6100分de名著 小泉八雲 日本の面影(新番組)<全4回> 第1回「原点を訪ねる旅」 2015.07.08


今からおよそ120年前一人のイギリス人が日本へたどりつきました。
後に小泉八雲という名の日本人として生涯を終えた文学者です。
当時の日本は近代国家を目指して突き進んでいました。
そんな中八雲が目を向けたのは極端な西洋化によって失われつつある庶民の生活習慣や伝統文化でした。
私たちが当たり前と見過ごしてきた日本人の美徳や自然の美しさ。
八雲はその感動を美しい文章で描き出したのです。
「100分de名著」「日本の面影」。
八雲が見つめた100年前の日本の姿から私たちの原点を見つめ直します。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さて今回ご紹介する本はこちら。
ラフカディオ・ハーンの書いた「日本の面影」。
日本に暮らし日本人として生きた小泉八雲として皆さんよくご存じだと思います。
僕はイメージとして「怪談」をすごく書かれたイメージがあるんですけど。
今回その小泉八雲としてご紹介したいと思いますが100年ちょっと前の日本の姿がこの中に克明に記されているんでございます。
さあ先生をご紹介したいと思います。
今回は早稲田大学教授池田雅之さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
ようこそお越し下さいました。
どうぞ。
「怪談」で有名だってお話でしたけれども実は八雲さんの本領は紀行文にある。
それで皆さんにその作品を紹介しながら120年前の日本を見直してそしてどう変わったのか。
それからもう一つは八雲の日本理解のしかたですね。
これは今で言うと異文化理解という事でそれを読む事によって何かヒントがもらえるんじゃないかというふうに思って来ました。
比較文化を専門とする池田雅之さん。
これまで小泉八雲の翻訳・研究を進めてきました。
現在は早稲田大学国際言語文化研究所所長として異文化コミュニケーションの研究を進めるかたわらNPOの活動を通して八雲の子供に向き合う教育方針を実践しています。
「日本の面影」まずは基本情報を見ておきたいと思います。
こちらでございます。
…という本でございます。
アメリカで出版された英語の本なんですね。
そうですね。
八雲というと日本人だと思ってる世代の人が大勢かもしれませんがもともとはイギリス国籍のラフカディオ・ハーン。
自分の言語…母国語は英語ですね英語で書いております。
目的は何だったんです?日本が開国して欧米の人が日本は本当に神秘の国未知の国という事で大変関心を持ったんですね。
だから当時その東洋に行って…もういろんな角度から知りたい気になる国ではあったと。
あったと思いますね。
明治20年代には欧米の日本研究者が集まって日本研究をやってたんです。
植民地政策それから帝国主義という事もあってそうすると日本の文化を見る目がどうしても上から見下ろすようなね。
八雲さんはそういういわゆる学者さんの目線とは違う立場から日本を理解した。
お父さんがアイルランド人お母さんがギリシャ人というそういう出自なもんですから…そういう意味でこれほど庶民の生活の中に立ち入った人というのはいない。
日本人の信仰とか迷信とかそういうものを記録した。
もう今となっては忘れ去られているような日本がそこに描かれてる。
やわらかい視点で日本の事を見たという事なんですがそれは彼のこれまでの歩みにも関係があるんです。
小泉八雲はギリシャのレフカダ島で生まれました。
父チャールズはアイルランドの軍人母ローザはギリシャ人でした。
2歳になった頃父の故郷アイルランドのダブリンへ移住。
このころ夫の心が離れている事に気付いた母ローザは精神を病みギリシャに帰ってしまいます。
八雲が母の姿を見たのはその時が最後でした。
母を慕う気持ちは八雲の作品に大きな影響を与えます。
その後父は昔の恋人と再婚しインドへ赴任。
大叔母の元へ預けられた八雲は13歳でイギリスの全寮制の学校に入ります。
しかし厳格なカトリックの教育に嫌気がさしその教えや文化を嫌悪し始めます。
更に16歳の八雲に不幸が訪れます。
友人と遊んでいる時ロープが左目に当たり失明。
生涯にわたるコンプレックスとなりました。
それ以降八雲の写真は全て左目を隠すように右側から撮影されています。
その後大叔母が破産。
学校を退学した八雲は19歳で遠い親戚を頼りアメリカへ渡りました。
しかしやっかい者扱いをされビラ配りやホテルのボーイなどの職を転々とします。
どん底生活を送る八雲。
そんな中転機が訪れます。
24歳で新聞記者の職を得たのです。
八雲はまるで自分の居場所を探すかのように取材で世界中を巡りました。
そして1890年日本にやって来たのです。
到着した途端に日本に魅了され長期滞在を決意。
島根県の師範学校で英語教師として赴任し日本人小泉節子と結婚。
本格的に日本での生活を始めます。
そして来日から4年後1894年に「日本の面影」を出版したのです。
さあ今駆け足でプロフィールを見ましたけれどもちょっとこちらに足跡をたどる地図を描いてみました。
まず生まれたのはこのギリシャね。
お母様の…レフカダ島というとこなんですがそこから幼少期にこの辺りアイルランドとかフランスとかイギリスとかこの辺りを転々としそのうちにアメリカに一生懸命渡って中南米のマルティニーク島という所にもいるんですね。
フランス領ですね。
いろんな文化に接してますので…自分の居場所というのはなかなか見つからなかった人だと思いますね。
そしてお母さんはもうほんとに幼少期にいなくなってしまいお父さんも恋人と一緒に再婚してインドに行っちゃって自分は一人カトリックの学校に入れられるんですね。
入れられます。
カトリックの厳しい教育に対する反発はすごく強くてそれが大きい日本に来る遠い原因には一つなってる。
これ日本に渡ってくるきっかけというかそれは何だったんですか?一つはニューオーリンズで万国博覧会というのがありましてその時に文部次官の服部一三に出会っていろいろ日本の文化について聞いたわけですね。
もう一つは今の東京大学ですねそこでイギリス人のバジル・ホール・チェンバレンという先生がいました。
彼が「古事記」を訳してるんですね。
その英訳を彼は読んでるんです。
それも大変日本に関心を持つ要因になったんですね。
何か全ての事が最終的に日本に向かってく感じ。
そんな感じがしますよね。
ついに僕の居場所かもしれないというような。
さあそれほどまでに八雲を惹きつけたその日本の姿とは一体どんなものだったんでしょうか。
いよいよ本編に入っていきたいと思います。
小泉八雲は冒頭でこの本の趣旨を大きく4つに分けて述べています。
1つ目は日本の知識人に対する批判です。
西洋の事ばかり追いかけて日本の本当の良さを知らない。
頭でっかちで合理主義に偏りすぎていると八雲は批判しています。
2つ目は日本の本当の良さは庶民の中にあるという事。
八雲はこう書いています。
3つ目人間は「事実」に依存して生きるよりもむしろ「幻想」や「想像力」に頼る生き物なのである。
八雲は日本人と出会い「迷信」のすばらしさに気付きます。
4つ目は西洋の近代文明への批判です。
産業革命を経過したイギリスやアメリカの経済至上主義を見てきた八雲は西洋の近代文明が合理主義だけを追求する事を批判しています。
そしてこの本を読み解くにあたって大切なキーワードがあります。
それは「ゴースト」。
八雲は日本に旅人としてやって来て「日本の面影」を紀行文として書きました。
八雲と共に読者が旅をしているような感覚になってほしいと願ったのです。
八雲は旅への衝動を「ゴーストが蠢いた」と表現します。
八雲はゴーストに導かれ日本にやって来たのです。
小泉八雲が言いたい4つの事ちょっとこちらに出してみました。
この124はちょっと分かる気がするんですけど3番目のこれはどういう事なんですかね?これ3番目は八雲が作家として一番大事にした事だろうと思いますね。
科学的に証明できるような事そういうものではなくてやっぱり人間の深いとこから出てくるようなイマジネーションあるいはファンタジーそういうものが人間を生かしてる。
この1番に対するアンチテーゼが2番ですよね。
「庶民の中にある」そうですね。
ここにこそ。
それを手繰っていくとやっぱり庶民が何を頼りにして生きていくかというとやっぱり迷信であったり伝承であったりするわけですよね。
それが人間にとっては本当は大事じゃないか。
日本に来たその理由ですけれども「ゴースト」これの正体は何ですか?ゴーストというとおばけ幽霊という事になるんですけども自分の中に絶えず蠢くものがあると。
その衝動でやっぱり旅に自分が出ると。
それこそ定義できないわけですよ科学的にはね。
人との出会いであったりあるいはまだ見た事のない自然であったりいろいろなものなんだと思うんです。
それとやっぱり自分がこう響き合うものを…共鳴器みたいなもの。
自分の中にあったんだろうと思うんですよね。
そういうものを耳を澄ます。
自分のね何がやりたいのか何をしたいのかという事を自分の魂に問いかけていくと。
何かその万国博覧会で日本というのに出会って「おおっ!」てきっと思った。
何となくちょっと恋みたいな。
自分がひきこもり経験があるからすごい分かるのは自分の居場所がないと思うんですよ。
学校にもどこにも居場所がないと思う。
家も居心地がいいわけじゃないんだけどここがまだましなはずだと思って部屋から出ないんです。
だけど小泉八雲の場合は行くしかない。
ときめいた方にときめいた方に行くしかないという。
俺がそれを「ときめき」と呼ぶならば彼は「ゴースト」。
自分探しと言うと何となく気恥ずかしい感じがしますけど旅する事によって我々は今まででない自分の側面を見たりしますよね。
そういうふうにしていつも新しい自分と出会っていくという事があると思うんですよ。
八雲さんの言ってるゴーストというのは非常に意味が広いですよね。
自分の中に住んでるという意味もあるし。
さあ八雲が共鳴したもの響き合ったものというのは一体何だったんでしょうか。
第1章は八雲の日本での最初の日の体験を中心に書かれています。
小泉八雲は…人力車で横浜の街を巡りました。
見るもの聞くもの全てが新鮮で驚きをもって横浜の街を見つめる八雲。
第1章ではその感動が生き生きと描かれています。
澄み切った青空の下店先に揺れるのれん。
美しい漢字や仮名の文字そして人々のまなざしに八雲は「驚くほどの優しさ」を感じたのです。
道中八雲は日本人の心に触れる光景に出会います。
更に寺を訪れた八雲は住職に導かれ本堂に入ります。
そこにあったのは一枚の鏡でした。
八雲は自分の顔が映し出された鏡を見つめこの旅の意味を考えていたのです。
よくぞ桜の時期に来て下すったというね。
ほんとですね。
なんという美しい表現でしたでしょう!恐らくその時期じゃなくても何かつかみ取って下さったとは思うんですけど。
木一つ描写してもそのように何か非常にいい意味でリアルなねこう迫ってくるような感じなんだけどもこれはやっぱり血筋がギリシャとアイルランドお父さんお母さんがね。
だからちょっと普通の西洋人とは違ってアニミズムというのかそういう自然に対する感覚というのはすごく研ぎ澄まされているという事がありますよね。
日本人に大切に育てられてきてとか愛されてとか。
桜をみんなが大事にするから桜も恩返しでここまできれいになるってすごいですよね。
あの最後の鏡は何ですか?あれも不思議なんですけどねあるお寺に回ってると鏡を目にした。
そしてそこに自分の顔が映っていると。
自分の旅の意味なぜ日本に来たのかというそういう意味を考え始める。
やっぱり求めていたというか何か探して。
俺は探してるんだ大事なものを探してるんだなんていう言い方はしなくて鏡を見て自分の顔を見ながらこの旅の意味を反芻すると。
自分の居場所を見つける旅でもあるわけですよね。
そういう意味ではいやおうなくやっぱり何か一抹の不安というものが付きまとうと思うんですけど。
これ面白いですね。
私たちがこう八雲さんの体験したその100年以上前の日本をつぶさに描いたそれを一緒に旅するとまた何かちょっと違うものが自分の中に見えてきそうな。
僕らは小泉八雲さんが危惧してた俺たちかもしれない。
おい失っちゃうぞ失っちゃうぞ大丈夫かって言ってた失った果ての可能性も。
でもまあ捨てたもんでもないよというね。
我々はまだ日本文化の根っこを八雲さんと見に行く気持ちというのはね僕らの中に潜んでるんじゃないかという気はするんですよね。
でも多分俺この感じだと自分は大丈夫なのか?なくなってないのか?これからの4夜で見つかる?見つからない?どっちなんだろう?何か自分探しが始まってる。
何かを見失ってますから。
常に見失ってますから僕は。
もう旅の一歩目からかなり心つかまれております。
次回からまた読み進めていきますけれども八雲は英語教師として島根に赴任するんですねこのあと。
それで庶民の生活にどっぷりと入り込んでいきます。
八雲は一体そこで何を見いだすのか。
私たちも八雲と一緒に100年前の日本を旅しながら日本の本質に触れていきたいと思います。
先生どうもありがとうございました。
2015/07/08(水) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 小泉八雲 日本の面影[新]<全4回> 第1回「原点を訪ねる旅」[解][字]

小泉八雲が異文化である日本を理解する方法は、庶民の暮らしに向き合うこと、伝承や神話に耳をすますこと。八雲が異文化日本を見つめた熱いまなざしに迫っていく。

詳細情報
番組内容
小泉八雲が異文化である日本を理解する方法は、庶民の暮らしに向き合うこと、伝承や神話に耳をすますことだ。その背景には、母を奪った父に代表される西欧社会への根深い敵意があった。日本を巡る旅は、母の記憶につながる原初の楽園的な世界を日本のうちに求めようという自分探しの旅、自らの原点を探す旅でもあった。第一回は、小泉八雲の人となり等を掘り下げながら、八雲が異文化日本を見つめた熱いまなざしに迫っていく。
出演者
【講師】早稲田大学教授…池田雅之,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】佐野史郎,【語り】好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:6350(0x18CE)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: