<安保法案>地方から問う暴挙の意味
◎編集局次長兼報道部長 今野俊宏
戦争は嫌だ、子どもを戦場に送りたくない、という生活者の純粋な感情に右も左もない。政権与党は15日にも安全保障関連法案を衆院平和安全法制特別委員会で強行採決する構えだ。それがなぜ暴挙なのか。地方の視点で考えてみたい。
先週の土曜日、宮城県内に安倍晋三首相の姿があった。復興予算の一部を地元負担とする方針を決めてからは初の被災地入りだ。南三陸町の仮設商店街で被災者と懇談する写真が紙面に掲載された。その満面の笑みと、「安保法制と徴兵制を結び付けるのは無責任なレッテル貼り」と国民の不安視に全く耳を傾けようとしない姿勢のギャップは何なのだろう。
前日の10日、筆者も南三陸町にいた。仙台市で11日に開かれた「日韓地方紙フォーラム」に参加する韓国の地方紙幹部らの被災地視察に同行した。案内役をお願いした地元の語り部後藤一磨さん(67)の最後の言葉が心に響く。
「最近、おじいさんの仲間入りをした。1歳半の孫のかわいい姿を見るたびに、将来、こんな素晴らしい町に生まれて良かったと言ってもらえるか、それともどうしてこんな町にしてしまったのかと怒られるのか、そればかり考えてしまう」。再生へ向けたまちづくりの話だが、安保法制の議論とも深くつながる。このままでは将来、私たち一人一人が「どうしてこんな国にしてしまったのか」と問われかねない。
河北新報の調査では、安保法案をめぐり、東北6県の県議会と市町村議会で廃案や徹底審議などを求める意見書・請願を6月定例会や臨時会で審議した自治体のうち、半数以上の54議会が可決、採択した。各報道機関の世論調査でも法案への支持は過半数が反対で、安倍政権が法案を十分に説明しているかは8割以上が不十分と答えている。
数字だけではない。安保法案に対する論調は地方紙の方が批判的だ。なぜか。地方紙は読者との距離が生命線と言える。太平洋戦争末期に2度襲った艦砲射撃を生き延び、体験談を伝える釜石市の和田乙子さん(85)は、本紙取材に「戦争のにおいがしてきた」「戦争は誰も幸せにしない」と語った。何事も賛否はあるが、地域で生活する人々の肌感覚こそ大切にしたい。
警鐘を鳴らすことに臆したとき、新聞はその役割を失う。戦後70年。河北新報は常に地域の読者に支えられてきた。地域の代弁者として政権を監視していく。
2015年07月15日水曜日