ワールドカップ開幕の1か月前。
キャプテンの宮間選手はカメラの前で珍しく弱気なことばを口にしました。
(実況)後ろ、岩渕!スルーして、阪口!
今大会、苦しみながらも2大会連続の決勝進出を果たしたなでしこジャパン。
世界のライバルが急速に力をつけてきたこの4年間。
なでしこは、新たなサッカーを模索し続けてきました。
さらに期待された若い世代の台頭。
重圧にもがき続ける選手たちの姿をカメラは捉えていました。
最後まで諦めず走り続けたなでしこジャパン。
その知られざる激闘の舞台裏です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
けさのワールドカップ決勝戦。
前半16分までにアメリカが4点を入れ日本を圧倒しましたがなでしこジャパンは後半アメリカのシュート6本を上回るシュート9本を放ちボール支配率も53%と最後まで諦めない健闘を見せました。
準優勝したなでしこ。
世界各国から研究され各国の女子サッカーが進化する中選手たちは、将来に向けた強い危機感の中で戦っていました。
4年前、なでしこは華麗なパスサッカーで世界の女子サッカーを変えたと称賛されましたがことし3月に行われた世界大会では9位と過去最低の成績。
今回のワールドカップでは上位進出することさえ厳しいと思われていました。
こうした予想をはね返し1次リーグから負けなし。
全勝で決勝戦に挑んだなでしこジャパン。
華やかな決勝の舞台とは対照的に日本の女子サッカーを取り巻く環境は厳しく前回のワールドカップ優勝で3倍に膨れ上がった観客数はご覧のように再び低迷。
日本代表の23人のうち5人の選手が仕事をしながらサッカーをし、また海外でプロ契約を結んだ選手でも日本サッカー協会から手当を受けるなどサッカーを続けやすい環境が整っているとはいえない厳しい状況です。
日本のサッカー選手の数は4万8000人。
対するアメリカはおよそ200万人と40倍。
選手層、すそ野の広さだけを比べても大きな開きがある日本とアメリカ。
逆境に打ち勝って決勝まで上り詰めた選手たちの大きな原動力になっていたのは世界で勝つことで女子サッカーへの関心を高めぜい弱な現状を変えたいという強い思いでした。
ワールドカップ初戦。
なでしこジャパンはいきなり苦境に立たされます。
攻撃の要である安藤梢選手。
前半25分過ぎ相手キーパーと激突。
左足首を骨折し出場が絶望的になったのです。
ロッカールームには必勝を願い安藤選手のユニホームが掲げられました。
今回、なでしこジャパンにはどうしても勝たなくてはならない訳があったのです。
今回のメンバーのうち5人はほかの仕事をしながらワールドカップを目指してきました。
初めてメンバー入りを果たした有吉佐織選手、27歳。
勝つことで、自分たちが置かれた厳しい状況を変えたいと思っていました。
有吉選手が所属する国内の女子サッカーリーグ。
チームの経営は軒並み厳しくサッカーだけで生活できる選手はほとんどいないのが実情です。
有吉選手はこのフットサル施設で契約社員として働いています。
週5日、朝9時に出勤し受付での仕事。
ほかにも利用者が使う用具の洗濯など夕方まで仕事に追われ練習に参加できるのは夜です。
こうした生活を5年間続けてきたのです。
ワールドカップへの出発前。
自分らしく闘ってくると誓っていました。
大柄の外国人選手に対して持ち前の粘り強い守備を発揮。
積極的に攻撃にも参加し代表での初ゴールを決めました。
今回のワールドカップ。
新たな戦力が次々と台頭しました。
その一人、チーム最年少22歳の岩渕真奈選手です。
ドリブルが得意で16歳から日本代表に名を連ねてきた岩渕選手。
しかし、3年前のロンドンオリンピック。
決勝のアメリカ戦の決定的な場面でシュートを決められず優勝を逃しました。
もっと技術や精神力を磨きたい。
岩渕選手は2年前ドイツのチームに移籍。
待遇はそれほど変わりませんが競争がより厳しい環境を求めたのです。
こんばんは。
心の支えになったのは、当時同じドイツでプレーしていた安藤梢選手の存在でした。
今大会、準々決勝のオーストラリア戦で絶好のチャンスが巡ってきました。
得意のドリブルでゴールに迫り流れを日本に引き寄せます。
試合終了間際。
(実況)宇津木、前を向く。
シュート!岩渕!
ワールドカップで初ゴールを決め日本を勝利へと導きました。
そして、きょうの決勝。
(実況)岩渕、仕掛ける。
ドリブルがある。
仕掛ける。
アメリカに大きくリードされますがチーム一丸となって最後まで戦い抜きました。
選手たちを支えていたのは女子のサッカーの未来を切り開きたいという思いでした。
今夜のゲストは、前回のワールドカップで活躍され、現在も選手を続けていらっしゃいます、丸山桂里奈さんです。
きょうの決勝戦、残念ながら、優勝は逃しましたけれども、今大会の戦いぶり、ずっと見てらっしゃって、どう感じられました?
そうですね、本当に4年前よりも、4年前ももちろん一つになっていたんですけれども、今回の大会では、若手とベテランの融合っていうのが、うまくいっている大会だったので、日替わりヒロインじゃないですけれども、本当に、ゴールを決める人が日替わりで替わるっていう形でなっていたので、すごい一つにまとまっているなというのは、思いましたね。
4年前よりも。
前回、こちらになでしこの得点者ありますけれども、前回の場合は、圧倒的に澤選手の活躍が目立った。
5点を挙げているんですよね。
今回は本当に一試合一試合ごとに、もう選手が全然変わってますし、そういう意味で、若手の有吉、菅澤っていうところが、ワールドカップのピッチの上で活躍して、結果を残したっていうのが、チームにとってすごい大きい力になったのかなと思いますね。
ただ、正直、3月の世界大会では9位に終わって、本当に、どこまで戦えるんだろうか、前評判はそう高くなかったというふうにいわれてきたんですけれども、ふたを開けてみれば、2大会連続の決勝進出。
何が強さを作り上げたんですか?
そうですね、なでしこの選手っていうのは、自分のために戦うっていうよりも、本当に誰かのために戦うっていう集団なので、本当にそういう気持ちがみんな、同じ方向に向かっていったのかっていうのは思いますね。
その誰かのために戦うっていうのは、具体的には、今回の場合は、安藤選手ですか?負傷して。
スイス戦で、最初にけがをして、離脱しないといけない安藤選手のために、本当にみんなが一つになれたっていうのがありますし、安藤選手のそのけがっていうのが、チームにとって、すごいマイナスだったと思うんですよ。
見ている方たちも、日本、大丈夫なのかなっていうのがあったと思うんですけど、その安藤選手のために頑張ることをプラスにして、プラスに変えて、チームが一つになったんじゃないかなっていうのは思います。
彼女はどういう存在なんですか?チームの中で。
そうですね、本当に献身的にプレーしますし、周りを引き立てるようなプレーをする選手なので、本当に彼女の離脱っていうのは、すごいチームにはマイナスだったんですけれども、それをプラスに変えていったっていう、チームが本当に強くなっていったんじゃないかなと思いますね。
もちろんその連覇への決意っていうか、その思いも強かったと思うんですけれども、今のVTRの中で、今回、MVPの候補にもなった、有吉選手は、実はフルタイムで働いていて、契約社員として、夜、練習をしていた。
決して恵まれた環境ではない人たちも、少なくないわけですよね。
そうですね、ほとんどの選手がプロの選手っていうのはいないですし、本当に朝から夜まで働いて、そこからサッカーするっていう環境が、今の日本なので、本当に純粋にサッカーできる環境っていうのはなかなかできないので、それをやっぱり、そのいい環境にするっていうのは、なでしこジャパンが、やっぱり結果を残し続けるっていうことは、大事になってくるのかなっていうのは思いますね。
サッカーに集中できる環境を作ることが、頑張る動機でもあったということですか?
そうですね、その環境がよくないんですけど、選手たちっていうのは、もう絶対に環境を変えてやるっていう思いでいるので、そういうのがモチベーションになったっていうのがありますね。
連覇への強い思いを抱きながら、今回のワールドカップに挑んだなでしこですけれども、しかし、世界のライバルたちも、力をつけてきました。
新たにサッカーを目指すには、その道のりは、決して平たんなものではありませんでした。
4年前、世界を制したなでしこジャパンの独自のサッカー。
それは、短いパスをつないでゴールを奪う華麗なパスサッカーでした。
体格で勝る相手を足元の細かいボールさばきでいなす日本ならではの攻撃です。
しかしその後、ライバルたちが日本の攻撃を徹底的に研究してきました。
去年の国際大会。
優勝したドイツは日本の選手を素早く囲い込みボールを奪います。
さらに、日本のお株を奪うようなパス回しを見せ始めたのです。
新たな攻撃スタイルの構築を迫られた日本。
ワールドカップ直前の合宿で力を入れたのは長い距離のパスを素早く前線に出し縦に攻める攻撃です。
パスの出し手は主に自陣にいる選手。
ボールを蹴るコースやスピードを瞬時に判断します。
前線で待つ受け手は敵の隙を突いて、素早く動きだしボールを受けなければなりません。
手数をかけず、一気にゴールを狙いますが、受け手と出し手の意思がぴたりと合わないとパスは通りません。
取り組んできた新たな攻撃が試されたのが準決勝のイングランド戦でした。
平均身長で7センチも劣る日本。
立ち上がり、足元で勝負する細かいパス回しで相手を崩そうとします。
しかし、イングランドの厳しいプレッシャー。
長いパスを使った攻撃に切り替えました。
前半33分、自陣にいた阪口選手にボールが渡ります。
すぐに手を挙げたのは敵陣にいた有吉選手。
(実況)倒れた!ペナルティーキックです!
およそ50メートルの長いパス。
2人の絶妙のコンビネーションがペナルティーキックを誘ったのです。
(実況)決めました!日本先制!
その後は、短いパスと長いパスを使い分けた日本。
同点のまま迎えた後半終了間際。
熊谷選手から、大きく川澄選手へ。
そして大儀見選手へ。
(実況)川澄から大儀見大儀見。
ディフェンスに足が当たる。
シュート!どうか?日本、ゴール決まりました!
信頼で結ばれた長いパスが相手のオウンゴールを呼び込んだのです。
きょうの決勝。
アメリカの激しい攻撃に対し日本も長いパスで立ち向かいました。
宮間選手から川澄選手。
そして、大儀見選手へ。
(実況)大儀見受けてシュート、決まった!
新たな攻撃への手応え。
その一方で痛感したアメリカとの力の差。
真価が問われるのはこれからです。
アメリカとの力の差を痛感したということなんですが。
本当にアメリカが本当に強かったっていうのが、率直な感想で、日本も日本のパスサッカーっていうのと、縦に早いパスっていうのを組み合わせてアメリカに対抗したんですけど、やはりほかの国には、それで勝てたけど、やはりアメリカは本当に強かったので、なかなか勝てなかったかなっていうのは思いますね。
4年前、アメリカと対戦していらっしゃいますけれども、その強さの変化というのは、どう感じられますか?
そうですね、本当に4年前も、個人の能力、レベルの高さっていうのが、すごいなっていうのは思ったので、日本はパスサッカーとか、組織力で対抗するっていうのがあったんですけど、今回はその個人の能力と、プラス日本も組織力がある中で、アメリカにも、その組織力っていうのがついてきたので、本当にパワーアップしてるなっていうのが感じましたね。
セットプレーで、かなり得点が入ってしまいましたね。
そうですね、やはりセットプレーが本当に強かったので、先制された失点があるじゃないですか。
その失点をされたあとの集中力っていうのが、日本は少し欠けていたかなっていうのもあります。
そのアメリカが、どんどん強くなった背景ですけども、アメリカで1年間プレーされた経験もお持ちなんですけども、アメリカの女子サッカーの環境っていうのは、先ほどもちょっと冒頭で、この女子サッカーの選手の数、紹介したんですけれども、日本の40倍、どんな状況なんですか?
そうですね、本当にアメリカは環境が整っているので、本当に純粋にサッカーに集中できるっていう環境ですし、私はアメリカにいてプレーしていたときに、日本ではプロじゃないよっていう話をしたら、もう本当、なんのためにサッカーやってるのっていうぐらい驚かれたので、もうアメリカと日本の差っていうのは、こういうところでもあるんだなっていうのを感じましたね。
丸山さん自身の待遇っていうのは、どうだったんですか?
そうですね、私はアメリカでもちろんプロで、おうちと車が用意されてるっていう環境だったので、もう、本当に日本のサッカーだと、男子でもそういう環境がないんじゃないかっていうぐらい、アメリカの環境っていうのは、すごいよかったのかなというのは、思いますね。
そういった中から強い選手がどんどん選抜されて、チームに入ってくるということですけれども、決勝戦の前日、宮間選手が記者会見で言ったことばが印象的だったんですけど、VTRの、最初のVTRでも紹介しましたが、優勝して、女子サッカーをブームではなく、文化になっていけるようにスタートが切れるようにしたいっていうような思いを話されているんですけれども、このことば、どのようにお聞きになりました?
そうですね。
やっぱり今、女子サッカーが、本当にブームになっているので、宮間選手もおっしゃってましたけど、本当に文化にしていかなきゃいけないですし、そうなるには、なでしこジャパンだけではなくて、その下の、なでしこリーグっていうところからレベルを上げていかないと、なかなか女子のサッカーの力が上がっていかないかなっていうのはありますね。
なでしこリーグの状況と、アメリカのリーグの状況っていうのは、かなり違いますか?
もう全然違いますね。
サポーターとか観客、見に来てくれる人の、お客さんの数も全然違いますし、本当にアメリカは人気があるので、そういうところも違うかなっていうのは思います。
そうすると、女子サッカーを強くしていくためには、本当に、なでしこリーグからお客さんが入って、そこで、2015/07/06(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「ふたたび世界の頂点へ〜なでしこ 激闘の記録〜」[字]
W杯2連覇を目指すなでしこジャパン。準決勝までに7選手がゴールをあげ、岩渕真奈選手などのニューヒロインも誕生した。試合を重ねる中で成長した選手たちの思いに迫る。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】元なでしこジャパン…丸山桂里奈,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】元なでしこジャパン…丸山桂里奈,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
スポーツ – サッカー
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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