西村京太郎サスペンス 鉄道捜査官5 2015.07.06


(花村乃里子)
最近電車内の置き引き事件が多発している
そんな報告を受け私達はパトロールの強化に努めていた
その日は土曜日
車内はレジャーの家族やデートの男女が浮かれている
こんな時こそ置き引き犯の稼ぎ時なのだ
(川島正)それは俺のカバンだぞ!それは俺のカバンだぞ!望月さん追って!
(望月春樹)はい!おい!大丈夫ですか?川島さん…!乃里ちゃんか…。
あれ…?ク〜ッ!どこだ…。
どこ行ったんだろ…。

(川島)だから時間がないんだよ時間が!えっ!?飛行機の時間まであと2時間しかないんだ。
(倉田剛)まだ大丈夫ですよ川島さん。
それより被害届を出さないと盗まれたカバン返って来ません。
あのカバンにはロクな物は入っちゃいない。
財布も免許証も切符も大事なものはみんな身に付けている。
そうですか…。
ちょっと待ってください。
(三崎真弓)何なの?あの頑固っぽいおじさん。
(望月)元世田谷西署の名物刑事。
今年の3月に定年退職したみたいですよ。
(久我達也)元世田谷西署って前に主任が配属されてた…?あれでなかなかの敏腕で主任も捜査のイロハを教えてもらったそうですよ。
お前新人のくせに物知りだな。
いやさっき全部主任から。
わかりました。
じゃあ今日のところはこれで。
ただまた今度東京へお帰りになったら改めて出直してくださいよ。
わかったわかった。
じゃあな!相変わらずせっかちだなぁ。
おい俺の車でお送りしろ。
もし遅れたらまた後で何を言われるかわからんぞ。
はい。
川島さん!新しい職場はいかがですか?職場?半年経ったら警備会社に勤めると退職のお祝いをした時に…。
あああれはやめた。
えっ?どうしてですか?うんちょっとな…。
十分間に合いましたね。
ああお陰で昼飯が食えるよ。
ありがとう。
いいえお気をつけて。
ああもうここでいいから。
あっ旦那の命日もうすぐだな。
ええ来週の土曜日に。
墓参りにはな俺も付き合うよ。
じゃあなありがとう。
お気をつけて。
その約束が守られる事はなかった…
私が川島さんの姿を見たのはそれが最後だったのである

(田畑孝)川島さん?あっどうも遅くなりまして申し訳ありません。
それで?ああそれが仕事の都合で函館の近く…。
函館の近くだと!?
(警笛)あっ来ましたね。
(アナウンス)「お待たせいたしました」「1番線に到着いたしました列車は15時34分発函館行き特急スーパー北斗16号です」「当駅を出ますと次は苫小牧。
苫小牧に停車いたします」
(花村光代)乃里子さんもういいからやめて。
はいはい。
たまのお休みに何もそんな事まで…。
ダメなんです私。
何でもいいから体動かしていないと…。
こういうのって貧乏性って言うのかしら。
ふふふ…。
(川島君子)ごめんください。
あの…。
奥さん…。
おはようございます。
あっお義母さん覚えてる?私達のお仲人していただいた川島さんの奥さん。
もちろん覚えてますとも。
さあどうぞこちらへ。
突然ごめんなさい。
分駐所にお電話したら非番だって言われて…。
あの…川島さんに何か?乃里子さん…。
主人が…死にました。
えっ!?亡くなられた…?
(鐘の音)
(山口警部)ああどうもお待たせしました。
捜査課の山口です。
花村です。
こちらは川島さんの…。
川島の家内です。
この度はご迷惑を…。
(西山刑事)ご遺体の確認を。
川島さん…。
あなた…。
(西山)ご主人に間違いありませんね?はい間違いありません。
(山口)ご遺体なんですがここの渡島大野という駅から200メートルほど函館よりの線路際で発見されました。
状況から見て走行中の列車から転落したものと思われます。
直接の死因なんですが頭部打撲によるくも膜下出血。
恐らく列車から転落した時に岩か何かに頭を打ちつけたのでしょう。
でも事故ではなさそうですね?首の周りに紐で絞めたような索痕がありましたから。
おっしゃるとおりです。
我々も川島さんは車内で首を絞められ失神したところを突き落とされたのではないかと。
川島さんが乗っていた列車はわかりませんか?上着のポケットに特急列車スーパー北斗16号の乗車券がありました。
グリーン車ですか。
(西山)はい。
区間は新千歳空港の最寄り駅である南千歳から函館まで。
15時34分に南千歳で乗車したのは確認済みです。
最近の特急は窓もドアも開かない構造になっているはずですが…。
そこが最大の疑問なんです。
(山口)スーパー北斗も客席の窓ははめ殺し。
乗降口のドアは運転士か車掌がボタンを押さない限り開閉できません。
車掌室の窓は?それも無理でしょう。
車掌が不在の時はドアに鍵をかけるそうですから。
スーパー北斗16号は渡島大野駅に停まりますか?停まりません。
この大沼公園駅を出ると函館までノンストップです。
あっさあどうぞ。
すいません。
奥さんご主人の川島さんは一体どのようなご用件で北海道に来られたんですか?それが会わなきゃならない人がいるとだけ…。
それが誰かは?見当もつきません。
(発車のベル)
(アナウンス)「16時26分発七飯行き各駅停車」「まもなく発車いたします」今の列車渡島大野駅は通らないそうです。
大した距離じゃないようですからここから歩きましょう。
はい。
ごめんなさいねわがまま言って付き合わせて。
いいえちっとも。
私も現場に行ってみたかったんです。
(君子)私ねあの人と別れようと思った事あるのよ。
えっ…?だってあの人仕事だけが生きがいで。
家庭の事なんて何一つ…。
でもね定年になった日あの人言ってくれたの。
これからはお前と2人で余生を楽しもうって。
私達やっと人並みの夫婦になったの。
なのにあの人また1人でどっか行っちゃった。
ここですね。
こんな寂しいところで…。
おとうさん…!どうして…。
この時私は心に決めた
川島さんを殺した犯人は必ず私の手で逮捕すると
その頃東京では別の事件が発生していた
(清水由香里)あれ?開いてる。
お母さんもう帰ってきたのかなぁ?
(清水啓介)んなアホな。
帰りは明日になる言うてたやん。
でも何で開いてんのかな?何でやろな?あっあんた誰や?
(清水)ああー!あなた大丈夫!?泥棒やあいつ泥棒やで!泥棒!誰か…誰か!主任は今頃函館でメシ食ってんのかな〜。
北海道のほうは食べ物がうまいからなぁ!いいないいな!私も行きたかったぁ。
バカ者!花村君は遊びに行ってるんじゃないんだよ。
(電話)おう。
はい倉田。
おうおう…噂をすれば。
どうだ?そっちの様子は。
その報告は帰ってから詳しく…。
それより今川島さんのお嬢さんから連絡があって留守宅に空き巣が入ったって言うんです。
空き巣が?ええ。
お葬式の準備があるので大阪から帰ってきたら玄関から出てきた犯人とばったり会ったとか…。
じゃあ顔を見たんだな?それで人相特徴を訊いてみたら電車の中で川島さんのカバンを盗んだ男にそっくりなんです。
何だと?そりゃただの偶然じゃなさそうだな。
こっちの事件と何か関係があるのかも。
ちょっと調べてもらえませんか?金目のものは盗まれていない?
(由香里)そうなんです。
いつもここにしまってある通帳とか証書には手もつけていません。
でも2階の部屋は…。
(由香里)こちらです。
おう…。
この部屋は?私が出て行った後は父が書斎として使ってたんですけど…。
課長。
うん?ホシは手紙を探していたんじゃないでしょうか。
うん。
おはようございます。
あっ花村さん。
それに奥さんも。
おはようございます。
これから東京へ帰りますので一言ご挨拶をと思いまして。
あっそうですか。
いろいろとお世話になりました。
どうぞ捜査のほうよろしくお願いいたします。
いやあとんでもない。
どうもご丁寧に。
いやしかしちょうどいいところに来てくださいました。
実はホテルにお伺いしようと。
ちょっと待ってください。
このライターに見覚えはありませんか?
(君子)これ…川島のです。
間違いありません。
娘が就職した時父親にプレゼントしたんです。
やっぱりそうでしたか。
あのこれどこで?ええ。
函館駅の遺失物係の人が届けてくれたんです。
事件のニュースを見て何か手掛かりになるんではと。
でもどうして遺失物に?ええ。
事件当日スーパー北斗16号に乗っていたお客さんが車掌に届けたそうなんです。
何でも長万部駅で降りた年配の男性が落としていったとかで…。
長万部駅で?それじゃあ川島さんは長万部で途中下車したというのか?そういう事になりますね。
ここが川島さんが乗車した南千歳駅。
ここが目的地の函館。
川島さんが下車したと思われる長万部はその中間に当たります。
(望月)長万部の知り合いでも訪ねたんでしょうか?いやあ上着のポケットに切符はあったんだ。
駅の外には出なかったと考えるべきだろうぁ。
たぶん後続の普通列車に乗り換えたのではないかと。
普通列車に?ええ。
普通列車なら窓が開くでしょう?あっ他は開かないですね。
そうか川島さんは普通列車の中で首を絞められて…。
窓から投げ落とされたんですね?うんそれはあり得る。
しかし函館までの特急券を買っておきながらなぜ途中下車をしたのかそれが謎だ。
ところで川島さんの留守宅に入った空き巣の件で何かわかった事は?ああこれがホシの似顔絵だ。
やっぱり似てるわあの置き引き犯に。
ええあいつですよ。
他には?この男どうも手紙が欲しかったみたいなんです。
手紙ですって!?何か心当たりあるのか?ええ。
函館の湯の川観光ホテルで奥さんと話していたら…。
川島さん再就職をやめたとおっしゃってましたけど…。
そうなの。
せっかくいいお話だったのに…。
何かあったんですか?よくわからないけど手紙が原因らしいの。
手紙?ひと月ほど前1通の手紙が届いたの。
それを読んだ主人は急にとても驚いた顔して2〜3日考え込んでたわ。
それからというもの川島さんは行き先も告げずにちょくちょく出かけるようになり奥さんの知らないうちに再就職を断っていたと言うんです。
その手紙誰から来たのか奥さん覚えてないのか?ええ残念ながら。
ただ黄色い封筒で検閲済のスタンプが押してあったと。
黄色い封筒で検閲済。
それってもしかして塀の中から届いたんじゃないっすか?そうですよ。
収監中の受刑者が出したんだ。
間違いない。
それも川島さんが現役の頃にタッチした事件の関係者じゃないかと思うんだけど。
よし。
とにかくその手紙を書いた人間を突き止めるのが先決だ。
手分けして各地の刑務所に問い合わせてくれ。
(一同)はい。
手紙の主はすぐに判明した
東京刑務所に収監されている高井涼一という受刑者である
高井は殺人の罪で懲役10年の刑を受けている
予想したとおり川島さんはその事件を担当した刑事の1人だった
(藤原)この手紙の事で高井に。
ええ。
面会させていただけますか?いやそれが…高井はすでに死亡してますから。
えっ?亡くなったんですか?はい。
日付から見てこの手紙を出した3日後の事になります。
(藤原)その日高井は不祥事を起こして独房に入っていたんですが…。
(看守)おい高井。
高井どうした!?自殺したんですか?まあ後で考えますと不祥事を起こしたのも独房に入るのが目的ではなかったかと。
川島さんに宛てた手紙には何が書いてあったかわかりますか?自分は無実だ。
身をもってそれを証明する。
まあそのような事が…。
高井って受刑者自分の命を懸けて無実を主張したんですね。
それを知った川島さんは捜査にミスがあったのではないかと考えて1人で事件の再調査を始めたんだわ。
私は高井涼一が犯人とされた事件について調べてみた

その事件が起きたのは1年前
世田谷西警察署管内の高級賃貸マンションで都内の会社に勤務する井上由美子という女性の絞殺死体が発見された
ただちに川島さんを始めとする捜査員による身辺調査が行われ被害者と親密な関係を結んでいた3人の男性が容疑者として浮上した
被害者の上司である田畑孝46歳
フリーの建築設計士野本裕ニ36歳
そして被害者が学生時代から付き合っていた高井涼一28歳
捜査が進むにつれ焦点は高井に絞られた
当時高井は失業中でありそれが原因で被害者と激しい口論を繰り返していた事が判明したのである
(井上由美子)いい加減にして。
もう二度と来ないで!
家宅捜索の結果高井の部屋から井上由美子名義のキャッシュカードと現金50万円が見つかった
これが決め手となり高井は逮捕された
(パトカーのサイレン)
(高井涼一)冗談じゃない。
僕が由美子を殺しただなんて何かの間違いですよ!それじゃあこの金とキャッシュカードはどうなんだ?お前の部屋に隠してあったんだぞ?知りませんよこんなもの!誰かが僕に罪をなすりつけようとしてるんですよ。
そうに決まってます!見え透いた嘘をつくな!!よーし。
最初からやり直しだ。
結局高井は犯行を認めたのだった
その後の裁判で高井は再び無罪を主張したそうですが認められず懲役10年の実刑が決まって結審したんです。
服役してもなお冤罪を訴えたんですね。
川島さんに手紙を書いて。
しかも自殺まで…。
これホントに無実なのかな?もしそうだとしたら他に犯人がいる訳よね。
ひょっとするとその高井の手紙には何か重要な手掛かりが書いてあったのかもしれんな。
ええ。
だからこそ川島さんのカバンが盗まれたり留守宅が荒らされたりしたんでしょう。
それじゃどっちの事件も手紙が狙いで?そうだったのか…。
どうりであいつ置き引き常習犯にしては手口が荒っぽいと思った。
1年前の事件には不明な点がいくつかあります。
例えば被害者本人がOLには不相応な贅沢な暮らしをしていた事。
また高井が盗んだとされるキャッシュカードで現金を引き出された事実がない事などですが…。
う〜ん確かに妙な事ばかりだな。
よし。
もう一度この高井以外の2人。
調べてみるか。
(一同)はい。
私達は早速調査を開始した。
その結果野本裕二は1か月前から仕事でアメリカに行っており川島さんが殺害された事件とは無関係である事がわかった
残ったのは被害者井上由美子の直属の上司だった田畑孝という人物である
どうぞごゆっくり。
職務中だからいらないって言ったのに。
わあ〜いい香り。
本格的ドリップコーヒー。
景気いいんですねこの会社。
最近また別荘が売れてるんですって。

(ノック)
(相川哲夫)失礼。
あっどうもお待たせしました。
専務の相川です。
どうも。
どうも初めまして。
鉄道捜査隊の花村と申します。
どうも。
三崎です。
あっどうも。
どうぞおかけになってください。
どうぞどうぞ。
井上由美子君が殺された事件について調べられてるそうですね。
はい。
それで直属の上司だった営業部長の田畑さんにお話を伺いたいのですが。
しかしあの事件はとうに解決して犯人も服役したと聞きましたが。
事情があって再調査しているのです。
差し支えなければ田畑さんに…。
それが田畑はここにはいないのですよ。
いない?ええ。
人事異動で地方に転勤になったのです。
ですから代わりに私が…。
まあお答えできる範囲でですがご協力させていただきます。
それじゃお訊きしますが亡くなった井上由美子さんの携帯電話には田畑部長と頻繁に交信した記録が残っていたんです。
もしかしてお二人は上司と部下を超えた関係だったんじゃないんですか?いやそれはないと思いますよ。
田畑は私の大学の後輩で入社当時から公私に渡ってよく知ってますが真面目を絵に描いたような男でしてね。
井上由美子さんのほうは?ええ。
これも仕事はよくしていたようです。
携帯のやりとりも業務の打ち合わせじゃありませんかね。
このひと月ほどの間に川島という退職刑事が訪ねて来た事はありませんか?川島さん?さあ覚えがありませんね。
少なくとも私は会ってない。
何なら総務に問い合わせてみましょうか?いえそれには及びません。
それより田畑さんの転勤先はどちらなんですか?千歳です北海道の。
北海道?ええ。
当社は北海道の物件も扱ってますので千歳空港の近くに支店を。
田畑はそこの支店長をしております。
(芹沢亜紀)お待たせしました。
それじゃあこちらどうぞ。
どうもありがとう。
またいい物が入ったらご連絡しますね。
ありがとうございました。
いらっしゃいませ。
芹沢亜紀さんという方は?私が芹沢ですけど…。
(望月)去年亡くなった井上由美子さんはあなたのお友達だったそうですね。
(亜紀)私由美子の事はよく知らないのよ。
この前来た刑事さんにも言ったけど。
それって川島さんって人?名前は覚えてない。
だいぶいい歳のオヤジだったけど。
彼と重なる質問かもしれませんが井上由美子さんは高級なマンションに住んでかなり贅沢な暮らしをされていたようですね。
うん。
私もうらやましいって思ってたわ。
どうしてそんなお金あったんでしょう?さあどうしてかなぁ。
何かアルバイトしてたんじゃないの?水商売とか風俗とか。
だから知らないんだって。
友達っていっても短大の同級生でたまに会ってお酒飲んだりするだけだったんだもん。
悪いけどもう戻らなくちゃ。
うちのオーナー結構厳しいのよね。
わかりました。
お邪魔してすみません。
ご協力心から感謝してますよ。
ああっ!?
(九木三郎)うまくあしらったな。
もう脅かさないでよ!シーッ。
プレゼント。
何?この手紙。
これを読めば井上由美子が贅沢できた理由がわかる。
そうか…田畑という上役は北海道にいるのか。
それも千歳ですよ。
空港のある。
川島さんが北海道で会う予定だった人物は田畑と考えていいでしょう。
うんまず間違いないな。
でも千歳に住んでる人間に会うのに何で特急で函館まで?おまけに長万部で途中下車…。
そんな事ここで考えていても答えは出ん。
よし我々も現地行こう。
はい。
久我お前も一緒に行くぞ。
俺も?何だ嫌かよ?いやとんでもない。
課長やっと俺の実力認めてくれたんですね?いやいや…!違う。
勘違いするな。
鉄道マニアのお前を連れて行けば何かと便利なだけ。
それだけ。
被害者井上由美子の直属の上司だった田畑孝
(久我)うわ〜北海道だ北海道!空気もうまいしやっぱ広いっすね!おいお前旅に出ると急に元気になるなぁ。
北海道は初めて?いえ。
よく仲間達とこっち来てカニ族やってました。
知ってます?カニ族。
知ってるよ!大きなリュックを背負って街ん中をこう横になって歩くあれだろ?さしずめお前は毛ガニだな。
何すかそれ。
とりあえず田畑の職場行ってみよう。
はい。
申し訳ありません。
支店長の田畑は外出中ですが。
お仕事ですか?はい。
お客さんを案内して向陽台の別荘へ。
戻りは夕方になります。
夕方ですか。
まずいな。
こちらは土曜日も営業しているんですね。
はい。
先週の土曜日田畑さんは出社なさいましたか?先週ですか…?私用で休みになってますね。
やっぱり…。
でその私用ってどんな用事かわかります?さあそこまでは。
あっ何だったら社宅のほうへ行ってみたら?今奥さんが来てるんですよ。
ああ第一打席から空振り三振とはついてないですね。
課長これからどうします?よし二手に分かれよう。
君は社宅へ行って奥さんから話を聞いてくれ。
俺と久我はその車で別荘地へ行ってみる。
わかりました。
それじゃまた後で。

(チャイム)ごめんくださーい。
田畑さん!
(田畑早苗)はーい。
あの…ちょっと今手が離せないのでこっちに回ってもらえますか?ああ…。
あっ…。
どちら様でしょうか?警視庁鉄道捜査隊の花村といいますが…。
えっ!?じゃあ…それじゃあ刑事さん!?ここ持ってますからそっちのほう止めてください。
すみません!じゃあちょっとお言葉に甘えて。
タオルそちらに置きましたから。
すいません!あっどうぞ。
この家古いでしょう。
冬になると隙間風や雪が吹き込むから今から予防しておくようにって大家さんが。
大変なんですね北国で暮らすのは。
仕事で快適な別荘を売っているのに住んでるのはもうこの有様ですからねぇ。
でもホント助かりました。
いただきます。
あああったまる。
それで私にどんなご用で?実は先週土曜日の午後ご主人が何をしていらっしゃったかお訊きしたいんです。
それは…なぜ?詳しくはちょっと…。
ただある事件に関連してるとだけ言っておきます。
もしかして去年井上由美子さんが殺された事件では?奥さんは井上さんをご存知だったんですか?いいえ。
でも…あの事件の後会社内で主人と井上さんが不倫をしていたという噂が流れたとかで主人がこちらに配転になったのもそれが原因らしいんです。
(電話)あっごめんなさい。
(電話)田畑です。
あっお義父さん。
えっ?自転車の鍵ですか?あっ電話の横の箱の中に…。
あの香織ちゃんちゃんと学校のほうに?もしもしお義父さん?今の電話主人の父からなんです。
私東京とこちらの半分ずつの生活してるもんですから行き届かなくって…。
ご主人単身赴任なんですか?ええ。
家族揃ってこちらに引っ越してくる事も考えたんですけど娘は学校をかわりたくないと言うし義父も慣れ親しんだ土地を離れたくないと。
先週の土曜日の事ですけど主人午前中は家にいましたが午後になると用事があると言って出て行きました。
お帰りは何時頃でしたか?随分遅くって…12時を過ぎてたと思います。
何だかひどく疲れてるように見えましたけど…。
はあ〜!空大きい!課長!この大自然の中で暮らしたらすっごい気分いいですよね!そうか?俺はお前と違って都会育ちだからな。
こういうだだっ広いとこは落ち着かないな。
おい。
はい。
あのあたりか…もうすぐだな。

(田畑)いやいや…お疲れさまでございました。
いかがですか?こちらの物件!もうねこれ最高のものですね。
もうちょっと足を延ばせばねスキー場ええ〜ゴルフ場温泉いくらでもございますから。
北国の生活をエンジョイできます。
どうぞ中のほうもご覧になってください。
どうも遠いところをわざわざ!こちらへはパンフレットをご覧になってお出でくださった…?別荘を買いに来た訳じゃないんです。
我々はこういう者です。
(田畑)ええ川島さんの事は覚えてますよ。
去年井上君が殺された事件で何度か事情を訊かれましたから。
最近も会ったんじゃありませんか?最近?ええ。
先週の土曜日この千歳で。
妙な事をおっしゃいますね。
私には覚えがありませんが…。
じゃ土曜日の午後は何を?ええ〜その日は列車に乗って…。
函館へでも行きましたか?いえその逆方向札幌です。
札幌。
なぜ?こんなところで働いてるとね飽きてしまうんですよ。
それで時々都会へ出て気晴らしを。
いやまぁ気晴らしといってもパチンコしたりこ洒落たバーで酒を飲んだりする程度ですがね。
(カメラのシャッター音)ちなみに午後7時から9時までの間何してましたか?どうしてそんな事を?
(久我)その時間帯に殺されたからですよ。
川島さんは。
えっ…殺された?ご存知なかったですか?ええ全然。
一体どうしてあの人が?それを調べるために我々は東京から来たんですよ。
疑っているんですか?私が犯人だと。
いやいや…!一応伺っているだけです。
死亡推定時刻の夜7時から9時あなたはどこにいらっしゃいました?映画館ですよ札幌の。
映画を観てたんですか?
(田畑)ええ。
新作のアメリカ映画を。
それじゃアリバイ証明になりませんね。
うん…しかし札幌に行っていたというのが本当なら田畑は事件とは無関係という事になるな。
そんなのでまかせに決まってますよ。
あいつが犯人ですよ!俺の勘にピーンときました。
お前の勘を当てにしていたらあらゆる事件がお宮入りだよ。
で奥さんはどうだ?いい人ですよ地味で働き者で。
でもちょっぴりかわいそう。
かわいそう?なぜ?あっ…田畑って人左遷されたらしいんです。
井上由美子さんとの事で。
しかも奥さんはご主人の実家とこっちを行ったり来たり…。
あれじゃ今にすり切れてしまいますよ。
なるほど気の毒だな。
あの課長ちょっといいですか?うん?何だ?何が言いたいんだ?うん?ラーメンもう1杯食っていいっすか?もう勝手にしろよもう!
午後3時34分南千歳駅発の特急スーパー北斗16号
あの日川島さんが乗車した列車である
私達も川島さんの行動を追ってその電車に乗ってみる事にした
苫小牧登別東室蘭伊達紋別洞爺…長万部は6つ目ですね。
その後は八雲森大沼公園と続いて終着の函館です。
いや〜暗記してるのはさすがだがさっきから何もぞもぞしてんだよ?いやこうグリーン車乗るの初めてなんでどうも落ち着かないんですよ。
そういえば私も仕事では初めて。
そりゃそうだろ。
職務による移動は普通車と決まってるからなぁ。
それじゃ川島さんはどうして…。
ご自分でグリーン車に乗るような人じゃないのに…。
連れがいたのか?ええ。
その人がグリーン券を買って川島さんを誘ったに違いありません。

(アナウンス)「長万部長万部長万部到着です」
17時10分長万部駅に到着したスーパー北斗16号から降りた私達は約50分の待ち合わせ時間を過ごした後川島さんが乗ったと思われる後続の普通列車に乗り換えた
この普通列車が渡島大野に着くのは20時42分です。
そこから数分後に殺害されたとすれば死亡推定時刻とも一致しますね。
いきなり首を絞めて失神させ…。
うう…。
ここから外へ突き落とす!乗客が少なければできない事はないな。
(川島)うわっ!?一緒にいたのはあの田畑の奴じゃないですか?あるいはな。
だが別の人間の可能性もある。
その人も川島さんと一緒にこの列車に乗り換えたんでしょうか?ああ…それはまだわからん。
もし一緒だとしても何で渡島大野の先で殺人を犯すような状況になったのか…。
まったく謎だらけですねこの事件は。
おい。
お前いつの間にそんなものを…。
長万部で降りてカニ弁を買わない手はありませんよ。
21時7分列車は定刻どおり函館に到着した
ここで私達はある人物と会う約束をしていた
(松下)大変お待たせしました。
松下と申します。
先週の土曜日上りスーパー北斗16号に乗務していた車掌さんである
実はこれなんですが。
(松下)ええ確かにこのライターに間違いありません。
乗客の方が届けてくださったそうですね。
はい。
あれは長万部駅を発ってから2〜3分した頃でしょうか。
(田畑)車掌さん。
はい?これ。
落とし物です。
今の駅で降りた年配の男の人が落としていったようですよ。
そういうお客さんが実際に長万部駅で降りたんでしょうか?さあ私はそこまではちょっと…。
ライターを拾って届けたのはどんな人でしたか?そうですね…年齢は40代半ばぐらい。
きちんと背広を着たサラリーマンの方に見えましたが。
ちょっと待ってください。
これ。
おっあの時撮ったのか?はい。
何かに使えるんじゃないかと思って。
お前にしちゃ上出来じゃないか。
どうですか?この男じゃないですか?これ落とし物です。
(松下)ええ!この人です!やっぱり…!その後どこかの駅で降りたというような事は?この人ですか?いや確か函館まで乗っていたと記憶してます。
はい。
それだけわかれば結構です。
どうもご足労をおかけしました。
川島さんを誘ってスーパー北斗16号に乗ったのは田畑だったんですね!札幌で息抜きしてただなんて…。
川島さん殺したのはあの嘘つき野郎で決まりですね。
いやそう考えるのはまだ早い。
何でですか?考えてみろ。
田畑はライターを届けた後函館までその列車に乗っていたんだぞ。
つまり後続の普通列車には乗らなかったって事。
一緒にいなけりゃ殺せないっすもんね。
ああもうこんな時間だ。
よし。
函館中央署の挨拶は明日にしてとりあえずホテル入ろう。
あっいいっすね。
行きましょう。
川島さんは長万部駅でスーパー北斗16号から降りたのに田畑はそのまま乗り続けた
なぜ2人は別々の行動を取ったのだろう…
謎はますます深まるばかりだ
それにしても田畑はなぜライターを届けたのだろう?
ローマ字でKawashimaと彫ってあるのに…
あっ…そうか。
やっぱりこれしかない。
やっぱ北海道の魚はうまいですね!ああ。
今脂がのってる時期だからな。
おいそれにしてもお前よく食うね。
さっき弁当食ったばっかりだろう?いやあれは別腹ですよ。
おやつみたいなもんです。
はあ…。
主任随分長いお風呂でしたね。
あんまりゆっくりなんで始めてしまったよ。
お二人共。
ちょっとこれ見てください。
ここが川島さんのご遺体が発見された渡島大野。
うん。
南千歳駅から約250キロ。
長万部からは95キロ。
この森駅からでも約45キロあります。
でも函館からはたった18キロです。
ちょっちょっと待てよ。
何だって今さらそんな解説を?もし課長が南千歳から渡島大野まで急いで行くとしたら途中の駅で特急を降りて普通列車に乗り換えますか?それともいったん函館まで来て下り線に乗りますか?そりゃまあ函館まで来たほうが時間の節約に…。
あっ花村君ひょっとして君は川島さんは特急で函館まで来たと言いたいのか?そうです。
長万部で途中下車したというのはたぶん田畑が考えたトリックでしょう。
トリック?これはあくまでも仮説ですが田畑は特急が長万部を発車した直後…。
隙を見て川島さんのライターをかすめ取り…。
それを車掌さんに届けていかにも川島さんが列車から降りたかのように見せかけたのではないでしょうか。
2人を乗せた特急スーパー北斗16号は18時24分に函館に到着しました。
そのわずか10分後の18時34分に出発する大沼行きの下り普通列車があるんです。
そしてその列車の車内で犯行に及んだ。
考えられない事はないな。
いやそれはおかしいと思うんですよね。
何がおかしいの?いや普通列車で殺る気なら何も函館まで来なくても…。
この大沼公園駅で乗り換えたほうが早くないですか?大沼公園で?はい。
この地図を見てもわかるようにこの大沼公園駅から渡島大野は近いんですよ。
せいぜい10キロ程度じゃないですか。
確かにスーパー北斗16号が大沼公園駅に着くのは函館より20分早いわ。
でも後続の上り普通列車が来るのは20時17分。
2時間以上も待たなきゃならないのよ。
ちょっと待て…つまりスーパー北斗16号を使ってこの渡島大野に行くにはいったん函館まで来て普通列車でUターンするのが一番早いって事か?そういう事になりますね。
新千歳空港で川島さんを出迎えた田畑は何らかの口実を設けて渡島大野へ誘ったに違いありません。
恐らくそこへ行けば自分の無実が証明できるとでも言ったのでしょう。
何とか自分の力で事件を解決しようとした川島さんはその誘いに乗ってしまった。
う〜ん…やっぱおかしいんですよね。
またか…今度は何がおかしいんだよ?ちょっとここを見てください。
七飯と大沼の間が2本に分かれてますよね。
この区間は勾配がきついので左側の線路を函館行きの上り列車が通り勾配のゆるい右側の線路を下り列車が走っているんです。
何だと…それじゃ川島さんと田畑が乗った下り列車は渡島大野を通らないという事になるじゃないか。
そういえば川島さんの奥さんと現場へ行った時もこの七飯駅で降りなければならなかったわ。
ですよね?だからいくら列車の窓が開いてもこの地点で突き落とすというのは無理があるんですよ。
何もわざわざ確かめなくても…。
鉄道マニアの俺が言ってるんですから。
花村君の仮説に賭けたいんだよ。
黙ってそこに座ってろ。
鉄道マニアですよ?わかってるよ…。
(アナウンス)「ご乗車ありがとうございます」「七飯七飯です」「次の停車駅は渡島大野。
渡島大野でございます」今次の停車駅は渡島大野って言ったよな?はい確かに。
ええ!?どうなってんすかね?これ…。
あっ…ちょっと訊いてきます。
何が鉄道マニアだ。
いい加減な事ばっかり言いやがって〜。
車掌さんあのこの列車は…。
わかりました。
わかりました。
下りの列車もこっちの線路を通るのがあるそうなんです。
ほら見ろ!だから確かめてよかったんだよ。
18時34分の大沼行きは…?それも渡島大野は通ります。
しかもちゃんと窓が開いて。
いや早とちりしてすいませんでした。
まぁいいよ。
これで田畑はクロと決まりだな。
私千歳へ行って来ます。
俺達は函館で待ってる。
こんにちは。
あっ花村さん昨日はありがとうございました。
いえ。
それよりご主人は?主人は会社のほうに…。
それが今日は欠勤しているという事で…。
えっ?やっぱり?やっぱりとおっしゃいますと?実は朝暗いうちから車で…。
昨夜から何だか落ち着かない様子だったんですけど。
行く先はおっしゃらなかったんですか?ええ。
でもちょっと気になる事を…。
気になる事?出かける間際になってから私を呼んで俺にもしもの事があったら親父と娘をよろしく頼むと…。
刑事さんあの人何かしたんですか?田畑の奴逃亡を図ったのは間違いないですね。
ええたぶん…。
まあ逃げたのは有罪を認めたのも同じだ。
函館中央署に指名手配するよう連絡しとこう。
って事は自分らのやる事はもうありませんね。
えっ?課長今夜街に出てみませんか?よし。
お前1人で行って来い。
この時私は田畑が奥さんに言い残したという言葉が気にかかっていた…
逃亡した田畑は何をする気だろう…
これ以上奥さんを悲しませるような事だけはしてほしくなかった
頭痛いのか?はい…。
吐き気は?バッチリです…。
バカか!だから言ったろう。
飲みすぎるなって。
少しわきまえろ。
すいません。
今後気をつけます。
(携帯電話)誰だ?こんなに朝早く…。
はい倉田ですが…。
ああどうもどうも。
えっ!?ええ…。
どっどこで?わかりました。
すぐ行きます。
何かあったんですか?大沼公園で田畑の死体が見つかったそうだ。
えっ…!?
(パトカーのサイレン)
(山口)ああどうも。
遺体はあそこです。
服毒死ですね?おそらくは青酸系の…。
手にこれを握っていました。
(久我)それじゃ自殺を…?ええ間違いないでしょう。
あそこの車の中にこれがありましたから。
遺書があったんですか?はい。
1年前に井上由美子さんを殺害したのは自分だと書いてあります。
彼女と不倫関係を結んだものの別に恋人がいる事を知って痴話げんかとなりカッとなって殺したと…。
その時は被害者のキャッシュカードを使って高井涼一という彼女の恋人に罪をなすりつけた。
しかし最近になって川島さんから事情を聞きたいとの連絡があり今度は逃げられないと考えて殺害を企てたそうです。
川島さんを殺した手口については何か…?ええそれも詳しく。
花村さんの推測とほぼ一致してます。
函館中央警察署は田畑の死を自殺によるものと断定
被疑者死亡につき書類送検の手続きを取った
(読経)
(相川)あっこれは刑事さんわざわざどうも。
いいえ。
随分寂しいお葬式ですね。
無理もありません。
人を2人も殺したうえで自殺したんですから。
いやまったく困った事をしてくれたもので…。
これじゃ奥さんがかわいそうですよ。
あっどうぞ。
(読経)
(早苗)わざわざお出でいただいたうえにお香典まで…本当に申し訳ありません。
いいえ。
それより奥さん大丈夫ですか?随分おやつれになられたみたいですけど。
ああ…ありがとうございます。
でもこれが済めばしばらく休めますから…。
こんな時にお伺いするのは失礼ですけどご主人と井上さんの関係をご存知だったんですか?いいえちっとも…。
函館の警部さんに遺書を見せられるまで…。
それで初めてわかりました。
井上さんは亡くなる前分不相応な暮らしをしていたそうです。
もしかしてご主人がお金を渡していたという事は…。
まさかそんな事は…。
何かお心当たりがあるんですか?あの…実はここ数年主人のお金遣いが荒くなったんです。
高価なゴルフクラブを買ったり車を買い替えたり…。
奥さんは不審に思わなかったのですか?もちろん思いました。
でも私が訊くたびに競馬でもうけたとか以前から持っていた株が値上がりしたとか言って…。
もしかしてあの人他にも悪い事を…。
私の知らない顔を隠していたんでしょうか?田畑の葬式に行ってきたんだって?ええ。
奥さんの事が気になって…。
うん。
理由はそれだけか?えっ?ひょっとして君は事件はまだ解決していないと考えているんじゃないのか?かなわないな課長には。
さあどうぞ。
課長さんの大好物。
玉子焼きとイカフライですよ。
ああこりゃあありがたい。
いつもおかあさんすいません。
気を使っていただいて。
どういたしまして。
でも課長さんってホントに素朴なものがお好きなんですね。
そうですかいやいや…。
あれほめてんのかね。
それとも…?さあどっちかしら?あはは…。
やあそれはともかくとしてぶっちゃけた話な俺もこのへんがモヤモヤしてるんだよ。
川島さんのカバンを奪ったり留守宅を荒らした奴の正体がまだわかってないしな。
よく考えてみると田畑が単独であの川島さんを殺害したというのも疑問です。
いくら歳は取っていても元刑事だぞ。
そう易々とやられるはずはない。
もし共犯がいたとしたらその人物が自殺に見せかけて田畑を殺した事も考えられます。
よしもう一丁突っついてみるか。
次の日から私は通常任務の合間を縫って事件の洗い直しを始めた

(ドアの開く音)どうも。
刑事さん今日はどういうご用件で?どうぞ。
単刀直入にお伺いしますが田畑さんは井上由美子さんにかなりの額のお金を渡していたフシがあります。
そのお金は一体どこから出たのでしょう?なぜそのような事を私に?率直にお訊きしますが田畑さんは会社のお金を横領していたのではないでしょうか?その秘密を知った井上さんが彼をゆすっていた事も考えられるのですが…。
刑事さんこれはまだ確定した事実ではないのでここだけの話にしてもらいたいのですが…。
最近の監査で数億円の使途不明金がある事が判明したのです。
やっぱり…。
現在内部調査が行われている段階ですがその対象者の中に田畑の名前も挙がっていたのです。
彼が自殺したのはその調査から逃れたい気持ちもあったのではないかと…。
もっと早く彼を追及するべきでした。
(携帯電話)ちょっと失礼。
(携帯電話)相川ですが。
今来客中なのでその件に関しましてはこちらから後ほどご連絡を必ず…。
どうも失礼。
他にお話がなければそろそろ会議が始まりますのでこのへんで…。
ご協力ありがとうございました。
《似てる…》
(タクシードライバー)ありがとうございました。
どうもありがとう。

(チャイム)遅かったじゃない。
(九木)焦らされるのもいいだろう?うっうん…。
おっおお…。
花村君ご苦労さん。
見てください。
こいつか川島さんのカバンを奪った奴は?ええたぶん…。
今三崎さんと久我さんが身元を洗っています。
こっちの女は井上由美子の友人の芹沢亜紀に間違いありません。

(真弓)課長!おう。
男の素性が割れましたよ。
名前は九木三郎。
サンライズ興産の近くにあるクラブ・Jの従業員です。
サンライズ興産?はい。
あの会社クラブ・Jを営業の接待に使っていて田畑も東京にいた時はよく出入りしていたって。
つまり田畑と九木は顔見知り…。
何だみんなつながってるじゃないですか。
臭うなこの九木という奴…。
田畑の共犯者はこいつじゃないのか?でもまだ確証がありません。
この人から事件当日の行動を聞き出してみます。
うん。
久我。
お前クラブ・Jの顧客リストを集めて…。
(チャイム)おかしいわね。
明かりはついてるのに。
お風呂にでも入ってるのかな。
芹沢さん留守ですか?開いてる…。
芹沢さ〜ん!お留守ですか?
(乃里子・真弓)芹沢さん!はっ!死んでるんですか?でもまだ温かい。
せいぜい20分か30分…。
110番に連絡してきます。
もしもし私鉄道捜査隊の三崎という者ですが世田谷区経堂にあるマンションセジュール世田谷206号室他殺体発見。
至急応援願います。
ドアが開いていた?ええ。
鍵をこじ開けられた痕跡もありませんでした。
つまり被害者が自分で開けたんですよね。
ホシは顔見知りかあるいは訪問する約束がしてあった人物か。

(真弓)主任行って来ました。
ご苦労さん。
それで…?司法解剖の結果ですが死因は頭部挫傷によるショック死。
(真弓)バールのような鈍器で殴られたようです。
で鑑識のほうはどうなんだ?
(望月)室内から犯人のものらしい指紋や遺留品は一切見つかっていません。
よっぽど用心深い奴なんですね。
現場にあった携帯電話にも?はい。
ていねいにふき取ったらしく本人の指紋も残っていないそうです。
という事は犯人が触ったという事ね?ええ。
通信記録も完全に削除されてるって…。
だったら電話局に問い合わせればわかるんじゃない?いやもちろん。
所轄のほうで照会したところ送信受信合わせて3千件以上記録されてたそうです。
3千も!?課長その記録取り寄せてもらえませんか?おいおい。
まさか3千件以上の記録を調べようって言うんじゃないだろうな?やめてくださいよ!そんな考えただけでも気が遠くなりますよ。
全部とは言ってません。
昨日の午後1時前後の送信記録だけで結構です。
うんうん。
うんよし。
花村君。
昨日の午後1時前後の送信はこの1件だそうだ。
《12時54分…》今来客中なのでその件に関しましては後ほどこちらからご連絡を。
ええ必ず…。
どうも失礼。
(相川)他にお話がなければそろそろ会議が始まりますので。
このナンバーの持ち主はだな…。
サンライズ興産の相川専務。
そのとおりだ。
よくわかったな。
やっぱり…。
だけど何でわかったんですか?相手が相川専務だって。
匂ったのよ。
匂った?真弓ちゃん気がつかなかった?昨夜芹沢亜紀さんの部屋で微かに漂ってた香りを。
さあ私死体を見て動転してたから…。
どんな匂いですか?男性用オーデコロン。
相川専務も同じ香りがするのを思い出したの。
それじゃあの人昨夜あの部屋に…?それを確かめに来たのよ。
えっ北海道へ!?はい今日から3日間の予定で出張しております。
北海道のどこですか?それはちょっと企業秘密に関する事なので…。
こっちは殺人事件に関する調査をしているんです。
隠さずに教えてください!もういい。
お前達の言い訳は聞きたくない!
(真弓)課長!はい。
何を怒っているんですか?いやあ久我と望月にこいつを見張らせておいたんだがまんまとまかれてしまったらしいんだよ。
えっどこで?羽田の近くだ。
まったくドジな奴らだよ。
使えないよもう…。
もしかして九木は函館行きの便に乗ったんじゃ…?函館行きの?サンライズ興産の相川専務も函館方面に出張なんです。
何でも大沼公園の近くに新しく開発する別荘地の下見とか…。
臭いな…。
出張はカモフラージュじゃないのか?
連続殺人事件に関わりのある2人の男が同時に東京から姿を消した
何か起こりそうな予感を覚えた私は倉田課長と共に再び北海道へ飛ぶ事にした
どうかしたのか?田畑さんの奥さんです。
あれが…?奥さん!どうも…。
同じ飛行機だったんですね。
えっええ…そうみたい。
ちっとも気がつかなくて。
函館には何かご用事が?ええ。
千歳行きの便が満席で…。
今日中に社宅に行って明け渡しの用意をしたかったものですから。
大変ですね。
あのもう行かないと特急に乗り遅れますので失礼します。
(山口)お待たせしました。
ご連絡をいただいてからすぐに捜査員を空港に送ったところ
(山口)この男が到着したのを確認しました。
やっぱり函館に向かったんですね。
ええ。
その後市内のビジネスホテルにチェックインしたんですが今のところは何の動きも見せていません。
サンライズ興産が新しく開発するという別荘地について何かわかった事は?いやあそれがまったく情報が入らないんですよ。
市内の不動産業者もそんな話は聞いてないと言ってます。
やっぱりね…。
花村さんお疲れのようですね?えっええちょっと…。
疲れていた訳ではない。
この後嫌でも見なくてはならない現実の重さに気が滅入っていたのだった
待たせたね。
もう帰ろうかと思っていたよ。
悪い悪い。
あたりに人がいないか確かめていたんでね。
で今度は何をさせるんだよ?別に…。
君はもう何もしなくていい。
何だと?また仕事をしてほしいと言うからこんなところまでやってきたんだぜ。
依頼主の信頼を裏切るような人間に仕事は頼めないよ。
俺が何したっていうんだよ?高井涼一が刑務所から出した手紙を私に渡してくれなかったじゃないか。
だから言ったろう。
手紙なんかなかったんだよ。
カバンの中にも上着のポケットにも川島の家にも。
それじゃこれは何なんだ?3日前匿名の女から会社に電話がかかってきたよ。
(亜紀)「ねえ専務さん私黄色い手紙持ってるよ」「この中に書いてある事誰にも知られたくないでしょ?」
(相川)私は考えた。
この女を操っているのは君ではないかとね。
2回目からは私の携帯にかかってきた。
もう間違いない。
私の携帯はね極めて少数の人間にしか教えていないんだ。
私は十分焦らしたうえで5千万円で手紙を買い取ると持ちかけその女の住所を聞き出した。
お金持ってきた?ええ5千万円この中にあります。
そう。
見せて。
その前に手紙を…。
手紙はどこにあるんですか?ダメ!先にお金を…。
お金を確認したら手紙を渡すわ。
そうですか。
それじゃあ…。
何それ!?畜生よくも俺の亜紀を…!このー!てめえー最初から俺も殺すつもりで…。
私は人に見くびられるのは嫌いなんだ。
それに君は知りすぎた。
ここでぶっ放せば人が飛んでくるぜ。
このあたりは熊が出没するそうだ。
間違えて撃ったと釈明すれば罪にはなるまい。
畜生!
(銃声)やっぱりあなたが黒幕だったのね。
何ですかいきなり…。
いやあ別荘の下見に来たんですけどね。
このあたりは熊が出るっていうんでね…。
とぼけても無駄よ。
1年前あなたはこの男と田畑に井上由美子さんを殺させたのよ。
ボケッと見てないで押さえろ。
押さえろ!その後田畑は由美子さんのキャッシュカードを盗み…。
自分が用意した50万円のお金と一緒に高井のアパートに隠したんだわ。
田畑と組んで川島さんを殺したのもあなた。
その後自殺に見せかけて田畑を殺したのもあなた…。
全部この相川専務に頼まれてやったんでしょう?そうだよ。
俺が悪いんじゃない。
悪いのはこいつだ。
俺は借金返して亜紀と一緒になる金が欲しかっただけなんだよ。
(相川)ははは…。
そう。
すべて私が書いたシナリオだ。
会社の金を横領したのもそれを田畑に手伝わせたのも。
その秘密を知った井上由美子さんは田畑に毎月お金をゆすり取っていた。
傷が広がるのを怖れたあなたはこの男と田畑に彼女を殺させその罪を彼女の恋人になすりつけたのね。
高井涼一という男が服役して何もかもがすべて上手くいくはずだった。
あの川島という退職刑事が私の前に現れるまでは…。
井上君が殺された事件はとっくに解決したのじゃないのですか?いや解決はしていません。
特に私にとっては…。
それは…?獄中から高井が私宛てに出した手紙…遺書です。
遺書…?高井は死んだのです。
首を吊って…。
死ぬ前に高井は思い出したのですよ。
ある時酔っ払った彼女が言った言葉…。
私が田畑と付き合っているのはお金のためだ。
(川島)田畑は上司と組んで会社の金を横領している。
私は大変な過ちを犯してしまったのかもしれない。
それを償うためにもぜひ田畑に会って真相を聞き出したいのです。
川島さんの執念を断ち切らない限りいずれは自分の罪が暴かれる。
そう考えたあなたは函館本線を利用したトリックを思いつきこの男と田畑に実行させたんでしょう?北海道にいる田畑にあの退職刑事に電話するように命じたんだ。
あなたは私の事を疑ぐっているみたいですが私は井上君が殺された事件とは無関係ですよ。
本当ですよ。
その日のアリバイを証明してくれる人間もいます。
こちらへ来ていただければ…。
「会わせてあげますよ」わかった。
その誘いに乗ってあの日川島さんは千歳行きの飛行機に乗ったんだわ。
川島さん?どうも遅くなりまして申し訳ありません。
ところで例のアリバイ証人というのはどこにいるんだね?ああそれが仕事の都合で函館の近くの渡島大野という町に引っ越してしまいまして…。
函館の近くだと?あんた私をだまそうとしてるんじゃないだろうな?違いますよ。
じゃあこうしましょう。
これから渡島大野まで行ってみようじゃありませんか。
時間を無駄にしたくないという川島さんの心理につけ込んで田畑は特急で函館まで行きそこから普通列車で渡島大野に戻る事にした。
そうでしょ?まっそんなところだ。
途中で川島さんのライターを盗みそれを車掌さんに届けてあたかも川島さんが途中下車したかのように見せかけたトリックもわかってます。
あなたは特急列車が函館に到着した時点で犯行に加わったのね?乗りましょう。
そしてその30分後列車が渡島大野に近づいた時残虐極まりない計画を実行に移したのよ。
きっ貴様やっぱり…。
何やってんだよ。
手紙探せよ早く!ない…。
どこにもない。
畜生…しょうがねえな。
窓を開けろよ窓。
だまされたと知った時川島さんどんなに悔しかった事か…。
しかもあなた達はまだ生きてるあの人を列車の外へ…。
ひどすぎるわ。
私絶対に許せない。
許せないのはこっちも同じだよ。
あんたが余計な事をするから…。
田畑の口をふさがなければならなくなった。
田畑はどこへ逃げるつもりだったの?わからんね。
もしかしたら函館署に自首するつもりだったのかもしれない。
電話をかけてきた彼は混乱していて自分が何をしたいのかもわからないようだった。
そこであなたは大沼公園で待つように指示を出しその一方でこの男に殺害を依頼した。
そうでしょう?
(ノック)ここじゃ人目につくよ。
あっちでしゃべろう。
温まるよ。
おうありがとう。
ううっ…。
あなたが田畑の殺害に踏み切ったのは単に口をふさぐためじゃないでしょう?他に何がある?奥さんを手に入れる事が。
あっはっ…何を言ってるのかわからんね。
それじゃあこれを見て。
昨日函館空港で彼女に会ったのは聞いているでしょう。
私彼女のあまりの変わりようと口ぶりのおかしいのが気になって悪いけどあとをつけてみたの。
そしたら…。
東京の相川哲夫の家内ですが…。
はい。
相川様でしたら先ほどからあちらの喫茶店で…。
ああ…。
ああ来たか…。
お待たせ。
いやいや疲れたろう。
ううん。
何飲む?ああ同じもの。
すいません。
これビール。
(相川)早かったな。
(早苗)ううん。
ちょっと遅く…。
自分の目が信じられなかったわ。
でもあれは紛れもない事実…。
もういい。
彼女は田畑にはもったいない女だったんだ。
その事は彼女自身が一番よく知っている。
私は5年前に妻を亡くした。
だから彼女を誘った。
それだけの事だ。
君にはこの男と一緒に死んでもらうよ。
おあいにくさま。
その前にあなたは逮捕されるわ。
課長聞いてました?「ああしっかり録音させてもらったよ」・
(パトカーのサイレン)相川哲夫九木三郎殺人容疑で逮捕する。
(銃声)ああー!こらっ!捕まえろ。
相川!わからんな。
専務まで出世しながら何で危ない橋を渡ったんだ?専務といっても頭打ちなんですよ。
うちはオーナー会社でね。
私の上には同族の役員がゴロゴロしてる…。
どうせ使い捨てにされるなら大金をつかんで好きなように生きたかった。
おいっ。
花村君は?彼は来ないわ。
どうしてこんな事をしてしまったの?奥さん…。
誰かが言ってたわ。
女は自分を捨てて他人に変わる時があるって。
今がその時だと…?田畑との仲はとっくに冷えていたわ。
でも離婚を認めてもらえず古い家に縛られて…。
そんな時私を大事にしてくれる人が現れた。
その人について行って何が悪いの?そのためにご主人が殺される事になっても?私のせいじゃないわ!私は手を汚してない。
でもそうなる事は予期していたはずよ。
心の中で手を汚したのよ。
あなたは罪を問われないわ。
でも罪の意識は一生ぬぐえないでしょうね。

(嗚咽)ねえねえなでしこ見つけたんだよ!なでしこ!ちょっとどうしたんですか?見て見てなでしこ!ほらなでしこの花言葉知ってる?純粋な愛だ!純粋な愛…。
いいですねぇ。
これはね花村君が生けてくれた純粋な愛なんだよ!いってきまーす。
いってらっしゃい。
あれっ?生けてあるな。
今日はバラか…。
バラは永遠の愛かな!?あれっ誰もいないの?はいはい。
わかりました。
2015/07/06(月) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
西村京太郎サスペンス 鉄道捜査官5[再][字]

殺意の函館本線、札幌〜函館 上り線、下り線ダイヤトリック…OL殺しの犯人の手紙が連続殺人を招く!

詳細情報
◇番組内容
殺意の函館本線、札幌〜函館 上り線、下り線ダイヤトリック…OL殺しの犯人の手紙が連続殺人を招く!西村京太郎サスペンス人気シリーズ第5弾!函館市内大沼公園、駒ヶ岳に長期ロケーション敢行!
◇出演者
沢口靖子、地井武男、今村恵子、野村祐人、長谷川朝晴、大方緋紗子、真行寺君枝、佐戸井けん太、桶浦勉、中原丈雄

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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