慰安婦報道を検証する第三者委員会の報告書提出を受け、朝日新聞社の渡辺雅隆社長は26日、都内で記者会見し、「幅広い提言を誠実に実行したい」と述べた。▼1面参照

 ●慰安婦問題 「実相へ迫る報道に」

 会見には約60社、約120人が集まった。朝日新聞社からは、渡辺社長のほかに西村陽一取締役編集担当、高田覚取締役広報担当兼社長室長が出席した。

 朝日新聞は1997年の特集記事で、戦時中に朝鮮人女性を強制連行したとする故・吉田清治氏の証言を取り上げた記事の誤りを総括しないまま、慰安婦の「強制性」について「女性の『人身の自由』が侵害されたこと」との考え方を示した。第三者委はこうした姿勢を「議論のすりかえ」と批判した。

 渡辺社長は会見で「ご指摘を真摯(しんし)に重く受け止める」と述べ、「慰安婦について国内や国際社会で様々な議論がある。あらゆる立場の人から話を伺いながら報道を続けていきたい」と説明。「旧日本軍の組織的な強制連行はあったとの考えか」との質問に、西村編集担当は「強制性の問題も含めて慰安婦問題の実相に迫る多角的な報道をしていきたい」と強調した。

 会見では国際社会への説明についての質問も出た。

 渡辺社長は、慰安婦報道を継続して担当する新たな取材班などの報道を英語や他言語でも発信する考えを示した。西村編集担当は、第三者委の報告書の英訳版を作成中だとし、「国際機関や外国メディアなどに送りたい」と述べた。

 ●編集の体質 「意識を高め変わる」

 会見では、経営と編集の関係についての質問も出た。渡辺社長は「経営に重大な影響を及ぼすと判断した場合、経営が編集に関与することもあるだろう。その時に関与する判断が外の目から見てどうなのか、相談するアドバイザーのような組織が必要なのではないかと考えている」と言及。この組織については「詳細が決まっているわけではないが、早急に制度設計し、可能な限り早く立ち上げていきたい」と話した。

 「過剰なキャンペーンも問題だ」と、編集の体質を問う指摘も出た。渡辺社長は「問題意識を持って取材するのは出発点として当然だが、取材を続けるなかで修正していくのもまた当然。公正にファクトに基づく取材をし、発信をしていく」とし、「自分たちに都合の良い事実だけをつなぎ合わせてやっていくものは純粋な意味でのキャンペーンとは呼べないと思う」と回答。また、「朝日新聞社の一人ひとりの意識が高まり、変わっていくことが必要」などと答えた。

 ジャーナリズムについて問われ、渡辺社長は「結果としてより良い明日をつくっていく、より良い環境を未来に残していく。そういう役割をしつつ、歴史の記録をしっかりしていくのが私たちの責任」と答え、「調査報道についてこれからもさらに態勢を拡充し、間口を広げて責任を果たしていきたい」と話した。

 ■池上さんコラム、見送り経緯修正

 朝日新聞社は26日の記者会見で、ジャーナリスト池上彰さんのコラム掲載を見送った問題について、22日の経緯説明を一部修正すると発表した。

 第三者委員会の報告書は、朝日新聞社が8月、池上さんにコラム内容の変更を求めた協議がうまくいかず、池上さんが「根幹に関わる部分は修正できない」などとして連載打ち切りを求めたことなどから、この時点で打ち切りが実質的に決まっていたと認定した。

 朝日新聞社は22日の第三者委の会見後、この経緯を補足説明。編集幹部と担当部門が池上さんの連載を、どのように終わらせるか検討した際、危機管理担当役員や広報部門にはその情報が伝わっておらず、社外には「今後も誠意を持って話し合う方針です」と説明をした、としていた。

 しかし、高田覚・朝日新聞社広報担当は26日の会見で、編集幹部と担当部門だけでなく、当時の危機管理担当役員らも、編集幹部とともに連載を終わらせる場合の方法について検討していたことを明らかにした。ただ、危機管理担当役員らは、その件を編集の担当部門が池上さんに打診していたことは知らなかったとしている。