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【放送芸能】

戦後70年 戦争映画続々 静かなる演出 迫る真の恐怖

 戦後70年の今年、「戦争」や「戦後」を見つめ直す映画が続々と公開される。かつての戦争映画のように、激しい戦闘シーンを売りにした作品は姿を消し、格好いいヒーローも出てこない。空襲におびえ不自由な生活を強いられる庶民や、米軍の攻撃を逃れてジャングルをさまよう兵士たち…。そこでは戦争の愚かさや悲惨さが描かれる。安全保障法制をめぐる議論が沸騰する今、あらためて戦争について考える機会にしてはどうか。 (浜口武司、前田朋子)

 東映は六月、戦後七十年記念作品「おかあさんの木」を公開。「戦場ではなく、銃後の人々を描いた作品はほとんどなかった」と、七人の息子を兵隊に取られた母親を主人公にした。

 松竹は、無条件降伏までの葛藤の日々を描いた半藤一利著「日本のいちばん長い日」を映画化。同作は一九六七年に故岡本喜八監督により製作されているが、このときは存命だった昭和天皇への“配慮”なのか、天皇役の俳優の顔を映さない演出をした。今回の原田真人監督版では本木雅弘が苦悩する等身大の天皇を演じる。

 「この国の空」は、若い男たちが出征した東京で、妻子ある男性に恋する女性を二階堂ふみが演じる。

 「ソ満国境 15歳の夏」はソ連との国境近くに置き去りにされた満州(現・中国東北部)の中学生たちの物語を松島哲也監督が映画化した。東日本大震災と原発事故で故郷を追われた福島の中学生の姿をオーバーラップさせた。松島監督は「いつの時代も犠牲になるのは子ども。少しでも多くの人に考えるきっかけにしてほしい」と話す。

 ノンフィクション作品も豊富だ。米軍普天間飛行場の移設問題で揺れる沖縄を題材にしたのは「沖縄うりずんの雨」と「戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)み」。戦後、沖縄が負わされたさまざまな問題に関係者の証言などで迫る。「“記憶”と生きる」は日韓の歴史問題となっている韓国人の元慰安婦たちに肉薄する。

◆「母と暮せば」主演・吉永小百合 「長崎の方の思い伝えたい」

 山田洋次監督の新作映画「母と暮(くら)せば」(12月12日公開)のラストシーンの撮影が、長崎市の黒崎教会で行われた。原爆投下から3年後の長崎が舞台の親子の物語。主演の吉永小百合は「戦後70年の年にこの作品に出演でき感無量。長崎の方々の思いを少しでも日本中の皆さんに知ってもらうことを願っています」と話した。

 「母と暮せば」は、長崎で助産師をする母親の前に、原爆で亡くなったはずの息子が突然現れるところから始まる。広島の原爆を描いた故井上ひさしさんの戯曲「父と暮せば」と対をなす作品で、井上さんが生前タイトルだけ決めていた企画を山田監督が引き継いだ。

 原爆詩の朗読をライフワークとし、原爆がテーマの映画に主演するのは3作目という吉永。黒崎教会では、実際の信者らのエキストラが歌う聖歌が流れる中、息子役の二宮和也と一緒に歩くシーンを撮影した。

 吉永は二宮について「本当の私の息子じゃないかと思うくらい、ぴったりと寄り添うことができた」と笑顔。二宮も「すごく優しいお母さん。一度カットの後に抱きしめてくれた」と撮影秘話を披露した。

          ◇

 山田監督は6月中旬、東京都内での取材で、憲法改正の動きや安保法制をめぐる現在の政治状況を「非常に怖いと思っている」と語った。映画の始まりには原爆の場面も描かれる。だが、「爆発や爆音の再現では本当の怖さが出ない」と、表現や音響に工夫を凝らすという。「今年公開することになったのは偶然だが、結果として戦後70年にふさわしい作品にしなければ」と強調した。

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