スターリングエンジンのクランク形式
(1)クロスヘッド機構
クロスヘッド機構の構成と実用例を下に示す。大型エンジンのピストンスカート部は、
摩擦による温度上昇が原因で焼き付きを起こす恐れがあるため小型エンジンのようにシリンダと油膜を介して
接触させることはできない。そのため、サイドスラストを軽減させるために、ピストンの下方に
もう1つピストンシリンダ機構を設ける。この機構を「クロスヘッド機構」という。
この機構は、大型の船舶用ディーゼルエンジンなどで実績があり、信頼性が高い。
しかし、クロスヘッド部での機械損失が大きいことと、エンジンが大型化してしまうなどの欠点がある。
(2)ロンビック機構
ロンビック機構の構成と実用例を下に示す。
ロンビック機構はβ形専用とも言える機構である。図のように歯車で結合された2本のクランク軸が左右に配置されている。
パワーピストンはヨークAを介して2本のコネクティングロッドAに接続され、コネクティングロッドAの他端は
左右のクランクに連結されている。一方、ディスプレーサピストンは歯車をはさんでヨークAの反対側に配置された
ヨークBを介して、2本のコネクティングロッドBに接続され、コネクティングロッドBの他端は左右のクランクに連結されている。
2つの歯車がそれぞれ内側に回転するため、それぞれのコネクティングロッドは左右対称に動き、
パワーピストンとディスプレーサピストンは限りなく直線に近い往復運動をする。そのため、
サイドスラストはほとんどかからない。
ロンビック機構は、左右対称であるため水平方向の慣性力は常に釣り合っている。
更に垂直方向の慣性力もカウンタウェイトを取り付けることにより釣り合わせることが可能である。
従って、大変振動が少なく、動的バランスが優れた機構である。しかし、歯車やクランクをそれぞれ2つ必要であるため、
エンジン重量がかさむなどの問題点がある。
(3)斜板機構(Z型クランク機構)
斜板機構の構成と実用例を下に示す。斜板機構は、ピストンに平行な回転軸を
もつ回転斜板(Swash plate)により複数のピストンを駆動する機構で、主にダブルアクティング形エンジ
ンに使用される。複数のピストンが軸対称に配置されているため、すべてのピストンは常に慣性力が釣り合っている。
そのため、エンジンバランス性に優れ、クロスヘッド機構に比べ小型化が可能である。
また、この機構には2種類あり、図のようにシューと斜板でカムのように斜板を回転させピストン
を上下させるものと、自在軸継手やピロボールを各部に設け、斜板自体は回転させないでピストン
に往復運動をさせるものがある。前者は構造が簡単だが、シューと斜板の摩擦により機械損失が大きくなりがちであり、
低出力や中出力エンジンには向かない。だが高出力エンジンにおいてはそのほとんどが図に示すように
この機構を採用している。後者は摩擦による機械損失はほとんどなく、低・中出力エンジンでも使用が可能である。
しかし、部品点数が増え構造の複雑化という問題点がある。そのため、強度的に高出力エンジンには向かず、
実用はされていない。
(4)スコッチ・ヨーク機構
スコッチヨーク機構の構成と実用例を下に示す。スコッチヨーク機構は、
出力軸に偏心して取り付けられたクランクピン軸受が長円形の溝の中を転がることにより、
ヨークを往復動させる機構である。ピストンに作用するサイドスラストは、シリンダ軸方向に直動軸受などのガイドを
設けることにより打ち消される。
クロスヘッド機構に比べ、高さを抑えることができ、更に潤滑方法を簡単化できるため低出力エンジンの小型化に適している。
しかし、往復動部の重量増大による機械損失の増加やヨーク部の接点の強度、耐磨耗性に問題がある。
(5)ロス機構(T型クランク機構)
ロス機構の構成と実用例を下に示す。ロス機構は図のようにT字型のヨークを利用する機構である。
T字型ヨークの中心に制御ヨークを取り付け、T字型ヨークの動きを制御している。
この制御ヨークとT字型ヨークを取り付けている点の上下直線運動を正確にするほどピストンに
かかるサイドスラストは低減する。また、ロス機構を用いるエンジンのほとんどがα形である。
ロス機構は比較的ピストンの直線運動性に優れ、構造も簡単であり機械損失が少ない。
その上エンジンの小型化が可能である。しかし、それぞれのヨークがばらばらの動きをするためバランス性に問題がある。
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