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【蹴球探訪】

ハードル高い W杯日本単独開催

2008年12月30日

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 国際サッカー連盟(FIFA)は2018年と22年ワールドカップ(W杯)の開催国を2010年12月に同時決定することを決めた。日本協会の犬飼基昭会長は「ぜひ挑戦して(W杯を)持って来たい」と宣言。日本サッカー界にとって悲願といえる初の単独開催へ向け、一大プロジェクトは動き出した。ところが18年はイングランドが最有力で、現時点で日本にはW杯が開催できる競技場はひとつもない。はたして日本は2度目のW杯を招致できるのか。その核心に迫った。(原田公樹)

  1930年にウルグアイで第1回W杯が行われて以来、2006年ドイツ大会まで通算18大会が世界各地で開催された。その歴史のなかで、2大会連続して欧州以外で開催されたことはない。ところが02年大会後、一時採用された大陸ローテーション制により10年は南アフリカ、14年はブラジルでの開催が決定。初めて2大会連続で欧州を離れる。ローテーション制が廃止されたいま、18年はテレビ放映権や入場料など、ある程度、安定した収入が見込める欧州で開催というのが規定路線だろう。

 18、22年のW杯開催に興味を示しているのはメキシコ、米国、カナダ、スペインとポルトガル(共催)、オランダとベルギー(同)、イングランド、ロシア、カタール、日本、中国、オーストラリア。なかでも最有力はイングランドだ。早くに欧州各国の支持を取り付け、英国政府も全面援助。4万人超の競技場が全国に10以上もあり、運営能力も兼ね備える。なかでも「サッカーの聖地」と呼ばれるウェンブリースタジアムの存在が大きい。

 66年大会の主会場だった旧ウェンブリーを取り壊して7億7800万ポンド(当時約1800億円)という巨費を投じ、07年に9万人収容の新ウェンブリーは完成。イングランド代表戦やFAカップ決勝などグレードの高い試合のみに使用される、特別な競技場だ。FIFA理事としてW杯開催国を決定する24人の投票者のひとり、日本協会の小倉純二副会長は「みんなウェンブリーでW杯が見たい」と話す。これがFIFA内の空気なのだろう。18年のイングランド有利は揺るぎそうにない。日本は22年に勝負をかけたほうが得策のようだ。

国立の専用化構想

  ところが日本サッカー協会は大っぴらに「W杯招致に立候補する」とはいえない事情がある。東京都が2016年夏季五輪の招致活動を行っているからだ。小倉理事は「あくまでも東京五輪が最優先。来年10月に出る東京五輪の結果を踏まえて短期間で準備する」と慎重な姿勢を崩さない。後発のW杯招致が東京五輪招致に、悪影響を与えてはならないからだ。

 東京五輪招致について、都民の関心は決して高くはないいが、07年に国際オリンピック委員会(IOC)が一時選考として、立候補した7都市を4都市へ絞り込んだとき、東京は最高の評価を受けている。次いでマドリード(スペイン)、シカゴ(米国)、リオデジャネイロ(ブラジル)の順。この4都市から来年10月に開催地は選出される。

 もし東京が勝てば、W杯招致にも追い風になるのは間違いない。計画では陸上トラック付きの8万人収容のメイン会場、オリンピックスタジアムを晴海に建設する。となれば、64年東京五輪のメイン会場だった国立霞ヶ丘競技場の使命は終わる。文科省が調査している、国立をサッカー専用球技場に改修するプランが動き出すだろう。日本版「ウェンブリー」の建設計画だ。

 大改修工事になるが、新設よりも工費ははるかに安価。交通アクセスのいい明治神宮外苑にW杯では決勝の会場となりえるサッカー専用球技場が完成すれば、W杯招致に大いに有利になる。02年大会のときは首都東京が開催都市ではなかったため、内外から不満の声があったが、「次期W杯では首都でも開催」という声にも応えることができる。16年五輪の開催都市決定の投票は、来年10月2日、コペンハーゲンでの国際オリンピックピック委員会(IOC)総会で行われる。そのあと18年と22年W杯の開催国の立候補締め切りまで3カ月弱。日本サッカー協会は複数のプランを水面下で同時進行させ、五輪の結果を受け、一気にW杯招致活動を行う作戦だ。

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莫大な建設費用

  西ロンドンにある新ウェンブリーは9万人収容を誇るが、どの席からもピッチが近く、試合が見えやすい。食事ができる個室付きのテラス席などあらゆるレベルのVIPに対応でき、外観や内装など劇場のような荘厳な雰囲気も併せ持つ。「次のW杯招致に立候補するということは、ウェンブリーと競うということ。南アにもいいスタジアムができて水準が上がっている」と小倉理事は説明。来年1月には10、14年W杯で使用されるスタジアムの規格基準が公表されるが、より厳しい条件になっていることは間違いなく、犬飼会長も「今の日本では使えるスタジアムはひとつもない」と断言する。

 埼玉スタジアムはサッカー専用だが都心からのアクセスが悪く、VIP用の設備がない。02年大会の決勝を行った日産スタジアムは陸上トラック付きのためピッチが遠い。豊田スタジアムは屋根が開閉式で、観客席の3分の2は屋根付き、というW杯スタジアムの基準は満たしているが、名古屋からのアクセスが悪く、バンケットホールとして使えるスペースが乏しくVIP対応ができない。国立競技場を含め、現在の国内の競技場で小規模な改修だけで、W杯仕様に生まれ変われるところは皆無だ。スタジアムの大規模な改修や新設が必要になるが、昨今の国際的な不況の中で、巨額な資金を調達するのは至難の業だ。

国際的な「貸し」つくれ

  02年大会では後発の韓国に追い込まれて共同開催となり、日本の政治力の弱さが浮き彫りになった。逆にイングランドは06年大会で立候補したが、巧みにドイツに「貸し」をつくり、18年大会では最有力候補に挙がってる。

 W杯招致は規定で過去2大会を開催した当該大陸からは立候補できない。もし中国やオーストラリア(実際はオセアニアだがアジアサッカー連盟に属している)が22年大会の開催国に決まれば、日本は34年大会まで立候補の資格がない。もし22年大会の日本開催の可能性が低いと踏んだら、すぐに切り替えて26年、30年大会で支持が得られるよう他国へ「貸し」を作っておくような駆け引きも必要だ。相手を研究し、先を読んで攻守を切り替えるような巧みな戦いができなければ、W杯は日本にはやって来ない。

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