1アナザーストーリーズ 運命の分岐点「ダイアナ妃事故死“最後の恋”の駆け引き」 2015.07.12


イングリッシュ・ローズ。
かつて「イギリスのバラ」と呼ばれた女性。
プリンセス・オブ・ウェールズダイアナ。
世界中の誰からも愛された女性。
しかし…。
1997年8月31日深夜0時25分。
それはフランス・パリで起きた。
ダイアナを乗せた車は大勢のパパラッチに追われていた。
そして猛スピードでトンネルの中へ…。
(衝突音)車は無残に押し潰された。
なぜダイアナは死んでしまったのか。
同乗していたのはエジプト人の恋人…そのスキャンダルに満ちた謎の死を世界中のメディアが伝えた。
事故現場はパリ。
そこから300キロ離れたイギリス・ロンドン。
ケンジントン宮殿で一人の男がダイアナの帰りを待っていた。
男が初めて語る本当のダイアナ。
恋に生き続けたプリンセス。
悲劇の最後に秘められた…アナザーストーリー。
イギリス中部の田舎町チェスター。
そこに一軒の小さな花屋がある。
店の主人…彼はあの事故以来騒がしいロンドンを離れこの町に引っ込んだ。
やあ!君もいつかテレビに出たいかい?レッドカーペットを歩く姿が目に浮かぶよ。
ハル・ベリーのようにね。
自分のやりたい事が決まったら絶対にやり抜くんだよ。
いいかい?「自分のやりたい事をやる」。
それを教えてくれたのが2歳年下のダイアナだった。
バレルは中学卒業後すぐに執事の仕事を学び僅か18歳で王室に呼ばれ…ダイアナを誰よりも近くで見続けた男にしか知りえない彼女の本当の人生。
バレルが語り始めた。
亡くなったダイアナ妃はベッドに横たわり白いシーツが首にまで掛けられていました。
手や足が見えていて髪はぬれていました。
窓は開いていてベッドのそばでは扇風機が回り彼女の髪を揺らしていました。
扇風機が彼女に向く度にまつげも揺れていました。
(鐘)1997年事故6日後に行われたダイアナの葬儀。
当時ダイアナは既にチャールズ皇太子との離婚が成立。
王室を離れていたにもかかわらず葬儀には世界中からVIPが参列した。
暮らしていたケンジントン宮殿の前に出来たこの白い模様は全て死を悼む市民によって手向けられた花だった。
まだ36歳のダイアナと42歳のドディ。
彼らはなぜ命を落とさなければならなかったのか?まずは事故のあった夜を振り返ろう。
2人はあの夜ドディの父親が所有するパリの最高級ホテル「リッツ」に食事のために出かけた。
ホテルに入ったのは夜10時前。
ダイアナが先に入り1人おいてドディも入った。
そのまま2人はレストランに向かったものの他の客からの好奇の目に耐えかねドディが使い慣れたスイートルームに向かいそこで食事を楽しんだ。
既にそのころホテルの外には2人がいる事を嗅ぎつけたパパラッチが集まり危険な状態だった。
ところが2人は日をまたいだ午前0時すぎホテルに泊まる事もできたのにわざわざパパラッチの目をくぐり抜け車でドディの自宅に帰る事を選んだ。
そして2人を乗せた車がホテルの裏にある通りからこっそり出た。
コースはこうだ。
ホテルを出てシャンゼリゼ大通りへ。
ドディの家まで僅か1.5キロ。
すぐに着くはずだった。
ところが車はシャンゼリゼ大通りには入らずなぜか別のルートを進み始めた。
分かっているのは2人が既にパパラッチに追いかけられていた事。
事故調査報告書によると時速100キロを優に超えるスピードだったという。
更にその先にはカーブとトンネルがあった。
そして…。
(衝突音)
(サイレン)車は中央分離帯にある柱の13本目にぶつかった衝撃で大破。
助かったのは助手席にいたドディのボディーガードのみ。
ドディと運転手は即死。
病院に運ばれたダイアナは4時間後帰らぬ人となった。
それがどれほどの衝撃を世界に与えたか…。
すぐに事故原因の追究が始まりさまざまな臆測も呼んだ。
最終的に責任を負わされたのは運転していたアンリ・ポール。
ふだんはホテルの警備担当。
この日たまたま運転手を任された彼の飲酒運転が原因と断定された。
アンリ・ポールの名誉を回復しようと今も闘っているのが…今も私は原因がアンリの飲酒運転だとは信じていません。
彼は飛行機も操縦し責任感が強かった。
飲み過ぎたりしないんです。
友人を失った悲しみの中でギャレックの頭をいつもよぎるのはこの事だ。
なぜ彼らはホテルに泊まらず家に帰ろうとしたんでしょう。
もし泊まっていたらあんな悲劇は起こらなかったのに。
そう。
なぜあの夜2人は懸命に家に帰ろうとしたのか。
事故現場から僅か数百メートルしか離れていなかったドディの自宅。
実はその夜ドディの部屋で帰りを待っている男がいた。
彼だけがあの夜2人が自宅に帰ろうとした理由を知っていた。
事故後間もなくデロームはもともと暮らしていたアメリカへ戻った。
2人が自宅へ帰ろうとした理由は事故のあった日出かける前にドディから聞かされていた。
ドディ様に台所に呼ばれてね。
「これからホテルに食事に出かけるが深夜には帰る」と言われたんだ。
それで婚約指輪を見せてくれたよ。
ドディ様はあの夜ダイアナ妃にプロポーズしようとしていたんだよ。
ダイアナ妃が受けたかって?きっと受けただろうさ。
果たしてダイアナはそのプロポーズを受け入れるつもりだったのか?ダイアナ妃は彼に好意は持っていましたが一度も愛しているとは言いませんでしたよ。
結婚はなかったと断言できます。
一体2人の本当の関係はどういうものだったのか?少し時間を遡る必要がある。
ダイアナとドディの関係は事故から遡る事50日。
南フランスのリゾート地で始まった。
日々ダイアナを追い回すパパラッチ。
そのカメラから逃れるように船に乗り込むダイアナ。
彼女をこの豪華クルーザージョニカル号に招待したのがドディの父親モハメドだった。
チャールズとの離婚騒動に疲れたダイアナ。
彼女にゆっくりしてほしいという思いに加えもう一つ理由があった。
モハメドはパリの「ホテルリッツ」ばかりかイギリス王室御用達の「ハロッズ」を所有する大富豪。
けれど彼にはコンプレックスがあった。
エジプト人でイギリスの市民権ももらえない。
どれほど裕福でもイギリスでは異端の扱いだった。
そんなモハメドと仲良くしてくれたのが…彼らを通じて何とかイギリスの階級社会で認められたかった。
だからこそ何度断られてもダイアナを夏のバカンスに誘い続けこの年ようやく実現したのだった。
そしてモハメドの執念は最高の結果を生む。
ダイアナとドディが意気投合し始めたのだ。
一緒にいたデロームも2人の様子をよく覚えている。
ドディ様の膝の上にダイアナ妃は頭をのせその髪をドディ様は優しくなでていたよ。
ダイアナ妃は私に聞いたね。
「彼は他の女性にもこんなに優しいの?」と。
だからこう答えたさ。
「こんなに幸せそうな姿を見せるのはあなたといる時だけです」とね。
迷いながらも徐々にドディに心を寄せていったダイアナ。
とうとう全世界を騒然とさせる写真をスクープされる。
「THEKISS」。
離婚していたとはいえ元プリンセスが一般人とあられもない姿で抱き合いキスをしていた。
とんでもない衝撃だった。
代償は大きかった。
それでもダイアナはなぜだか自分をさらし続けた。
(バレル)ダイアナ妃は決心したんです。
「私はもう逃げない」と。
(バレル)彼女はイギリス王室を追い出されたわけですが王室と闘う意志がありました。
王室に対して「私も世界に注目されている。
私のメッセージが世界に届くんだ」とね。
実はダイアナのプリンセスとしての立場は結婚当初から虐げられたものだった。
世界7億5,000万人が見つめたロイヤルウエディング。
実はこの時ダイアナは既にチャールズから愛人の存在を伝えられ別れるつもりがないとまで宣言されていた。
愛人はチャールズによって結婚式にまで招待されていた。
それがこの女性。
後にダイアナから妻の座を奪い取る事になるカミラ。
その存在がいかにダイアナをいらだたせたか。
夫や息子たちと暮らしたダイアナにとって「幸せの象徴」とも言える場所にまでカミラはやって来ていた。
ダイアナ妃は自分が家を出るとカミラが裏口からやって来る事を知っていました。
チャールズ皇太子は一度も「君は美しい」「愛している」と言った事はありません。
長い苦しみでした。
夫妻で訪れた先でチャールズはこんなジョークまで…。
(笑い声)ダイアナ人気の高さにダイアナがもう一人欲しいという意味だったが本人はどう受け止めた事か…。
初来日。
沿道から10万人の歓迎を受けた時もダイアナはチャールズとの愛のない生活に苦しんでいたのだ。
こうしてダイアナスマイルで応える事ができたのは異国の地でようやくひとときカミラの存在を忘れられたからかもしれない。
しかしやがて公務に出ても心ここにあらず。
摂食障害に陥り立っているのがやっとだった事も。
そんなダイアナを支えるためバレルとの心の結び付きは同志のようなものになっていく。
そのころチャールズはもはや愛人カミラの存在を隠そうともしなくなりカメラに向かってこう語った。
それはこれからも愛人関係が続くという宣言だった。
その宣言は同じ日に公務の予定があったダイアナをひどく落ち込ませた。
準備をしているダイアナ妃が「行きたくない」と言いだしました。
「私が長年夫の不倫を知っていた事が分かったらどうなるの?世間の笑いものになるわ」と。
ダイアナを奮い立たせる時だった。
私は「絶対に行くべきです」と言いました。
「今こそ前をしっかり見て世界中にあなたの存在感を示す時です」と。
そして私がとっておきのドレスを選びました。
これがその日のダイアナを捉えた映像だ。
肩が大きく開いたあでやかな黒いドレス。
私生活の悩みなど一切感じさせない笑顔でみんなをとりこにした。
後日大きく報道されたのはチャールズのカミラへの愛の告白ではなくダイアナの堂々たる姿だった。
翌朝私の机の上にダイアナ妃からのメモが置いてありました。
「私はやったわ」とね。
そう彼女は見事にやってのけたんですよ。
失意のどん底にあったプリンセスが一人の執事の励ましによって自立した女性へ生まれ変わった瞬間だった。
ダイアナにとってこの写真も一人の人間としてまさに「私はここにいる」というメッセージだったに違いない。
しかし写真がパパラッチたちを過熱させダイアナを死のドライブに追いやったとすれば皮肉と言うほかない。
ダイアナを最も近くで見続けた執事バレルが彼女との最後の時を語り始めた。
(バレル)ダイアナ妃が埋葬される前日の夜私は彼女の傍らにずっといました。
ケンジントン宮殿にたった2人きりでした。
別れの時が迫っていました。
その時とても自分勝手ですが一緒に死にたいと思いました。
私には妻と子供がいましたがたとえ全て置き去りにしても一緒に死にたいと思いました。
ダイアナは大切な友であり最も愛しい人だったからです。
ダイアナを最も愛したのはバレルだったのかもしれない。
ダイアナとドディの恋。
無数のパパラッチが2人を追い続けた。
そのスクープ合戦をヒートアップさせたあの写真。
実はその舞台裏には語られていない秘密がある。
あの悲劇の夜この写真を撮ったパパラッチは事故のあったパリではなくロンドンの事務所にいた。
あの夏あのスクープをものにした男。
世界で初めて語るアナザーストーリー。
ロンドン市内。
ケンジントン宮殿から程近い街角に一軒のピザ屋がある。
店の常連客の一人がダイアナだった。
男もよくここに通いダイアナを見かけていたという。
しばらくすると男が現れた。
ダイアナの最も古いパパラッチとして彼女が亡くなるまで追いかけた。
世紀のスクープをものにしたのも彼。
その舞台裏を証言するのは今回が初めてだ。
これまで何百もの取材を断ってきたがインタビューを受けるのは本当にこれが初めてだよ。
事故から18年たって少し心の整理がついたのかもしれないな。
実はフレイザーは少年時代からのパパラッチ。
カメラ小僧として街に出ては有名人を狙いいい写真が撮れると売って小遣いを稼いでいた。
ダイアナと初めて会ったのは2番目の子供ヘンリー王子が生まれる前後だった。
初めてダイアナ妃を撮影したのは16歳の頃だ。
彼女の車のそばで待ち構えていて何枚か写真を撮った。
するとどんどん近づいてきて目の前に来たんだ。
てっきり「撮影をやめろ」と言われるのかと思ったらこう言ったんだ。
「世間の人たちは私の写真にそんなに興味があるの?」とね。
俺が「世界中の人々があなたに興味がありますよ」と返したら彼女は「頑張ってね」と言って立ち去った。
それが出会いさ。
それから数年後フレイザーが撮ったのがこの1枚。
ヘンリー王子を優しく抱くダイアナ。
殊の外気に入りケンジントン宮殿にも飾っていたという。
自分の子供をうまく撮影するカメラマンには母親も好意を持つものだよ。
あの写真でダイアナ妃との関係がより強くなったってわけさ。
そうしてただのカメラ小僧だった少年は十数年後とんでもない世界に足を踏み入れてしまう。
それがこのスクープ写真「THEKISS」。
当時新聞社に売った原板がこれ。
ドディとダイアナのキスシーンが鮮明に写っていた。
そしてこの写真が撮られた経緯には驚くべきアナザーストーリーがあった。
ダイアナ妃が俺に電話をくれたんだ。
それで彼女が船に乗って地中海でバカンスを過ごすという情報を教えてくれたんだ。
だからこそあの前代未聞の写真が撮れたんだ。
つまりこの写真はダイアナが撮らせたという意味にほかならない。
「一体何をたくらんでいるんだ」と思わずつぶやいたよ。
そこに隠された思惑を知るにはまた少し時間を遡る必要がある。
ダイアナと後に「パパラッチ」と呼ばれるカメラマンたちとの関係が始まったのはおきさき候補となった二十歳の頃。
(歓声)もちろんこのロイヤルウエディングのあとしばらくはメディアもダイアナに好意的だった。
しかしこのころからチャールズとの不仲が明るみになり風向きが変わる。
メディアとの関係が決定的に変わるきっかけになったのがこの暴露本の出版だ。
そこには「何度も自殺未遂を繰り返していた」という衝撃的な事実がつづられていた。
更に世間が驚いたのはダイアナの男性遍歴。
夫の不実に悩んでいたとはいえラグビー選手から美術商ボディーガードに至るまで数々の男性との関係が疑われたのだ。
メディアはここぞとばかりに容赦なくダイアナをたたき始めた。
パパラッチの取材は更に過熱。
最愛の息子たちとの休暇さえも狙われた。
その苦悩を知る人がいる。
ダイアナが心身共に疲れきっていた時セラピストとしてつきあい始めた。
家を出たら毎日40〜50人のカメラマンが待ち構える生活を想像できますか?ストレスもたまるわよ。
金魚鉢の金魚と同じようなものなんだから。
その責任は不倫相手たちの側にもあった。
ダイアナは純粋に恋愛できる相手を求めていたのに彼らはダイアナとのつきあいをまるで勲章のように喜々として語っていた。
最も真剣につきあった自らの乗馬教師ヒューイットはダイアナとのセックスまで詳細につづった本を出版。
数億円の印税を得た。
ダイアナが暮らしたケンジントン宮殿への出入りも許された新聞記者リチャード・ケイは彼女の深い絶望を知っていた。
ヒューイットは何年もの間彼女の情報をマスコミに売っていました。
ダイアナ妃はあまりに多くの人に裏切られ人を信じられなくなっていました。
だから携帯電話の番号をしょっちゅう変えていました。
彼女が自分の身を守る方法はただ一つ。
自分の事を言いふらす人とは縁を切るしかなかったのです。
そしてダイアナは全てを自分の言葉で語ろうと決心した。
結果的に女王から離婚が勧告され半年後離婚が成立した。
しかしその後自分をさらけ出すようになったダイアナは逆に輝きを増していく。
ダイアナはニューヨークでプリンセス時代のドレスをオークションにかけた。
まるでイギリス王室と決別するかのようにいろんなものを脱ぎ捨てていった。
そしてこの会場でダイアナの数奇な運命を織り成す驚くべき出会いがまたあった。
あのカメラマンフレイザーがいたのだ。
ドレスを買いに行ったんだ。
彼女との関係を強くするための投資さ。
ダイアナ妃が「あなたに買えるかしら」と笑うので「何とかします」と言ったよ。
4万4,000ドルは痛かったけどね。
その投資がフレイザーの人生をも変えるとてつもない仕事を引き寄せてしまう。
それがダイアナから撮影を頼まれたこの写真だった。
これがある意味王室への挑戦状である事をもちろんフレイザーは知らなかった。
現像した写真を見た瞬間…本当に言葉を失ったよ。
彼女のゴシップは絶えずあったけど俺の写真は決定的瞬間を捉えていたからね。
写真はフレイザーにばく大な金銭をもたらした。
もう引き返す事はできなかった。
ダイアナもキスの写真だけでは満足せずどんどんフレイザーに連絡してくるようになった。
ダイアナ妃のバカンス中俺は彼女の行動を全て把握していた。
いつも直接連絡を取っていたからね。
いつも彼女から電話してくるんだ。
「今ポルトフィーノの近くだわ」とか「今サルディーニャ島にいる」とかね。
その度に俺は頭を抱えながらヘリコプターやボートを手配し1時間以内に現場に着けるようにしたものさ。
船で寝ている写真があるんだけどそこに双眼鏡が写っているんだ。
それは俺の動きを確認するためのものだったんだよ。
確かにダイアナの頭の所には双眼鏡が置いてある。
手に握られているのは携帯電話。
本当に連絡を取り合っていたのだ。
そうしてフレイザーが撮り続けたダイアナの写真。
それが彼女の死の引き金にもなったのだ。
なぜならダイアナの写真で自分たちも一獲千金をと狙うパパラッチたちがヒートアップ。
あの事故に遭った夜もダイアナはパパラッチたちの追跡から懸命に逃れようとしていたのだ。
後に釈放されたが事故後すぐに連行されたのはパパラッチ。
その夜に起こった全てをフレイザーはロンドンで聞いた。
やはりこのスクープ写真が終わりの始まりだったのか。
もちろんだ。
あの夏騒ぎは転がる雪だるまのようにどんどん大きくなっていった。
そして軌道から外れもう完全に手に負えなくなった。
だからこの騒動によって何か悪い事が起きるんじゃないかって予感があったよ。
でもまさかあんな大惨事になるとは考えもしなかった。
三十数年前ただのカメラ小僧にすぎなかった少年。
のめり込んだのは強烈な光を放つダイアナ。
その夏かつてのカメラ小僧は世界一のパパラッチとなりダイアナの光はその夏をもって永遠に消えた。
何という運命だろう。
もうこの話はやめにしよう。
あの写真がダイアナ妃の人生にどんな影響を与えたか俺が誰よりも責任を感じているのはよく分かってるだろう。
あれから18年。
自責の念に駆られたフレイザーは写真を一枚も撮れない日々が長く続いたという。
世界中が悲しみに暮れたダイアナの死。
しかしその葬儀に立ち会えたのは王室関係者をはじめ僅かな人々だった。
その中に人目を忍ぶように参列する一人の男がいた。
それはダイアナが最後に愛した男。
あの事故さえなければダイアナはロンドンにいるこの男のもとへ帰ったのかもしれない。
ダイアナ最後の恋。
誰も知らないアナザーストーリー。
ロンドンから東へ50キロほどの所にあるとある病院。
事故から18年世間に出る事なく口をつぐんだ一人の医師がここで働いている。
パキスタン人外科医…彼こそがダイアナ最後の恋の相手だった。
その証しが彼女が身を包んだパキスタンの民族衣装。
カーンはかつてこう語っている。
ダイアナがカーンと出会ったのは亡くなるちょうど2年前。
その交際を知るのはごく親しい人だけだった。
誰にも知られてはいけない関係でした。
一緒に写った写真もありません。
「運命の人だ」と言って彼を心から愛していました。
カーンは特別な存在でした。
2人は将来本気で結婚するつもりでした。
聞けばしかしカーンは医者なのにタバコが好きでビールとジャンクフードが大好物という庶民的な人だったらしい。
普通に考えればプリンセスの相手とはなり難い人物をダイアナはなぜ選んだのか。
また少し過去に遡る必要がある。
ロンドンから車で2時間。
ダイアナは緑豊かなこのオルソープ城で育った。
父親のスペンサー卿はイギリス王室と数百年にわたり深いつながりを持つ名門の出身。
ダイアナはそんな家に4人きょうだいの3番目として生まれた。
まだ幼い頃のダイアナをよく覚えている人がいる。
ダイアナが9歳の時から養育係として常に付き添っていた。
何より印象に残っているのは初めて出会った時のダイアナの言葉だという。
(メアリー)こちらに歩いてくるダイアナは金色の髪にばら色の頬まさにイングリッシュ・ローズでした。
そしていきなりこう言いました。
「私は心から愛した人でなければ絶対に結婚しない。
離婚は絶対嫌だ」と。
そう思ったのも無理はない。
7歳の時に両親が離婚。
他に好きな人ができた母は子供を置いて出ていってしまったのだ。
その後やって来たまま母レインはいかにも上流階級的な趣味の人で初めは肌が合わなかったがやがてある影響を受ける。
というのもレインの母親バーバラは女王から勲章を受けたほどの恋愛小説の大家。
ダイアナも10歳ぐらいからバーバラが書いた恋愛小説を読みふけるようになっていく。
内容は大体上流階級に生きる男女が困難を乗り越えながら真実の愛を探し求めていくというものだ。
まあ本当だ。
ダイアナは本を読んで物思いにふけってますね。
未来を予知しようとしていたのかしら。
彼女は愛について随分ロマンチックな考え方をしていましたよ。
だから結婚するまで恋人はいなかったと思います。
そしてダイアナは二十歳の時真実の愛を求めて世の中へ出ていく。
しかしそこにはご存じのとおり夫の愛人カミラという絶望が待っているだけだった。
でその後のダイアナはご存じのように身分に関係なくさまざまな男性とつきあいながら真実の愛を探したものの…。
結果みんなに裏切られゴシップ記事のネタになる毎日。
それでもいつかは幸せになれると信じていた。
妻子持ちの美術商ホーとつきあった時も…。
彼女はホーさんが自分を愛してくれていると信じ込んでいました。
「離婚するって約束してくれたわ」って。
だから私はこう言ったんです。
「不倫する夫はみんなそう言うじゃない。
テレビドラマでもよく聞くセリフでしょ」って。
そのあとは「あぁ〜やっぱりダメだった」となって結果はめちゃくちゃでした。
それでもダイアナは真実の愛はきっとあると信じていた。
そんなダイアナに奇跡的な出会いが訪れるのは事故のちょうど2年前の事だった。
知り合いのお見舞いのために出かけたロンドン市内の病院でとうとうカーンに出会う。
全くの偶然だったらしい。
これまでの男ならダイアナだというだけで態度が変わるのにカーンは普通の女性と同じように接したのだという。
その日帰ってきた彼女はこう言いました。
「エレベーターのドアが開いた瞬間…私のジョージ・クルーニーがいたの。
そのほほ笑んだ目がとてもすてきで途端に私のハートは奪われてしまったわ」とね。
当時チャールズと既に別居しケンジントン宮殿に一人暮らしていたダイアナはそこにもカーンを招いた。
私が手引きしました。
車の後部座席にカーンを乗せ毛布をかぶせ宮殿の秘密の入り口から入りました。
シェフに「今夜は夕食を多めに頼む。
ダイアナ妃はとてもおなかがおすきだ」と指示しそれを2人分に分けたんですよ。
時には街なかのジャズクラブにお忍びで出かけた事もあったという。
それでも2人の関係が世間に漏れなかったのはカーンはダイアナの事を誰にも自慢気に話したりしなかったからだ。
「彼は私に何一つ求めなかった唯一の男性よ」と言っていました。
彼女はカーンのアパートに行き掃除や食事の片づけまでしたんです。
本当です。
もともとダイアナは誰とでも分け隔てなく接し国民から愛されてきた。
街にいるホームレスの話に耳を傾けた事もある。
そんな優しさが2人を結び付けたに違いない。
ダイアナは手術を見学した事もある。
彼の仕事を少しでも理解しようとするダイアナ。
カーンのどこにそれほどの魅力があったのか。
カーンを見て「彼のどこがいいのかしら?」と思う女性は多いでしょう。
太っていてタバコも吸うし酒も飲む。
お金持ちでもない。
でもダイアナ妃にとって心から愛してくれるだけで十分だったんです。
実は今回ダイアナの過去を探るうちに大きな発見があった。
それはダイアナが手にしている大好きだった一冊の恋愛小説。
全く同じものを探して物語を読んでみるとダイアナの人生と恐ろしいほど重なり合っていた。
そんな主人公の前に現れた男は…カーンはダイアナにとって約束の人だったのだ。
小説の最後はこんな文章で締めくくられていた。
2人が知り合ってからおよそ半年。
ダイアナはパキスタンを訪問。
カーンの親戚が営む病院も訪ねた。
こうした時間の合間メディアの目をかいくぐってカーンの両親に会い結婚の相談もしていた。
そんな最後の恋の行方が決まったのは事故の1か月前の事だった。
結果は破局。
理由はカーンの母親の強い反対とカーン自らが外科医としての静かな生活を捨てられなかったからだ。
ダイアナ最後の恋は終わった。
別れた夜彼女はとても傷ついた様子で帰ってきました。
「もう全ておしまいよ」と。
でも本当は終わっていませんでした。
そのためにダイアナが向かったのがあの海だった。
カーンとの最後の恋を成就させるためある作戦に打って出ようとしていたのだ。
それが自ら撮影させたこのスクープ写真。
「カーンに嫉妬してほしい。
もう一度自分を見てほしい」。
写真にはダイアナの切なる願いが込められていた。
ダイアナ妃は主導権を握りたがる性格だからあの写真でカーンを嫉妬させもう一度自分の方を向いてほしかったんじゃないかな。
その可能性は十分にあると思うよ。
カーンから呼び出され「一体どうなっているんだ?」と問いただされましたよ。
明らかに動揺していましたので「ダイアナ妃は君にメッセージを送っているんだよ」と私は言いました。
「あなたは私のもとに戻るつもりはあるの?」というメッセージなんだとね。
しかしそれはかなわなかった。
ダイアナがパリから戻ってくる事はなかったからだ。
フレイザーはあの日なぜダイアナが事故に遭ったのかもう一つの理由を知っていた。
それは事故のあった日の昼間リゾート地から戻るこの飛行機の中でダイアナに起こった事だった。
これはねあまり知られていない事だが…。
実はダイアナ妃はあの事故の日2人の息子に会うため本当はロンドンに帰ろうとしていたんだ。
だがドディがロンドンに戻ろうとする彼女をあの機内で説得して強引にパリに引き止めたんだ。
ドディは彼女を行かせなかった。
もしあの時ダイアナ妃がドディの誘いを断ってロンドンに戻っていたら彼女は今も生きていたはずなんだ。
パリから戻ったら2人の恋はきっと燃え上がったはずです。
(鐘)王室関係者やVIPなど限られた人だけが参列する事を許されたダイアナの葬儀。
カーンはバレルの計らいによってひっそりと参列していた。
サングラスを一人していたのも理由がある。
ダイアナからもらった大切な物だった。
カーンは恋人でした。
そこにいて当たり前です。
ただ泣き続けていました。
カーンは今も独身を貫き郊外の病院で外科医として働いている。
恋に生き恋に殉じた悲劇のプリンセスダイアナ。
彼女が放ち続けた強い光は多くのものを引き寄せ多くの人生をも変えた。
ダイアナを愛しダイアナに導かれし者たちのアナザーストーリーは続いている。
ロンドンから南へ数十キロ。
彼女が久しぶりに準備を始めた。
彼女には得意のポーズがある。
それがダイアナのこれ。
どうです?似てます?ダイアナのそっくりさんとして活躍したニッキー・リリー。
お目にかかれてうれしいわ。
ではダイアナになりきるコツ教えてもらいましょう。
一度下を見てカメラを見上げるの。
少し横を向いてね。
なるほど。
でダイアナの死はリリーの人生にどんな影響を与えたのか。
ショーウインドーに座らされ見せ物にされたりひどい仕事もあったけどダイアナも同じよね。
おかげで度胸がついたわ。
ダイアナが私を強くしてくれたのよ。
イギリスの市民はダイアナに今何を思うのか?もちろんよ。
亡くなった数日後にケンジントン宮殿に行ったよ。
忘れられないね。
彼女はやっぱりイギリスのバラよ。
私たちの世代はロイヤルファミリーの半分ぐらいしか知らないけどイギリスで彼女が誰よりも尊敬されている事は知ってるわ。
パパラッチに追いかけられてパリで亡くなったんだよね。
よく覚えているよ。
ありのままに生きたから愛されたんでしょう。
ダイアナ妃は完璧な人ではありませんでしたが彼女のおかげで王室の人間的な面がよく見え王も女王もみんな同じ人間だとダイアナ妃が教えてくれたのです。
そしてダイアナと共に生きた彼。
バレルが自分の花屋に毎日欠かす事なく置いている花はもちろんイングリッシュ・ローズ。
彼女の死から18年たった今でもバレルはダイアナの思い出と共に生きている。
(バレル)ダイアナ妃の話をするとその晩必ず夢に現れるんです。
夢の中で私たちはケンジントン宮殿でお茶を飲んだりテレビを見たりしながら何気ない会話をしているんです。
すると突然言いだすんです。
「私が死んでいないっていつ発表するの?私はいつまでここに隠れていればいいの?」と。
ですからダイアナ妃は私が死ぬ時までいつも一緒です。
息を引き取る瞬間までね。
ダイアナは今生まれ育った緑豊かな故郷に眠っている。
(拍手)2015/07/12(日) 00:05〜01:05
NHK総合1・神戸
アナザーストーリーズ 運命の分岐点「ダイアナ妃事故死“最後の恋”の駆け引き」[字]

世界に衝撃を与えたダイアナ妃事故死。彼女に仕えた執事、追いつめたパパラッチなど、舞台裏を知る者たちの「新証言」から見えてきた、プリンセスの最後の恋の真実とは?

詳細情報
番組内容
1997年8月31日。世界に衝撃を与えたダイアナ妃の事故死。その謎に満ちた最期は、今なおさまざまな憶測が渦巻く。すべてを間近で見てきたダイアナの執事、追い詰めたパパラッチ、王室との確執、奔放なプリンセスの周りでは、さまざまな“思惑”が交錯する。あの事故から18年、舞台裏を知る者たちが語る「新証言」の数々、そこから見えて来る悲劇のプリンセスの最後の恋の真実とは?
出演者
【司会】真木よう子,【語り】濱田岳

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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