二週間も延び延びになっていたイランの核開発を巡る協議は、14日、ようやく決着がついた。イランは、今後ウラン濃縮は原子力発電用のみの濃縮度合いにとどめ、IAEAの国内施設の査察を認めるなど、核開発を制限し、その見返りに、イラン向けに課されてきた経済制裁を解除する、ということで、両者合意したのである。本来ならば先月中に決着がつくべきところ、期限は三度も延期された。
この合意が重要なのは、核開発が本当に止まるかどうかではない。1979年、イラン革命から9か月後に発生した在イラン米国大使館人質事件以来、初めてイランと米国が外交上歩み寄った出来事だからである。そもそも二年前、ロウハーニがイラン大統領に就任したことを契機に、ロウハーニが国連総会に出席するため渡米したり、並行してザリーフ外相がケリー国務長官と会談したりと、閉ざされていた両国関係は動き始めた。その流れで、米、イランを含む六か国による核開発協議が開始されたのだが、2013年11月に「第一段階の合意」が成立したあとは進展のないまま、今に至っていたのである。
協議の行方がどうなるか、決裂の懸念もささやかれていたが、米政権の対イラン接近という方向性には変わりようがなかったといえよう。なにより「イスラーム国」(IS)対策上、米政権にとってイランの協力は不可欠だからだ。イラクに入り込んだISを追い出すには、シーア派志願兵を中心とした「人民動員組織」に頼る他ないが、その人民動員組織を実質的に指導、監督しているのは、イランの革命防衛隊だ。
いや、ISのことがなくとも、米政権がイランとの関係改善を模索したことは、過去にもある。クリントン政権期、当時のオルブライト国務長官がイランに譲歩した態度を示したことがあった。残念ながらこの時は、穏健派ハータミー大統領の国内での勢いが下降路線にあって、このラブコールは通じなかった。いずれにしても、域内大国であるイランを無視して中東情勢の安定化は難しい、という認識は、オバマ政権のみならず米国の政策決定者の間ではある程度共有されてきた。
この米国の姿勢は、当然ながら、反イランを掲げる同盟国の神経を逆撫でしている。イスラエルのネタニヤフ首相は、これまでも繰り返し、協議合意に反対の意向を示してきたが、今回の合意を受けて、「歴史的な大間違い」と怒り心頭だ。
だが、イスラエル以上に怒りと危機感を覚えているのが、サウディアラビアである。これまで米国の後ろ盾を当然視してきたサウディとしては、仇敵イランにその地位を奪われるのでは、と危惧している。その危惧は杞憂ではない。「Gゼロの世界」を提唱したアメリカの政治学者、イアン・ブレマーは、「この後10年以内に、アメリカとイランとの関係は、サウディアラビア以上に密接なものとなっているだろう」とつぶやいている。
最大の対米同盟国という地位を失うだけではない。サルマン国王になってからのサウディアラビア王政は、欧米のサウディ研究者が「パラノイア状態」と呼ぶほどに、宗派抗争への思い込みを強めている。そしてその背景にイランがいると、妄想とも言えるほどにシーア派を危険視している。協議合意を受けてサウディアラビアのあるコラムニストは、「このような形でイランと合意が成立したら、イランはますますシーア派の武装勢力に肩入れするばかりではないか」、と怒りをあらわにした。
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