【罪深いがんもどき論の真実】大場大「『がんは放置しろ』という近藤誠理論は確実に間違っている!」〈週刊新潮〉
BOOKS&NEWS 矢来町ぐるり 7月15日(水)8時1分配信
「病気をすれば医者の食いもの」(里見とん)と言うけれど、さらに口を極めて罵るのが、「がんは放置しろ」で名を馳せる近藤誠医師である。彼が訴える「がんもどき論」の真実、そして罪深さとは――。この3月末まで、東大病院で臨床医を務めた大場大(まさる)医師が喝破する。
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医者を見たら死神と思え――。この挑発的な文言は、さる漫画のタイトルである。実は、その監修を務めるのが他ならぬ近藤誠氏(66)。慶応大医学部放射線科の元講師であり、自ら開いた3万2000円/30分のセカンドオピニオン外来で、「過去2年余の間に、4300件以上の相談を受けてきた」と胸を張る医師だ。
「がんは放置するべき」「手術は受けるな」「抗がん剤は効かない」「医者に殺される」など、刺激的なフレーズをちりばめた彼の著作の数々がベストセラーとなっています。このように、形をあれこれ変えながらも、同様のメッセージを繰り返し発信するそのふるまいは、あたかも宣教師のようです。
こう話すのは、大場大医師(42)である。この3月まで、東大医学部附属病院の肝胆膵外科に所属していた外科医で、転移性大腸がん治療のスペシャリスト。腫瘍内科医のライセンスも併せ持ち、現在は、「東京オンコロジークリニック」(http://tokyo-oncol.jp/ 千代田区)院長として、がん患者への助言診療を行なっている。
実際のところ私は近藤氏のことを、がん治療の専門家としては認識していません。というのも、“医師としての臨床実践”が長らく欠如しているからです。しかしその一方で、私の目の前にいる多くの患者さん達が、「近藤理論」に少なからず影響を受けている現実を目の当たりにしてきました。となると、違う土俵とはいえ、彼の存在を意識せざるをえない。
〈ひょっとしたら、そこには私の知らない真理や正義が隠されているのかもしれない。何らかの建設的な社会啓蒙や患者教育が考慮されているはず〉
そうした素直さをもって、彼のこれまでの著書を手に入れ内容を読み進めると、そこにあったのは信じられないような非科学、バイアス(偏り)、観念、非合理のオンパレードでした。
このような、いわば“思考の破綻”を誰かが指摘しないと本当にマズいのではないか。そう考え、一連の著作の検証を行なうことにしたのです。
詳細は来月12日発売の『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)にまとめられているが、ここではいくつかわかりやすい例を取り上げてみよう。
近藤氏の代表的な「がんは放置せよ」という主張の根幹を成しているのが「がんもどき論」。要約すると、次のようになります。
まず、がんには「本物のがん」と「がんもどき」がある。しかし、前もって区別することはできない。
続いて、「本物のがん」は発見の時点ですでに転移しているので、基本的に治療をしても無駄。
そして、「がんもどき」は放っておいても、転移しない。下手に手術や抗がん剤治療などをやるとかえって命を縮めるだけ。だから放置するに限る。なんとも狐につままれたような理論です。
われわれが早期がんとして治療をして治った多くのものを、近藤氏は「がんもどき」にすり替え、放置が望ましいと提唱しているわけです。このネーミングは彼独自のものであって、言い換えれば、学問的にはまったく認められていません。
もっともがんもどき論は、医学的な観点を取り除いて考えれば、実によくできた、ある意味では「無敵」の論理のように見えます。なぜなら、結果から「逆算」をした論法だからです。
放置を実行した患者さんが亡くなれば、「進行(本物の)がんだったから何をしても無駄でした。むしろ放置したことで治療の苦しみを味わわなくて済んでよかったですね」と言えばよい。逆に、患者さんがそれなりに長く生きれば「がんもどきだったんですよ。慌てて治療なんかしなくてよかったですね。もっと早くに死亡していましたよ」と言葉をかけるわけです。
どちらのケースでも、「ね、私の主張(がんもどき論)の通りでしょ」と言える。それが近藤氏の診療の実態です。この論理の前提条件は、進行がんはもちろん、早期がんも「治らない」ということ。ところが、そのようなカラクリを患者さんにしっかり説明している気配はありません。その場しのぎに、「早くには死なない」と繰り返すばかりです。
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