さて今日は白夜の世界へご案内しましょう。
国境の3分の1が海に面しているフィンランド湾にはおよそ300の小島があります。
そのなかの一つクルーヴハルへ向かいました。
ハルとは島という意味。
小さな島には1軒だけ建物があります。
ここはある画家が夏を過ごした家。
すべて手づくり。
部屋の中はどんな感じなのかしら。
それはのちほど。
この家の主は画家トーベ・ヤンソン。
フィンランドを代表するアーティストです。
その作品は私も大好き。
そう世界中に知られる作品です。
作品というよりキャラクターそのものが愛されていると言ったほうがいいでしょう。
しかし真実の彼らの姿はちょっと違う雰囲気なのです。
フィンランド第2の首都タンペレ。
湖と川に囲まれ工業都市として発展してきました。
この街を訪れる観光客のお目当てはフィンランドの芸術家の作品を展示しているそのなかでもいちばんの人気スポットはこちら。
家の模型がありますね。
見覚えありませんか?ほらよ〜く見ると…。
いましたあの人気キャラクターが。
今日の作品…。
では物語の名場面を原画で見てみることに。
日本でおなじみのムーミンとは違うモノトーンの世界です。
1枚目はムーミンパパが若き日を回想する物語。
ムーミンママとの初めての出会いは荒れ狂う海でした。
波にのまれたムーミンママを助けに行くシーン。
黒いインクで描かれた波が恐ろしいほどの迫力です。
次は『たのしいムーミン一家』からこの一枚。
岩に激しく打ち寄せる波と稲妻がムーミンたちを襲います。
しかしムーミンは恐れるというよりも興味津々の様子。
『ムーミンパパ海へいく』ではのんびりピクニックをしているその場所がユニーク。
海に浮かぶ小島。
しかも降りしきる雨の中。
画面のほとんどは雨。
まるで雨が主役のよう。
ムーミンの物語には海や嵐が多く描かれています。
実は海に画家の特別な思いが込められているのです。
では知られざるムーミンワールドへご案内しましょう。
ムーミンの個性的な仲間たちをご紹介しておきましょう。
黒いシルクハットの詩を書くことが大好きなロマンチストです。
家族をいつも温かく見守っているのがトレードマークはエプロンとハンドバッグ。
ムーミンのガールフレンド実はノンノンは日本だけの呼び名で物語ではこちら。
ムーミンの親友だけどちょっと意地悪な女の子がいつも何かをたくらんでいるような顔でしょ?他にも紹介したい仲間たちがいっぱい。
それはまたあとで。
今日の案内人はこの2人。
雑誌編集長とその部下です。
2人のニックネームが…。
ミィこれはどうだろう?ムーミンパパピンとこないわ。
似てますよねあの2人に。
特集は何にしようか?フィンランドのバイキング英雄伝説はダメ?ハア…今どきそんなの誰が読むんですか?もっとオシャレでインパクトのあるやつ!インパクトってバイキングも結構インパクトが…。
フウ…いい?古くさいのはパイプと帽子だけにしてください。
キミは本当にひねくれ者だな。
だからミィって呼ばれているんでしょう?ひねくれ者で結構だわ。
本当のミィはね賢くて優しくてムーミンパパと仲よしなんだよ。
はいはい…。
さっさと特集決めないと出版できないわよ。
そうだムーミン特集をしよう。
ムーミンから学ぶことがたくさんあるんだよ。
もう知ってるわよ。
ムーミンパパが夢想家ってこともね!最初に生まれたキャラクターがムーミン・トロール。
トロールとはフィンランドでお化けや悪魔この世のものではない生き物を意味します。
しかしムーミンは愛らしく冒険が大好きな男の子。
1945年トーベ・ヤンソンは物語を発表します。
その主人公がムーミン。
今年で70歳です。
挿絵の中で登場するムーミンは今とはちょっと違う姿。
実はムーミンには原型といわれる絵があります。
その誕生より少し前に描かれたトーベいわくなぜそんな呼び名でなぜこれが原型なのか?私たちの知る愛らしいムーミンになった訳は?画家の人生をも変えたムーミン。
愛すべきキャラクター誕生に秘められた画家の苦悩がそこに…。
今日の作品は黒いインクのみで描かれた原画。
カラフルで愛らしいムーミンとは違いますがシンプルながら存在感のある作品です。
ムーミンが誕生したのは70年前。
しかしその前に描かれたムーミンの原型がありました。
政治風刺雑誌『ガルム』。
トーベ・ヤンソンは挿絵画家として絵を描いていました。
そのタイトルの隅っこにサインとともに描いたのがこのキャラクター。
本当だかわいくない!しかしこの生き物がいなければ今のムーミンもいないしパパやミィも生まれない。
まさに運命。
運命なんだよ!自分で醜い生き物って言ってるあたりがひねくれてるわね。
トーベもひねくれ者?怒ってる意味がわからんのか?この絵をよ〜く見てごらん。
どういう意味よ!?何が描いてある?この男は誰?私も怒ってるわよムーミンパパに。
なんで?私をバカにしてるから!フィンランド共和国の首都ヘルシンキ。
1914年トーベ・ヤンソンはこの街で生まれました。
父は彫刻家母は挿絵画家という芸術一家。
トーベに最初に絵の手ほどきをしたのは母のシグネ。
2歳から絵を描き始めヘルシンキの画学校へ通い画家になることを夢見ていました。
トーベの描く絵は早くから認められ挿絵画家として仕事を始めたのは15歳のときです。
でもあくまでも生活のため。
目指していたのは油絵の画家でした。
華やかな色彩への憧れ。
パリやイタリアにも留学し画家の道を極めようとひたすら絵を描いた若き日。
ところがあるときをきっかけに油絵の制作を止めてしまうのです。
トーベにも会い伝記を書いています。
この頃トーベが描いた『ガルム』の表紙。
何もかも奪っていくヒトラーの強欲さが辛辣に描かれています。
そして描かれたトーベはなぜそう名づけたのか?戦争は美しいものを踏みにじり怒りや悲しみで世界を染めていく。
そんな時代のなかで美しい絵を描く気力を失っていたのです。
トーベを襲う不安や恐怖がいつも怒っている醜い生き物となって姿を現したのかもしれません。
しかし1945年第二次世界大戦が終結するとトーベは『小さなトロールと大きな洪水』という物語を発表します。
ストーリーもトーベ自身が書きました。
ムーミンたちの家が洪水で流され美しい谷にたどり着くというお話。
そうムーミン谷の始まりです。
戦争が終わり幸せな時代がやってくる。
そんな思いを込めて。
1作目の1945年から1970年までに全9作。
「ムーミン物語」のシリーズが作られました。
2作目の『ムーミン谷の彗星』では彗星の激突で地球滅亡の危機が。
しかしムーミンは仲間たちと知恵をしぼって地球を救うのです。
困難があっても乗り越えるハッピーエンドの物語。
ムーミンの姿も時代が着実に平和に向かうとともにふっくらとした愛らしい姿になっていきます。
もういつも怒っている醜い生き物は必要なくなったのです。
そして1954年イギリスの夕刊紙がこのムーミンに目をつけました。
トーベに『ムーミン』の連載漫画を依頼するのです。
生き生きとしたキャラクターたちとコミカルなストーリーが大ウケ。
漫画や本は40か国で翻訳され世界中の人気者になるのです。
ムーミンの物語を彩るユニークなキャラクター。
ミムラはミィのお姉さん。
いたずらな妹を見守る優しい女性です。
ニョロニョロは雷を吸い取って輝く不思議な生物。
そして旅を愛するスナフキンはムーミンが心から尊敬している人。
実はムーミンの物語にはなんか自分に似ているなって思うキャラクターが必ずいるんです。
この2人みたいに…。
ところでキミは『ムーミン』シリーズを全部読んだ?読みましたよ。
『ムーミンパパの思い出』が好きだな。
珍しいね意見が一致。
フィンランドらしい海の絵がたくさん描かれているよね。
な〜んにもわかってないのね。
な…なに?ミィのセリフです。
なんて意地悪なことを!この絵がフィンランドらしい?フン!ムーミンパパの知ったかぶり!うぅ…チッ!2人のお気に入り『ムーミンパパの思い出』に描かれた絵がこちら。
海に囲まれたフィンランドらしい場面。
実は日本のあの絵が関係しているのです。
『ムーミン』にたびたび描かれる海。
海に囲まれたフィンランドで生まれ育ったトーベにとっては見慣れた風景でした。
幼い頃トーベと海で遊んだそうです。
海はトーベの芸術の源。
フィンランド湾をボートに揺られることおよそ30分。
見えてきたのがトーベの島クルーヴハル。
ゴツゴツした岩の島に小さな家が1軒だけ。
トーベが夏を過ごした別荘です。
すべてトーベが家族や友人とつくりました。
部屋はワンルーム。
机やベッドキッチンが機能的に配置されています。
壁も食器棚も手づくり。
トーベがここで波の音を聞きながら海を見つめ待っていたもの。
それは嵐や雷。
激しく変化する海の風景を描きたかったのです。
子供の頃から海を身近に感じてきたトーベは海に芸術の感性を揺さぶる美しさを感じていました。
大きな波に襲われるこの場面は…。
トーベは激しく襲いかかる波を細く勢いのある線で白く泡立つ波頭は下地の色を残しながら迫力あるシーンを描き出しました。
この作品も北斎の絵からヒントを得ています。
襲いかかる波や暗闇に走る稲妻。
トーベは浮世絵ならではの線の力強さを自分の作品に取り入れたのです。
そして海に浮かぶ小島での雨のピクニックは…。
そう歌川広重の『大はしあたけの夕立』です。
画家として追求したのは挿絵であろうと芸術性の高い作品を描くこと。
それによって架空の物語がリアルに迫ってきます。
愛らしいキャラクターたちの生き生きとした冒険物語が今も私たちに響いてくるのはトーベの画家としての情熱が込められているからです。
70年の時を経ても色あせることのないムーミンワールドがそこにあります。
(すすり泣く声)ねぇどうして泣いているの?感激しているんだよ。
キミがちゃんとムーミンの世界を学んでいたなんて。
僕の言うことなんて全然聞いてないのに。
そうそう!ミィの台詞です。
つまり私は編集長あなたを信頼してるわ。
ちょっと古くさいけど。
ああなんてステキな言葉だ!そうだ!ムーミンの名言を特集しよう。
きっと誰もが幸せになれるよ。
さあやろう。
もう調子にのらないで。
あ〜あ…。
その絵と物語はかわいいだけではありません。
傷つき悩み厳しい自然に立ち向かう姿や心を打つ物語があります。
本当に伝えたかったのは人生は厳しい。
でもその困難を乗り越えれば必ず幸せはやってくるということ。
トーベ・ヤンソン作『ムーミン』。
愛すべきキャラクターに込めた勇気と希望。
大量のダンボールで工作に夢中の親子。
ここ持たないと。
2015/07/11(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち トーベ・ヤンソン『ムーミン』生誕70周年!ムーミンワールドの真実[字]
毎回一つの作品にスポットを当てそこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日は懐かしの人気キャラクターSP第2弾トーベ・ヤンソン『ムーミン』
詳細情報
番組内容
人気キャラクターを2週にわたってアートの視点でひも解く“懐かしの人気キャラクターSP”。第2弾の今日の作品は、今年で70歳!トーベ・ヤンソン作『ムーミン』。もともとは彼女が書いた物語の挿絵でしたが、実はそれより10年前、政治風刺雑誌にその原型が描かれていました。しかもトーベ・ヤンソン曰く「いつも怒っている醜い生き物」。なぜこの絵から愛らしいムーミンに?
番組内容の続き
その裏には画家の苦悩と、可愛いだけにとどまらない物語が。さらに度々描かれる海には、日本の“あの絵”が関係していたのです。70年経っても色褪せない、真実のムーミンワールドへご案内します。
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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