クローズアップ現代「“迷走” 新国立競技場」 2015.07.08


2008年北京、500億円。
2012年ロンドン、530億円。
トウキョウ。
そして2020年東京2520億円。
流線型の斬新なデザインの新たな国立競技場。
最初1300億円を見込んでいた建設費用はその後二転三転していきました。
なぜこうした事態になったのか。
デザインの決定に関わった関係者が今回初めて取材に応じその内幕を語りました。
日本のスポーツの歴史を刻んできた国立競技場。
その改築を巡り続いてきた迷走の背景に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
当初、想定されていた予算の2倍近い2520億円もの費用をメインスタジアムにかけることへの強い批判が沸き上がる中できのう、新国立競技場の建設計画が承認されました。
納得が得られているとはいえないスタジアムへの巨額の投資。
しかもこの予算にはオリンピック後、スタジアムの採算を確保するうえで重要な開閉式の屋根などを設置する費用は含まれていません。
さらに維持費など完成後のコストもこれまでの試算よりも増えスタジアムが将来赤字を生み出す負の遺産になるのではないかという懸念もあります。
開催費の削減を図ろうというのがIOC・国際オリンピック委員会が目指す方向です。
こうした中で人々の支持を得られないずさんな公共事業計画が厳しい日本の財政状況の中でなぜ承認され動き出そうとしているのか。
8万人を収容できる競技場の計画は迷走に迷走を続けてきました。
コンペで想定していた金額は1300億円です。
しかしその後設計会社が3000億円と試算。
規模を縮小したデザインに改め1625億円になりました。
ところが施工を担当する予定のゼネコンが試算するとまたもや3000億円を超えるという提示が出てきたため再度、計画が見直されきのう、正式に2520億円となったのです。
新国立競技場の事業主はJSC・日本スポーツ振興センター。
このJSCを所管しているのが文部科学省です。
JSCの理事長と文部科学大臣への取材を行いましたがこれまでの混乱を招いた原因について明確な説明は得られず浮かび上がってきたのは迷走したプロジェクトの責任を互いに押しつけ合う姿勢でした。
提案としてはこれが一番いいのではないかと…。
3年前オリンピック招致を目指し新しい国立競技場のデザインを決めるために行われた国際コンペです。
当時、NHKのカメラが議論の様子を記録していました。
会場で審査に当たったのは日本を代表する建築家やスポーツ関係者など8人。
安藤忠雄さんが委員長を務めました。
建設費は1300億円。
サッカーや陸上の大会などに加えコンサートも開ける多目的スタジアムが条件でした。
最終的に最も多くの票を集めたのが流線型の斬新なデザインが特徴のイラク人女性建築家の作品。
このとき、一部の委員からデザインを実現できるのか建設費が膨らむのではないか懸念の声もありました。
こうした声が上がったものの審査委員会はデザインのインパクトが招致の後押しになると全会一致でこの案を選んだのです。
この決定について審査委員たちはどう考えていたのか。
今回、当事者たちが取材に応じました。
建築家の安岡正人さんです。
建物の音響に詳しくスタジアムやホールの建設に数多く携わってきました。
審査の際、建設費用について掘り下げて議論されることはなかったといいます。
審査で唯一建設費用についての懸念を示していた建築家の内藤廣さんです。
そもそもコンペのスケジュールに無理があったと考えています。
東京がオリンピックの開催地として立候補したのは東日本大震災があった2011年。
12月に国家プロジェクトとして新国立競技場の建設が進められることになりました。
デザインの募集が始まったのは2012年の7月。
よくとし1月までに競技場のデザインを盛り込んだ立候補ファイルを提出しなければなりませんでした。
それに間に合わせるためデザインの募集開始から最終決定まではおよそ4か月。
しかし、内藤さんはこれだけの施設のデザインを建設費用を含めて決めるには最低でも倍以上の期間は必要だと指摘します。
こうして選ばれたデザインを持って臨んだ招致活動。
トウキョウ。
当初の劣勢をはね返しての開催決定でした。
その1か月後懸念していた問題が現実のものとなります。
事業主のJSC・日本スポーツ振興センターは対応を迫られました。
去年5月、規模を縮小した新たな競技場のデザインを提示。
それでも建設費用は最初の予定を上回る1625億円と試算されました。
しかし、ことしになって施工に当たるゼネコンがこのデザインでも3000億円を超えるという見通しを示し迷走することになります。
この間、国際コンペで審査委員を務めた建築家たちが自発的に集まり軌道修正を図れないか月に1度、会合を重ねていました。
今回の建設計画にはJSCのほか所管する文部科学省や設計会社など多くの組織が関わっていました。
会合にはJSCや設計会社の担当者も参加。
建設費用をどうすれば抑えることができるかなど具体的に話し合っていたといいます。
しかし、会合に参加していた安岡さんは、意見が出てもそれを計画に生かすことができるリーダーがいなかったと感じています。
JSCの河野理事長です。
事業主としてリーダーシップを発揮することはできたのか聞きました。
そしてきのうJSCが発表した新たな計画。
予定されていた開閉式の屋根などの設置は先送りされ建設費用は最終的に2520億円となりました。
当初の見込みから大幅に増えた要因として挙げたのが建設資材や人件費の高騰。
そして新国立競技場の特殊性。
こだわっていた斬新なデザインを実現するための経費でした。
迷走した建設計画。
責任者で、JSCを所管する下村文部科学大臣に問いました。
今夜は今のVTRで、…たちが自主的に集まった会合に参加されていらっしゃいました、東京大学生産技術研究所教授の野城智也さんをお迎えしています。
新しい国立競技場というのは、国立というだけですから、国民のもの、その建築のコストが、当初の2倍近くに膨れ上がった。
その説明として、今のJSCの理事長のことばからは、国の指導、枠の中で動いているというふうに発言され、そして所管する官庁の下村大臣は、もっと半年ほど早く応援が必要だということを言われていたら、適切な対応が取れたっていうふうに、何かこう、責任を押しつけ合っているようなことばに本当に納得が、なかなかいかない人々、多いと思うんですけれども。
これは本当に大規模で、複雑なプロジェクトですので、やはりスポーツのチームに例えれば、プレーヤーの方々は、本当に一生懸命やってらっしゃると思うんですけど、キャプテン、監督がいないことには、立ち向かえないプロジェクトなんですね。
このキャプテンというのは、こうした巨大事業の場合。
やはりこれは、それらの担当の人たちは計画内容を預かってるわけですけれども、それぞれが矛盾するわけです。
ですからやはり、ある人が、その全体の目配りをしながら、多少矛盾があっても、まとめていくという当事者意識と、あと、全体…。
まとめ役の不在。
そうですね。
それにしても最近のオリンピックのスタジアムコストは、5倍から8倍、今度、かかるということで、なぜこんな高いものになってしまったのか。
よく報道されているように、そのキール・アーチということがありますけれども、それだけに…のはすごく無理がありまして、このプロジェクトの、川上から見ると、初めからいくつかのボタンのかけ違いがあったように思います。
一つは神宮の敷地というのは5万人のスタジアムがあったわけですけれども、8万5000人のスタジアムを造りますと、周りに余地がなくなってしまうんですね。
ロンドンや北京は、周りの敷地がたくさんありますので、生産性を上げていくことができるんですけれども、敷地条件から、かなり建設工事で建設…を上げるには、不利な条件だったわけです。
周りが広いといろいろな作業ができると?
同時に並行でできますのでね。
同時並行で作業できますので。
またロンドンや北京は、基本的には陸上競技場という、単機能だったわけですけれども、ここはサッカーもラグビーもやる、さらにコンサートもやるという、多面的な機能がございますので、たくさんの機能を盛り込んでいるという点の機能的な難しさということも、ございました。
あと今VTRにもございましたように、確かに、ずっと建設現場で働いてくださる技能を持った技術者の方がどんどん数が減っている中で、震災復興があり、こういった事情がありますので、その評価が上がったことも、事実でございます。
半年早ければ、適切な対応ができたという、大臣はおっしゃっているんですけれども、多くの人たちが、もっとシンプルな設計にすればどうなんだろうかとか、多くの声が上がってましたよね。
やはりもし、元に戻るべしという議論がよく出てきておりますけれども、やはりそれは3年前、2012年の時点で、いろいろな選択肢の中から議論することが可能だったと思います。
ただ、今は私が思いますに、ザハさんたちが選ばれたコンクールの公募から、今までもう3年たってますし、着工まで3か月です。
3年3か月という時間がたっている時間を、もう一度繰り返すことができるかというと、縮めても2年ぐらい、縮めるのが精いっぱいだと思いますので、具体的に、ほかの選択肢が、半年前に取り得たかというと、私は疑問に思いまして、私どもに残されたのはこれはご覧になっている視聴者の方々は非常にご不満かと思いますけれども、今の計画を進めていく以外、オリンピックを…する道はないんじゃないかと、私は思います。
しかし当初、1300億円の予算から設計会社が3000億円と出したときに、そこできちっと問題に向き合っていればというふうな気もするんですけれども、何が一番の問題だったんですか?
その段階でしたらば、ザハさんたちもこの条件が非常にあいまいだということは、大変気にしていらっしゃったようですから、その段階であれば、どの機能を優先的に入れていくのか、あるいは敷地としてもこういった建築を生かすには、この場所が適切なのか、他の場所がありうるのかといったことが3年前だったらできたと思います。
結果として、なんの施設なのかが、はっきりしないんですか?
今は、先ほど申し上げた4つの機能というものが、ほぼ同じ需要性を持って設計されているように思いますね。
そして、デザインだけは、ほぼ残った?
ですからやはりオリジナルなものの形は選ばれたんですけれども、なんのための、どういう機能のための形だったかということの関係性は必ずしも明確でなかったということだと思いますね。
オリンピック後、設置されることになっているのが開閉式の屋根です。
これがスタジアムの収益を生み出す一つの鍵だと見られているんですけれども、完成後、巨大施設の運営は大丈夫なのか、この点についても懸念の声が上がっています。
おととい新国立競技場の建設について市民団体が主催する勉強会が開かれました。
議論になったのはオリンピック後の運営の問題です。
巨大な施設を維持していくことができるのか。
参加者からは不安の声が相次ぎました。
きのう、JSCはオリンピック後の競技場の年間収支計画を公表しました。
それによるとイベントの開催などで収入は40億8100万円。
一方、修繕費などの支出は40億4300万円を見込んでいて3800万円の黒字が出るとしています。
この収支計画に懸念を抱いている専門家もいます。
東京理科大学名誉教授の沖塩荘一郎さん。
大型建築物の維持管理とそのコストについて研究を続けてきました。
沖塩さんが注目しているのが大会後に設置される開閉式の屋根。
JSCはイベントなどを開催し予定どおりの収入を得るためには欠かせないものだとしています。
しかし、沖塩さんは開閉式の屋根の維持管理には想定以上の費用がかかることもあるといいます。
大分銀行ドームでは屋根の開閉システムで故障が相次いだためおととし、入れ替えに急きょ4億5000万円を費やしました。
さらに費用の問題から屋根を開けたままにする選択をしたスタジアムもあります。
14年前に建設された豊田スタジアムです。
7年前に機械が故障。
保守点検のための技術者を増員しました。
さらに施設の老朽化に伴い部品の交換も相次ぐようになりました。
その結果、今後5年間でこれまでの4倍を超える16億円が必要となることが分かったのです。
沖塩さんは国立競技場の屋根は開閉方法や形状も異なるため単純に比較できないとしながらも長期的な収支について十分検討が必要だと考えています。
現在は屋根をつけるという前提で、収支は3800万円の黒字というふうに試算されているんですけれども、本当に、これで済むんだろうかという声をどう聞かれますか?
今までの、先ほど申し上げましたように、さまざまな選択肢があったわけで、それには一長一短があるわけですね。
確実性、不確実性もあります。
やはりこれから、このプロジェクトが、皆さんに愛していただけるようにしていくためには、丁寧に、どういう選択肢があって、それぞれ一長一短があるんだけど、だからこれを選んだという説明をしていかなければならないと思います。
ですから将来のこの維持管理計画についても、屋根をつけて、運営していくということも、当然選択肢の一つなんですけれども、ほかにどういう選択肢があるのかということを示して、それを広く参加を求めながら、案を練っていくことが必要だと思います。
そして本当にどこまで税金をかけていくのかということも問われるでしょうね。
当然そうでしょうね。
実際これを運営していく費用というのは、受益者が誰で、誰がお金を出すかということについても、広く、いろいろな選択肢から考えていくべきだと思いますね。
それにしても、これだけのプロジェクト、最大限コストをカットする方向で考えられたのか、外の声に十分、耳を傾けたのか、本当にこのプロセスに対する納得感がない。
反省することは、たくさんあります。
ただ申し上げましたように、もしこれが将来の世代の人たちに愛して使ってもらうとすれば、これから過去の…、できるだけ参加を求め、参加をしていただきながら、納得してプロセスを踏んでいくことが、必要だと私は思いますね。
情報の開示も、まだまだ足らないですよね。
1つの機能性はなくて、この5つぐらいある案の中で、われわれはこういう理由でこれを選んだというような、そういう説明が、丁寧な説明が必要になるんじゃないでしょうか。
そしてまとめ役がない中で進んできたプロジェクトが、本当に事業、これから進めていく中で、きちんとしたものになっていくんでしょうか。
2015/07/08(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“迷走” 新国立競技場」[字]

2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場。しかし、総工費、基本設計などについて迷走が続いている。その背景に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学生産技術研究所教授…野城智也,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学生産技術研究所教授…野城智也,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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