったよ。
ばあさまタマの雑炊はもち〜と冷ましてあげなさい。
なぜです?タマはあれが大好きでの。
ぬるい雑炊は食うてくれん。
タマが大事な時刻に遅れてしまいます。
へ?タマが…何のことです?
(読経)ゆんべはお疲れじゃったの玉之丞。
ばあさまばあさま。
何じゃね和尚さん?仏壇の下にあったがこんなものはいりません。
物置にでもしまいましょうか。
あらら。
かわいい人形じゃないか。
前の和尚が子供好きじゃったから。
いりません寺のお勤めには無用の品です。
そうかい。
法事からの帰り道あの祠がまたにぎわっていた。
今夜はどんな出しものかな?ほう今夜は『白浪五人男』か。
しかし4人しかおらぬ。
おまけにあの傘の代わりにイモの葉っぱはなんじゃ。
衣装はカカシ人形のボロ布で刀は箸…。
弁天小僧はどうした!大泥棒5人が凄みを利かせる舞台に主役の弁天小僧がおらんとは。
ちょいと待った!うわ〜。
玉之丞。
タマ!今宵ばかりは華やかな舞台にしようと寺の物置からちょいと拝借してまいった。
(みんな)え〜!無用どころか立派な小道具見事な衣装。
貧乏くさい芝居とはおさらばだ!いよっ!いいぞ玉之丞。
白浪五人男。
お見事。
知らざあ言ってきかせやしょう。
浜の真砂と五右エ門が歌に残せし盗っ人のタネは尽きねえ七里ヶ浜。
その名も弁天小僧菊之助たぁ俺のことだ。
(歓声)ばあさまあのお人形は?ちゃんと物置に置いてありましたよ。
玉之丞。
ニャ?ゆうべの弁天小僧見事であったぞ!えっ?えっえっえっ!?その夜。
(戸を叩く音)玉之丞。
いとまごいの挨拶にまいりやした。
いとま?私がこっそり芝居を見てしまったからか?いえ修業の旅にござんす。
ばあさまにも熱い雑炊忘れませぬとお伝えください。
そうかちょっと待て。
持っていけ達者でな。
ありがとうござんす。
和尚様もお達者ででは御免。
タマ見なかったかね?出ていったよ。
熱い雑炊のことは忘れん言うてのう。
はぁ?タマタマ。
(読経)おじさんおじさん。
昔むかしある村に半兵衛という男が甥と2人で暮らしていました。
(半兵衛)女房子供に先立たれわしゃもう一人っきりになってしもうた。
どうしたんだいおじさんオイラがいるべ。
そうじゃがこの村にいると亡くした2人を思い出して寂しくなるでわしゃ村出て大阪っちゅうところに行ってみようと思うとるんじゃ。
そんなに遠くへ行くべえか。
土産たくさん持って帰るでよ。
あとは頼んだで。
天下の台所とうたわれた大阪の町には全国各地から食料品が集まり盛んに商いが行われていました。
なんと慌ただしいところじゃわい。
こら待て待て。
うわ〜!わぁ助かったおおきに。
わしゃ仕事を探しとるんじゃが。
ああお安い御用だ。
船が着いたぞよ〜し運べ。
ヨッセヨッセ。
半兵衛次はこっちを頼むで。
へい。
半兵衛はよう働きよる。
エッサエッサへえ行ってきやす。
よし次いくぞ。
半兵衛は一日も休まず一生懸命働きました。
やがて3年あまりの時が経ち年の瀬も押し迫ったある日のこと。
これまでよう頑張って働いてくれた。
へえ。
この百両はお前さんのお手当てや。
ひゃ百両!半兵衛は大喜びで百両を受け取り田舎へ帰ることにしました。
いらっしゃいいらっしゃい。
はて見抜き見通しとは何のことじゃろ?旅のお方運勢をみてさしあげましょう。
う〜む。
お前様の余命はあと三月と出ておる。
なにあと三月の命じゃと?そんな〜。
うむわしは見抜き見通し百発百中の占い師じゃ。
信じるも信じないもお前しだいじゃがな。
半兵衛は1両を払いそこをあとにしました。
わしの命もあと三月。
亡くした女房子供にまた会えると思えばそれも悪くないか。
お前さんどうか死ぬのだけはやめておくれ。
だが50両のカネを明日の朝までに返さねばどのみちこの命はない。
そんな大金明日の朝までに用意することなど到底できやせぬ。
もう死ぬより他にはないわい!お前さん。
あと三月の命だ。
この百両わしが持っていてもしかたがない。
えいくれてやる!誰だ?小判が小判が。
小判だ。
ありがたや。
小判だ小判だありがたや。
お待ちください。
せめてお名前だけでもお聞かせください。
名乗るほどの者じゃないがわしゃ半兵衛という者じゃ。
(2人)ありがとうございます。
(半兵衛)甥よ今戻ったぞ。
おじさん久しぶりじゃのう。
達者で何よりじゃ。
それが達者じゃねえんだ。
わしゃあと三月の命だ。
そうじゃここに四十九両ある。
これをお前にくれてやるからわしの面倒をみてくれい。
あと三月の命だって?そりゃ大変じゃ。
しかしずいぶん元気そうに見えるがな。
こうして半兵衛は家で養生して過ごしましたがどういうわけか顔色はよく食欲もすこぶる旺盛なのでした。
やがて正月が来て春も過ぎ夏が近づいても半兵衛は健康そのものです。
うお〜!退屈じゃ退屈じゃ。
もう寝てなどおられるか。
わしはもう一度大阪へ行ってくる。
(机を叩く音)よくも嘘を言うたな。
わしゃ三月経ってもピンピンして生きておる!ふむお前様あの日人助けをしたであろう。
それで寿命がのびたのじゃ。
人助け?占い師は半兵衛に起きた出来事を次々と言い当てました。
ヒャーまるで見ていたかのようじゃ。
わしは見抜き見通しすべてお見通しじゃ。
よいかこの先で夕立にあっても決して大木の下に立ってはならぬぞ。
こりゃ立派な大木じゃ。
雨宿りにはもってこいじゃが。
あの占い師が言っとったな。
どこか他へ行こう。
ヒャー!こりゃたまげた。
すみません。
ひどい雨ですね。
どうぞ中へお入りになってくだされ。
助かりますわい。
もう日も落ちます。
うちへお泊まりくだされ。
どうも。
何もおかまいできませんけど。
それはご親切なことじゃ。
その夜半兵衛が横になっていると隣の部屋から声が聞こえてきました。
半兵衛大明神様。
半兵衛大明神様…。
半兵衛とは俺のことじゃが。
(2人)は?それではいつぞやの。
50両もの大金を恵んでくだすったのはあなた様でしたか!これが縁で半兵衛はこの夫婦と家族のように仲よくなったということです。
よいやさ〜!昔むかしあるところに親から継いだお屋敷に暮らす兄と自分で建てた小さな家に暮らす弟がいました。
ある日のこと町でやせ馬を見つけた弟は安い値でその馬を買い取りました。
お…お…。
イヒッ。
おいお前。
こんなやせ馬買ってどうすんだ?それがさ兄貴見てみ。
この馬銀の糞をしよった。
ここりゃあ…。
たいしたもんだろ。
お俺に売ってくれ。
えぇ〜。
10両でどうだ?そう言われても…。
もう10両出そう。
けど…。
ならあともう10両。
とうとう兄はもとは5両もしない馬を50両のカネで買っていきました。
イッヒッヒッヒ。
けれどもいくら待っても馬は銀の糞などしません。
おい!おう兄貴どうかしたか?どうかしたかじゃねえ!あの馬ちっとも銀の糞をせんぞ。
まだ幾日も経ってないだろ。
大事に育ててればそのうちするって。
は?そういうもんか?あぁそういうもんだ。
炊けてる炊けてる。
けど…。
かまどにのせておくだけでどこからか米が入り水が入りいつの間にかおまんまが炊けているなんてありがたいこっちゃ。
は?いやなにこの釜のこと。
釜?あぁ岡釜といってな米も水もいらん。
かまどにのせておくだけでおまんまが炊けるのじゃ。
いや〜たいした釜だ。
ほんとにかまどにかけただけで米も水も入るのか?あぁ。
兄はまたその釜を50両のカネで買って帰りました。
イッヒッヒッヒッ。
もちろんお釜にお米や水など入りません。
やっと騙されたことに気づいた兄はカネを取り戻そうと弟の家に向かいました。
おい!ん?「観音どんな〜鬼どんな〜」「今度ばかりはどうかどうかお助けたまえや」何しとるんじゃ?おうこりゃ兄貴。
どうしたんじゃ?嫁がな急の病で死にそうなもんでヒョウタン観音様に祈っているところだ。
嫁が死にそう?ん?よかった〜嫁が生き返った。
これもヒョウタン観音様のご利益だ。
さっきまであんなに死にそうだった嫁が元気になって。
ありがとうございますありがとうございます。
俺んとこの嫁も病気がちでな。
あぁふさぎの病だとか。
そのヒョウタン譲ってくれんか?バカ言うんじゃねえいくら兄貴でもそりゃダメだ。
なぜじゃ。
このヒョウタン観音様はな家内安全無病息災カネも福徳も思いのままに授かるありがた〜い観音様なんだ。
いくら兄貴でもこれだけは。
なんなら俺の屋敷とお前のこのボロ家をとっかえっこしてもいい!え!?たしかに約束したぞ。
うん!こうして屋敷と小屋をとっかえっこして兄はヒョウタン観音を手に入れました。
「観音どんな〜鬼どんな〜」「今度ばかりはお助けたまえやえ〜やっ」「観音どんな〜」「観音どんな〜鬼どんな〜」「今度ばかりはお助けたまえやえ〜やっ」シッシッシッシッシッ…。
ところが3日目のこと。
「観音どんな〜鬼どんな〜」「今度ばかりはお助けたまえやえ〜やっ」フフフフフフフフフフ。
お?兄の嫁さんがクスクスと笑い出したかと思うとすっかり元気になってしまったのです。
(笑い声)兄貴。
おうお前か。
近ごろ楽しそうに暮らしておるな。
あぁそれもこれもヒョウタン観音様のおかげだ。
ヒョウタン観音様の?嫁も元気になり笑いも絶えずおかげで働く力もわいてくると。
それもこれもヒョウタン観音様のおかげよ。
けどこんな小さい家で?かえって力が抜けた。
このほうが楽でいい。
兄貴そのヒョウタンやっぱりな…。
やっぱりヒョウタン観音様返してくれんかの?何を言う。
百両出そう!いやいやヒョウタン観音様あっての我が家じゃ。
屋敷も返すから。
この家で十分じゃ。
返してくれってば。
いやいやなんのなんの。
返してお願い。
いやいやなんの。
お願いします返して。
いやいや。
お願いって。
いや。
だからお願い。
いや。
お願いよ。
なんのなんの。
返して。
やなの。
2015/07/12(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「猫の芝居」
「半兵衛大明神」
「ヒョウタン観音」
の3本です。お楽しみに!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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