山口県美祢市にある刑務所です。
ここでは従来の常識を覆す再犯防止の取り組みを行ってきました。
刑務所の一角にある訓練室がその舞台です。
受刑者たちが取り組むのは最新のIT技術。
通常の訓練では会話は禁止されていますがここでは教えあう事を勧めています。
人は罪に走る時社会から孤立し追い詰められている事が多いからです。
訓練に参加した受刑者たちは自ら猛勉強を始めます。
目標とするのは…民間のコンサルタントが出所後の人生のシナリオを考えさせています。
(一同)おはようございます。
二度と犯罪に走らせないためにはどうすればいいのか。
ある訓練に密着しました。
8年前民間の資金とノウハウを取り入れ設立されました。
前へ進め!入所しているのはいわゆる初犯の人ばかりおよそ700人。
その多くは窃盗や詐欺などの罪で服役しています。
出所したあとの事を強く意識させるため受刑者は一般社会に近い環境に置かれます。
一人一人に与えられているのは鉄格子のない個室です。
全国では出所後再び刑務所に戻った人のうち仕事に就いていなかった人は68%に上りました。
国は上昇を続ける再犯率を抑えるために職業訓練の見直しを始めました。
気を付け!礼。
(一同)お願いします。
直れ着席。
8年前大手IT企業が提案したシステムエンジニアの講座が採用されました。
受刑者は半年間プログラミングの基礎を学びます。
その上でお客さんや複数のプログラマーと話し合いながらコンピューターシステムを作り上げる事を体験します。
この訓練を立ち上げたのがIT企業と契約する…経営コンサルタントの資格を持つ矢島さんは官公庁や企業で人材育成に当たってきました。
社会に出れば当たり前の事。
犯罪者の中ではそういった規律だとかそういうものは僕はあまりないような気がしてるのね。
生き方のけじめと時間のけじめとかものの考え方のけじめといろいろあってうちは全部教えてるのね。
時には厳しい矢島さんの口調ですが受刑者たちは自分の事を本気で心配してくれていると受け止めています。
矢島さんはまず詳細な面接を通して受刑者の性格を分析します。
8年間で訓練に参加した108人全員の話を聞きました。
企業などで面接した5,000人分のデータを応用して受刑者を対象とした質問の流れを作りました。
飽きっぽいかどうか。
苦手な人と距離を置く方かなど質問の数は200以上に及びます。
その答えを分析するとある共通点が浮かび上がりました。
現実逃避です。
矢島さんが現実逃避の傾向が強いと考える一人中村さんです。
業務上横領の罪で服役中です。
銀行の中堅社員だった30代の頃。
結婚して子どももいた中村さんはマンションを購入しました。
自分の返済能力を超えていたといいます。
そのころ出世争いに負けた事がきっかけで毎晩飲み歩くようになりました。
中村さんはローンの返済がままならなくなり自己破産。
子どもの進学費用が必要となった時会社の金を着服してしまったのです。
中村さんは2年前自分から希望してこの訓練室に入りました。
しかしコンピューターのプログラムを勉強するのは生まれて初めての事。
やる気がなかなか出ません。
矢島さんは出所したらどうするつもりかと問いただしました。
一応今のところ…逃げまくり人生だからどっかで追い詰めて逃げない環境作んなきゃいけないけど彼はここにいてもまだ追い詰められたとか逃げようとする。
でも俺が諦めたらあいつに対してもう誰も最後塀の中にいる間アドバイスするやついなくなる。
いつでも諦められるけどやはり可能な限り言い続けて本当ちょっとでいいから心入れ替えてくれればいいなと思ってるだけ。
どうする?どうするの?きつく言うだけでは変わらない受刑者には社会の厳しさを実感させる課題を与えます。
締め切りを設けてゲームを作らせみんなの前で発表するというものです。
中村さん頑張って取り組んでみましたが…。
仲間にこのゲームは何かおかしいと言われました。
キャラクターが川の上や橋の欄干を歩いてしまいます。
中村さんは修正を仲間に任せた上コンピューターも渡してしまいました。
しかも手伝ってもらっているのにお礼の言葉もありません。
矢島さんは見逃しませんでした。
プライドが高いおとうさん。
現実の社会では人に相談したり助け合ったりしなければならない事も学ばせようとしています。
受刑者たちは夜も準備に追われていました。
ここからは私が作成した…。
自信がなさそうな人には仲間がアドバイスをします。
一方中村さんは…。
仲間の言葉に押されてようやく立ち上がりました。
仲間はぎりぎりまで練習につきあってくれました。
中村さん自分の部屋に戻ったあとも何やら考え込んでいました。
中村さんは未完成のまま発表を始めました。
ゲームの説明を終えたあと自ら感じた事を話し始めました。
仲間への感謝の言葉を初めて口にした中村さん。
更にゲーム作りをやり直したいと話しました。
(拍手)変えてみる。
変えられるもんなら。
社会の厳しさと同時に人と人との関わりの大切さをたたき込んできた矢島さんの訓練。
受刑者の中には出所したあとの人生設計を語るようになった人もいます。
30代の佐藤さんです。
佐藤さんは毎日消灯まで4時間以上の勉強を続けてきました。
更にほかの受刑者が分からないところを進んで教えるようになりました。
佐藤さんは合格者が平均で2割しかいない難関の国家試験に3つも合格しました。
ITの技術を生かして事業を起こす事を夢みながら仮出所する事になりました。
この訓練を受けて出所した97人のうち再び刑務所に戻った人の割合は11%。
全国平均の58%と比べると著しい成果を上げてきました。
ところがこの春矢島さんの訓練に衝撃が走りました。
(矢島)こんなふうに矢島がみんな集めてもらってどういう話かというと。
矢島さんがもう訓練を担当できないというのです。
コンピューターなどを提供してきたIT会社と矢島さんとの契約が終わったというのが理由です。
まだやり遂げてない感じ。
終わりがないからねこの仕事は。
これでいいかどうか分かんないから手探りでやってきたからまあどうだろう。
これが正しかったかどうか分かんないけど僕としてはまだ答えが見つかってないからもうちょっとやりたかったなって気持ちはあるけど。
矢島さんが志半ばで迎えたこの日。
最高の修了式日和だね今日は。
半年の訓練が終わる度に行われる…正面に対し礼!直れ!矢島さんが最後の思いを伝えます。
生産作業班代表。
はい!その思いに受刑者が応えました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
どうもありがとうございました。
受刑者と向き合った8年間が終わりました。
矢島さんを見送ったのは涙でした。
(すすり泣き)気を付け!前へ進め。
再犯を防ぐ教育の在り方に一石を投じてきた矢島さんの訓練。
その成果をどう継承するのかその道筋は示されていません。
9回裏の土壇場でも…。
(実況)大きいぞ!どうだ!?どうだ!?どうだ!?2015/07/12(日) 08:00〜08:25
NHK総合1・神戸
目撃!日本列島「人生のシナリオ 描き直せ〜塀の中のIT訓練室〜」[字]
刑務所と民間企業が協力。最先端のIT技術を身につけ、仲間と助け合う前例のない訓練▼現実と向き合え!逃げるな!人材育成の専門家は犯罪者を変えることができるのか?
詳細情報
番組内容
山口県にある美祢社会復帰促進センターでは訓練生が合格率20%の難関国家試験合格を目指し猛勉強。出所後にシステムエンジニアとして働くため、共同作業やプレゼンの特訓▽指導するのは人材育成の専門家・矢島洋一さん。厳しい現実から逃げてきた犯罪者たちに、自分を見つめ直させ、何が必要かを考えさせる。この結果8年間で再び刑務所に入った人は11%と再犯防止に著しい成果が。どうすれば犯罪者が変わるのか訓練に密着。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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