ウェイソンの4枚カード

人間の論理の不思議

人間の推論は、純粋に論理的なものではなく、文脈等に影響されることがあります。 認知心理学を初め、社会心理学や行動経済学で議論されるてーまです。

4枚カード問題

4枚カード問題とは、人間の推論を調べる課題です。認知心理学の実験で良く用いられます。理系大学生でも正当率が高くないという結果が多く報告されています。問題は以下のようなものです。


4枚のカードがあり、それぞれ片面にはアルファベットが、もう片面には数字が書かれている。このとき、

「片面が母音ならば、そのカードの裏は偶数でなければならない」というルールが成立しているかどうかを確かめたい。少なくとも、どのカードを調べる(引っくり返してみる)必要があるか?


答えは、「A」と「7」。

ルールは、母音と奇数が同じカードを禁止しているので、母音が書かれているカード、奇数が書かれているカードを調べればよい。「Aの裏が偶数か?」と、「7の裏が母音か?」を調べるのが正解。

※カードの裏という表記を気にされる方もいるようです。出題としては、「左にアルファベット、右に数字」というカードで、 のように片側が隠れている、としたほうが良いかもしれません。

よくある

ウェイソン課題に対しては、「A」「4」とする解答がよく見受けられます。 「4」のカードを調べて、もう片面が「A」でも、条件を満たすことを確認するだけです。 「ルールを満たしている」ケースを確認するだけでなく、「ルールを満たしていない」ケースも調べる必要があります。

答が偏る点が認知心理学的には重要

正解である「A」「7」を選ぶ人は少なく、論理学では誤答となる解答「A」「4」が頻出します。

誤答に偏りが出る、ということには何らかの理由がある、と考えられます。(もし、「問題が非常に難しい」という理由であれば、「A」「4」という間違い解答ばかりではなく、いろんな間違い解答が出たでしょう。「私には分からない」といった解答も出たはずです。)

「(正解が何かではなく)なぜ論理的には誤答な解答を選ぶ傾向があるか」を考えるのが心理学です。ミュラーリヤーの錯視では、「長さは実は等しい」ことよりも、「なぜ片方を長いと認識するのか」を考えますね。それと同じように考えてください。

「ルールを満たしているケースだけを調べる」ことを、心理学では確証バイアスと呼ばれています。 人間の思考パターンには、正しいことを確認して満足する、という傾向があるようです。

 

日常的なテーマだと正当率が上昇

4枚カード問題と論理構造が同一な問題を、身近な話題で試してみると、正当率が上昇することが報告されています。 例えば下の問題はどうでしょう。


4人がそれぞれ飲物を飲んでいる。

「アルコール飲料を飲んでいるならば、20才以上でなければならない」というルールが成立しているかどうかを確かめるには、どの人を調べるべきか?


答えは「ビールを飲む人」と「17才の人」です。こちらも、アルコールと20才未満が一緒ではいけない、というルールです。

「XならばYである」に、

X:母音、Y:偶数

X:アルコール、Y:20才以上

に当てはめる問題で、論理学上は4枚カードと同じ問題なのに、正当率は大幅に上がる、という実験結果が出ています。 人間は、どうやら純粋に論理的な推論を行っているのではないようです。 

Johnson-Laird&Wasonのウェイソンの4枚カード問題は、現在も研究が続いている問題です。もっとも、認知科学や心理学における有名な問題の多くがそうですが。 また最近では、心理学の影響を受けている行動経済学(例えば、友野典男著光文社新書)でも取り上げられることがあるようです。

 

既に知っている?

さて、本当に、「日常的なテーマ」が理由なのでしょうか。もちろん、その影響が無いわけではないでしょう。でも、それ以外の要因が影響するかもしれません。

ほとんどの人は「20才未満の人はアルコール飲料を飲んではいけない」と知っています。(20という数字は国や地域によるかもしれません。)一方で、「母音の裏側は奇数ではいけない」というのは、この問題のみです。

もしかしたら、日常的なテーマで正答率で上昇するのは、事前の経験がある、という影響が大きいかもしれません。


「アルコール飲料は300円以上でなければならない」


あるいは


「アルコール飲料は300円以下でなければならない」


だとしたら、果たしてどうなるか?アルコール飲料やお金は日常的なテーマですが、「アルコール飲料は300円以上でなければならない」といったルールを日常的に目にすることはないでしょう。

興味を持った方は、調べてみてはいかがでしょうか。大学生なら、卒業研究に丁度よいと思います。