アニメや映画の中で夢物語として描かれてきた人型ロボット、ヒューマノイド。
それが今現実になろうとしています。
先月アメリカでヒューマノイドの技術を競う世界大会が開かれました。
6つの国と地域23チームが目指したのは災害現場で活動できるヒューマノイドの開発です。
大会のきっかけは東京電力福島第一原発の事故。
事故の収束のためにさまざまなロボットが投入されましたが多くの壁に直面しました。
こうした課題を解決するにはヒューマノイドの開発が急務として世界中が官民を挙げて研究に乗り出したのです。
大会での活躍が期待されたロボット大国、日本。
しかし、思わぬ苦戦を強いられます。
ロボットが挑んだのは原発事故を想定したさまざまな課題です。
成長産業の本命と目され世界で開発が進むヒューマノイド。
今夜は、その最前線から見えた課題と可能性に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
ひとたび、原子力発電所で重大な事故が起きれば人は災害現場に近づくことができなくなります。
福島第一原子力発電所の事故をきっかけに人に代わって事故を収束させ人命救助などを行う人型ロボットの開発が加速しています。
先月、アメリカで世界のトップクラスの研究チームが開発した人型ロボットヒューマノイドの性能を競い合う競技会が行われました。
こちらが、その競技会に参加した23のロボットです。
ご覧のように、ほとんどが2本の足、そして2本の腕を持ち身長はおよそ170センチです。
災害現場を想定した8つの課題を1時間以内に、どれだけ早くクリアすることができるかを競い合いました。
スタジオには、それらの課題のいくつかを再現しました。
扉を開けて部屋に入る。
そして、バルブを回す。
がれきを乗り越えて進んでそして、階段を上る。
これらの課題、いずれも人間にとってみますと簡単なものばかりなんですけどもロボットにとりますと容易ではありません。
ロボットが自分のいる空間を把握するためには画像認識技術が必要です。
また正確な位置に手足を運ぼうとしますと制御技術、またバランスを取りながら2足歩行できる技術も必要です。
いずれもハード、ソフト両面で高いテクノロジーが求められるのです。
人型ロボットの開発の歴史が長い日本は、ロボット大国ともいわれているんですけれどもその技術はどこまで競技会で通用したのでしょうか。
今回の競技会を通して見えてきたのは人の助けを借りずに判断し行動できるロボットの急速な進歩でした。
先月、アメリカロサンゼルス郊外の競馬場。
次々とお披露目されたのは世界各国から集結したロボットです。
国を代表する大学や研究機関が世界大会に向け最新鋭のヒューマノイドを持ち込んできました。
日本から出場したのは東大や産業技術総合研究所など4チーム。
世界のヒューマノイド研究をリードしてきた日本には大きな期待が寄せられていました。
大会を主催したのはアメリカ国防総省の研究機関ダーパです。
インターネットやGPSもここで開発された技術です。
ダーパがヒューマノイドの大会を開く目的は世界の研究者を競わせて災害用ロボットを実用化することにあります。
アメリカのチームには、ダーパが最大で5億円にもなる資金を提供。
開発をサポートしてきました。
大会の競技は、原発事故を想定した特設コースで行われます。
コースから500メートル離れた場所にコントロールルームがあり人間は無線を使ってロボットを遠隔操作します。
映像などで現場の状況を把握し指示を与えるのです。
コースには8つの課題が設定されています。
車の運転建物への進入バルブを回すなど、3つの作業。
そして、がれきを乗り越え階段を上ればゴールです。
課題をクリアするごとに1点が与えられ制限時間1時間で競います。
6月5日朝8時。
数千人の観客が見守る中ヒューマノイド世界一をかけた戦いが始まりました。
ところが、競技が始まると予想外の事態が起こります。
世界最先端のロボットがコース上で次々と転倒したのです。
屋外特有の突風や強い直射日光によるセンサーの誤作動などが重なり転倒が相次いだと見られます。
不安が広がる中期待の日本チームが登場しました。
産業技術総合研究所・産総研の誇るヒューマノイドHRPー2です。
最初の課題、自動車の運転が始まりました。
ロボットがハンドルを握り足でアクセルを操作しています。
しかし、実際に操縦しているのは人間。
ゲームのコントローラーを使って遠隔操作する初歩的な課題です。
産総研は世界のヒューマノイド開発をリードしてきた研究機関の一つです。
人間と共に働けるロボットを目標に掲げより人間らしい歩行やしなやかな関節の動きを目指してきました。
全身に30個ある関節を制御することで人間さながらに踊ることも可能です。
HRPー2が建物への進入に取りかかります。
ドアを開けるには正確に腕を動かし確実にノブをつかむ必要があります。
許される誤差は僅か1センチ。
よしっ!よっしゃ!
無事に建物に入りました。
しかし、この先にはさらに大きな壁が待っています。
実は建物の中では数秒置きに電波が遮断されロボットとの通信ができなくなるのです。
そのため人間の指示がなくてもロボットがみずから考えて行動できる自律性が求められます。
電波が妨害される建物の中に入ると産総研のロボットは作業の遅れが目立ち始めました。
一つの動作をするたびに考え込むように動きが止まってしまいます。
原因は、ロボット自身が判断して行動する自律性の低さにありました。
産総研のロボットは目の代わりに3次元レーザーで空間を認識しています。
しかし、レーザーの認識が実際の空間とずれていた場合人間による修正が必要です。
人間の指示を待っている間HRPー2は動くことができません。
一方、ロボットの自律性を高めることに集中してきたチームがあります。
MIT・マサチューセッツ工科大学です。
MITのロボット、ヘリオスは人間の助けを借りることなくみずからバランスを取りながら車から降りることさえ可能です。
ヘリオスには、高い自律性を実現するソフトウエアが組み込まれています。
簡単な指示を与えるだけでロボットが最適なルートを考えバランスを取りながら歩くことができます。
MITは、アメリカ政府の潤沢な資金を使って自律性を高める研究に取り組んできました。
大会の主催者であるダーパが資金だけでなくロボット本体も無償で提供しました。
MITは、自律性を高めるソフトウエアの改良に専念してきたのです。
その結果、認知、行動体のバランスの保持という3つの処理を同時に計算し最適な手順を高速で導き出すソフトを開発したのです。
国防予算を集中投下してヒューマノイド開発を推し進めるアメリカ。
技術の追い上げは想像を超えるスピードで進んでいました。
コースの後半。
産総研のロボットはがれきの認識に時間がかかりなかなか動くことができません。
一方のMITのヘリオス。
コントロールルームの研究者たちは何も操作を行っていません。
それでもヘリオスはみずからの判断でがれきの上を一歩一歩進んでいました。
競技はいよいよ大詰め。
HRPー2は、がれきの課題の終盤にさしかかっていました。
残り時間はあと8分。
黄色の線を越えればがれきの課題はクリアです。
最後の一歩。
ロボットが地面の高さを僅か4センチ見誤ったことによる転倒でした。
産総研は、課題をすべて終えられずにリタイア。
結果は10位に終わりました。
もう一つ期待の高かった東大も転倒が響き、11位。
日本チームを束ねてきた経済産業省は、この結果に危機感を募らせています。
優勝を果たしたのは韓国の大学、カイストでした。
高度な自律性はないものの車輪で走行するなど転倒を避け、安全に課題をクリアすることに徹した作戦の勝利でした。
高い自律性を誇ったMITのヘリオスは操作する人間のミスが響いて最終成績は6位に終わりました。
しかし、産総研では今回の大会で強みを発揮した自律性こそが今後のヒューマノイド実用化の鍵を握ると見ています。
今夜は、世界のロボット産業にお詳しい、大阪工業大学教授、本田幸夫さんです。
1位の韓国は44分で課題をクリアしたという結果で、日本は転倒もあって、残念ながら、10位が最高。
結果、どう受け止めていらっしゃいますか?
10位っていうのは、ちょっと残念なんですけれども、ただ、実際には、日本が参加を決めたのは1年前で、開発期間は10か月しかなかったんですね。
他のチームは予選から参加していまして、3年以上の開発期間があったと。
それと先ほど、産業技術総合研究所のHRPー2というのは、実はもう12年以上前に開発されたロボットで。
古いロボットなんですね。
古いロボットなんですね。
それで、この成績というのは、逆に日本のロボット技術っていうのは、やはりすばらしいなと、技術者も含めてというのを世界に再認識されたというのは、事実だと思います。
一方で、世界も日本のヒューマノイド技術を学んで、かなり日本を超えるようなところまで来たというのも、事実だと思います。
日本から参加したのは、4つのロボットで、ちょっとこちら、ご覧いただきたいんですけれども、いろいろな形をしていますけれども、一方で、アメリカのロボットというのは、同じ形、6チーム参加したんですけれども、みんな同じ形をしているんですね。
ちょっと軍隊みたいなロボットになっていると思うんですけれども、アメリカはハードウエアのものづくりというよりも、中の、ソフトをどうするのかということにこだわって今回、参加したということなんですね。
日本はやっぱり、ものづくりの国ですので、ロボットのものづくりにこだわってるというのが、特徴として表れてるかなと思います。
ですから、それはロボットは提供されたものを使って、そして競い合ったのは、自律性、この頭脳の部分の開発だったと?
ロボットが優れるのは、人間っていうのは、いろんな知識を得るのに、新聞を読んだり、本を読んだり、人と話したりしないと知識得れないんですけれども、ロボットというのは、ネットワークにつながってますので、一つのロボットが体験したことっていうのは、瞬時にすべてのロボットが共有化できると。
そういう自律性を持つ人工知能といわれるところの技術っていうのは、今、すごく世界で進んでおりまして、アメリカはその自律性を確かめるために今回のトライアルに臨んだというところがあると思います。
そうしますと、今回、同じロボットで、いろんな体験をした、その体験したこと、データというのは。
アメリカ政府に、それを提供する義務を負ってるらしくて、これからアメリカ政府はそのデータを、すべてのロボットに共有化して入れることができますので、すごくしたたかな戦略を持って、今回の大会を運営してたということだと思うんです。
そうすると、6ロボットの体験がまた集約されて、自律性がよりまた高まっていくという。
そうだと思います。
ことになるわけですか?
ハードウエアが違うと、いくら自律性が高いソフトができたとしても、違うハードウエアで同じような動きができるのかというのは、また研究の対象になろうかと思いますので、ハードウエアが同じっていうのは、効率として、実用化を考えると、非常にいい戦略を取ったんではないかと思います。
非常に合理的ですよね。
そうですね、合理的な、本当に廃炉のビジネスとかですね、軍隊用で使うかという目的を、明確に決めて、実用性を高めるためにどうしたらいいのかと、それは自律性を高めたロボットのソフトウエアだということに注目して開発を進めているということだと思うんです。
コンテストのもようを見てますと、また自律性ということとは別に、設計思想がハードの面でも、如実に違うなというふうに、印象づけられるシーンがありました、これ、バルブを回すところですよね。
これはアメリカのロボットは、もうこのモーターでぐるぐるっと回っちゃいますよね。
360度。
すぐ終わってしまうと。
一方、日本のロボットは、次出てきますけれども、人と同じような動きをして。
これですね。
持ち替えたりしながら、アメリカは、このへんに設計の差が出ていると、この国民性の差も出てるのかもしれませんけれども。
もちろん、日本もああいう手首を作るのは。
それはもう、産業ロボットやってるので、簡単にできるんですけれども、日本はヒューマノイドの技術で、人の代わりになって、動けるロボットというところを今回、確かめているということだと思うんです。
やはり、より人間らしく?
そうですね。
見ていただいても、日本のロボットというのは、なんとなくかわいいですよね。
重量も人間とあまり変わらない、80キロぐらいなんですけど、アメリカのロボットというのは、200キロ以上あるんですね。
日本の家では、恐らく床が抜けるんじゃないかということなんで、日本はやはり、人間に似せたロボットを作るということを、ずっとやってきましたので、その一日のちょうというのは、確かにあると思うんです。
ただ、時間を競うということになると、ちょっと残念だったなというのがあるかと思います。
こうやって、アメリカの自律性という意味では、優れたものを見たわけですけれども、日本のロボットの自律性というのは、レベルというのは今、どう受け止めたらいいんでしょうか?
日本も決して負けてるわけではなくて、非常に優れた技術レベルを持っていると思います。
ですが、これから、今回、学んだことを教訓に、ハードウエアプラスソフトウエアの自律性の開発を進めていくと。
で、プラス、アメリカのように実際にターゲットを決めて、使っていくということで、経験を積ませるというのが非常に大事だと思うんですね。
それをやれるかどうかっていうのが、日本の技術が勝っていけるかどうかの境目になるかもしれませんね。
ロボット産業の育成も、成長の柱の一つに位置づけられていると思うんですけれども、介護の現場、あるいは福祉の現場などでの活用が期待されていますけども、本当にその産業として育てていくための、これからの鍵っていうのが、使っていくということですか?
そうです。
技術と、研究室からやっぱり、ロボットを出して、使ってみて、ロボットがどういう動きをしたり、どういうことになったのかというのを経験を積ませないと、本当に使えるロボットにはなっていかないと、それが、これからのロボットの、人間型ロボット、すべてのロボットのサービスロボットと呼ばれているんですけれども、差になってくると思います。
社会に受け入れられるかどうかということは試さないとだめなんですね。
試さないと分からないですね。
2015/07/09(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「人間型ロボット 頂上決戦〜進化続ける夢の技術〜」[字]
先月、アメリカで開催された人型ロボットの技術を競うコンテストに密着。技術の最前線に迫るとともに、日本が世界のロボット産業の中で置かれた現実と今後の可能性を考える
詳細情報
番組内容
【ゲスト】大阪工業大学教授…本田幸夫,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】大阪工業大学教授…本田幸夫,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:6945(0x1B21)