性とパートナーシップ
2015年7月7日
夫婦生活、妻が拒否・・・40代男性(1)心の傷、孤独

次に登場するのは、7年間妻からの拒否に悩み、様々な工夫の末、セックスレスを解消した40代後半の男性です。こちらは、取材を奥さまにもお願いしてみたのですが、「それは遠慮したい」と断られました。今回もたくさん書く内容がありまして、長くなりそうです。プライバシーを守るため、今回は一部、脚色したところもあることをお許しください。
◆◆◆
セックスレスになったのは、妻の妊娠がきっかけでした。互いに20代後半で結婚し、結婚10年に差し掛かる頃に、思いがけなく授かった子ども。「できなければできなくていいよね」と自然に任せており、結婚10周年の記念にヨーロッパ旅行を計画し始めた時に舞い込んだ、うれしいサプライズでした。
妻は、妊娠初期、つわりなどの体調不良もあり、「妊娠中はいや」と男性の誘いを断っていました。その後も、「流産したくないから」「子宮の中の赤ちゃんに精子をかけるなんてとんでもない」と、様々な理由をつけて拒みました。
出産後も、男性は、床上げまでは仕方ないだろうと我慢しましたが、初めての育児に忙しいこともあってか、妻は「その気にならない」と断り続けます。男性も、本などを読んで妊娠中の女性の体について勉強し、「産後も授乳しているうちは、ホルモンのバランスが変わり、女性はセックスしたい気分にならない」ということが書かれていたため、授乳が終わるまで待つことにしました。
ところが、子どもが授乳を卒業してからも、妻は「
男性は、会社初の男性取得者として、1か月間育休を取りました。「夜泣きのときの対応は妻の方に任せがちだったかもしれません」と言うものの、おしめ替えからお風呂入れ、泣いたときにあやすなど、積極的に育児に関わりました。普段から、炊事、洗濯、掃除など家事全般は苦にならないタイプで、妻の方が手早い料理以外は、手が空いていれば自然にやっていたつもりと男性は言います。それにもかかわらず、子どもが歩き始めても、言葉をしゃべるようになっても、誘うと「今はそういう気分じゃない」と言われ続けました。そのうち、「話し合いたい」と言うだけでも、「またその話?」とあからさまにいやがるようになりました。
「何より、自分のつらい気持ちが無視され続けるのが寂しかったんです。孤独でしたし、怒りも感じていました」
それでも男性が我慢し続けていたのは、妻が思春期から抱える心の傷をよく理解していたからです。
遡れば、高校時代に「恋人の友人」として知り合った妻と男性がつきあい始めたのは、大学生の時でした。所属するテニスサークルのダンスパーティーに誘ったのがきっかけで、デートを重ねるようになりました。高校では学年トップの成績、京都大学に現役で合格し、親からも先生からもちやほやされて育った男性に、妻は「あんたはここがだめよ」と、唯一欠点を指摘してくれる人でした。「はっきりものを言う子だな。この女性とだったら、自分は成長できるかもしれない」と新鮮な刺激を受けた男性は、女性にどんどんひかれていきました。
男性が大学院に進み、短大を卒業して一足早く社会人になった妻に、交際1年ほどでプロポーズしたときの返事は、「あなたまだ学生でしょ?そういうことは就職して、社会人になってから言って」。
就職して1年目にプロポーズしたときは、「貯金はいくら?」と聞かれ、「ありません」と答えると、「貯金もないのにどうやって生活するの?そういうことは、100万円ためてから言って」。
つれなくされるほど、夢中になり、男性の就職で遠距離恋愛になってからも、定期的に行き来して、交際はずっと続きました。
しかし、男性には気になる点がありました。つきあい始めて5年以上、「キスはいや」と一切、キスをさせてくれないのです。「キスされるとかゆくなるの」。
「『わかった』と彼女には言っていたのですが、でもしたかった。キスもさせてくれないと、どうやってそれ以上の関係に持ち込めるでしょうか。20代の性欲の強い時期に、好きだからこそつらかったです」
交際5年半ほどたった時、遠距離で住む彼女に会いに行き、夜の公園での別れ際、もう10回はしたかもしれないプロポーズをすると、彼女はこう言いました。
「私ひどいアトピーを持っているの。胸も背中もがさがさで、かきむしって傷も多いから、絶対に裸は見せられない。だからもう、あなたとはもうおつきあいできない。もう二度と会いたくない。明日からは、電話もメールも一切してこないで」
別れる覚悟の告白だったのでしょう。思春期から症状が強くなったという彼女は、見た目に悩み、愛する人に裸をさらさなければならないという不安から、一生結婚はできないと、学生時代には既に覚悟を決めていたと後日、聞かされました。その時、男性は驚くと同時に、若い頃から、そんな思いをずっと抱えてきた彼女をたまらなくいとおしく感じだと言います。
結婚するのはこの人しかいないと個々に決めていた男性は「そんなことは気にならないし、気持ちは変わらないから結婚しよう。明日また電話するよ」と返しました。彼女は無言でした。そのまま帰宅した男性は翌日、また電話をしました。この人は何を言ってもあきらめないと思ったのか、彼女は電話にはあっさり出てくれましたが、裸を見せること、結婚することには前向きではありませんでした。
「子どもも同じ病気を抱えるかもしれない。治療にも通っているから色々大変だよ。あなたそこまで考えてないでしょう?」 「そんなの平気だよ」
それから約1年をかけて二人で話し合い、最終的には、「結婚してもいいけど、子どもには同じ思いをさせたくないから、産みたくない。それでもいいなら」と言ってくれました。男性は「それでもいい」と答えました。
本当に子どもがいなくてもいいという思いと、結婚後に何年かかけてゆっくり話し合うことで、いつか産んでもいと彼女が考え直してくれたらうれしいという思いとがありました。
そして、婚約して初めて、男性は彼女と結ばれました。
「アトピーがあるから、ピルは飲みたくない。でもコンドームは100%避妊できるわけではないから使いたくない。だから、中には入れないで」
裸で互いの体を触り合うだけの交わり。それでも、男性は彼女がそこまで自分に身も心も許してくれたことに感激し、満足していました。
結婚後も4、5年、挿入はしない夫婦生活が続きました。
「自分は妻しか知らないし、もちろん、セックスはしたかったですが、妻が大好きですから、こういう人生でも喜びはあると納得していました。一緒にいてくれるなら幸せですし、妻の気持ちを第一に考えたかったんです」
結婚6年目。二人の間に信頼感が育ったからでしょうか。妻と「子どもができてもいいよね」と話せるようになりました。妻は基礎体温をつけ始め、初めて挿入をすることができました。それから3年たち、「やはり子どもはできないのかな」と半分あきらめていた時の妊娠。しみじみとした幸せを感じ、家族としてますます強い絆が結ばれていくはずでした。
そんな幸せの絶頂から始まったセックスレスでした。拒否が続いて、何年もたった頃から、男性は、通勤の車の中で、「ああ赤信号だけど、このまま車で突っ込んだら楽になれるかも」とまで思い詰めるようになっていきました。
(続く)
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- 岩永直子(いわなが・なおこ)
- 社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。6月から編集長に就任。医療部ではがん全般や感染症、遺伝子医療、セクシュアリティーなどを担当。夫と二人暮らし。趣味は居酒屋巡りとダイエット。
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コメント
戦後、私たちの主な住宅2DKは鳩小屋だった。この環境で子供に動物的な性欲の発育を期待することは困難であると思う。相思相愛と錯覚して結婚したものの、離婚困難な日本文化の中で夫の退職まで、または寿命を全うするまで同居しようとする高齢者たちにも同傾向があり、老後の安定な生活のために、夫婦崩壊にもかかわらず離婚しないセックスレス夫婦を聞きますので投稿しました。
性欲は脳を含めた成長過程で発生するもので、脳の成長が大人になる18歳頃までに抑制が強い状態が続いた後、「脳の発育と共に、体内のホルモンバランスを制御する、特に抑制作用が発達する」、結婚してしまうと、結婚後も性欲による喜びは体験でき難いと思われる。
しかし、困難ではあるが、一度でも脳に良い結果または経験を記憶させられると、この抑制作用;負の要因 を緩和できるので、修復の可能性がある。パートナーとよく話し合い、相手の真の負の要因を聞きだし、その負の要因はできるだけ改善するようにまたは触れないで、性欲を増加させる正の要因を増加させるよう時間をかけてゆっくり繰り返すことだと思う。内容は夫婦の共同作業を通してのみ成功可能な試行なので、お互いの信頼が必要となり、もし、話し合い困難な夫婦ならば離婚すべきではないか?
7年間妻から拒否られても結末が「様々な工夫の末、セックスレスを解消した40代後半の男性です」と結び、シリーズの1だけを読んで、感想をコメント云々すると踊らされてしまうかなという感じがします。
そう思いながらも、1を読んだ内容で感じたことを書かせてもらえば、この女性は愛情を抱くことなく惰性で結婚されたのではないかと感じました。
反論もあるでしょう。でも、きっかけが「恋人の友人」として知り合ったと述べられており、時系列的に経緯を整理すると、腑に落ちないことが多々見受けられます。アトピーで将来の結婚を諦めかけた話が本当ならば、それを受け入れてくれた男性に対する接し方を考えると、不自然と思えるぐらい女性の男性に対する愛情を感じることが出来ません。
男性は、優秀な成績で順風満帆の道を歩みながらも、世間を知らず、女性を知らず、一途に一方的に美化した女性と結婚した結果を考えれば、想像できるシナリオではありますが・・・
この男性は、ある意味で徹底した惚れっぷりが幸いしたのでしょう。
普通ならば、結婚に至らないでしょうし、結婚したとしても途中で破綻するか、男性が壊れていくでしょう。
女性が思うほど男性は強くないんです。
相手に愛情を抱かない女性がとる冷徹なまでの行動は、家内や娘が日頃口にしている話からすれば、なるほどと頷けました。最終話がセックスレス解消=ハッピーエンド、になったのかどうか?女性の本音の部分の愛情はどうなのでしょね。努力すれば報われることとも理解は出来ますが、付き合いでも結婚でも冷静に見極めてスタートすることの方が大事だと痛感しました。特に男性は。
大学時代の友人で、7組のペアーがおりました。しかし、卒業と共にペアーは解消、結婚した組はありませんでした。
男女が互いにひかれることがあっても、結婚して家庭を持つこととは違うような気がします。
私は上司の紹介で、家内と見合いし、客観的に相手を知り、冷静に判断することが出来ました。紹介者も様々な角度から二人を見て、紹介してくれました。
見合い結婚は一時的な感情で相手を選ぶのでなく、お付き合いしていくうちに、この人だったら一生添い遂げてもいいと判断。いまでは、なくてはならない伴侶です。相手が望まないセックスもしませんし、相手の気持ちの充分考えた上の行動だと思います。
見合い結婚は、消して押しつけられたものではなく、充分話し合いした結果ですから、離婚率も恋愛結婚より低い値です。長い一生を相手に託す結婚、けして古い習慣とは言えません。
(続き)
今回、取材を受けた者です。はるおは仮名です。
彼女が、心の底から前向きに子どもを産んでくれたのかどうかも定かではありません。
私が子どもを欲しがるから、あるいはセックスをしたがるから、私を喜ばせるために応じてくれたのかもしれません。
しかし、生まれてくるまで、そして生まれてきてからもずっと「この子がアトピーになりませんように」と願いながらの子育てでした。
おかげさまで、娘は敏感肌にもアトピーにもならず、健康に育ってくれています。
妻は本当に、生まれてきた娘を可愛がってくれました。
でも、アトピーにならないように、アレルギーが出ないように、とかなり気を遣ってはいたと思います。
子育て中は自分自身の肌のケアもままならず、肌の調子も悪いことが多々ありました。
そんな状況の中で、能天気に「セックスしたいんだけど、話し合おうよ」と言われても、「話し合う時間があったら、寝たいわ!」という気分だったのかもしれません。
私のほうがよほど自己中心的だったかもしれません。
自己中心的というのは、わがままとも言い換えられると思いますが、およそ夫婦というのは「わがままを言い合える」くらいが良い関係なのではないでしょうか? あるいは「わがままを聞き入れてほしいと思っている者同士」なのではないでしょうか?
妻も私にわがままを言いますが、私だって妻にたくさんわがままを言っていると思います。
そのことで喧嘩になったりもしますが、わがままを言って喧嘩をして、ということを日常の出来事として受け入れながら夫婦生活を送ることができれば、まぁそれでいいんじゃないかと思ったりもします。
こちらのコメント欄は承認制ですよね?
記事の流れの妨げになるようでしたら、掲載していただかなくて結構ですので、少し書かせて下さい。
今回、取材を受けた者です。はるおは仮名です。
「奥様は、自己中心的ですね」とのコメントがありますが、そう断言もできないと思います。
妻は「取材には応じたくない」と言いました。
そりゃそうでしょう。実名が出なくてもセックスレスの話です。
記者である初対面の岩永さんに自分のセックスの話をするなんて、そうそうできることではありませんよ。
取材を受けたくないというのも自然なことです。
今回の記事も「夫から見た結婚生活」です。
芸能人のゴシップ記事でも仲が悪くてもめている夫婦では、夫は妻を悪く言い、妻は夫を悪く言うものです。
今回の取材でも、私も嘘は言ってはいませんが、しかし自分に都合の悪いことは(隠す意図がなくても)言っていないことがあると思います。
遠距離恋愛の末に、妻の実家から遠い土地での結婚生活、そして育児となりました。
出身地から遠く離れて、親しい友人は数えるほどしかいません。幼馴染ははるか彼方にしかいません。
私が気づいてあげられなかった部分で、育児についてもいろいろ辛い時期があったと思いますし、私の仕事が忙しくて育児に十分関われなかった時期もあったと思います。
(続く)
同じ問題を抱えていて毎回拝読してます。今回、性別と立場が逆だからか立派だなと思ってもあまり感情移入できなかったのですが、朝起きて、もう何年も大人に抱きしめられたことないなぁ、セックス抜きにしても誰か男の人に単に抱きしめられたいなぁと思いました。そういうビジネスあったら成り立つ気も。。
パートナーシップ、難しいです。中年で、職場でも家庭でも問題が大きくなりました。どちらかであれば家庭を取ると息巻いてましたが、結局どちらもうまくいかず、諦めてみると、意外と両者とも、他人との関わり方という意味で同じなのかもと感じています。どちらもストレスなく日常を過ごせるようになりたいものですがゴールもないものですし。。
誠実な素晴らしいご主人ですね。
私は、男はセックスの事しか頭にないと信じてました。わたしの夫にこの方の爪の垢を煎じて飲ませたいです。
奥様の事を一番に思い、奥様の立場になって考え、大切にして、羨ましい限りです。
奥様は、自己中心的ですね。もう少しご主人の事を大事にして差し上げれば良いのに。
いやー。この方もすごいです。
追い込まれるってこういう事なんですね。
奥さんのほうもいろいろ努力されたんでしょうね。