9NHK俳句 題「夏の空」 2015.07.08


世界中の海に繁栄していた無脊椎動物種の90%が絶滅した事が化石から分かります。
「NHK俳句」司会の岸本葉子です。
第1週の選者は池田澄子さんです。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
お忙しいとこありがとうございます。
ゲストには詩人の谷川俊太郎さんにお越し願いました。
ようこそおいで下さいました。
先ほどの冒頭の句無季でしたけれどもあちらの句は実は谷川さんのご著書「すき好きノート」にお好きな句として紹介されているんですよね。
どんなところがお好きですか?とにかくびっくりしたんですよ。
僕あんまり俳句読む方じゃないんだけど池田さんはご近所でずっと知り合いの人だったからまず俳句書いてらしたんだってびっくりして…。
ご近所つながりが先にあったんですね。
読んだら全く現代詩の世界だったんですね。
僕俳句の世界っていうのはもっと古くさい世界だと思ってたらすごくモダンなんでびっくりしました。
池田さん今の…。
思いがけない言葉をありがとうございます。
あれ俳句として認められたんですか?いえですからねこの句をOKと言った私の先生すごいなと思うんです。
逆に私が誰かに「これどうですか?」って言った時にOKを出すか出さないかちょっととっても勇気のいるところで…。
でもどうしてそんな句が出来ちゃったのかしら?さあ…忘れちゃいました。
実は谷川さんも俳句をお作りになると伺いました。
一句ご紹介下さい。
恥ずかしいですけどちょっとね詩人仲間と一緒にやってたのがあるんですけどね…。
お読み頂けますか?俊水というのは俳号…?俳号です。
これね小学校3年生の時にね俳句の授業があったんですよ。
その時にみんな何か自分の俳号付けたんです。
だからこれは小学校3年生以来の俳号です。
長くお持ちになっている俳号。
何十年ぶりにまたよみがえった…。
ずっと使ってなくてさ。
いかが鑑賞なさいましたか?大きな句ですてきですね。
この「勇魚」っていうのはクジラ?はい。
ねえ。
であの大きなクジラ「笑み給う」ってこの「給う」っていうのが本当に…ほかの動物に対する敬意というかねすごく大きい句ですてきですね。
僕クジラ尊敬してますからね。
じゃあまたいろいろ後ほどお話をたっぷり伺いましょう。
それでは池田さんが選んだ入選句をご紹介していきます。
天守閣の句も天守閣に上るっていう句も別に珍しくはないんですよね。
でもこの仰ぎ見ての「天守閣あり」っていう切れ。
そしてそれに続く「上りけり」っていうのがこうとても言葉に勢いがあっていいなと思いました。
谷川さんいかが鑑賞なさいましたか?何かねスコ〜ンと抜けてる感じがしたんですね。
何か空に向かって。
その勢いがねすごくよかったと思いますけど。
夏空の青と天守閣の白もすごくこう引き立ち合う引き立て合う構図ですね。
2番にいきましょう。
全てが空の下での出来事ですよね。
で全てに原因があって結果がある。
でその幸せに暮らしている人の上の空もそれから大変な思いをしている人たちのいる所の空も…空には区切りはないですよね。
であの〜こう言い立てていませんけど静かな怒りの句だと思いますね。
はい。
3番です。
もうなるほどと思いました。
確かに今日行っても明日行っても別にね構わない散髪っていうのは確かに小さな決意をして行きますね。
なるほどと思いました。
谷川さん。
これは私もよく俳句にしたなっていう…思ったんですけど。
「決意する」っていう大げさな言い方がねちょっとユーモラスでねいいなと思いました。
でも絶対決意して行きますね。
そうですねはい。
それを促したのが夏空かもしれませんね。
夏空利いてますよね。
4番にいきます。
一般的には大工さんとか左官屋さんとかねそういう人を思いますけどもこの「がさり」っていうのは一仕事終わったあとの箱の中という気がするんですね。
それで「重き」ですからちょっとくたびれていますね。
で一仕事終わったあとの夏の空の下でのちょっとした充実感。
谷川さん工具箱というものが出てきました。
はい。
僕は工具箱常に身近にある人間ですからこれは僕はだから澄子さんと反対にこれから何かやるっていうふうにとったの。
何か工具箱結構重くてガチャガチャしてんですよね。
それを置いて「さあしょうがねえ。
これから仕事にかかるか」みたいなそんな感じにとりました。
なるほど。
夏の工作もちょっと思わせますね。
「がさり」ってのがすごい利いてんですよ。
そういう感じで…。
5番です。
空港に降り立った時のちょっと一瞬異次元に立つ思いってのがあると思うんですね。
でとてもこの句はあっさりと詠まれていますけれどもその地が沖縄であるという事ね。
そしてましてや夏であるっていう事になればその地が抱えてきた長い苦悩というものを思わずにはいられないですよね。
でこれも無口だけれども静かな怒りを表している句だと思いますね。
何か夏空の季語の本意の中にその真っ青な生命力と併せて日本人としては戦争というのが含まれているんでしょうか。
…と思いますね。
はい。
6番です。
作者はね暑さにくたびれていてでも子どもたちのこううるさいほどの元気をあきれながら楽しんでいるっていう感じ。
そういう幸せ感。
で渡邊白泉という俳人がこういう動詞を重ねた戦争の句をたくさん書いてるんですがこの句の場合は平和な句ですね。
はい。
7番です。
この「手に包み来し」がとてもいいと思いますね。
怖がらせないように痛かったりしないようにふんわりと手で抱えてきてそしてこの手のひらにはその鳩の体温が感じられているというようなそんなふうに読みました。
これも「夏空」と併せて鑑賞すると何か平和記念式典とかそういうところに鳩を放ったのかなとも思いました。
8番です。
あの〜あたら青春を戦争に翻弄された年代ですね。
で戦争の悲惨を身をもって知っている。
それゆえにこの戦なき世のありがたさを深く知っている人の言葉だと思います。
「九十四歳」っていうこの言葉が本当に多くを語っていると思います。
9番です。
この「大いなる」がとても利いていますよね。
あの〜美術館っていうのは案外歩き疲れそれから感動疲れ。
今ならば冷房にも疲れて…。
そのあとで夏の空の下に来た。
その時にこの「大いなる」っていう感じがとてもよく利いていると思いました。
以上が入選九句でした。
それではここから谷川さんと私で本日の特選句を予想していきたいと思います。
視聴者の皆さんも是非一緒に予想してみて下さい。
入選九句。
その中で谷川さんこれは池田さん選びそうだなと思う句はありますか?う〜んやっぱり1番じゃないかな?「夏空に天守閣あり上りけり」。
これは何か1番ではないかなと思う訳があるんですか?僕俳句ってよく分かんないんだけど何かねあんまりこう工夫しないでスッといくのがいいのかなと思ってこれはそういう感じがあるんですよね。
なるほど。
じゃあその俳句らしさっていうのを考えず谷川さんがお好きだと思うのはどれでしょうか?もう一つ?僕…「散髪に行く決意する」っていうのも好きですね。
3番。
それから4番ですね。
これは工具箱が僕には親しいので何かすごい実感があってね。
なるほど。
私意外と5番の「空港に降り沖縄の夏の空」。
サラッとしてるけど「空港に降り」っていう事なかなか言わないんじゃないかなと。
「沖縄の夏の空」に焦点を当てがちで…。
これ古い空港ですよね。
あのほら今こう通路でずっと空港行っちゃうじゃないですか。
昔ははしごで…階段で下りてって土の上に行くじゃないですか。
その感じがすごくあるのね。
そうですね。
第1の出会いが空っていうね…。
そんないろいろな感想が出ました。
さてどの句が選ばれるんでしょうか。
それでは本日の特選句です。
まず三席の句からご紹介して頂きましょう。
それでは二席の句は?いよいよ一席です。
敗戦の時24歳でしょうか。
この死と隣り合わせて戦争の悲惨を経験した。
そしてたくさんの死を見てきた世代。
でこの上五の「九十四歳」というね事実。
そしてその言葉がズッシリと利いていると思います。
あの〜谷川さんの推薦も私の句も入っていましたけども特に一席の句の池田さんの感想を聞いていかがでしょうか?あの〜僕だから俳句よく分かんない人なんですけど何かこう割と軽みがあった方がいいのかなと思ってそれでちょっと…。
そうですね。
プロが選ぶとこうなんだって今勉強してます。
いえいえ…。
谷川さんの散髪の句も入ってましたね。
そうですね。
嬉しいですね。
じゃあこんなところで特選のおまとめをしましょうか。
以上が今週の特選句でした。
続いては添削のコーナーです。
ここをこうすればもっとよくなるというポイントを教えて頂きます。
今日はこの句ですね。
今も地球のどこかで戦争が起こっています。
でもこの作の場合はですねお兄様が例えば特攻隊などで戦死なさったという事なんだろうと思うんですね。
ですから作者の立ち位置をちょっとはっきりさせたいなと思うんですね。
それには…?そうするとかつて戦争があったという事になると思うんですね。
「き」というのは過去を示す言葉ですね。
いかがでしょう?これはあの〜上五が六音になってしまうところでしていいのかどうかなって躊躇するところなんですけど…。
でも一気に読んでしまえば全然…「戦ありき」と読めばいい訳ですからね。
でそれがもしもちょっと…何か変だなと思ったとすればその…かえって無念の思いを伝えてくれるんじゃないんでしょうか。
そうすると字余りもかえってここでは利いてくるっていう…。
あんまりすんなりいくより…っていう時もありますよね。
谷川さんリズムってやっぱり大事ですね。
意味だけじゃなく…。
もちろん大事ですけど俳句って繊細ですね。
我々の書いてる自由詩ってもうちょっと長いでしょ。
1字変えて…あんまり変わらないんだけど1字でこんなに変わっちゃうんだと思って今ねちょっとびっくりして羨ましかったです。
やはり印象変わりましたか?全然変わりますね。
「き」1字でね…。
自由詩だと変えてもみんな気が付かないと思うんだけど…。
いや実際には我々は考えてるんですよ。
僕も1字変えたりしてますけどね。
そうですか。
じゃあそんな詩人の方からの心強いお言葉も頂きました。
以上俳句作りの参考になさって下さい。
それでは池田さんの年間テーマ「びっくりして嬉しくなる俳句」についてお話を伺っていきたいと思います。
今日のテーマは…?はい。
今日は「個の思いと普遍性」という事にしてあります。
この句はかつて俳人の高柳重信が亡くなった時の追悼句として作られた句なんですね。
ですが句集に収める時に作者はここに前書きをつけませんでした。
その事によってこの句は死んでいった全ての人々に向かっての呼びかけの言葉になったんですね。
夏の空は死者を思う人々のその上にずっとつながって広がっていますから死後ひろごる君。
常に残された人の身に近く漂っていてくれるというふうに思わせてくれるんじゃないでしょうか。
個人の思いがね言葉によって人間全ての思いになるんだなっていう…。
そういう事もあるんですね。
であの〜谷川さんは若書きの時代からもう現在まで死についての詩がたくさんありますけれどもねその中で子どもの姿子どもの言葉で書かれた詩がそれもいくつかあって私すっごい好きなんですけれども是非ここでそこを一編だけ…。
これは澄子さんが選んで下すった詩なんですよね。
はい。
あの〜ちっちゃな女の子の立場で書いた詩です。
池田さん…。
何かゾクゾクしてしまって…。
ねえ…。
あの〜何か人が生まれる時には何の約束もなくってでもただ一つね死というものだけが絶対にあるものですよね。
でもその死がなかったら人生って随分つまんない。
全然つまんないですね。
あの〜そういう約束が…絶対に壊せないそういうものがあるから何か詩を書いたり俳句を作ったり人を好きになったりするんでしょうね。
普通に生きてれば見えるもんばっかり気にする訳だけど死って事で考えると何か見えないものをね想像するようになるしそれを信じるようになりますよね。
三橋さんのさっきの句もやっぱり魂ってものがそこに隠れてると思うのね。
そうは言ってないけれども。
この今日のテーマの「個と普遍性」。
その死は一人一人にとってみれば個としての死の体験ですよね。
それをその普遍的なところに押し出していく。
それが表現の…どんな表現の動機にもあると思うんですけれども私は俳句では季語がその個の体験思いを普遍性の世界に押し出すのにすごく大きな役割を果たしてると思うんです。
その辺りは自由詩は…谷川さん季語っていう装置がない。
ないんですよね。
ですから逆に何書いてもいいから苦労するってところありますけど僕は言葉そのものがね個を普遍に多数に結び付けるものだと思うんですね。
だからそれを要するに自分だけの言葉じゃなくてほかの人にも伝わる言葉を書けばそれは本当に個というものが普遍にこう…溶け入ってくっていうのかな。
詩ってやっぱりそういう事を目指してるとこありますね。
あのね谷川さんの詩を私読んでるとおこがましいんですけど自分の詩のような気分に…。
僕もそう思いますよ。
澄子さんの俳句読んでると「これ私が書いたんじゃないか」なんて思いますよ。
本当に…。
でもまあおこがましいので…。
私が詩を書けないので私の代わりに書いて下さっていると本当にそう思ってしまうんですね。
それはどんなところからそうお感じになりますか?あの〜大体そうですね。
で結局だから谷川さんは「僕はこうしたよ」って。
もう育ちも暮らしも全く違う訳ですからね。
でも同じと思うのはやっぱり「僕はこうした。
今日はこれを食べた」とか「今日こういう事が嬉しかった」っていう事を書いてる訳ではないですよね。
あの〜人間の代表っていうか人間の中の一例を表してるっていうか…。
だから何かみんな自分の詩だと思えているんじゃないでしょうか。
でもその個を普遍の世界に押し出すには本当に言葉が大事。
それを…言葉を選んでいくプロセス。
それにはきっとお二方とも時間をかけていらっしゃるのかなと…。
推敲はしますね。
運がよければ詩って5分で書けちゃうんですよ10行ぐらいは。
それから先本当に綿々綿々手直ししますよ。
澄子さんはいかがですか?推敲は…。
あの〜谷川さんの詩はまるでひょいとこう…口から出任せではないけどもそういうふうな印象を与えますよね。
推敲していてそういう感じになった時にOKってなるんでしょ?そうですね。
あの〜だから難しいんですよ。
果たして自分が詩をよくしてるのか悪くしてるのか分かんないってとこがあるでしょ。
うんうん。
そうそう。
壊して一番駄目なとこでいいと思っちゃったりする危険性が…俳句の場合は短いからありますね。
余計あるでしょうね。
時間をおいて読み直すってのはすごい大事なんですね。
例えば澄子さんの句でよく甚幸に感謝してる「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」。
こちらはやはり推敲の結果なんでしょうか?あれ僕すごい好きな句なんですけれども。
自分ではね分からないですね。
いいのか悪いのか。
でも初めから出来た訳じゃないでしょ?そうですねはい。
これは最初文語でした。
文語?それはご紹介頂けるんでしょうか?谷川さんいかがですか?でも推敲した方が全然段違いにいいですね。
そうですか?初めこんな句だなんて想像もしなかった。
いかがでしょう?あの〜推敲のプロセス…。
かなりこう決断もいりますよね。
あの〜推敲した元を覚えていらっしゃいますか?覚えてません。
覚えてませんよね。
私この句一句だけなんです覚えてるのは。
あ〜本当?あとはどういうふうに推敲したかその前がどういう句だったか全然…いくら考えても…。
何か忘れちゃいたいって気持ちになりますよね。
そうです。
素人から見ると俳句らしくない方に推敲してなってそれが成功しているっていう…。
そういう事もあるね。
それはなかなかまねしようとしてまねできないのかなと思いました。
フフフフ…。
何か今日は本当にご近所つながりって事だけでなく言葉を扱いそして推敲に推敲を重ねて優しい言葉を送り出していくお二方のセッションとなりました。
今日のゲストは谷川俊太郎さんでした。
ありがとうございます。
また来週この時間にお目にかかりましょう。
2015/07/08(水) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「夏の空」[字]

選者は池田澄子さん。ゲストは詩人の谷川俊太郎さん。俳句を詠んだ経験があるという谷川さん。今回は谷川さんの俳句と詩の両方を紹介しながら 言葉への思いを伺う。

詳細情報
番組内容
選者は池田澄子さん。ゲストは詩人の谷川俊太郎さん。俳句を詠んだ経験があるという谷川さん。今回は谷川さんの俳句と詩の両方を紹介しながら 言葉への思いを伺う。題「夏の空」 【司会】岸本葉子
出演者
【ゲスト】谷川俊太郎,【出演】池田澄子,【司会】岸本葉子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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