官邸主導異例のアピール 産業施設世界遺産へ
三重津海軍所跡 世界遺産へ
2015年05月05日 13時56分
ものづくり大国ニッポンの原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」は4日、国際記念物遺跡会議(イコモス)が登録を勧告したことで、世界文化遺産登録に向けて大幅に前進した。政府は従来の文化庁主導から安倍晋三首相直属の「官邸シフト」に切り替え、関係国に異例のアピール活動を展開してきた。登録の可否を審査する7月の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会のメンバーに、反対を公言している韓国が加わっているためで、異論が出ても押し切れるよう外堀を埋める戦略だ。
◆首相の親書
今回の登録勧告でひとまず大きなハードルを越えた格好だが、本当の勝負は7月3~6日にドイツ・ボンで開かれる世界遺産委の会合だ。日本を含む21の委員国が審査に当たるが、関係国に対する働き掛けは異例なほど熱が入っている。
これまでは文化庁を窓口とし、イコモスの勧告から世界遺産委までの約6週間で関係国に登録を働き掛けた。しかし今回は「首相案件」(政府関係者)として、内閣官房が一貫して主導。政府として推薦を正式に決めた昨年1月から早くも本格的に動き始めた。
4月、ユネスコ政府代表部の元大使を内閣官房参与に任命し、態勢を強化。5月には岸田文雄外相がユネスコ事務局長と会談し、登録に期待を示した。委員国にもレセプションを開いて売り込むなど「文化庁が想像もしなかったような活動」(ユネスコ関係者)を繰り広げた。
この大型連休中も、委員国を訪問する閣僚は安倍首相の親書を携え、協力を要請。政府関係者は「官邸が外務省の尻をたたいている」と驚く。
◆官房長官裁定
「幕末には洋式艦船の建造技術を持たなかった日本が、半世紀余りで世界最高クラスの大型船を造るまでになった」。構成資産の一つ、三菱長崎造船所(長崎市)の果たした役割を地元自治体の担当者はこう説明する。
首相サイドが必死に登録を目指す背景には、国内選考段階で異例の「逆転劇」を演じたことがある。当初、最有力候補として衆目が一致していた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎県、熊本県)を菅義偉官房長官の裁定で後回しにし、産業革命遺産が割り込む形になった。さらに推薦を初めて閣議の案件として格上げし、政府を挙げて登録を目指す姿勢をアピールした。ここまでして登録に失敗すれば、官邸の「ごり押し」批判が再燃しかねない。
産業革命遺産の23施設がある自治体に、安倍首相や盟友である麻生太郎財務相の地元が含まれていることも、政治色を強める一因となっている。
◆議論の紛糾も
登録の懸念材料は、やはり韓国の反発だ。
政府の交渉担当者によると、韓国は戦時中に九州の炭鉱や八幡製鉄所、三菱長崎造船所など23施設のうちの7施設に朝鮮半島から約6万人が徴用され、100人前後が死亡したと主張している。朴槿恵大統領自ら委員国に対し、登録阻止を呼び掛けているのが実態だ。
今年、日韓両国はともに委員国になっているため、7月の会合では議論が紛糾する恐れもある。
登録勧告が覆された例はまれだが、交渉担当幹部は「韓国は多数決に持ち込み、登録を阻むのが狙いだろう。審査に政治的、外交的な判断が入る余地がある」と警戒を強めている。
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