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[FT]歴史的だが不完全なイラン核合意(社説)

2015/7/15 14:25
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 イランの核開発計画を制限する米欧など6カ国とイランの合意は画期的な外交成果だ。この10年間、イランがひそかに核兵器の開発を企てているという疑惑が広がるなかで、米国とイランは戦争の危険を冒していた。それが武器を取ることなく、つまり悲惨な結果となった2003年の米国のイラク侵攻のような事態に至ることなく、両国が苦痛を伴う交渉によって主張の食い違いを解決した。米国のオバマ大統領とイランのロウハニ大統領の功績は大きい。

イランの核開発を巡る協議で同国と米英ロなど6カ国が最終合意=AP
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イランの核開発を巡る協議で同国と米英ロなど6カ国が最終合意=AP

■核兵器の開発能力を断つには程遠い

 とはいえ、ウィーンで交わされた最終合意は不完全な内容だ。米国と同盟国は今後も警戒を緩めてはならない。イランの核開発は今後10年にわたり制限されることになったが、核兵器の開発能力を断つには程遠く、イラン政府が核兵器開発に向かった場合に時間がかかるようになるだけだ。制裁の緩和が進むとともにイラン政府は、紛争の広がる中東で影響力を拡大するために使える何十億ドルもの資金を得ることになる。それを受けて特にサウジアラビアなど、イランと敵対する周辺国が核の野望を追うようになることもあり得る。

 しかし、他の選択肢が戦争か制裁強化という状況において、合意は最善の結果だった。しかも中東が混乱にある現在、根深い敵対関係にある二国でも合意に達することができるという重要なメッセージにもなっている。

 合意が成果を生むには、技術的に信頼できるものであることが欠かせない。偏った見方として、イラン側が大きく譲歩して核開発計画に対する前例のない国際的な統制と監視、ウランの保有と濃縮の大幅な削減を受け入れたとする声もある。また、合意内容の欠陥を強調する懐疑論もある。新たな査察体制をもってしても、秘密裏の核開発を止められないかもしれない。それが発覚した場合、いわゆる「スナップバック」条項で制裁の再開となるが、その国際的な態勢を固めることに苦労が伴うかもしれない。

 それでも、この合意による広い政治的成果を見失わないことが大事だ。最も重要なのは今後の米国とイランの緊張緩和だ。早期の国交正常化はないだろう。中東全域に及ぶイランの攻撃的な行動がその障害となる。しかし、この合意は1979年のイスラム革命後のイランが米国に対して建設的に関与しようとする初めての兆候だ。

 この合意によって、イラン国内の政治力学も変わる可能性がある。この点でもやはり劇的な変化は期待できない。イランの最高指導者ハメネイ師が突如として近代化を受け入れたわけではない。しかし、イランが世界経済の一員に復帰するとともにロウハニ大統領の力が増し、より現実的な外交路線に向かう可能性がある。

 米国にとっては、この合意は一連の難題を突きつけるものだ。大統領任期の終盤を迎えて外交で遺産を残したいオバマ氏は、キューバ、ミャンマー、そしてイランという3つの敵対国との関係再編に向けて大きく動いた。もう自分の仕事は終わったと思いたいところかもしれないが、それは間違いだ。イランとの合意が成立したことで、米国は中東に再び関与できるようになったはずだ。イランの野望を封じるという大きな戦略の中に核合意を組み込むことによって、サウジアラビアなど湾岸の同盟諸国を安心させ、したがって中東に大混乱を引き起こしているシーア派とスンニ派の対立を弱めることができる。

 今から十数年前、米国のブッシュ政権は力ずくで中東に民主主義を植え付けられると考えた。しかし、米国が率いたイラク侵攻は国民国家の崩壊を早め、イランを大胆にする結果となった。オバマ氏は賢明に別の道を選んだ。ウィーンでの合意の最終的な審判は、時の経過を待たなければならない。しかし、この合意は、破壊の連鎖が暴力に至るのを食い止める力を秘めている。

(2015年7月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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