ジャンプしますから!ジャンプ…。
うわすごい!今大人気の猫カフェ。
かわいい猫ちゃんと触れ合おうとやって来るお客さんが後を絶ちません。
こちらは瀬戸内海に浮かぶ…
(鳴き声)最近は猫の島として有名になり観光客が押し寄せているとか…。
日本人は猫が大好きですよね。
今宵はそんな猫ちゃんと関わりが深いある有名人のお話です。
御存じ明治の文豪夏目漱石のデビュー作です。
猫の目を通して描かれたある家族の物語。
このユニークな小説は妻鏡子との生活から生まれました。
繊細な漱石と大ざっぱな鏡子。
正反対なのになぜか気が合う2人。
しかしある出来事をきっかけに鏡子の心が壊れていきます。
(漱石)鏡子!この時漱石がとった大胆な行動とは?漱石の思いが通じ元気を取り戻した鏡子。
うるさい!
(鏡子)キャー!やめて下さい!今度は漱石が豹変してしまいます。
一体何があったのでしょうか?壊れかけていく夏目家。
そこにやって来たのは…これは珍しい福猫でございますよ!この猫の登場が夫婦の危機を救う事になるのです。
文豪夏目漱石を生み出した妻と猫の物語です。
明治29年一人の女性が東京から熊本へ嫁ぎました。
期待と不安を胸に始まった結婚生活。
ところが新婚早々待ち受けていたのは夫のこんな言葉でした。
鏡子お前に言っておかなければならない事がある。
それは承知しておいてもらいたい。
夫の名は夏目金之助。
後の漱石です。
生真面目で偏屈。
いわゆる「明治の男」です。
(ため息)よござんす。
私の父も相当本を読む方ですから…鏡子は少々の事には動じないおおらかな女性でした。
そんな2人の生活が始まります。
・
(漱石)鏡子!鏡子!
(障子を開ける音)何時だと思ってるんだ!鏡子は並外れて朝が苦手でした。
もう行くぞ!お前はほんとにオタンチンのパレオラガスだ!漱石はローマ帝国を滅亡させた最後の皇帝「コンスタンチン・パレオロガス」の名前をもじって鏡子をからかったのだとか。
いかにもインテリの漱石らしい発想ですね。
もちろん鏡子にはどういう意味か分かりません。
オタンチン…パレオラ?鏡子は思った事は何でもあっけらかんと言ってしまう性格。
後に朝寝坊をたしなめられた時こう言い返したそうです。
・
(漱石)鏡子!鏡子!たっぷり睡眠をとって気持ちよく働いた方が効率的。
確かにそうかもしれませんけれど…。
鏡子を主人公にした小説を発表している鳥越碧さんはこんな正反対の2人だからこそかえってうまくいったと考えています。
そんな感じでそれなりに新婚生活は回りだし間もなく鏡子はみごもります。
(汽笛)ところがその幸せもつかの間の事でした。
結婚の翌年漱石の実家を訪ね東京に滞在していた時の事。
鏡子は流産してしまいます。
その後も体調が思わしくなく鎌倉にある知り合いの別荘で静養する事になりました。
この時の漱石の気持ちがうかがえる手紙が昨年東京の古書店で発見されました。
これが漱石の正岡子規宛の手紙ですね。
この中に俳句が入っておりますけれども新発見の俳句という事になっております。
「愚妻病気。
心元なき故本日又鎌倉に赴く」。
漱石は東京で用事を片づけるかたわら鏡子がいる鎌倉に何度も足を運んでいました。
東京滞在中に鎌倉で静養する鏡子の身を案じた句です。
(汽笛)間もなく2人は熊本に帰りました。
鏡子が安心して暮らせるようにその後漱石はいっそう仕事に励みます。
熊本時代に2人が暮らしていた家です。
当時の漱石の様子が家主の子孫に伝えられていました。
主人の母からですね私ここに来ました時に……と言いよりました。
しかしそれがかえって鏡子を孤独に追いやってしまう事に漱石は気付きませんでした。
翌年。
赤ん坊が来た。
私の死んだ赤ん坊が来たから行かなくちゃ…。
鏡子!そらそこにいるじゃありませんか。
つるべの中に。
私ちょっと見てくるから放して下さい。
鏡子…。
鏡子は時折幻を見るようになったといいます。
そしてついに…。
鏡子は近くの川に身を投げます。
(赤ん坊の泣き声)心の声赤ん坊が来た…。
(赤ん坊の泣き声)幸い通りかかった漁師に助けられ命だけは取り留めました。
以後しばらくの間漱石は鏡子が二度と離れないようにお互いの体をひもで結んで眠りについたといいます。
漱石は自殺防止というのかまたふらふらと出ていったら困るっていうそういう意味合いもあって結んで寝たんだと思うんですけど…これをきっかけに鏡子は持ち前の明るさを取り戻していきます。
翌年には待ちに待った子供が誕生しました。
どうだ!「筆」でございますか?お前は字が下手だからな。
せめてこの子は字がうまくなるようにという意味だ。
ハハハ!まあひどい!ね〜?アー。
あっいいの?
(漱石)おっ。
筆子。
(漱石)気に入ったか?一つの家族の誕生。
鏡子はやっと本当の幸せをつかんだかに思われました。
お前はこの家にいるのは嫌なんだろう?俺をイライラさせるためにわざと頑張ってるんだろう?あの優しかった漱石が豹変してしまうのです。
ようこそ「歴史秘話ヒストリア」へ。
今宵は夏目漱石と妻鏡子の物語をお届けしております。
さてこうして熊本時代に固い絆で結ばれた2人ですが間もなく漱石は文部省からイギリス留学を命じられます。
しかし遠く離れていても2人の愛情は揺るぐ事がなかったようです。
ロンドンに到着した漱石は東京の実家で暮らす鏡子へ手紙を送り続けます。
しかし返事はなかなか来ず不安が募っていきました。
そのころ鏡子は2人目の子供の出産と子育てに手いっぱいで手紙どころではありませんでした。
やがて落ち着いたのか鏡子は返事をしたためます。
そこにはふだんは口にしない鏡子の深い愛情が記されていました。
まあな〜んて情熱的な手紙でしょう。
これはもうラブレターですね。
ところがこんなに仲の良かった2人にこのあと大きな危機が訪れるのです。
漱石がロンドンに渡ってから2年が過ぎた頃鏡子のもとに不可解な手紙が届きました。
それまでの手紙とは一転。
暗く重苦しい内容。
鏡子はにわかに不安を覚えます。
(汽笛)明治36年1月漱石が帰国しました。
待ちわびていた夫の帰りです。
筆子恒子お父様ですよ。
ご挨拶しなさい。
お父様…。
(鏡子)「おかえりなさいませ」。
おかえりなさいませ!しかし漱石はまるで別人のように変わり果てていました。
ある夜の事です。
(物音)鏡子が物音にふと目を覚ますと…。
くそっ!あぁくそ!あなた!あなたどうなさった…。
くそっ!キャー!やめて下さい!周りの物を手当たりしだいに投げる漱石。
一体夫の身に何が起きたのでしょうか…。
(鐘の音)発端は漱石のイギリス留学時代に遡ります。
留学の目的はイギリス文学の研究。
まずは本場の小説や詩を読みあさりました。
ところが膨大な書物に埋もれて過ごすうちに漱石の心に大きな疑問がわいてきます。
やがて「人間にとって文学とは何か」という壮大な問いの迷宮に迷い込んでしまいました。
必死になって答えを見つけようともがく漱石。
その事が逆に自身を苦しめ追いつめられていくようになります。
これすごい難しくてよく分からないんですが…このころ下宿を訪れた日本人の友人の証言によると漱石は真夜中にただ一人明かりもつけずに泣いていたといいます。
こうして漱石の心は崩れていきました。
鏡子…。
里へ帰れ。
えっ…。
これはおかしい…。
(鏡子)いかがでしたか?一種の病気です。
ああいう病気は一生治りきる事はないでしょう。
治ったと思っても実は一時的に鎮静しているだけで後で必ずまた出てきます。
この時鏡子は初めて漱石が病気だという事を知りました。
心の声病気と決まってみれば覚悟がついた。
私がいなければあの人はどうなる?子供たちを誰が守る?こうなったからには私は一生あの人のもとにいる。
漱石には自分しかいない。
鏡子は腹をくくります。
待て〜!待て〜!お魚ほぐれる?ん?
(筆子)・「お月様えらいなお日様の兄弟で…」。
うるさい!大丈夫?びっくりしちゃったよね。
上手だったね。
なんであんな事を…。
お前はこの家にいるのは嫌なんだろう?俺をイライラさせるためにわざと頑張ってるんだろう?私は悪い事をしないのだから追い出される理由はありません。
それに子供を残しておめおめと出ていくものですか。
私だってこのとおり足もある事ですから追い出されたってまた帰ってくるまでの事です。
このあと鏡子はどんなにひどい事をされても耐え…そして…そんな時でした。
「彼」がやって来たのは…。
(鳴き声)鏡子の頑張りのたまものか漱石は少しずつ落ち着きを取り戻していきました。
そして「歴史秘話ヒストリア」いよいよあの猫の登場です。
(風鈴の音)
(鳴き声)夏の初めの事。
どこからともなく一匹の野良猫が家に入り込んできました。
(鏡子)うわっ!まあ嫌な猫ねえ…。
(鳴き声)ずうずうしい猫。
猫嫌いの鏡子は猫を外につまみ出します。
しかし…。
また猫は家に入ってきてしまいます。
(鳴き声)鏡子が何度つまみ出しても…。
(鳴き声)
(鏡子)まあずうずうしい猫!猫は懲りずに侵入。
鏡子と猫の戦いが続きました。
(猫の鳴き声)そんなある朝…。
あっ!まあまた嫌な猫ねえ!しっ!ほれ!しっ!この猫はどうしたんだい?何だか分からないけど何度追い出しても家の中に入ってくるんです。
誰かに頼んで捨ててきてもらおうかと思って。
そんなに入ってくるんなら置いてやればいいじゃないか。
え!?こうして猫が一家に加わりました。
(鳴き声)…とはいえ猫がいると家は大混乱。
猫。
あっちょっと。
まあずうずうしい猫!
(泣き声)あ〜ちょっと待ってね。
(鳴き声)飼う事にはしたものの鏡子は相変わらず猫を邪けんに扱っていました。
あぁ効く〜。
あぁそこそこそこ。
ところが…ある日いつも家に来るあんまさんがこんな事を言いました。
奥様!この猫は全身足の爪まで黒うございます。
これは珍しい福猫でございますよ。
飼っておおきになるときっと家が繁盛いたします!ほらちょっとこっちおいで。
(鏡子)まあほんと。
黒い!よしよし福猫なんですか。
よしよしよし…。
幸せを呼ぶ福猫と聞くと鏡子も現金なもの。
すっかりうれしくなり猫の待遇を改善しました。
おいしい?この時期に漱石と鏡子が暮らしていた家が愛知県に移築され保存されています。
廊下にある小さな扉にご注目。
茶室の「にじり口」にしてはちょっと小さいですよね。
そうこれは猫の出入り口。
猫を飼うようになってから家を改造したようです。
漱石一家が猫をかわいがっていた事がよく分かりますねえ。
お前はかわいいなあ。
猫はなぜか漱石に懐きました。
そしてなぜか漱石も猫を気に入ります。
(漱石)猫!アハハハハ!ほい。
ハハハッ。
福猫のおかげかこのころから漱石の機嫌が良くなっていきました。
楽しいか?おお速いな。
更に猫は漱石と鏡子の仲を取り持ちます。
おいその猫の頭をちょっとぶってみろ。
ぶてばどうするんですか?どうしてもいいからちょっとぶってみろ。
(ため息)鳴かんじゃないか。
(鏡子)ええ。
ちょっともういっぺんやってみろ。
(鳴き声)今鳴いた。
「にゃあ」という声は感投詞か副詞か何だか知ってるか?
(漱石)おい!はい!
(漱石)その「はい」という声は感投詞か副詞かどっちだ?そんな事どうでもいいじゃありませんか。
(鳴き声)
(2人の笑い声)間もなく漱石は新しい仕事に取り組みます。
それはあの小説の執筆です。
きっかけは知り合いの俳人高浜虚子から雑誌に載せる文章を依頼された事でした。
「『あら猫が御雑煮を食べて踊を踊っている』と大きな声をする。
細君は縮緬の紋付で『いやな猫ねえ』と仰せられる。
主人さえ書斎から飛んできて『この馬鹿野郎』といった」。
ハハハハッ!
(高浜)面白いですねえ。
こりゃ傑作ですよ!そうか?明治38年1月。
小説「吾輩は猫である」の連載が始まるとたちまち反響を呼びます。
秋には単行本を出版。
爆発的な売り上げを記録しました。
これをきっかけに漱石は「坊っちゃん」や「三四郎」など次々と話題作を発表し文豪への道を歩んでいきます。
(鳴き声)「吾輩は猫である」発表の3年後猫は死にました。
鏡子は庭に猫の墓を作り…その2年後漱石は滞在中の修善寺温泉で胃潰瘍が悪化し吐血。
危篤に陥りました。
この時猫にまつわるこんなエピソードが残されています。
漱石危篤の知らせが届くと…そして修善寺に駆けつけます。
すると不思議な事に漱石はみるみる回復していきました。
東京に帰った鏡子が祈祷のお礼のために占い師を訪ねると驚くべき話を聞かされます。
それは祈祷のさなかの事でした。
どこからともなく黒い猫が現れて血を吐いて死んだそうです。
私はあの猫が身代わりに死んでくれたんだと思うんです。
鏡子は2年前に死んだはずのあの猫が再び現れ漱石の身代わりになってくれたのだと信じました。
(猫の鳴き声)この病気を乗り越えてから漱石が家族につらくあたる事もなくなりました。
子宝にも恵まれ6人の子が育ちます。
これも猫のおかげ?以後漱石と鏡子は爪の黒い猫を探しては代々飼い続けたといいます。
今宵の「歴史秘話ヒストリア」。
最後は…そんなお話でお別れです。
大正5年漱石は胃の病が悪化し49年の生涯を閉じます。
漱石が小説家になるきっかけを作りそして優しい漱石を取り戻してくれた猫に鏡子はずっと感謝していたのです。
昭和3年鏡子は2人の結婚から漱石の死に至るまでの歩みを回想録にまとめます。
その中には漱石の乱暴な振る舞いを含めありのままの事実が赤裸々につづられていました。
しかしその文章からはつらさや苦しさはみじんも感じられません。
全ての出来事に鏡子は漱石の愛情を感じ取っていたのです。
祖母鏡子の家をしばしば訪れていました。
おじやおばたちがよく言ってたのは…確かにいろいろ負の部分はあるけど……というふうに遺族としては思いますね。
漱石と鏡子。
2人は固い絆で結ばれていました。
文豪夏目漱石を誕生させたのは鏡子の大きな包容力と一匹の猫だったのです。
(鳴き声)2015/07/08(水) 14:05〜14:50
NHK総合1・神戸
歴史秘話ヒストリア「漱石先生と妻と猫〜“吾輩は猫である”誕生秘話〜」[解][字][再]
明治の文豪・夏目漱石。家庭内で大暴れ!妻と大喧嘩!崩壊寸前の一家を救ったのは、一匹の野良猫だった…。名作誕生の裏にあった漱石と妻と猫の不思議な絆の物語。
詳細情報
番組内容
明治の大文豪・夏目漱石の名作『吾輩は猫である』。猫の目を通して描かれた、このユニークな小説は漱石と妻・鏡子の実生活から生まれた…。神経質な漱石と大らかな鏡子。正反対の二人は新婚当初からけんかの繰り返し。家庭崩壊寸前の家に現れたのは一匹の野良猫だった。名作誕生の影にあった夫婦と一匹の猫の真実のドラマを映像化。偉大な文豪を生み出した明治の夫婦愛を、妻・鏡子の目線から“涙あり笑いあり”の悲喜劇で描く。
出演者
【出演】柏原収史,大塚千弘,【キャスター】渡邊あゆみ
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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