「2012年3月、日韓政府間の対話で、当時の佐々江外務次官が韓国政府外交通商部第1次官の安氏に慰安婦問題についての『佐々江提案』を提示しましたが、その提案を佐々江大使は今も支持しているのでしょうか。もしそうでなければ、どんな考えを持っているのでしょうか」

 2012年3月というのは日本の民主党政権時代である。首相は野田佳彦氏だった。その時の外務次官は佐々江氏、韓国側の外交部次官は安氏で、いずれも現在はワシントン駐在大使となっている。

 日韓両国間の対立の原因となっている慰安婦問題に関して、韓国側は実はこの佐々江提案に微妙な期待を寄せている。だからこそ第三国の首都ワシントンでの会合においても、そうした質問が出たのだろう。

韓国側の要求に大幅に譲歩した提案

 佐々江提案とはなんだったのか。韓国と日本の各種報道などでの内容はすでに明らかとなっている。つまり、日本の野田政権からの提案として、当時の李明博政権に対し(1)慰安婦問題に関して日本の首相が公式に謝罪する(2)日本政府が元慰安婦に人道主義名目の賠償をする(3)駐韓日本大使が元慰安婦たちを訪問して首相の謝罪文を読み、賠償金を渡す――という内容だった。

 この佐々江提案で、日本側は政府レベルの法的賠償については1965年の日韓条約で解決済みという立場こそ表明したものの、「人道主義での賠償」に応じ、しかも首相や駐韓日本大使が元慰安婦たちへ再度謝罪することを申し出た。韓国側の要求への大幅な譲歩だった。

 韓国側は「日本軍が組織的に20万の女性を強制連行して性奴隷にした」という年来の虚構の主張を変えていないが、佐々江提案はその点への反論もなかった。だから、たとえ「人道主義名目」でも賠償に応じれば、その後、韓国側から日本の法的責任を追及して賠償や謝罪の請求がどっと出てくることは明白だった。