声が出るとうれしいですね。
泣いてもうれしいですね。
(取材者)泣いてもうれしい?うん。
う〜ん声のトーンっていうかね声自体は前と変わりないんで。
(取材者)元気だった頃…。
そうですね元気だった頃と。
お願いします。
おはようございます。
福田明美さんと夫の寿之さん。
明美さんは9年前睡眠中に突然心臓が止まりました。
救急車で運ばれ命は救われましたが脳が大きなダメージを受け意識不明になりました。
目は開いているものの見えているかどうか分かりません。
呼びかけられても答える事はありません。
遷延性意識障害もしくは植物状態と呼ばれています。
この状態は脳全体が機能しなくなる脳死と違い生命を維持する事はできます。
安楽死や尊厳死を巡って世界中で議論されています。
明美さんは化粧品会社の研究所で働く薬学の研究者でした。
寿之さんとは職場結婚。
当時夫婦が同じ部署で働けない暗黙のルールがあり明美さんが配置換えに。
やがて退職し地域の薬局で忙しく働いていました。
一方寿之さんは研究者として高く評価され海外から講演に招かれるなど多忙でした。
そのさなかに明美さんの心臓が止まりました。
あっちゃんあっちゃん!あっちゃん!あっちゃん!寿之さんは明美さんの両親と交代で病室に通い続けました。
数日で命の危機を脱しましたが担当医からは意識の回復は難しく介護が大変なため尊厳死を選ぶ家族もいると説明されました。
(寿之)僕も妻は奇跡的かもしんないけどもまだ意識がパッと戻って元の生活ができるというふうに思ってましたのでせっかく命が今助かって心臓が動き出してる訳ですからその時はもうはっきり「尊厳死はもう考えません」というような事を言った覚えがあります。
はいあっちゃんお口をモグモグするからね。
顔の筋肉をねマッサージしとこう。
それから9年。
「もう一度食べてもらいたい。
声を聞かせてほしい」と願う寿之さん。
筋肉が衰えないようマッサージやリハビリの方法を一つ一つ身につけ行っています。
これまで6か所の病院を転々としましたがどこも数か月でもうできる事はないと退院を促されました。
結局自分たち家族がやるしかない。
寿之さんがたどりついた結論でした。
口閉じて。
口閉じてごっくん。
意識不明というものの本当に何も分からないのか。
明美さんの日々の小さな変化を書き留めてきました。
交代で病院にいましたので記録ノートですね。
その時にあった事とか出来事とかちょっと笑ったとか泣いたとかそんな事をずっと毎日記録をしていました。
このノートがもう25冊あるんですけども。
一つ分かったのは昔排便をさせるのに下剤を使ってまして夜寝る時に下剤を入れて翌朝出るという形にしてたんですけども下剤を入れた夜中によく泣くんですね。
それがこう記録をとってたら大体リンクしてて。
それは一つ確実に分かりました。
だから不快な状態で泣くというのが分かる。
で笑いについてはなかなかちょっと分からなくてまあ意識か無意識か分からないですけども感情が中から出てきて笑いになってるんじゃないかなというふうに思ってます。
(取材者)笑うとやっぱりうれしいですか?笑うも泣くももう声が出るとうれしいですねやっぱね。
(明美)ウフッ!ウフッ!ウフッ!
(寿之)本当はそのサインを本当はくみ取ってやりたいんですけどなかなかまだ分からないんですそれは。
起きた?起きた?ねえうん。
寝てたよ。
昼間は起きとこうな。
昼間寝ると夜寝れなくなるよ。
ウフッ。
うんおかしい?眠たいかな。
うんどうしたの?うん。
うん。
うん。
寿之さんは4年前20年勤めた研究所から転職し静岡に移り住みました。
2人ともキノコが好きなんですよ。
明美さんの実家の近くに住み両親と助け合って介護するためです。
寿之さんの楽しみは仕事と介護の合間にする料理です。
これは肉用の包丁です。
これは魚用の出刃とかね。
これはペティナイフとかいろいろあります。
(取材者)今も全部使ってるんですか?使ってます。
(取材者)好きなんですね。
うん道具は好きですね。
(取材者)道具が好きなんですか?昔はねお菓子とか作ったんで。
これお菓子の…お菓子道具とかもね一とおり。
(取材者)これは明美さんが使うんじゃなくて?僕が使うんです。
(取材者)福田さんが使う。
喜んで食べてくれた?うんまあ喜んで食べてましたね。
以前から夕食は夫婦一緒にと約束していました。
明美さんが働いていた時には先に帰った方が準備するのが夫婦の決まりでした。
はいあっちゃんごはんね。
漢方いくよ漢方。
なっ?口から食べる事も飲む事もできないため薬も栄養も全ておなかに開けた小さな穴から胃の中に注ぎ込みます。
はいじゃあ漢方からいきます。
いいですか?明美さんに必要な栄養は一日1,200キロカロリー。
人工栄養のみで命をつないできました。
400cc400カロリー。
形は変わりましたが夕食は一緒にという約束は今も守られています。
はいごはん始まったよ。
いい?ちょっと休んでおいて。
ねっ?よし。
豚汁出来た豚汁。
いい匂いするね。
ごっくんできた。
これね岡山のサワラ。
ああいい匂いするね〜。
モグモグ練習してから食べるように。
そうそうそうモグモグモグできた。
ごっくんもできるかな?ごっくんも。
ごっくんできた。
ごっくんできた。
モグモグしといてよモグモグ。
いい?
(寿之)医療で意識があるのかどうかを調べてくれるっていうのがないですよね今はね。
僕も研究が仕事なので妻の脳を研究してるみたいなそんな気持ちでもありますけどね。
意識があるんじゃないかなとは思ってましたけれどもやっぱり意識があるんだなと思いだしたのはこの2〜3年ぐらいですかね。
遷延性意識障害の原因は交通事故や脳出血などさまざま。
誰もがなりえます。
全国で3万人とも5万人ともいわれていますが国もその実態を把握していません。
こうした人たちが安心して暮らせるように家族自らがお金を持ち寄り造った施設があります。
ここで暮らすのは9人。
それぞれに個室があります。
必要な介護は職員が行いますが家族が24時間自由に訪ねる事ができるもう一つの家です。
父親にマッサージしてもらう鈴木和明さん35歳。
高校3年生の時買ったばかりのバイクで山道を走行中ガードレールに激突。
頭を打ちつけました。
はい和君声聞かせてね。
はい1。
2。
和2。
運ばれた病院で体温を低く保ちながら脳を手術する最新の治療を受けました。
命は取り留めましたが意識は戻りませんでした。
和4。
もうすぐだよ。
はいゴロゴロキャッキャ。
イエ〜イ。
やった〜。
おお〜いいじゃんいいじゃん。
おお〜!おお〜!子どもの頃から自己主張をあまりする事がなかった和明さん。
バイクに乗りたいと言いだした時両親は不安を感じながらも反対できませんでした。
事故後は自宅療養となりました。
両親の心配は自分たちが先立ったあと和明さんがどうなるのか。
同じ立場の親たちと話し合いこの施設の設立に加わる事にしたのです。
ここで暮らし始めて3年。
和明さんに大きな変化がありました。
イエスかノーか意思を伝えられるようになったのです。
それは和明さんの意識が戻っている事を意味していました。
北村のおばさん毎晩来たでしょ。
きっかけを作ったのは理事長で看護師の北村叔子さん。
イエスの時は足の指を動かすよう粘り強く促し続けた結果でした。
さあよく聞いて。
声が出ましたか?出たの?出た?聞こえなかったかな。
皆さんよく硬直。
その中でここだけが特別。
ちょっとだけ。
ちょっとだけ動いてましたよこのくらい。
それでもしかしてここが意図的に意思を持って動くんではないかなと思って。
誰もいない時夜7時から8時くらいに寝るので7時から8時くらい全部夜勤さんもいなくなった時毎晩お話に来てましたよ。
「和君足動くよ」って。
触って。
そのうちにだんだん顕著に反応するようになりましたね。
すごいね接する喜びというのは大きくなってますよ。
で僕らは在宅の時にやっぱり長時間接してると目とか雰囲気でね多分という感じはしてたんです。
それが具体的に足というのに直結するというのはなかなかなかったんだけども。
(北村)いろんな事で意思通じるようになったら表情が豊かになる。
そうするとお母さんとかお父さんとかそれから専門に関わる看護師とかじゃなくても普通の人でもあっ分かるって。
ちょっと関わりある人が見たら説明受けたら和君とお話ができるようになるまで3年かかってますかね。
お父さんといると安心できるんでしょでも。
(北村)動かない。
(寛)動かないの?
(北村)そうかい?和君。
(美恵子)ちょっと動いてるね。
(寛)お父さんはだってすごいんだよ。
友達でありさ専門のドライバーでありさ。
ヘルパーでさ。
和君専用なんだよ専任。
調査によれば遷延性意識障害と診断された人の3割以上がその後意思表示ができるようになったとされます。
夕方父の剛さんと家に帰る堀口茜ちゃん4歳です。
2年前双子の妹が生まれお姉さんになりました。
ところがお母さんは出産直前に脳出血を起こし遷延性意識障害になってしまいました。
(剛)ほら茜どーもくんもらったおじさんだぞ。
う〜ん。
(剛)こんにちは。
2歳の時からお母さんの入院生活が続き離れ離れに暮らしていた茜ちゃん。
去年の春お母さんは家に帰ってきましたが最初はどう接したらいいのか分かりませんでした。
ただいま。
ママただいま。
ママただいま!ママただいま!
(剛)ママお帰りって言ってる?ママただいま〜。
帰ってきたよ。
茜も帰ってきたよ。
茜気が付いてないな。
ママがお帰り言ってるぞ。
母親の智子さんは小学校の先生。
剛さんは従業員6人のIT企業の社長。
2人で家事を分担し何でも話し合う夫婦でした。
入院中は体が硬直し呼びかけられても身動き一つしなかった智子さん。
家に帰って1年。
剛さんが諦めず話しかけるうちに表情やしぐさでイエスノーを伝えられるようになってきました。
遷延性意識障害から脱したのです。
今回の取材を受けるかどうかも剛さんは智子さんに何度も問いかけその意思を確認しました。
テレビつけるからな。
えっ?どうした?智さん。
どうした?撮影を始めてしばらくして智子さんがカメラに気が付きました。
どうしました?智さん。
(すすり泣き)
(剛)この1か月ぐらいですかね撮影する事が決まってから少しその事に触れた時に何かこう込み上げてくるものがあるみたいで。
(剛)「だからどうなの?」って聞けば多分「うんいい大丈夫だよ」って事なんですけどでもそういう何かこう…。
モヤモヤッとするものはあるのかもしれないですね。
ちょっと姿勢直すぞ。
腰の奥に入れような。
よっ!OK!たまに一単語ぐらいきちんと聞き取れる事があるんですけどとりわけ感情が高ぶったりしてしまうとなおさらうまく動かせないような感じで。
しゃべってもらった事のほとんどが聞き取れなかったりするんですけど。
訓練しなくちゃ駄目だな僕の方もな。
「私の言ってる事分かんなくてどうすんのよ」って。
ヘヘヘヘ!なっ?「あんたいる意味ないじゃないの」って怒られちゃうな。
剛さんは自分の働き方を見直しました。
外回りの仕事は社員に任せ家でできる仕事を受け持ち介護子育て仕事その全てを担っていこうと決めたのです。
人生において大切な事は何か考えるきっかけを与えられたと感じています。
智子さんが命懸けで産んだ双子。
長女の茜ちゃんに兄弟がいた方がいいと夫婦で話し合い人工授精によって授かった子どもたちでした。
しかし生まれてすぐ乳児院に預けざるをえませんでした。
この日剛さんたちは子どもたちに会いに行きました。
前日智子さんに話したところ今朝はいつもより早起きし楽しみにしているようでした。
剛さんの姉と共に電車を乗り継ぎ1時間半の道のりです。
わっ来たよ!望おいで〜!おいでおいで。
ほれママさん来たぞ。
ママママ。
え〜っとね望ちゃん。
外れ遥。
私遥で〜す。
私遥こんにちは。
こっちが望だもんね。
私望だけど。
おかしいな〜。
おかしい。
遥ちゃんと望ちゃん。
遥かな未来まで望みを持って生きていこうと剛さんが付けた名前です。
いつか家族一緒に暮らしたいという剛さんの願い。
しかし抱き締める事も声をかける事もできない智子さんに子どもたちは近づこうとはしませんでした。
(剛)娘にとってママって存在は今はただの怖い人。
いや怖い人というか何か分からない人。
でも子どもの事は大事。
妻にもあまり悲しい思いはさせたくない。
まあそうは言っても子どもが思う事全てコントロールするなんていう事はできませんから母親の事を悪く思うようにはならないでほしいなって思ってます。
(剛)だんだん大人になっていくにつれてああうちはこれでいいんだって思ってくれるかなって思ってますし僕自身が母親の事を悪く思ったり言ったりしなければきっと子どもたちはそういう受け取り方をしないんじゃないかなって。
僕もちょっと話しかけてかみさんの笑った顔が見たいですしその方がやりがいというかやってる側も楽しいので今はそこで満足してます。
大変ですけど。
大変ですけど面白いですよ毎日が。
ママさん!ママさん望と遥今日ここでバイバイ。
バイバ〜イ!
(2人)バイバイ。
よしよしいい子だな。
ねっバイバイできたね。
よ〜し!睡眠中に心臓が止まり今も遷延性意識障害が続く福田明美さんと夫の寿之さん。
2人は結婚した直後から脳死になった時には臓器を提供する意思を表しています。
命とは何か。
寿之さんは明美さんと共に過ごしてきた9年間考え続けてきました。
まあよくね妻に会いに来てくれた人なんかが見て泣いたりするんですね。
もちろんそれはかわいそうだからという事だと思うんですけどもでも僕はそんな悲しい気持ちはならないんですよね。
かわいそうだなとかっていうんじゃなくてやっぱ頑張ってるなというふうに思って。
そこがやっぱりその何て言うんだろう…。
死死んでる状態と生きてる状態の境目じゃないかなと思って。
つらい中に生きがいを見つけるっていうのが生きる事なのかなというふうに思いますね。
あっちゃんも頑張ろうな。
よし。
おはよう。
あっちゃんおはよう。
(寿之)おはようございます。
朝仕事に出かける寿之さんは明美さんの父親と交代。
また新しい一日が始まります。
2015/07/09(木) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「あなたと生きたい〜“植物状態”の人たちとその家族〜」[字][再]
事故などで“植物状態”になった人たち。尊厳死の議論の対象となってきた。そんな中、施設や自宅で人生をともに歩む人たちがいる。彼らの日常から「生」の意味を見つめる。
詳細情報
番組内容
事故や病気で意識不明となった人たち。意思表示ができない状態が3か月以上続く場合、“遷延(せんえん)性意識障害”といわれる。「生き続けることにどんな意味があるのか?」。安楽死や尊厳死の議論の対象とされてきた。そんな中、施設や自宅で遷延性意識障害の人たちとの関わりから得られるものを大切にし、ともに人生を歩んでいる人たちがいる。彼らの日常を通して、「生きる」とはどういうことなのか?その意味を見つめる。
出演者
【語り】河野多紀
ジャンル :
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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