「日本は給付型の奨学金が少なすぎる!日本の奨学金は実質的にはただの学生ローンだ!」
こうした批判はまぎれもない事実ですが、大学院における第一種奨学金(無利子、審査厳しい)だけは、頑張った優秀な人間に対して返還免除という形で報いてくれます。
大学院に進学して、第一種奨学金を借りられる成績をお持ちであれば、奨学金の返還免除を狙ってみてはいかがでしょうか?
※2015/7/16追記
大学院の奨学金は親の年収は関係ありません!本人の年収のみで審査されます。
学部の時、親の年収が高ぎて奨学金がもらえなかった人も大学院の奨学金は狙うべきです!
返還免除と聞くと、ごく一部の優秀な人間にしか適用されない、自分は関係ないと思われるかもしれませんが、下表をご覧ください。
修士課程に注目です。25,126人が奨学金を借り、そのうち2,512人(10%)が全額免除、5,025人(20%)が半額免除になっています。
つまり奨学金を借りた人の3割が半額か全額の免除を勝ち取っているのです。
非常に多いと思いませんか?
「いや、でも自分みたいな偏差値50以下の低レベル大学院では上位5割すら無理だよ・・・。」
いえいえ、実は大学院のレベルは関係ないんです。
返還免除枠は第一種奨学金を借りている人数に応じて、均等に各大学院毎に割り振られます。
つまりは各大学院で「第一種奨学金を借りている人の中で上位3割」に入れば、返還免除が勝ち取れるのです。
具体例を使って簡単に説明します。
東大大学院で上位31~40%の人は返還免除がもらえませんが、偏差値50の田舎国立大学で上位20~30%の人は返還免除が適用されます。
東大大学院で成績が上位31~40%の人と、偏差値50の田舎国立大学大学院で成績が上位20~30%の人、どちらが一般的に優秀でしょうか?
おそらく前者でしょうが、この返還免除制度に関しては、後者が評価される仕組みになっているのです。
なんとなく、自分もいけるかもって思えてきませんか?
88,000円 × 12か月 × 2年 = 211万2千円
という大金に。
この半分でも免除になれば100万円以上お金が浮きます。
こんなに素晴らしい制度を有効活用しない手はないですね!
ここからは、どのようにすれば奨学金が免除されるのか?
どのような大学院生活を送ればいいのかを私の実例(偏差値50の田舎国立大学修士課程卒、全額免除適用)を交えながら紹介していきます。
※2013年に修了した当時の状況で語っています。
制度が変わっているかもしれないので、あくまで参考にする程度でお願い致します。
どのように採点され、返還免除が認定されるのか?
こちらの九州大学大学院の返還免除に関する書類をご覧ください。
https://www.kyushu-u.ac.jp/student/life/scholarship/gyosekitebiki.pdf
大学院毎に微妙な差はありますが、どこも採点基準はこんな感じです。
大きく分けて10項目。
1.学位論文その他の研究論文 ・学位論文
2.大学院設置基準第16条に定める特定の課題についての研究成果
3.大学院設置基準第 16条の2に定める試験及び審査の結果
4.著書、データベースその他の著作物 ・表紙、目次、内容
5.発明 ・出願資料、登録ナンバー等
6.授業科目の成績 ・成績証明書(提出不要)
7.研究又は教育に係る補助業務の実績 ・TA、RA等の採用通知の写し
8.音楽、演劇、美術その他芸術の発表
9.スポーツの競技会における成績
10.ボランティア活動その他の社会貢献
この中で理系院生に関係があるのは1・4・5・6・7のみ。
2と3は修士論文以外の何かを修士論文代わりにする場合の制度。
8と9と10は芸術系、文系、運動系用ですので関係なし。
学会で発表すれば〇点、論文を書けば〇点、特許を書けば〇点、そうした形式で加点されていき、この点数だけで返還免除枠に推薦されるか否かが決まります。
基本的にこの採点基準は明確には公開されていないことの方が多いです。
どこに力を注ぐべきか?
もう一度、理系院生に関係する評価項目をご紹介します。
1.学位論文その他の研究論文 ・学位論文(学会発表も含みます)
4.著書、データベースその他の著作物 ・表紙、目次、内容
5.発明 ・出願資料、登録ナンバー等
6.授業科目の成績 ・成績証明書(提出不要)
7.研究又は教育に係る補助業務の実績 ・TA、RA等の採用通知の写し
6と7ではほとんど差が付きません。
ティーチングアシスタントはほぼ全員がやることになりますし、授業の成績もレポート中心の大学院では差が付きにくいです。
著書やデータベースを修士レベルで発表するのもほぼ不可能でしょう。
重要になってくるのは1と5です。
5は特許や実用新案の出願で加点されるのですが、特許は出願費用や維持費が高額で、更には産業上の利用可能性がないと認められません。
つまりいい研究成果を出しても、教授が出願を認めないことが多いのです。
それに比べて、論文であれば産業上の利用可能性なんて関係なく、新しいことであればなんでも発表できます。
費用も最初の掲載料数万円程度、場合によっては無料ですみます。
何より研究室として論文の発表数が大学や文科省から求められているので、論文を発表したい!と言えば、ほとんどの教授は協力的になってくれるでしょう。
つまり、力を注ぐべきは論文発表なのです。
私の所属していた大学院が、過去(2008年頃)まで公開していた採点基準公開
※記憶をもとに書いてますので、一部誤りがあるかもしれません。
また、大学院毎でかなり異なっている可能性があります。
こちらも参考程度お願いします。
大学院の先輩から横流ししてもらった過去の資料に書かれていた採点基準を公開します。
①修士論文を提出し、審査を通過した +20点
②外部でなんらかの評価を受ける等、修士論文が特に素晴らしかった +10点
③成績が一定以上(平均点80点以上)であった +5点
④TAもしくはRAとして、教育活動に従事した +5点
ここまではほとんど差が付きません。
30~40点をほぼ全員がとることになります。
ここからが、大きく差がつく項目です。
⑤国内で開催される学会に参加した 1回につき+5点、ただし加点は年間1回のみ
⑥海外、もしくは国内で開催される国際学会に参加した 1回につき+10点、ただし加点は年間1回のみ
学会参加も大事なポイントです。
ここは大学によってかなり違うと思いますが、私のいた大学院では国内学会か国際学会かでポイントが違っていました。
ですがポスター発表でも口頭発表でも加点は同じでした。
また、年間何回出ても、1回までしか加点されませんでした。
国際学会は国内開催でも国際としてカウントされます。
発表者のうち外国人の比率が何割以上、みたいな基準がありましたが、かなり緩かったです。
修士課程の2年間で国内学会1回しか出てません、という人と
毎年国際学会も国内学会も出てました、という人では25点も差がついてしまいます。
⑦日本語で論文を発表した。 1件につき+20点(ファーストオーサー)
⑧英語で論文を発表した。 1件につき+50点(ファーストオーサー)
次に論文発表ですが、ファーストオーサー(筆頭著者、一番初めに名前が載ってる、論文の所有権を持つ人ですね)か、セカンドオーサーか、その他オーサーかで加点が変わってきます。
セカンドオーサーがファーストオーサーの0.7掛け、その他オーサーでは0.3掛けしか点数が加点されませんでした。
ファーストオーサーで書くと+50点、圧倒的に英語論文執筆の加点が大きいんです。
奨学金返還免除は、英語論文を何報書いたかで決まるといっても過言ではありません。
ちなみにインパクトファクター(論文を投稿する雑誌の価値)は一切考慮されません。
論文のページ数も一切考慮されません。
Natureに10P以上の力作が採用されても、日本〇〇協会の英語論文誌に2Pの論文が掲載されただけでも、同じ点数が加算されます。
つまり、なんでもいいから数を稼げ!ということですね。
すいません、ここからは記憶があやふやですが、あやふやになるくらい、割に合わない配点だったのは間違いないです。
詳細は忘れましたが、こちらもファーストオーサーか否かで配点が変わってました。
⑨特許・実用新案を出願した。 1件につき+50点
⑩著書・データベースを発表した。 1件につき+50点
「え、著書1冊書いても英語論文1報と同じ価値なの??」
と、当時は驚愕しました。
⑪新聞や雑誌で研究成果が取り上げられた等の、その他実績 1件につき+5点
みたいな細かいのもあった気がしますが、忘れましたのでここでは無視してください。
最後に一つ、無視できないのが
⑫大学院博士課程に進学する予定である +50点
です。
私がいた大学院では、研究者を目指す人間が優遇されるシステムになっていました。
このシステムを他の大学院でもほとんどが採用しているそうです。
ですので、
あなたの大学院に毎年3割以上博士課程進学者が存在していて、
あなたが博士課程に進学するつもりがない、
のであれば返還免除はあきらめた方がいいかもしれません。
この50点の差は致命的に大きいです。
私の大学院では博士課程に進学する人が2%(笑)しかいなかったので、民間就職組の私でも返還免除を勝ち取れました。
私がいた大学院の採点基準ってこんな感じでした。
多分どこも同じような仕組みになっていると思います。
何報英語論文を書けばいいの?
前述のとおり、返還免除を狙うには英語論文の執筆が最も重要です。
1報につき50点なので、これが何報あるかでほぼ決まります。
学会も出ておくべきですが、国内学会は、第一種奨学金を借りる成績の院生ならみんな参加しますので、正直差がつきにくいです。
国際学会は差をつけやすいですが、2年間両方参加しても+20点の差のみ。
奨学金免除を勝ち取りたければ英語論文をいかにして発表するか、
を軸に研究室生活を過ごさなければいけません。
現実問題として、理系院生は英語論文を在学中に何報書くのでしょうか?
私の知る限り(偏差値50の田舎国立大学)では、8割の院生は1報も書きません。
2割程度しか英語で、というか修士論文以外の論文を書こうとしません。
東大、京大、阪大の人たちに確認したところ、日本最高峰の彼らでも精々3割程度しか英語で論文を発表しないようです。
つまり、1報でもいいから書けば、ほぼ確実に返還免除が勝ち取れるということです!
1報だけなら、なんとかなりそうだと思いませんか?
学部時代の卒業論文を英語にして、雑誌に投稿しよう!
そうは言っても英語で論文を書くのは至難の業です。
実験をして新しいデータを得るだけでも大変なのに、それを論文にして英訳する、そこまでやっている時間が確保できるとは限りません。
そこで私がお勧めするのは、学部生時代に書いた卒業論文を、いいとこ取りしてコンパクトに英訳し、英語論文として投稿することです。
大学院に進学できている、ということは学部生時代になんらかの卒業論文を書いているはず。
それをベースに英語論文を書けばいいのです。
そうすれば追加の実験を少しする手間と、英訳する手間だけですみます。
(学部生時代と同じ研究室に進学したことを前提にしています。)
そうしてできた論文は、どこに投稿すればいいのでしょうか?
前述のとおり、インパクトファクターは全く関係ないので、なるべく掲載されやすい、投稿する人が少ない雑誌を選びましょう。
具体的には、自分の研究室が所属している日本の協会の中から、自分の研究分野が含まれている協会をピックアップし、英語論文投稿数が少なそうな雑誌を選択します。
そうすれば査読担当者は日本人なので、掲載までの修正のやり取りがすべて日本語で行えます。
掲載数が少ない雑誌なので、余程破綻した論文でなければ数か所訂正・加筆すれば掲載してもらえます。
いつまでに書けばいいのか?
返還免除を申請する際のフローはこんな感じです。
修了する年の1月末~2月初旬までに、大学へ実績をまとめた資料を提出
↓
大学で審査を行い、上位3割を決定して、3月末に日本学生支援機構へ推薦
↓
7月~8月に、奨学金貸与者のもとに結果通知が届く
そうなんです、修了する3月末よりも前に、実績をまとめた書類を提出する必要があるのです。
なので2月末に論文を書き上げても手遅れです。
遅くても年末までには書き上げておく必要があります。
ここでお伝えしておきたいことは、
「掲載までいかなくても、投稿しただけで実績扱いになる場合が多い」
ということです。
論文は雑誌に投稿後、査読者の審査や修正・追加実験要請等を経て、雑誌に掲載されます。
つまり投稿後、早くても数か月、おそければ1年以上経ってから掲載されるのです。
これは大学院側も理解していますので、実績をまとめる際には、
「このような論文を投稿しており、現在〇〇先生に査読をして頂いている最中です。いついつまでには掲載予定です。」
と一言書いて、実際に投稿した論文のコピーと査読担当者とのやり取りメールのコピーを添付すれば、
未掲載でも実績としてカウントされます。
ここは大学の奨学金担当者の匙加減一つなところもあるので、早めに確認しておいたほうがいいです。
教授の協力は不可欠!研究室選びは慎重に!
結局のところ、学会に出るにしても論文を書くにしても教授たちの協力が不可欠です。
研究室によっては、教授が自分でファーストオーサーとして書きたいがために、
学生には実験をさせてデータをまとめさせるだけ、ということもあります。
折角実験していい結果を出しても、論文を書かせてくれない、学会で発表させてくれないでは自分の成果が残せません。
研究室のHPをちゃんと見て、学士や修士でもファーストオーサーで論文を発表しているか、
毎年何人くらいが学会に参加しているか、等は確認してから研究室を選びましょう。
全額免除を勝ち取った、私の2年間の成果
全額免除を勝ち取った、私の実際の2年間の成果を紹介します。
①国内学会2回参加 +10点
②国際学会2回参加(いずれも国内開催、ポスターのみ) +20点
③ファーストオーサー英語論文1報(日本国内で発行される弱小雑誌へ3Pの英語論文を投稿)+50点
④ファーストオーサー日本語論文2報(日本〇〇協会へ2Pと3Pの日本語論文を投稿、予稿程度の内容)+40点
+120点、これで全額免除を勝ち取りました。
あまりレベルが高くない大学院で、そもそも論文執筆や学会発表に積極的な人が少なかったこと、博士課程への進学者がほぼ皆無だったことが影響して、全額免除となりました。
半額免除にすらならなかった、京都大学大学院卒のA氏の実例
じゃあレベルの高い大学院ではどれくらいが基準なの?
その疑問に答えるために、京都大学大学院卒のA氏の事例をご紹介いたします。
①国内学会2回参加 +10点
②国際学会1回参加(海外開催) +10点
③ファーストオーサー英語論文1報(英語圏で発行されるそこそこ有名な雑誌へ英語論文を投稿)+50点
④その他オーサー英語論文2報 +30点
④ファーストオーサー日本語論文1報 +20点
+120点
京都大学大学院の基準は不明ですが、同じ基準で採点すると私と同じ点数です。
ですが半額免除すら通らなかったとのことです。
博士課程に進学予定で、英語論文を修士の段階で2報以上書く人が2割ほどいるらしいので、別世界ですね。
今回紹介したやり方では全く通用しないでしょう。
恐るべし、京都大学・・・。
難しそうに見える奨学金返還免除、実は誰でも狙うことは難しくありません。
あなたの所属する大学院の中で競うのですから。
そこの大学院に入れたのであれば、競争して上位3割に入ることは決して不可能ではありません。
いかに早くこの制度に気付き、論文執筆に有利な研究室選びやテーマ選定ができるかが大事なのです。
英語力は必要ですが、そこまで高い英語力は不要です。
私はTOEIC500点くらいで研究室に入りました。
その後国際学会で発表するために、論文を英語で書くために、そこそこ勉強しましたが、
最終的なTOEICの点数は650点くらいでした。
決して高い点数ではありません。
でもこれくらいの点数でも、論文は書けるし、英語でポスター発表もできます。
2年間で100万円以上得をする、つまり半額免除でも毎月4~5万円分のバイトをするのと同じくらい価値があります。
誰でもできるバイトに時間を使うくらいなら、奨学金返還免除を狙ってみませんか?
研究者として力を伸ばせますし、一石二鳥です。
奨学金を返すって、すごく大変です。
社会人になってから10年以上、毎月数万円を返すのは、学生時代の想像を超えるくらい大変です。
返済額を最小化しておけば、その後長く続く社会人生活において金銭的な、精神的なゆとりが生まれます。
せっかくある制度、是非有効利用しましょう。
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