生産性が上がらないーー。
そんな悩みを抱えている企業、いや管理職の人間はきっとこの世の中にごまんといることでしょう。ただ、その根本にある理由を真剣に考えたことがある人は・・・果たしているのでしょうか?
「生産性が上がらない理由?それは資料作成にある」
そう答えるのは、今回インタビューしたスマートキャンプCEOの古橋智史氏。そう、声高に言い切れる理由とは一体どこにあるのでしょうか。彼のメガバンク⇒ベンチャー⇒起業という特殊なキャリアから紐解いてみる。
メガバンクもベンチャーも残業ばかり・・・の状態を何とかしたい
— 資料作成というと、社会人なら自分でやって当たり前の仕事という印象なのですが、なぜそれを事業化しようと考えたのでしょうか?
古橋:日本の会社の生産性を落としている原因を考えたとき、大きな理由の一つとして残業があると思ったんです。
— 日本の企業から残業が減らない理由には文化的な側面があると思います。
古橋:そうですね、残業が減らない理由には確かに文化的な側面はあると思います。しかし、その一方で残業代が出ることによって残業代で稼ぐという考え方が生まれている、という側面もあると思います。
— 残業代が出ることが逆に「残業」を助長している可能性があるということですね。
古橋:表現が難しい部分ですが、決して残業代を出すなという意味ではありません。ただ、現実に残業代が出ることで長く働くほど給料が高くなるという現象が起こっている側面があると思うんです。別の言い方をすれば、労働時間を減らすことに対するインセンティブが欠けているとも言えますね。
— なるほど、確かにそういった側面は否定できませんね。
古橋:でも、とある企業のケースでは年間50時間の残業を20時間に減らすのと同時に差分の30時間分の残業代はボーナスとして支給するという試みをしたケースがあるんです。その結果、残業時間は減ったし、生産性も上がって、結果的に売上も上がったというエピソードがあったりします。
–確かに、残業時間が長くなり夜遅くなるほど生産性は下がる気がします。
古橋:だから、企業にとっても働く側にとっても残業時間を減らすのは有益なことなんです。
残業時間を増やしている最大の原因は【資料作成】
— 残業時間を減らしたい、という目的に対してスマートキャンプの資料作成のクラウドソージング事業は、どう関係してくるのでしょうか?
古橋:言葉にしてしまえば驚くほどのことではないと思うんですが、残業時間の内容を細かく見てみたときに、一番資料を作成する時間というものが逼迫していることを発見したんです。
だから、残業時間を減らすためには資料作成の時間を減らすべきだと。それで資料作成のクラウドソージング事業を始めたんです。それが、最も具体的でかつ効果的に社会の残業時間を減らす方法だと思っていることもサービスを始めた理由の一つですね。
メガバンク→ベンチャーと働いてきて見えてきたもの
— 古橋さんがこれまでメガバンクからベンチャーへとキャリアを歩んできて、働く環境や仕事のやり方で違いを一番感じる部分はどこですか?
古橋:一番違うのは裁量権の部分ですね。ファーストキャリアは銀行だったんですが、そこでは本当にこの時間はこれをやるということが決まっていました。全体のローテーションも決まっていて、その中で時間通りにやるということが求められました。
一方、ベンチャーの場合は目標がザックリ与えられて、それを達成するためにできることをひたすらやるような感じですね。
怒られるポイントもぜんぜん違う
古橋:だからメガバンクとベンチャーじゃ怒られるポイントも全然違います。
— 例えばどんな部分がありますか?
古橋:銀行はやることが全部決まっているので、もし早く終わっても「次に何をすればいいですか?」って聞かないといけないんです。
— 自分で勝手にやってはいけないと。
古橋:そうなんです。違うことを何もしないのが正解の世界です。一方でベンチャーに行くと今度は、「何でなにもしてないの?」と怒られるんです。
— 全くもって逆ですね。(笑) 働き方が全然違うベンチャーとメガバンクですが、共通点はありましたか?
古橋:結局、どっちの場合も仕事の中に削れる無駄な部分はある。そこは共通していると思います。大企業は残業代が出るし、ベンチャーはやることが多いから残業してしまうけれど、それでも結局必要のない残業もしてしまっていると思うんです。そこは共通する課題だな、と思います。
生産性という言葉を曖昧なままにしない
— 先ほど大企業もベンチャーも「残業時間」の内容に課題があるとおっしゃっていましたが、具体的にどうすればいいとお考えでしょうか?
古橋:そうですね、まず現場の視点で答えると、いかに残業時間を減らすかという部分ですね。日々の業務の中で、例えば1時間かかる仕事を、どうすれば5分でも10分でも短縮できるかという部分だと思います。
もっと抽象的な考え方の部分では生産性を自分なりに定義することです。
— 生産性を定義する、とはどういう意味でしょうか?
古橋:多くの方が「生産性を上げよう」という言葉に対して、共感してくれると思うんです。ただ、そこで語られる生産性という言葉が抽象的になってしまっていると思っています。
だから、同じように「生産性を上げよう」と言っていても全然違うことをイメージしている可能性がある。そしたら生産性なんて上がるわけがありません。
生産性とは、利益/時間である
— 古橋さんの考える生産性とはどんなものでしょうか?
古橋:私の場合は、1時間あたりいくら会社に利益を生んだか、が自分の中での生産性の定義ですね。
— 非常にシンプルですね。
古橋:もう、やっぱり単純にこの考え方の生産性が上がるとプライベートの時間も給料も増えると思うんです。例えば、「今の給料と同じままでプライベートの時間が増えるよ」って言われたら嬉しいと思うんです。
でも、「給料も上がってプライベートの時間も増えるよ」って言われたらもっと嬉しいと思うんです。
そのためには、最初に話したように残業時間を減らす工夫をすべきと。その具体的な方法が、一番時間がかかっている資料作成を日々のタスクから引き剥がすことだと思うんです。
(つづく)
後編では、古橋さんに誰もが最初にすべき資料作成の基本的な技をお聞きします。