安倍政権はきのうの衆院特別委員会で、安全保障関連法案を与党だけで強行採決した。
歴代政権が一貫して禁じてきた集団的自衛権の行使を、憲法解釈を変えて認めた閣議決定から1年余り。憲法9条の下で抑制的だった安保政策の大転換である。
これほどの重要法案を数を頼んで押し通すやり方は到底認められない。安倍政権に強く抗議する。
法案には憲法違反の疑念がいまだに拭えない。
憲法学者の大半や「法の番人」を自任する内閣法制局の歴代長官らが、解釈変更による集団的自衛権の行使容認に異を唱えている。
「(違憲の)法案を多数決で承認したら、国会が憲法を軽視し、立憲主義に反する」(小林節慶応大名誉教授)などと、国会をけん制する指摘もあった。
国民の理解も依然深まらない。世論調査では6割近い国民が法案に反対し、説明不足との回答は実に8割を超えた。
反対集会やデモは国会周辺から鹿児島市など全国へ広がり、大きなうねりとなっている。
法案はきょうにも、衆院を通過し参院へ送られる。与党は参院が議決しない場合、衆院で再可決して成立させる「60日ルール」の適用をにらむ。
それでは重要法案に参院の意思が反映されないことになる。徹底審議を求めたい。
もとより国民の支持が得られないなら、法案を撤回すべきだ。
■「戦争に備える国」
そもそも、なぜ今、集団的自衛権が憲法解釈を変えてまで必要なのか。
安倍晋三首相らは「東アジアの安全保障環境が根本的に変わった」と特別委で再々強調した。
南シナ海での強引な「領土」拡張や、尖閣諸島で続く公船の領海侵犯など中国の軍事的な台頭に加え、北朝鮮の核ミサイル疑惑が念頭にあるのは間違いない。
中央公聴会で、外交評論家の岡本行夫氏は「膨大な海域で日本人の命と船舶を守ることは、単独では無理だ」と訴えた。
国民の間にそうした不安や、中国や北朝鮮の振る舞いに反発があるのは事実である。
だからといって、憲法を無視して、立憲主義にもとる法案をつくってよいことにはならない。
集団的自衛権の行使容認への道を振り返ってみたい。
始まりは2013年11月、国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法の成立である。
この会議は首相や防衛相ら4者だけの常設組織だ。「戦争をしない国」から「戦争に備える国」になることを意識していることは明らかだった。
12月には、米国からより高度な情報などを得るためとして特定秘密保護法を強引に成立させた。
武器の輸出を緩めたのは昨年4月だ。新たに「防衛装備移転3原則」を閣議決定し、即座に運用指針が施行された。
今年4月になると、日米防衛協力の指針(ガイドライン)も改定した。国会の議決もなしに集団的自衛権の行使を反映させている。
安保法案はこうした一連の流れの中にある。
海外での武力行使は平和国家日本のイメージを喪失させ、国益を大きく損ねかねない。
発足から61年の自衛隊はこれまで1人の戦死者も出していない。法が成立すれば、自衛隊員が戦争に巻き込まれ、殺し殺される危険は格段に高まる。
「血の同盟」を命じる覚悟が安倍政権にあるのか。あらためて問いたい。
■重い国会の責任
国会の責任も重い。
安保法案で国会は、自衛隊の活動に事前や事後の承認を求められている。政府は歯止め策の一つと強調する。
しかし、特定秘密保護法が立ちはだかっている。
集団的自衛権を行使する「存立危機事態」では、政府がそう認定した理由などを国会に報告すると規定している。
だが、中谷元・防衛相は情報源や具体的な数値などは特定秘密保護法に基づき、非公開になると説明した。
政府の判断で秘密にできるということだ。これで国会が期待される役割を果たせるだろうか。歯止めになるのか疑問だ。
参院ではこうした懸念をただしてほしい。特に野党は対案を積極的に出してはどうか。
衆院で維新の党と民主党が対案を出した。離島での自衛隊の警備活動が軍事的な緊張を高めかねないとの批判も浴びた。それでも論議を深めたことは確かだ。
安保法案は、他国軍の後方支援や国連平和維持活動(PKO)など多様な論点をはらむ。
「違憲」論争も何ら決着していない。安倍首相らは過去の最高裁判決や政府見解を持ち出し、「合憲」と繰り返すばかりだ。
国の存立に関わる重要法案が、違憲性を疑われるようではあまりに心もとない。国会も学者任せにせず、問い続けるべきである。
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