2イッピン「千年のぬくもりと手ざわり〜岩手 鳥越竹細工〜」 2015.07.12


この者がいつ逃げ出すか。
私は決して逃げませぬ。
早朝の魚河岸に新鮮な食材を求めるプロの料理人たちが集まります。
皆が手に持つのは竹のカゴ。
通称「市場カゴ」。
築地では欠かすことの出来ない定番アイテムですがその訳は?市場には必需品。
実は市場カゴのほとんどは岩手で作られたものなんだそう。
今岩手の竹細工はママ友の間でも人気上昇中だとか。
公園で楽しむランチに皆さん持ち寄るのが竹の弁当箱です。
気に入ってるのは空気を通すとことあと菌をあんまり寄せ付けないって聞いてるので。
おにぎり入れて軽いのとあとやっぱり気分が上がります。
美しく使いやすいこの弁当箱がきょうのイッピン。
岩手の…こちら東京谷中。
よりすぐりの日用雑貨が集まる店。
ありましたよありましたよ。
ほらお弁当箱!お〜すごいやわらかい。
弾力性にびっくり。
手ざわりは?しかもツルツルしてなんか光ってるんですよ。
いらっしゃいませ。
すいませんおじゃましてます。
このお弁当箱が人気があるとはい。
聞いてきたんですけど。
この柔らかさがホントすごいですよね。
これはスズ竹っていう細くて笹のようなものを割いて作ってますからすごくしっとりして表もツルツルしてて非常に使いやすくなってます。
使いやすい。
軽くてしなやか使い心地も抜群の鳥越竹細工。
千年以上もの歴史があるという職人技をご堪能下さい。
奥羽山脈に抱かれた山あいの里。
岩手県一戸町鳥越です。
点在する集落におよそ600人が暮らしています。
半年にもおよぶ長い冬。
竹細工は農閑期の仕事として千年もの昔から伝わってきました。
今も60人の職人が居ます。
来ましたよ〜。
一面雪!こんなに風が強くて寒いとは。
うんでも気持ちがいいですね。
行きましょう行きましょう。
どんどん行きましょう。
原田さん早速弁当箱づくりの名人を訪ねます。
失礼します。
こんにちは!すいませんおじゃまします。
原田です。
どうもご苦労さまです。
先祖代々の竹細工職人です。
いいですか?おじゃまして。
はいどうぞ。
奥さんのカヨさん。
半世紀前に嫁いで以来姑や親戚に教わりながら夫と作ってきました。
こたつに当たりながらやってた。
これが完成品です。
わ〜!きれいですねぇ。
夫婦二人三脚で作った弁当箱。
正確無比に編み上げられた文様。
つややかな輝き。
使われているのは竹のみ。
自然の素材を手で編むだけで作られています。
一応これで…3個入れる。
このなめらかさと柔らかさと。
それの秘けつは何ですか。
下ごしらえとは竹ヒゴ作り。
まっすぐで均等な幅となるよう整えます。
材料となるスズ竹は山あいの限られた環境にしか育たない植物です。
鳥越周辺はスズ竹の分布が日本一多い地域。
ブナやカエデの森に自生します。
東北では雪の重みに耐える根曲り竹が有名ですがスズ竹は雪の少ない太平洋側に育ちまっすぐ伸びるのです。
竹細工には弾力のある一年ものだけを使います。
スズ竹はいくつもの工程を経て竹ヒゴになっていきます。
まずは割る作業。
直径6ミリ前後のスズ竹を4つに割ります。
難しいのは節にある「芽」という小さな突起物を真っ二つにすること。
迷いなく一気に行くのがコツ。
いきます。
ありますよねぇ。
折れちゃう。
次は「銑」という道具を使って竹の内側の肉を削ります。
そして幅をそろえたらいよいよ最後の工程へ。
ここでカヨさんに選手交代。
指に布をきつく巻き肉を極限までそぎ落とす作業「コギ」が始まります。
なんとナタを指に押し当てています。
既に薄く切れやすくなっている竹ヒゴ。
ナタに加える力を指先で感じ取りながら細やかに調整します。
ナタを当てる角度を変えながら均一になるまで何度も削っていきます。
削りカスをいいですか?わっ。
思ったより堅い。
う〜ん。
このぐらい。
ギリギリの薄さじゃないですか。
すご〜い!ホント薄いよ。
ほら出来上がった竹ヒゴの薄さは0.29ミリ。
コギは竹細工作りの中でも最も重要な工程のひとつ。
カヨさんは満足に出来るようになるまで20年かかったと言います。
下ごしらえも手間を惜しまず丁寧に。
それがご夫婦の信条です。
それにしても竹ヒゴはこんなに薄くしてしまって大丈夫なんでしょうか。
強度を測る実験をしました。
竹ヒゴの一点に力をかけ折り曲げます。
まず肉の残る竹ヒゴ。
肉の部分がちぎれ折れてしまいました。
今度は肉を極限までそぎ落とした竹ヒゴ。
いくら力を加えてもどこまでも曲がって折れませんでした。
なぜなんでしょう。
断面を顕微鏡で分析しました。
黒い所が水分。
外側にある白い部分は繊維です。
竹ヒゴになるのはこの辺り。
ここを拡大するとさらに細かい繊維が150本も束になっていました。
単に薄くするだけでなく最も強い部分だけを残すそれが竹ヒゴ作りの極意でした。
いよいよ弁当箱作り。
一体どうやって編んでいくんでしょうか。
これさっき作ったやつですよね。
はい。
弁当箱に使う竹ヒゴは120本。
必要な長さに切っていきます。
これがねここがフタが。
フタ。
この3本ひと組みで。
うん。
3本ひと組みって?これがひと組み。
ひと組み。
編み方は伝統的な網代編み。
竹ヒゴを互い違いに組み合わせ斜めに連続する文様を作っています。
単位となるのは3本の竹ヒゴ。
これを繰り返していく交互に。
ここに横から1本を入れていきますが3本のうち2本を上に1本を下にするのがポイント。
そして次の竹ヒゴを入れる時1つずらしてまた同じようにします。
こうして斜めの線が増え重なっていくのです。
さらに文様を美しく整えていきます。
竹ヒゴを一本一本をずらし隙間をなくすんです。
使うのは爪だけ。
爪の厚みが薄い竹ヒゴにフィットしこれ以上の道具はないんだそうです。
そしてもうひと手間。
「節隠し」です。
竹ヒゴを編むとどこかにスズ竹の節が出てきます。
節は破損や綻びの原因となるためなるべく表面に出ないようずらして隠すのです。
弁当箱の大部分が編み上がりました。
でもまだ箱じゃないですよね。
そうするとねこれがこうなって。
そしてほら箱になるんです。
ここ角を折って。
箱の形にするため側面を立ち上げます。
すると4つの三角形が出来ますが四隅の足りない部分をあらかじめ余らせておいた竹ヒゴを編み合わせて作っていくのです。
側面をいかにきれいに立ち上がらせ鋭い角を作るかは弁当箱の出来栄えを大きく左右します。
カヨさん腕の見せどころ。
また3本3本。
3本3本。
さっきと同じことを?そうそうそうそう。
先ほどと同じく3本を単位として網代編みを行います。
しかし今度は立体にするため竹ヒゴを引っ張りながら編み合わせなければなりません。
より細やかな指さばきが必要とされます。
そうしてここを自分の手で調節して。
全部一からですもんね自分でね。
さぁ仕上げです。
かりにはさんでるような状態なんですよ。
はさみ。
こうしてんだけど今私は編み目一緒に…。
最後は夫の忠美さんが「縁」をしっかりと巻いていきます。
あとは単純にこれを巻いていくだけだから。
い〜出来たよ!夫婦で丹精込めて作り上げた弁当箱です。
すごいね。
(笑い)アハハしょっちゅうやってるべ!そんな事ないでしょうに。
竹細工の里「鳥越」をご案内しましょう。
まだ上がっていいの?フフフ。
失礼します。
こっち?まず訪れたい施設から。
「鳥越もみじ交遊舎」では地元の職人さんたちによるカゴ作りの実演や販売初心者向けの体験教室も行われています。
また館内には名人たちの作品が展示されています。
わっこれは作ってどのくらい?
(案内人)100年くらいたってます。
100年!100年の時が与えたこのあめ色の輝きはどうでしょう。
使うほどに美しさを増すのも魅力の一つ。
戦前作られたランドセル。
子供たちのため丁寧に丈夫に仕上げられています。
江戸時代には既に全国で知られていた鳥越竹細工。
昭和30年代までは集落のほとんど全ての家で竹細工を作っていました。
鳥越には竹細工発祥の地といわれる聖地があります。
案内してくれたのは…鳥越山は千年以上前都の高僧によって開かれて以来人々の心のよりどころとなってきました。

(鐘の音)現れたのは絶壁にある観音堂。
わ〜!あ〜。
すごい!そうなんですよ。
こんなに…。
鳥越竹細工の誕生を物語る言い伝えです。
昔々人々は貧しさに耐えながら冬を過ごしていました。
ある時洞窟に観音菩薩が現れこう告げます。
「私の化身である白い蛇のうろこ文様を山のスズ竹で編みなさい。
それを冬の生業としなさい」。
以来千年鳥越の人々は竹細工を作ってきたといいます。
観音堂の斜面にはスズ竹が今も広がっています。
ここかな。
(犬の鳴き声)こんにちはおじゃまします!失礼します。
鳥越観音を案内してくれた柴田恵さんの工房を訪ねました。
50代にして最年少の竹細工職人である柴田さんは伝統の技をベースに現代的な作品を作っています。
ちょっと手に取ってみてもいいですか?どうぞ。
本当だすごい軽い。
その代表作がこれ。
涼しげな雰囲気のカゴバッグ。
若い女性に使ってほしいとあえて隙間をあけて編んでいます。
そのアイデアはかつて鳥越で作られていた古い道具から。
それが透かし編みの「柄ザル」。
そばを湯がく道具です。
これは町内である地域で作られてきたものなんですけどやはりこれを作る名人がもういなくなってしまってなんかそのいなくなるとかもうなくなるっていうのがすごく私は寂しいような気がして。
うんうん。
技を絶やすまいと柴田さんはバッグに応用することを決意。
しかしいくつかの難点がありました。
通常の竹細工より大きめなカゴバッグ。
その全ての編み目を3ミリ四方に保たなければなりません。
そして…。
透かした分強度は落ちます。
そのためふだんよりしっかり編まなければなりませんが力を入れすぎると折れてしまいます。
こうして完成したカゴバッグ。
新たな挑戦の陰には先人の技が息づいています。
最後に原田さんはスズ竹採りに連れていってもらいました。
この道50年の名人稲葉幸史さん。
一年もののスズ竹の見分け方を教わります。
見てみて一年ものっていうのはス〜っとなって葉っぱが2〜3枚しか出てなくて。
上に2〜3枚だけ。
そしてこれが真っ白い。
この皮みたいなのが。
皮みたいなのが。
スズ竹は1年目に成長のピークを迎え3〜4年後には枯れてしまいます。
毎年一年ものを採ってたらなくなりますよね。
でも毎年出てくるから。
そうかそうか毎年出てくるから。
この辺はもうみんな一年ものでしょう。
この辺。
(稲葉)結構力入るよ。
入れて。
取れないよ。
(笑い声)オッケー?オッケー。
目標は30本。
弁当箱ひとつ分の材料です。
いたっ!ちょっと待った。
名人は1日に1,000本を採ります。
しかし1本も無駄にしないそう。
山を下りた原田さんは?こんにちは!おはようございます!山行って採ってきましたスズ竹。
どうですか?ホント!え!くれるの?あげます。
一応それを選別して。
すごいな!へぇ〜。
使う人が心から満足するよう精いっぱいの技と思いを込めて。
自然の恵みに頭を垂れつつ次の千年を目指して鳥越の人々は編み続けます。
2015/07/12(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「千年のぬくもりと手ざわり〜岩手 鳥越竹細工〜」[字]

美しくて丈夫!今、人気急上昇中の“竹の弁当箱”。岩手県一戸町の「鳥越(とりごえ)竹細工」だ。一千年前から続くという驚きの編みワザと心を女優・原田夏希が紹介する。

詳細情報
番組内容
今回のイッピンは、岩手県一戸町の「鳥越(とりごえ)竹細工」。若い女性に大人気のお弁当箱や、東京・築地で愛用される「市場カゴ」など、美しく、軽くて丈夫なため、今、注目されている。雪深い地で農閑期の仕事として生まれた鳥越竹細工は、伝承では一千年の歴史を持つ。入念な竹ひご作りから、繊細な編みのワザまで、手のみが生み出す極上の芸術品に、女優・原田夏希が迫る。自然の恵みと使う人へ感謝を忘れぬ職人の姿に感動!
出演者
【リポーター】原田夏希,【語り】平野義和

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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