<芥川賞>又吉直樹さん会見詳報「テレビで太宰好きと言って申し訳なくなる」
毎日新聞 7月16日(木)22時36分配信
第153回芥川賞に又吉直樹さん(35)の「火花」(文学界2月号)が選ばれた。他の受賞者とともに記者会見に出席した又吉さんの喜びの声は以下の通り。【デジタル報道センター】
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又吉さん すごくびっくりしました。うれしいです。ありがとうございます。
−−太宰治が欲しかった芥川賞を受賞してどう思いますか。あと、若い人へのメッセージを。
◆小説を読み始めたのは芥川、太宰からだった。太宰は芥川賞を取れなくて川端康成に手紙を書いたと聞いていました。テレビで太宰好きと言って、たまに申し訳ない気持ちになります。テレビで好きというたびに、三鷹までお墓参りに行くようにしています。今月2〜3回行きました。おもしろい小説はたくさんあります。最初に僕の小説を読んで合わないからといって、小説読むのをやめようって思わないでほしい。僕の作品でジャッジしないでほしい。100冊読んだら、絶対本好きになると思う。そこまで頑張ってほしい。
−−「万事に整った環境」にいる今のお気持ちを。
◆うそみたいな感じ。似合ってますかね? 金びょうぶ。これだけ緊張することはない。ダブル受賞もすごくうれしいです。羽田さんにも(著書を)紹介していただいて、プロの作家さんに偏見なく扱ってもらえることがうれしいです。
−−芥川龍之介は何と声をかけるでしょうか。
◆僕みたいな髪形のやつ嫌いだと思います。ベートーベンのことを天才ぶっていると書いているものがあり、それが印象深いです。僕はベートーベンは顔と髪形が合っているな、と思っていたので……。芥川の書いたものは説得力あるので、この髪形見て、うそつけって言うと思う。(芥川にほめてもらう自信?)ないです。
−−芸人の世界を描いているが、その世界では兄さん(兄弟子)や師匠がいるが、そうした方から、これから「先生」って言われると思うんですが、その点についてはいかがですか?
◆僕のことをふざけて先生と呼ぶことはあると思うが、本気で先生と呼ぼうとしているのは(ピースで相方の)綾部だけだと思うので安心しています(笑い)。いろんな先輩から「読んだで」と言ってもらえるのは、感謝しています。
−−受賞して芸人として不都合はありませんか?
◆注目してもらえるのは芸人としてうれしいことなんで、不都合はないと思う。コンビでやっていますし。
−−綾部さんとは話をした?
◆仕事中みたいで。コメントはくださったみたいですけど……(相方に)敬語を使ってしまいましたけど(笑い)。
−−芥川賞にノミネートされた辺りから自信はあったのでしょうか?
◆候補にしていただけたという時点で、うれしかったのと驚いたのとで、自信はなかったです。でも、自信はゼロですと言いながらも、朝から緊張はしていたんで。もしかしたら、どこか勘違いしていた部分があったかもしれない。
−−小説を書いて変わったことはありますか?
◆書く前はすごくおびえてもいたんですけど、書いている時は楽しかったですね。「広い表現」というか、「いろんなことができるな」って思いました。生活の面では小説をすごく注目していただいて、今まで「死に神」と呼ばれていた感じと少し変わりましたかね。
−−これから変わることはありますか?
◆今まで芸人を100でやって、それ以外の時間で書くというのをやってきたんで、それを崩すというのはやらないと思います。どちらにとってもそれがいいと思うんですよね。(お笑いの)ライブを毎月やっているんですけど、コントでできなかったこととか、それをそのまま書けないんですけど、どっかに残っていて文章を書くときの一歩目になることが多いですね。
−−今回の作品を書こうと思ったきっかけは?
◆「小説を書いてみませんか」と声を掛けていただいたのが大きい理由としてありますね。あとは急にテンションが上がったというか、たとえが難しいですけど、ジャッキー・チェンの映画を見た翌日に階段を走りながら駆け上がりたい衝動に駆られることってあるじゃないですか。西加奈子さんの「サラバ!」(第152回直木賞受賞作)を読んで、無敵のような状態になったのも大きかったんじゃないでしょうか。
−−100万部のイメージはありますか?
◆小説を書いている時、イメージはなかった。自分で作品に向き合って書いていました。書き終わると、いろんな方に読んでもらいたいと思うようになりました。どんどん、読んでほしい。僕の作品を読んで、さらに別のものを読んで、本が好きな人が増えたら楽しくなる。あと「火花」は若手芸人の話。ぜひ劇場にも来てほしい。同じように劇場でやっている音楽や演劇も盛り上がればいいと思う。
−−お笑いは話す芸、小説は書く芸。それぞれ不自由さを感じることはありますか。
◆お笑いは何をやってもいいというのがあるんですけど、子供みたいなこと言うと、自分が2人とか3人になれたら幅が広がるなあと思います。それでも、自分の身体と声でやるしかない。そんなに不自由は感じません。お笑いは(お客さんの)反応を見て話すことを変えることができるが、小説は書いたものがそのまま読まれる。
−−最後に一言。
◆ぜひ読んでみてください。