子育て・教育
われわれは「いじめ第一世代」だった
あと一つ、子どもに付きものの「悪さ」はどうだったのでしょう。1980年代の初頭は全国的に学校が荒れた時代であり、校内暴力の発生件数も現在の比ではありませんでした。少年の非行発生率が戦後ピークに達したのは、1983年のこと。その主な担い手は、われわれよりも少し上の世代ですが、私達も10代のころは結構ワルをした世代です。非行統計の上では、今のティーンなんて随分おとなしく見えます。
ちょうど10歳くらいのころに、いじめの社会問題化という事態に当面したことにも注目。生徒の問題行動を力で鎮圧する管理教育が横行した結果、攻撃の矛先が上の世代(教師など)から同世代(級友)に向いたためではないか、と言われています。われわれも経験してきたのですよ、「いじめ」ってやつを。あらゆる世代がそうなのかもしれませんが、いじめがおおっぴらに社会問題化(顕在化)した時代に児童期を過ごしたという点で、いじめの第一世代と言えるかもしれません。こうした学校病理に対応すべく、個性重視や生涯学習体系への移行を掲げた教育改革案(臨時教育審議会答申)が公表されたのは、1987年のことでした。
大学受験は難しく、卒業したら不況だった
続いて、青年期です。青年期は子どもと大人の中間期であり、自分は何者か、社会の中でどのような役割を果たすかという、自我同一性(アイデンティティー)の確立が期待される時期ですが、われわれの青年期はバブル崩壊と共にスタートします。
青年期の一大イベントの大学受験が最も激しかったのは、18歳人口がピークを迎えた90年代初頭ですが、私達のころ(1995年受験)も結構大変でした。第6回の記事「大学入試9割は合格の時代 難関校は熾烈な競争も」で見たように、大学入試の不合格率は90年が45%、95年が35%であり、2013年の9%よりもはるかに高い水準にありました。われわれは、競争のメンタリティが強く刻印された世代と言えるかもしれません。
しかしもっと大変だったのは、入口よりも出口です。私が大学を出たのは1999年ですが、経済不況が最も深刻化していたころです。1997年に大手の山一證券が倒産し、翌年の98年にかけてわが国の経済状況は急激に悪化(98年問題)、年間の自殺者が3万人の大台に乗りました。その多くが、リストラの憂き目に遭った中高年男性であったことはよく知られています。学生の就職戦線も厳しく、大卒者の就職率もどん底でした(以下の図3)。その結果、われわれの世代には非正規雇用者が多く滞留しているといわれます。「ロスト・ジェネレーション(ついてない世代)」と呼ばれるゆえんです。
30歳になり壮年期に入ると、結婚し子どもを持つ者も多くなりますが、格差社会、リーマンショック、さらには待機児童問題など、おめでたくないタームが軌跡線の近くに見られます。また私達の子ども世代は、ゆとりから脱ゆとりの学習指導要領への転換に翻弄され、スマホ依存など、情報化社会のゆがみにもさらされています。
「わが子を負け組にしない」という思いが強いのは……
以上、われわれの世代の軌跡をざっと振り返ってみました。注目ポイントを拾うなら、次の3点かなと思います。
今回紹介したジェネレーショングラムという図法は、異世代理解のツールとして使えます。図1の縦軸を戦前期まで伸ばして、私達の親世代、祖父母世代の軌跡線を引いてみるのもいいかもしれません。「こういう時代を生きてきたのだな」という発見が得られることでしょう。鉛筆、定規、方眼紙があれば、誰でも作図できます。手書きのほうが、味が出ていいでしょうね。興味ある方は、トライなさってください。
次回は、子育て期の女性の姿が国によってどう違うかを比べてみようと思います。主な就業スタイルはフルタイム就業、パートタイム就業、専業主婦ですが、これらの内訳は社会によって大きく異なっています。それは、女性の社会進出の程度を教えてくれるデータです。日本の特徴は? お楽しみに。
舞田 敏彦
1976年生まれ。東京学芸大学大学院博士課程修了。博士(教育学)。武蔵野大学、 杏林大学兼任講師。専攻は教育社会学、社会病理学、社会統計学。著書に『教育の使命と実態』(武蔵野大学出版会)、『教職教養らくらくマスター』(実務教育出版)など。近著は『平均年収の真実 31の統計から年収と格差社会を図解【データえっせい】』(impress QuickBooks)
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