コラム:中国の公的介入が導く「株式市場の死」=武者陵司氏
資産市場への公的介入は、ある意味で、共産党一党独裁体制の宿命と言える。短期的な高成長路線を優先するあまり、資産バブルの膨張を許してしまった(あるいは暴落の恐れがあっても、資産効果に頼らざるを得ないほど、政策手詰まりに陥っていた)わけだが、いまさら崩壊するままに任せて、政治システムを揺るがすような社会不安を起こすわけにはいかない。今後も弥縫(びほう)策を繰り返すしかないだろう。
周知の通り、中国経済の衰弱は顕著である。粗鋼生産量や鉄道貨物輸送量、発電量、輸入数量などは軒並みマイナス領域か、大幅な鈍化傾向にある。2010年には前年比20%増だった工業生産額も2015年に入って以降、5―6%増にとどまっている。特に中国経済の屋台骨を担う国有企業は2%そこそこの伸びまで低下している。消費も減速しており、自動車販売は4月、5月、6月と3カ月連続で前年比マイナスとなった。
成長の「質」の劣化も明らかだ。例えば、景気減速下で家計の所得や貯蓄が伸び悩む一方、銀行融資は前年比で15%近く増えている。金融機関が身の丈以上に信用供与していることが見て取れる。
中国国務院(内閣に相当)は6月、商業銀行の預貸率の上限規定を撤廃することを明らかにした。金融改革の一環と言えば聞こえはいいが、景気減速下で資金供給拡大を促そうとする背景には、外貨流入が減少し、企業収益が悪化することなどによって中国の資金的困難が一段と深刻化しているという裏事情があろう。
また、報道によれば、地方政府が保有する債務を証券化して、それを人民銀行(中央銀行)が引き受ける荒技までもが検討されているという。証券を裏付けとした通貨の供給は、中国型量的緩和(QE)だとの自画自賛の声も伝えられているが、実際のところは不良債権を中央銀行が引き受けて、通貨を供給するに等しい行為だ。中国は2013年頃を契機に急速に資金的な困難に陥り、輪転機を回すプリンティングマネーでしのいできたが、そのマネーの質がどんどん劣化している。
こうした状況下、高い成長率を無理やり維持しようとしても、成長をけん引してきた不動産投資や設備投資はすでに完全に失速状態にある。こうなると残された唯一の手段として、なりふり構わぬ巨額の公共投資で乗り切っていこうとする可能性が高い。高速鉄道、高速道路、地下鉄などへのインフラ投資が、過剰投資の上に屋上屋を重ねるがごとく繰り返されるのではないだろうか。
<日本株への影響は限定的、中国は緩慢な衰退へ>
ただし、上記のようなシナリオは、見方を変えれば、破局的な経済崩壊は目前には迫っていないことを意味する。一部の悲観論者は、今回の株暴落は中国経済のハードランディングが近いことを示していると言うが、現実に起こることは、もっと中長期にわたって続く「緩慢な衰退」になるのではないだろうか。 続く...